精神と肉体が完全に回復すると、彼は開いたばかりの目で辺りを見回した。
口で空気を吸い込み、耳に吹き降ろす風の音を受ける。
手で。足で。肌で。体に備えられた全ての感覚を使って周囲の状況を探った。
そこは巨大なクレーターの中だった。あたりには白く薄い靄が充満し、白っぽい岩でゆるやかな坂が形成されている。
もっとよく辺りを見ようと地面に手をつき、ゆっくりと体を起こした時、すぐ近くからなにかの悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴のあまりの大きさに驚き、背後を振り返る。
そこには、彼によく似た姿をした生命が二つ、叫び声を上げながら地面をのたうち回っていた。
両手で顔を覆い、大きすぎる体をふりまわしてもがいている。一部の筋肉が痙攣を起こしている。
僕の兄弟だ、と彼は思った。さっきの僕と同じ苦しみを与えられてるんだ。
ふたりは助けて、助けてと叫び続けていた。。野太く、しかし甲高い悲鳴。聞くに堪えない悲鳴。
彼は愕然として、よろよろとふたりのそばに歩み寄った。
そこにあるのは苦痛だけだった。苦しみだけがそこにある全てを支配していた。
彼はふたりのそばに座りこみ、ふたりが苦痛に悶えるのをただ見下ろすことしかできなかった。
そのうち、ふたりに変化が訪れた。
悲鳴がみるみるうちに収まり、がむしゃらに暴れまわっていた体が落ち着きを取り戻していく。
彼は彼のときと同じように、母が助けに来たのだとわかった。
―――どうして?母さん―――
彼は無意識のうちに呟いた。
―――どうして、こんなに、苦しむの?―――
そんな彼に答えるように、彼の思考は急速にまとまっていく。
―――僕たちの、この苦しみ―――
まるで誘導されるかのように結論が出る。
―――それは、この星のせいだ―――
やがてふたりが苦痛から開放され、完全に覚醒したたとき、彼はふたりに言った。
行こう、と。
一緒に母さんのところへ行こう。家族で力を合わせて、星に仕返しするんだ。
最終更新:2007年12月13日 07:23