バナンの容赦のない物言いに、ティナは思わず耳をふさいで悲鳴をあげた。
バナンは構わず、まるで追い討ちを掛けるように言葉を続けた。
「逃げるな!逃げても事実は変えられんぞ!」
そんなティナの様子を見かねたエドガーが、バナンとの間に割って入る。
「バナン様!お考えあってのお言葉でしょうが、
いくらなんでも酷すぎます!ティナは帝国の支配から解放されたばかりなのです。
もう少し時間が必要です」
バナンはエドガーを一瞥し、ふんと鼻を鳴らした。
「時間?たとえ一時、目の前の現実から目を逸らしたところで
時間は何も解決してはくれん。
その事はお前が一番よく知っているだろう、エドガー」
「ですが…」
バナンは何かを言いかけたエドガーを片手で制すると、
ティナを諭すように語り始めた。
「こんな話を聞いたことがあるか?
その昔、まだ邪悪な心が人々の中に存在しない頃、
開けてはならないとされていた一つの箱があった。
だが、好奇心から一人の男が箱を開けてしまった。
中から出たのは、あらゆる邪悪な心だった。
裏切り、嫉妬、破壊、独占、支配…。それはたちまち世界中へ飛び散ってしまった。
だが、箱の奥にはたった一粒の光が残っていた。
…希望という名の光じゃ」
室内はしんと静まり返り、誰もがバナンに注目していた。
そんな中、ティナだけは俯いたまま、
思いつめた表情で床の一点をじっとみつめている。
バナンは大きくため息をつくと、椅子から立ち上がった。
「少し疲れた…先に休ませてもらうよ。お前達も休んでいくといい」
バナンは奥の部屋へと続く扉へむかって、ゆっくりと踵を返した。
ドアノブに手を掛けたところで、ふと立ち止まる。
「おぬしは世界に残された最後の一粒の光。
どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな」
最終更新:2008年02月01日 09:39