5スレ>>528


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おおまかなキャラ紹介

主人公――無個性。いわゆる目がない。

パルシェン――堅牢である(色々な意味で)。残念ながらデレというご褒美もないし萌えもない

モルフォン――奉仕Lv5。敬語を使う。慇懃無礼かどうかはよくわからない

ドククラゲ――純粋で素直な女の子。


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 もえもんセンターであてがわれた一室。
 薄い羽の手入れをするモルフォンをちらちらと片手間に窺いながら、パルシェンと一緒に本を読んでいた俺は、外からの闖入者に行動を中止した。
 闖入者というよりは帰還者だったのだが、状況から見れば間違いなく闖入者であることに間違いはなかった。
 なぜならその――ドククラゲは、細い両脚をどちらも鉄の輪で繋ぎ、じゃらじゃらと鎖を鳴らして鉄球を引きずりながら入ってきたからだ。

「……ただいま……」
「おかえり」

 思わず仰天することだけはなかったのは、普段が普段だからだろうか。
 それでも驚いたことに変わりはないが。
 そんな俺に気付いているのか気付いてないのかどうでもいいのか、ドククラゲは顔色一つ変えることなく部屋にじゃらじゃらと金属音を鳴らしながら、
入ってくる。
 俺が動けない間にモルフォンがその場を立って素早く扉だけ閉めた。
 相変わらず気が利く、これで部屋の外の誰かに見られることだけは免れたわけだ。

「……何だ、それ?」

 多少間抜けな声になりながら、なんとか質問をすることに成功した。
 ここに来るまでに誰かに見られていたという可能性は、都合よく忘れてしまうことにした。
 それに限る。

「……くろいてっきゅう」
「拘束具の間違いじゃないのか?」

 指摘すると『きゃっ』と頬を染められた。頭の赤い球体もぴこぴこと反応している。何故だ。why?
 ちらりと横を見るとパルシェンは予想通り頬をひくつかせている……もう片方は、イマイチ分からない。
「……似合う……?」
 似合うかと言われれば、恐らくは間違いなく似合う――どちらかというと悪い意味で。
 元々ドククラゲの体は腰か、そのちょっと上くらいまでしか身長がない。
 全体的に小ぶりな体に無理矢理嵌めたという感じでぎゅぶりと両足が圧迫された鉄の輪。
 ただでさえどんよりと、濁ったカンテンのような瞳をしているドククラゲが無機質な黒い塊に繋がれている様を見ると、
なんともほの暗い背徳感が沸きあがってくるような気もする。
 場所が場所であるなら、あるいは人が人であるなら生唾を飲み込んでいるような姿かもしれなかった。

「何処からそんなもの持ってきた、この駄クラゲ」
「……落ちてた……」

 そんなわけないだろうと言いかけたが、この間よくわからんバネだらけのギプスを嵌めて戦わせていたトレーナーがいたのを思い出す。
 今の世の中はそんなものをファッションだと思うくらい荒んでしまったのだろうか。
 同じ人間としてちょっと哀しい。
「……」
 そんな事を考えていると、両手を組みながらなお『どう? どう?』というようにドククラゲがこちらを見上げてくる。
 残念ながらというか、瞳はうるうるではなくどろどろしているが。
 獲物ではなく間違いなく捕食者の目だ、その証拠に体の周りでは待ちきれないというように触手がうねうねと蠢いている。
 隣でモルフォンが苦笑していた。


 さて、確かにドククラゲのこの格好は似合うには似合う、これで四つん這いにでもしてしまえば『変質者ホイホイ』という名前の商品で
売ってしまってもいいくらいだ――売らないが。
 とはいえそれに一般人、ひいては俺が反応するかどうかとは別問題だ。

「駄目ですねー、ドククラゲさん」
「……むー……」
「何でもかんでも格好すればいいってものじゃないんですよ。陸に上がって頭が酸欠で退化したんじゃありません?
他人の家ではメイドはメイドではないって知ってますか?」

 時に他人の家に上がりこむと何でもかんでも手伝おうとする人がいるわけだが、それはとんでもない間違い。
 客人は客人らしくお茶の準備も何もせずにお客様として振舞っているのが、客人としての礼儀というものだ。
 客人に手伝おうと言われると、それがなまじ好意であるからして家主も断ることができずに結果として余計なことをさせているという、
気苦労を与えて礼を失する。
 メイドに関しても同じこと、他人の家にいる時はメイドとはいえお客様。
 悠然とソファにでも座りながらお茶を待てばいいし、終わればお茶を片付けずにさっさと去っていくべきなのである。
 そういう意味でメイドの本来の姿が発揮されるのは、やはりメイドが働く屋敷の中にこそあるわけだ。


