二節 砂塵3


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ビッグス率いるキャラバンは、オアシスの南岸に宿を定めた。セシルが世話になるのはここまでだ。旅人相手の宿を紹介してもらい、眠りつづける少女を連れて、隊を離れた。
日干し煉瓦を積み上げた壁がどこまでも続き、入り組んだ路地に影を落として、傾いてなお烈しい陽光から人々を守っている。平面と直角だけで構成された砂漠の建物は、それ自体がひとつの巨大な煉瓦のようだ。
「いらっしゃいませ……
 ああ、お嬢ちゃんの顔色が悪い。早くこちらへ」
「すまない」
少女の様子をひとめ見るなり、宿の主人はカウンターを飛び越え、突き当たりの部屋までセシルたちを案内した。促されるまま少女を横たえ、水などを持ってくるよう主人に頼む。
「高熱病……じゃあないみたいだが、どうしたんだい?」
「疲れているだけだ」
「妹かい? ずいぶんとキツそうじゃないか」
「悪いが、しばらく休ませてくれないか」
流行り病を警戒してか、あれこれと詮索したがる主人に多めの宿代を渡し、隣のベッドにセシルは腰を下ろした。ランプに火を入れ、武具の手入れをする。しばらくして、水差しとグラス、それに蜂蜜の入った壺が届いた。
「ありがとう。そこに置いてくれ」
二つのグラスに水を注いで、主人はあっさり部屋から出て行った。荷物から小振りの瓶を出し、中身を手の平にあける。無数の突起を持った真珠色の粒をよっつ、指先ですりつぶし、グラスに溶かした。砂漠特有の熱病を防ぐ薬は、合流した際にビッグスから分けてもらった。
──正確には、怒声とともに押し付けられた、というべきか。バロンの人間であるセシルは、高熱病の恐ろしさを今ひとつ実感していなかったが、進んで体調を崩すこともないので、素直に従っている。
自分のグラスを空にすると、新たに3粒の薬を瓶から出し、粉状にして蜜と混ぜた。水でのばし、少女の唇に塗りつける。小さな舌が、それを舐めとる。
少しずつ薬を与えるうちに、固く閉じていた少女の瞼が、震え始めていることにセシルは気がついた。
手を止め、息を詰めた彼の前で──数日ぶりに、少女は目を開いた。
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