シドは黙り込んだ。
実際はほんの数秒間だったが、クラウドにはその沈黙が異様に長く感じられた。
風が氷のように冷たかった。電話をかけた時に最初に感じた緊張と緊張がまた首をもたげる。いまさら何を言うんだと拒絶されるかも知れない。そんな懸念がクラウドの頭の中を支配する。
だがそんな懸念は、シドの強風であっけなく吹き飛ばされた。
「変わんねえな、おめえは。ウジウジしてて、鈍臭くてよ」
クラウドは目を見開いた。
文面だけを見れば、その一言はひどく冷たく、乱暴だ。が、言うシドの声は、どこか嬉しそうで、笑い混じりだった。
「ったく、クラウドさんよぉ、もっと早く言えってんだよ。あ?どんだけ待ったと思ってんだ」
クラウドは胸に懐かしい暖かさを感じた。もう寒さなど微塵も感じない。それは思えば、2年前は当然のように感じていた暖かさだった。
そう。当然のように。いつから忘れていたんだ?
いつでもいいとクラウドは思った。もう思い出したのだから。
「…ありがとう」自然に、というよりは無意識に出た言葉だった。
シドは気にするなとばかり、フンと鼻を鳴らした。
それからクラウドは、星痕の原因がジェノバであることと、その陰で暗躍するカダージュたちの存在、そして、カダージュたちがエッジに向かっていることを、出来るだけ速く、わかりやすく話した。
「…なるほどな」
「それで頼みがあるんだ…あんた2ヶ月くらい前、ハイウィンドの復元に成功したって言ってたよな」
「おうよ!そんでもって名前は…」
クラウドは少し笑いながら、シドの声を遮った。
「”シエラ号”、だろ?奥さんとはうまくいってるのか?」
少しの間。照れくさそうな「まあな」という声が返ってきた。
我慢しきれず、クラウドは大声で笑った。怒って声を荒げるシドに、あわてて謝る。
「わかった。それでみんなを乗せてきてくれ。みんなには俺から連絡しておく」
「そりゃあいいぜ。じゃ、後でな」
いろんな意味での「そりゃあいいぜ」だった。シドは電話を切ると、暗い寝室を見渡し、ふかーくため息をついた。
「やっと目ぇ醒ましやがったか…あの馬鹿は…」
最終更新:2007年12月13日 07:31