「お前の回りくどい言い回しも相変わらずだな。見た目からして毒々しいんだ、せめて言い回しだけでも楚々としたらどうだ毒蛾」
「見た目も頭の中も単純なパルシェンさんに言われたくないですけど。せめて見た目もう少し華やかにしてみたらどうです?」
「そんなものは不用だな。お前と違って節操もなく態のいい姿をバラバラとまくほど私は恥知らずに媚びたくはない」
「そうやって追求していった結果が今のコミュニケーション不足なんですよねー。マスターがいなかったらパルシェンさん、絶対に引き篭もりになってますよ。
さすがは二枚貝もえもんですよね」

 いかんいかん……放っておくと何処までも燃え広がってしまいそうだ。
 一旦思考にケリをつけて、脱線した線路を本来の軌道に戻すことにしよう。
 元々憎しみあっているというわけでもないのだから、それ自体は全くもって難しくない。

「つまり姿自体が似合っていても、それを魅力的と感じるかどうかは他の要素にも左右されるわけだ。特に今回のドククラゲみたいな格好だと、特に」
「魅力的だの云々の前に、まずヒくからな」
「バトルの効果と違って、付ければなんとかなるっていうようなものじゃありませんからねぇ」

 ほら、違う場所に水を向ければ二匹ともついてくる。
 しかしよくもこの二人はしょっちゅうこんな事をしていて、舌の根の奥に潜む弾薬庫が尽きないものだ。
 一度くらいどちらかの言い分が尽きるまで舌戦させてみたくもある。

「まあ、場所と場合を弁えろってことだな」
「その格好を活かすなら牢獄にでも入っていろということだ」

 無茶な話だがパルシェンの言う通り、あまりにも非日常的なこの格好はせめて場所だけでも当て嵌めるべきだろう。
 ……どんよりとしていたドククラゲの瞳が、湖に捨てられたガラスの破片のように緩く光った気がした。
 先に釘を刺しておこう。

「俺はやらないぞ」
「……まだ何も言ってない……御主人様の意地悪。いけず……」
「いや、今のは何となく分かった」

 さしずめ『一緒に堕ちて』とでも言うつもりだったのだろう。
 具体的に何を思いついたかは知りようがないが、いくつになっても前科者になるのはごめんだ。
「それでは、もう一つくらいしか方法はないですね」
「……何それ……?」
 そろそろ外させてくれないんだろうか。
 まかり間違って誰かに見られようものなら、もえもん虐待の罪だか何だかでそれこそ前科者になりかねない。
 あるいはそれが目的だろうか?

「いえいえ、簡単な逆転の発想ですよ。場所を移すことが不可能なわけですから、外自体を魅力的な場所にしてしまえばいいわけです」
「……!」

 見下ろすとその手があったか、と言いたげな顔だった。
 ちらりと隣を窺えば、パルシェンは俯き加減に目を瞑っている……嫌な予感しかしない。
 次の瞬間、ふよふよと浮いていた触手の一つとモルフォンが向けた右手の指が、びしっと指し合った。

『奴隷プレイ!』
「ふざけるな、この毒婦ども」

 額に血管を浮かせながら、思わず辛辣になったパルシェンの言葉も通じそうにない。
 今度二匹に内緒でデザートでも奢ってやることにしよう。

「そういう特殊な状況なら、外でそれを使っても問題なく魅力的になると思うんですよ。どう思います?」
「……その発想はなかったわ……」
「色んな意味で前提条件に無理が多すぎると思うんだが」

 そもそも普段移動する時でさえ、ドククラゲは俺の腰に触手を巻きつけてずるずる引きずられる――という特殊というか怪奇的な移動方法をしている。
 まるで見てはいけないようなものを見たように視線を外して去っていく他人を見るだけでも心苦しいのに、
そんなものを加えた日には間違いなく変質者、今度こそ前科者になるではないか。
 最近は警察のポイント稼ぎも厳しいのに。
 ――そもそも。
「そういう趣味があるなら、の話だろう」
「ないんですか? そういう趣味」
 そんなに朗らかな顔で言われても。

「……節操なしめ。そういうものに付き合える多少の嗜虐心くらいは持ち合わせているべき……常識的に考えて」
「クラゲ。お前はそんなに主を変態にしたいのか?」
「……変態なら少なくともライバルは少なくて済む……」

 公共の場で鉄球に繋がれた見た目少女を引き回せるのは、もはや多少の変態とかそういう問題ではないと思うのだが。
 何にしてもそんなものに悦びを感じるほど、未知の感覚に目覚めてはいない。
 これから目覚める予定もない。
「……御主人様はもう少しサディスティックになるべき」
 そして意味が分からない。

「そもそもサドとは何だろうな。ただ虐めればサドというものか?」
「まあ、一般的にはそういうことみたいですけどね」
「しかし、SMプレイなんかのアレは、実際には主体であるのはMの方なんだぞ」

 SMの行為の大多数はM側の『虐められたい』という欲求に従って行われている。
 要するに虐められたいが主権は自分でありたい、という強烈なエゴがSMという行為自体には元々かかっているに等しい。
 エゴマゾとでも言うべきか。

