彼が生まれて初めて感じたのは、全身を貫く苦痛だった。
感覚が目覚めた瞬間、体じゅうの神経が脈打ち、のたうち、ついには千切れてしまうのを感じた。
彼は絶叫した。
硬い地面に何度も頭を叩きつけ、とがった岩の上を転げ回るが、体の中を駆け抜ける苦痛は誤魔化せなかった。
彼の中にはいくつもの意思が、思念があった。
その一つ一つが悲鳴を上げ、暴走し、彼の体を内側から破壊し、突き破り、外に逃げ出そうとしている。
このままでは壊れてしまうと思った。
彼はなおも絶叫しながら、暴れまわる意識を必死の思いで繋ぎとめようとした。
が、一つにまとまったかと思った瞬間に分裂し、崩れ落ちてしまう。
何度やっても同じ結果になる。
無駄な試みを繰り返すうちに、彼は悪循環の泥沼の中にひきずりこまれていった。
痛い。苦しい。助けて。誰カ助けて。助けて助けテ助ケて助k
必死に束ねようとした思念はばらばらになり、拷問のような苦痛で体が半ば麻痺する中、彼は悲鳴だけ上げ続けた。
もう崩壊寸前だった。
しかしその時、彼をこの状況から脱出させる出来事があった。
彼の中に新しい思念が入り込んできたのだ。
彼の中のものとは比べ物にならない力を持ったその思念は、
その強大な意思で四散しかけていた彼の意識を強引に繋ぎとめ、一つに束ねていく。
彼は体を蝕む痛みが急速に衰えていき、失いかけた感覚が冴えていくのを感じた。
圧倒的な力を持つ何者かは、壊れかけの彼の肉体を完全に再製したあと、現れたときと同じく、唐突に去っていった。
この時、彼はその思念の正体を悟った。
彼の母だ。
それは理屈ではなかった。直感とも違った。その瞬間に、彼を救ったのは母だと「わかった」のだ。
母さんだ。母さんが来て助けてくれたんだ。僕の母さん。
急激に鮮明になっていく意識の中で、彼は母さん、母さんとひたすらに連呼していた…
最終更新:2007年12月13日 07:22