三節 不和の旋律9


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「ローザ殿のお父上はご健在か?」
「……いや、ずいぶん前に亡くなっているけど」
質問に答えたセシルだが、突然話題を変えたヤンの意図を掴みかねていた。その首に手を回しながらシドが言う。
「なあに、心配いらん。なんせあそこのお袋さんは、下手な男よりよっぽど気が強いでな。
 それで足りなければ、このワシがいくらでも代わりを務めてやる」
笑いながら宣言する技師に首を絞められながら、セシルは己の右頬に指を滑らせた。

バロンを発つ前の日のことだ。城の一室で、生き残った兵や文官らと共に会議を開いていたセシルの元を、一人の老婆が訪れた。
"この疫病神!"
ローザの母アイリスはそう叫んで、入ってくるなり薔薇の茎の束でセシルを打った。衝撃で白い蕾が千切れ飛び、石床の上に転がる。
"あんたを追ってローザは飛び出していったんだよ!"
かつて、ファレルの女当主は美しかった。娘とよく似た、しかし一段と派手な顔立ちで、年齢から来る衰えなど微塵も寄せ付けなかった。
それがいまや、部屋着のまま髪も結わず、化粧もせず、目のまわりを落ち窪ませた悪鬼のような形相で、セシルに詰め寄っている。
"あの子は今、どこにいるんだい!?
 さっさとお出し!!"
アイリスを追って現れたシャーロットが、女主人を宥める手を止め、希望に満ちた眼差しでセシルの顔を注視する。
答に詰まったセシルは、頬を流れ落ちる血を指でぬぐった──

「それにしてもお主、さては相当苦労したな?」
「──実に頑固な御仁であった。
 テラ殿にも引けはとらん!」
忌々しげに吐き捨てるヤンの声は同時に、限りない親愛と、尊敬の念で満ちている。
「……テラと話してくる」
シドの拘束をすり抜け、セシルは賑わいはじめた食堂へと降りていった。ギルバートにもう一度チャンスをくれるよう、頼むつもりだった。
いったいどう切り出したものか。思い悩むうち、たまたま、階段脇に貼った古い紙に目をとめる。
『新種のチョコボ発見される! 黒チョコボと命名!』
タバコや料理の煙で紙は変色し、インクは薄れ、ほとんど消えかかったその見出しは、なぜか鮮烈に浮き上がってセシルの目に飛び込んできた。
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