5スレ>>602-2


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   * * *  



わたしが『生まれて』しばらくたったころだ。

わたしはご主人様の命令で、いろいろな物を壊した。

動かないもの。動くもの。硬いもの。柔らかいもの。
大きいもの。小さいもの。声を出すもの。出さないもの。
強いもの。弱いもの。黒いもの、白いもの、赤いもの、黄色いもの、青いもの―――とにかくいろいろだった。

何かを壊すたびに、ご主人様は頭をなでてくれた。

「よくやったミュウツー、おまえは私たちの自慢の娘だ」と。

…うれしかった。

二人のご主人様に言われたとおりに、わたしは二人をこう呼んだ。



「お父様」と「お母様」。


わたしを含めたすべての生き物には、「親」というものがいるらしい。

「お父様」と「お母様」がわたしを産んでくれた。二人がわたしの「親」だった。

おなじ「親」から生まれた生き物を、「きょうだい」とかいうことも知った。

わたしには「きょうだい」もいたらしい。一人は会った。一人には会えなかった。

会えた方は、「お父様」ととっても似ていた。

カ、で始まる名前だったけれど、覚えていない。


会えなかった方は…知らないけれど、「お父様」と「お母様」がよく話をしていた。

「クリムがまた捕獲棟へこっそり行った」とか「クリムがまた萌えもんを拾ってきた」とか。

なんどもなんどもその話をしていたから、いつの間にかその「きょうだい」の名前を覚えた。


それからずっとたったある日。

わたしが目覚めると、そこには誰もいなかった。

「お父様」も「お母様」も、他の人間や萌えもんも何もいなかった。


…ずっと、ずっと一人だった。

怖かった。寂しかった。けれど…そのうち、そんなことはどうだってよくなった。

どれくらいたったかわからない。…ある日、私の部屋の扉を誰かが開けた。



   * * *  





「…やったか?」
「…直撃、した…」
「倒れていてほしい、ところですけれど…」

「…そうはいかないみたいだな」

ぎちり、という不快な音とともに、電灯が吹っ飛んで…奴は立ち上がった。




そして…一瞬だった。

消えたと思った瞬間にテレポートで俺の背後に現れ、三人をふっ飛ばし…俺も真正面に吹っ飛ばされた。

何か、嫌な音がした。



   * * *  

閉じ込められている間、何をしていたかは全然覚えていない。

目をつぶって、開けて、つぶって、開けて―――

何かを歌ったり、歌わなかったり、壁を壊したり、壊さなかったり。

…だんだんと、時間の感覚が失われていくのに、わたしは気付かなかった。

   * * *  


痛い。焼けつく熱さがわき腹から噴き出している。
流れ落ちているといったほうが正しいか。…だが、流れ出た熱い血はすぐに冷えていってしまう。

「…自分の作戦が仇になるとは思ってなかった…な」

落ちた電灯から飛び出していた鉄製の細い棒。電灯保護用の複数のうちの一本が、
俺の脇腹を思い切り貫通していた。…心臓や肺に直撃しなかったのは不幸中の幸いか。

ミュウツーは…笑っていた。
大きく見開いた眼と、引き裂かれたような口で、笑顔を作っていた。…その眼から涙が流れている。



   * * *  


考え事をしていた。

もし「お父様」と「お母様」が来てくれたら…

なんでも言うことを聞こう。なんでも壊そう。

…また、頭をなでてほしい。

他の誰かが来てもそうする。

…全部壊したら、きっとなでてくれるよね?


   * * *  

ファイヤーとサンダーとフリーザーが、ミュウツーに向かっていった。

…俺はというと、無理やりに金属棒を引き抜き、脇腹を押えながら、血が抜けてきた頭で考えた。

(…みんなはどこだっけ……)

そうだ、あいつらは捕まっているんだった。

フシギバナ。

バタフリー。

ライチュウ。

キュウコン。

フーディン。

プテラ。

フライゴン。

…シャワーズ。

(助けないとな…一人でも…)

俺はひとりでは戦えないということは、朦朧とした頭でもきちんと理解していた。

みんなが必要だ。…俺を助けてくれる、みんなが。


   * * *  

壊す。壊す壊す壊す。

何を壊してもここから出られない。

…何のために出たかったのか。

…なんで こわしたいん だっけ?