「SMという行為そのものが、サディストの虐めるという目的と微妙に食い違っている、ということですかね」
「マゾに行うものはいわゆる相手を幸福にするためのサービスだ。そう考えると、本当に純粋なSとMではお互いにプレイが成立しないのかもしれないな」

 サディストは相手に自分がマゾだと自覚するまでの行為の間だけが、サディスト足り得るのかもしれない。
 一息ついてうんうんと頷いていると、裾がくいくいと引っ張られているのがわかった。
 触手だった。

「……関係ない」
「……」
「……今は御主人様が私を魅力的と感じるかどうかの気質について。それとは関係ない……」
 バレた。
 折角いい感じに脱線させたのでこのまま逃げ出してしまおうかと思ったのだが。


「……一般的に考えて御主人様が私を魅力的と思えるようになれば、問題はない……。暫定的なSに」
「いや、無理だから」
 そろそろ諦めてほしい。
「……そうかもしれない……」
 諦めたのだろうか?

「……今こそ逆転の発想を使う……」

 濁った瞳が、粘着質の光を湛えている。
 足を一歩、じゃらりと。前に出して鉄球の鎖を触手で軽く持ち上げながら、見せつけてくるように撫で上げた。
 背中に這い回るような錯覚を感じる。

「……御主人様を、鎖に繋ぐわ……」
「いや、あの、ちょっと」
「……尻尾をつけて、手足を繋いで、わたしがやさしくやさしく飼ってあげる……ふ、うふ、うふふふふふ……」

 逆転にも限度がある、主従逆転なんてものはSFの世界だけで十分だ。

「ドククラゲ……お前の目的はその鉄球を使いたいだけなのか、その、何なんだ?」
「……御主人様、慌てずに聞いて。私には考えがある……」

 聞かなくても十分な気がするが、後学のためと思って聞いておくことにした。
 隣では既に突っ込むことを放棄しているのか、パルシェンが溜息をついてあらぬ方向を見つめている。
 今度ジュースも奢ってやろう。

「……サディストによるSMプレイはMへのサービス。SがMの表裏一体とされるのはそのため」
「マゾでもなければ、サービスで虐めるなんてことはやってられませんからねー、実際」

 聞かなくても容易に次に出される言葉だけは想像できた。

「……御主人様がMの悦びを覚えれば、きっと逆にも目覚める……。……多分」
「なるほどー」

 なるほどではない。
 今度は前科者になることはないだろうが、間違いなく社会的に大切な何かを色々と失ってしまうだろう。
 しかし……とすると、サディストなトレーナーというのは必然的にトレーナーとして大きな問題があるのかもしれない。
 今度からはギプスをつけているようなトレーナーとは出来るだけ話さないようにするか。

「大体、何でそんなにその姿を認めさせることに努力するんだ。普通のおめかしをしてくれば、俺も普通に褒めるのに」
「……普通じゃ面白くない……」
「駄目ですよ、ドククラゲさん。そこは嘘でも、マスターの多くの経験の一助になるかと、とか言わないと」
「……今後の参考にする……」

 朗らかに笑うモルフォン、あまり小細工を与えないで欲しい。
 これで外堀から埋めてくるようになったらどうするべきか。
 まったくもって難儀なもえもんである、普通に着飾ってくれれば……俺だって可愛いものは好きなのだが。

「とにかく駄目だな、俺はまだノーマルでいたいんだ。人生を諦めたくない」
「……往生際が悪い……」
「人を既に犯罪者みたいに言わないでくれ」

 どうせ無理だと言うのだから最初から諦めてくれると助かるのだが。
 付き合いはもうそれなりだと思うが、ドククラゲの事を理解するのは並大抵のことではない。
 それだけに理解してみたくはあるのだけど。

 とにもかくにも。

「とにかく、その鉄球は――」
「……?」
「……鉄球は」

 そこまで言って、俺は自分で言葉を切り詰めることになった。
 どうしよう?
 ドククラゲを見つめると、相変わらずの濁った目で見つめ返された――本当に何処かから拾ってきたのだろうか。

「おい、駄クラゲ。これは何処で拾ったんだ」
「……もえもんセンターの裏に置いてあった。塀の間で、袋小路になってて見つけ辛い」

 そんなものを見つけてくる嗅覚もさることながら、何故そんな場所にこんなものが置いてあるのだろう?

「……どうしようか」

 一体どんな経緯でそんな場所に置かれることになってしまったのだろう。
 思ったよりも、この世界のトレーナーには駄目人間が多いのかもしれない。
 世も末だ。







 結局、鉄球は道具屋に売った。
 この道具屋、パチもん臭い宝石や石なんかから、おじさんのきんのたままで幅広く買い取ってくれる優良店である。

「……主」
「言うな、パルシェン」

 視線が痛かった、ドククラゲがこんな時だけ名残惜しむ子供のように清らかな視線を鉄球に寄せていたせいで余計痛かった。
 いいんだ、どうせこの店には街をさればしばらくは来ないんだから。
 次の来店までにはこんな威圧感も何もないパーティのことなど忘れているだろう。



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