一節 航海14


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「船長・・?」
「・・まだだ。油断するな、まだ終わっちゃいねえ。・・俺にはわかるんだ。海が警告してる。
 畜生・・、ふざけやがって、なんて野郎だ。海の神様ってえやつは、とんでもねえ化けもんだ」
 豪壮な船長からは予想もつかぬ、その弱々しい溜息のような呟きにセシルは訝しげに耳を
傾けていたが、やがてその意味するところを知ってしまった。
 異変は、はるか遠くの海で、既に起こっていたのだ。
「・・まさか・・あれは」
「気づいたか、気づいたところでもうどうしようもねえがな。
 おめーら! 浮かれてる場合じゃねえぞ、縄もってこい! 身体を船に縛り付けるんだ!!」
 彼の声に海を見渡した船員たちも、ようやく現実に気づき始めた。
 その異変は猛烈な勢いで迫り、もはや彼らに一刻の猶予も与えてはくれそうになかった。

 ────巨大な津波が、押し寄せようとしていた。 

「う、うわーーっ!!」
「助けてくれーー!」
 はじめの一人がわめきだすと、船内はたちまち火のついたような騒ぎになった。冷静に動き
まわる者など一割にも満たない。逃げ場の無い船の上を、叫び、駆け回り、挙げ句に錯乱して
海に飛び込もうとする輩まで現れる始末だ。
「くそっ!」
「おい、セシル! 離れんな!!」
 どこから取り出したのか、既に太い荒縄を舵に結び始めている船長が、彼らをいさめんと
走り出そうとするセシルを引き留めた。
「しかし彼らが!」
「馬鹿野郎ッ、他人の心配なんぞしてる場合か!! あいつらも海の男なんだ、放っとけ!!
 いいか、俺たちが陛下から賜った仕事はな、おめーらを無事に送り届けることなんだぞ!!
 おめーらをだ! わあったか!! わかったら、こっちに来て身体をくくりつけろ!」
「クッ・・」
 悔しいが、船長の言葉に誤りは無かった。多くをなそうとするあまりに、大きな目的を
見失ってはならない。どのみち、目の前の混乱は彼ひとりがかけずり回ったところで治められる
ようなものでもなかった。
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