   * * *  


血はほとんど止まったが、頭はふわふわしていて何か引っ張られているような軽ささえ感じる。

相当量の血を喪失したようだ。だが、目的のものにはたどり着けた。

背後ではファイヤー達が戦っている。…もうちょっとだけ、がんばってほしい。

機械の合わせ目に手をかけた。…開かない。

開けられない箱をどうするべきか。答えは単純だった。

本当なら鞄の中にあるナイフなんかを使いたかったが、すべてふっ飛ばされた際にどっかに飛んで行った。


…右手を握る。なけなしの血液をフル回転させて…振りかぶって…打ち込んだ。



   * * *  

頭の中で、こぶしを作る。

ドアに右手を向けて、こぶしを頭の中で振り下ろす。

叩く。叩く。叩く。

殴る。殴る。殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る――

そのうちわたしはあきらめた。

彼がやってくるその日まで、もう扉を殴ることはなくなった。

   * * *  


殴った。ファイヤーの声がした。…聞こえないふりをした。
殴った。冷凍ビームがそばを走った。転んだけどすぐ起き上がった。
殴った。グローブが破れた。はぎ取った。
殴った。…指が痛い。
殴った。右手の人差し指が、奇妙な軽い音をたてた。
殴った。中指と薬指も折れた。
殴った。小指も折れた。
殴った。壁が血で赤っぽくなってきた。
殴った。「やめてくれ」とフーディンの声が聞こえた気がした。無視した。
殴った。フーディンだけじゃなくて、みんなの声がした。無視した。
殴った。左手に切り替えた。
殴った。左手も血がにじんできた。
殴った。4本同時に骨が折れた。
殴った。鉄板がへこむ音がした。
殴った。
殴った。
殴った。
殴った。また右手に切り替えた。
殴った。
殴った。左手。
殴った。右手。
殴った。左手。


殴った。シャワーズの姿が、何となく見えた気がした。

(…会いたい)

目の前がかすんでいた。右手の痛みはひどかった。左手もまともに動かせなくなった。
それでも会いたい、と思った。…お前にに会いたい。これを破れば、会える。

だから―――思い切り、握れなくなった拳を引いた。

あきらめない。絶対に諦めない。約束でも、決意でも、覚悟でも何でもない。
これは何の意味もない、ただの俺の我儘だ。

救いなんてどこにも来ない。誰も助けてくれるわけじゃない。
だから。…せめて俺の仲間は、俺が救い出す。

だから―――体を思い切りひねって、折れた右手を―――


叩きつけて。


金属の檻を破って。


動かないはずの右手を動かして、ボールを掴んだ。引き抜いた。


誰にも救われない俺でも。


誰かを救い出して、一緒に歩くことはできるから。






「…行くぞ」
「…はい」

ボールから出てきたシャワーズは、一瞬泣きそうな顔をしたものの、
何も聞かずに、何も言わずに、俺の隣に並んだ。




ファイヤー達はすでにボロボロだった。
だが、ミュウツーもダメージを受けている。

…恥ずかしながら先ほどまでシャワーズのことしか考えていなかった頭が、やっと普段の調子を取り戻してきた。
本来なら全員を助け出すべきだが、そんな時間はもうない。
飛び散った血でちょっと汚れた時計の時間は、夜明けの時まであと10分もないことを知らせていた。

…俺、どれだけ時間かけて殴ってたんだよ…まぁ、考えても始まらない。

「…シャワーズ、制限時間はあと8分。8分であいつを戦闘不能に追い込む」
「はい」
「すでに手はそろった。…とにかく俺とシャワーズであいつに攻撃打ち込んで隙を作る。
 …ファイヤー、サンダー、フリーザーはその瞬間に全力で一撃を叩きこめ。それだけだ」

無言でうなずく3人を確認し、前に出たシャワーズに追いついた。

「…勝てますか」
「あいつは強い。…だがそれゆえに、弱い。…俺とお前なら勝てる」
「…はい!」

俺の作戦はすべて完成した。…これまでの戦いで、やっと俺は奴の弱点を見抜いたのだ。

ミュウツーの弱点――それは、一撃必殺の力ゆえに連続攻撃を行う必要が今までなかったということ。
つまり、攻撃を繰り返す際に一つのパターンしか存在しないというあまりにも大きすぎる欠点!!





やることが分かっているなら、事前に取れる対策などいくらでもある!!

「行け、シャワーズ!」
「はい!」

まずは遠距離からせめる。

「”ハイドロポンプ”!!」

放たれた水流は、念の壁に分断され、完封される。
だがその瞬間は、攻撃に転ずることができない。つまり、絶対に安全なタイミングとなる!

「今だ、突っ込め!”アクアリング”!!」

水の衣をまとい、突撃するシャワーズに、念の壁が迫る。

「”とける”!」

ターゲットが消失すれば、念力は意味をなさない。さらにアクアリングがダミーの役割を果たす。
さらに液体からもどり、跳躍するシャワーズ。今度は迎撃のサイコウェーブ!

「”ふぶき”!」

念力が波の形をとれば攻撃範囲は広がるが、温度変化と風による空気の変化に弱い!!
接近…と見せかけ、背後に回る…だが、その背後にミュウツーがテレポートで移動する。
しかし、その瞬間こそが全てを決する最高のチャンス!

ミュウツーがシャワーズを念で吹き飛ばす―――が、ただ空しく水が飛び散るだけ。

アクアリングやシャワーズ自身の能力を応用して作り上げたダミーを設置する。
今までの戦闘から独自に編み出したシャワーズの隠し玉――名づけて「水分身」。

本物は―――先ほどテレポートする前にいた場所で、すでに液状体から戻っていた!

「…これで…最後です!!」

シャワーズの両手から放たれた激流。それがミュウツーを直撃し、身体を揺るがした瞬間。


真上からの雷と、背後からのゴッドバード、真下からの絶対零度が一斉に襲い掛かった―――。

白い煙が晴れた時、そこにはまるで眠るように倒れている白い体があるだけ。





「…やった…」

すべて、これで終わった。安堵した俺は、思わず座り込んで一言つぶやいていた。

「…すべて俺の作戦通りだ」
「嘘ですよね?」
「…すまん」

そこはさらっと流してくれよシャワーズ。
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