狭い部屋。3人とも手足を縛られ自由がきかない。部屋の明かりも蝋燭1本で薄暗い。
どんより重い雰囲気の中先陣を切ったのはガラフだった。
「まいったのー、一体誰じゃ!海賊船を盗むなんて言い出した奴は!」
少々声が荒い。こんな状況では仕方ないだろう。
「おいおい、じいさん、アンタだろ?」
バッツは敢えて皮肉っぽく『じいさん』と言ってみせる。
「『じいさん』とは一体どーゆーことじゃっ!」
さらに声を荒げるガラフ。
「じいさんはじいさんだろう?第一『この方法しかない』とか言ってたのもガラフじゃないか!」
「一旦冷静に引き返せばよかったんだよ、ホントにさー」
バッツが捲し立てる。こんな状況になってそんなこといっても遅いのだが。
「うっ…頭が痛い…記憶喪失じゃ」
ガラフは自分が不利になった途端、記憶喪失をネタにして誤魔化した。
「っったく、ずいぶんと都合のいい記憶喪失だな」
少し呆れるバッツ。
それを最後に、しばらくまたどんより重い雰囲気が続く。
「それにしても驚いたな…レナがタイクーンの王女だったなんて…」
冷静になったバッツが素直に驚いた事を伝える。
「ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど言うタイミングも無くて…」
「そういやなんかそんな感じなんじゃないか、ってのはあったよ。『お父様』って言ったりさ」
「ええ…」
バッツはうっかり『父』を思い出させることを言ってしまいしまったなという顔をする。
でもこういう時だから敢えてじっくり聞いてみたいと思ったのも本音だ。
そこでバッツは慎重にレナの父について聞いてみることにした。
「あ、あのさ、レナの親父さんの事、ちょっとだけ教えてくれないかな…」
「うん…」
ここでレナはじっくりと、言葉を選びながら父の事について話した。
一国を治める王の話なんてなかなか聞けるものではない。バッツもガラフもレナの話に目からウロコがたくさん落ちた。
そして今回の事についての話になった…
「…で、風の様子がおかしいから神殿へ向かったのか」
「ええ…」
「確かに俺も最近変だとは思ってたんだよ。モンスターは多くなったし」
「風が止まって、何かよくない事が起ころうとしているのかもしれない…」
レナは自らの不安を自らの言葉で大きくしてしまう。
「いや、そ、そんな、考えすぎだってば、さすがにそれはさぁ」
バッツはレナの言葉を慌ててフォローする。
「行けば良かった・・・」
「え?」
バッツは噛みあってない会話に言葉が続かない。
「お父様と一緒に行けば良かった!そうすればこんな事にはならなかった!」
急にぽろぽろと涙を流すレナ。突然の出来事にバッツとガラフは驚いている。
今日1日、レナは弱音を吐いていなかった。よほど父への想いが強いのだろう。
「(…そう言えばレナの弱い面って見てなかったなぁ…)」
バッツは今になって思い返す。レナは今日ずっと強い自分を出していた事に。
その分今になって、溜まっていた裏の感情が一気に溢れ出している。
「親父さん…絶対生きてるよ。泣く事は無い」
「そうじゃ。人間は簡単に死ぬ生き物じゃないぞ」
2人はレナを励ます。もちろん先の事は知らない。でも今はこう言うしか方法が無い。
「…ありがとう。バッツ、ガラフ…」
レナは礼を言う。
3人にとって運命的な1日が終わろうとしていた。
最終更新:2007年12月13日 03:24