5スレ>>614

 ホウエン地方、ハクタイシティの外れにあるカズマの家。
 この家の朝は早い。なぜかと言えば、家族みんなが大好きな朝風呂タイムがあるからである。

「海ゆかば~、水漬くか~ばね~♪ 山行かば~、草生すか~ばね~♪」

 ほかほかと湯気を上げる、10人は入れそうな広い湯船。タオルを肩にかけ、もちろん誰もいないから前を隠すこともせずに入ってきたのは、
家主であり萌えもんトレーナーのカズマである。家主の特権として殆ど強引に勝ち取った一番風呂をゆっくりと堪能するのが、カズマの楽しみの一つなのである。
 ちなみに風呂に入る時は、一番風呂よりも後風呂のほうが健康にもいい。一番風呂、つまりさら湯は湯内の成分が少ないので刺激が強く、
更には熱の伝わり方が直接的であるため、肌に悪影響を与える。表面的にきれいだからと言って、健康にいいとは限らないのである。

「……とは言っても、やっぱ朝風呂は一番乗りがいいんだよなぁ。日本人(?)は風呂だよ、やっぱ。」

 カズマは嬉しそうに笑いながら、桶に水道から湯を満たす。その湯を頭から二度、三度と浴びる。

「さてと、それじゃ………。いっただきま~す!」
 湯船の前で大きく柏手を一つ打つと、カズマはイルカよろしく、思いっきり飛び込んだ。フルチンで。

「ん~。今日もまたいい湯だ……。」
 頭まで潜ったあと濡れた髪をまるで犬のように頭を振って水を飛ばす。

「特にこの……、ん?」
 不意に、カズマが違和感に気づいた。湯気が出てる割には、今日のお湯は何かぬるい。

「いや、ヌルいっつーか、なんか冷たいような……。」
 しばらく肩までつかっていると、手足から強烈な冷たさが染み込んでくる。

「いややややつつつ冷たいってててていうかかかかか……か、かかかかかかk!」
 歯の根ががたがたと音を鳴らす。もうその時点で、違和感は異常となり、生まれた疑念が、確信に変わる。

「ま、まんま冷水いーーーーーーーっ!!!???」
 フルチンでイルカショーの如く湯船に飛び込んだカズマは、今度はイルカショーの如く冷水槽と化した湯船から大ジャンプする事になった。フルチンで。


――2時間後。


「……あ~。こりゃ完全に風邪だね。まあ、そんな重たいのじゃないけど……。ダメじゃないか、カズ。風呂から上がったらちゃんと体を拭かんと。」
「面目ない。」

 ベッドで寝ているカズマの額に手を載せていたフライゴンがやれやれと溜息をついた。あの後カズマは、適当に(恐ろしく体が冷えていたせいもあるが)体を拭いて布団に潜り込み、
そのままうつらうつらと眠ってしまったのだ。
 そして目を覚ませば、時すでに遅し。カズマの頭はすでに熱っぽく、体はだるくなっていた。

「とりあえず、今日は一日休息をとること。風邪はこじらせないでさっさと直すのが一番さ。」
「ふぁい。…くしっ!」

 布団の横のティッシュを引きずり出し、ぶびーっ!と鼻をかむ。

「でも、なんで今日のお風呂は冷水なん? お風呂当番、誰やっけ?」
 関西口調のレジロックの言葉に、全員が顔を見合わせる。

「あたい、は一昨日やったから違うよね、もしかしてボスゴドラ?」「いや、拙者はアブソル殿と共に朝餉の支度を任されていた故、違うでござるよ。」
 バクフーンとボスゴドラが顔を見合わせる

 その時、今まで静かであった人物から手が挙がった。
「すみません、マスター。今日のお風呂当番は、わたしです。お湯を張ったつもりだったのですが……。」
 ドンカラスであった。

「? ドン子がそんなことミスるとは珍しいな。」
 掛け布団からカズマが顔をのぞかせる。

「大方あれだ、昨日の模擬戦でアブソルに負けたのに悔しくて、そんなことも気づかなかったんじゃないのか?」
「………ぐぅっ……!」
 呆れたようなフライゴンの言葉に、ドンカラスが言葉に詰まった。どうやら図星だったらしい。

「マスター。今回のマスターの風邪の責任は、全てわたしにあります。いかなる処罰もお受けいたします……。」
「ああ、いいよそれは。別に処罰だのなんだのしないし。」
 その言葉に、ドンカラスがぽかんとなる。

「良いのでござるか、主殿?このような場合、主として、ドンカラスにけじめをつけさせるべきなのでは?」
「ドン子は言われないと反省しないような子じゃないさ、自分に厳しい奴でもある。わざわざそんなことをせんでも、ちゃんと反省する。」
「そうか~? ここぞとばかりに折檻したほうがいいんじゃないのか~? ドンカラスのコートを脱がせて、こう、きゅっと締まったお尻をぺぺーんって……くふふ」
 恐ろしく助兵衛な顔になるフライゴンにカズマはジト目を向け、

「フラ姉……。そりゃあんたがやりたいだけだろ。……やりたいけどさ。」
「やりたいんかい。」
 やっぱり顔が崩れて助兵衛になるカズマに、レジロックのくろいまなざしが突き刺さった。


――さらにもうちょっと時間がたって。


「いいのか? みんなまだ仕事があるんだろ?」
 半身を起こしたカズマの周りに、台所に行ったアブソルと別件のボスゴドラを除く全員が集まった。カズマの看病に、結局全員集まってしまったのだ。

「気にしなくていいよ、アニキ。確かに仕事は大事だけど、アニキの健康のほうがもっと大事だよ。」
「そうやよ、カズマ。今日はウチらみーんなで看病したるから、はよう元気になってな。」
 ベッドの左右にいるバクフーンとレジロックが笑って返す。

『しかし……絶景だなこりゃ』
 全視界萌えもんという、ともすればエロ方面に向きそうになる脳みそを無理やり抑え込む。若い子は大変なのだ。

「カズはいつも大変な状況なのによくやってるよ。今日ぐらいは、あたしたちに甘えな。」
「フラ姉……。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。」

 一方、その輪の中に入れない萌えもんが一人。
「うう……。ま、マスターの風邪はわたしの所為だから、わたしが看病するのに……! マスターもマスターよ。何で、何でわたしの方を…っ!!」
 ドンカラスは手に持ったタオルを引きちぎれよとばかりに思いっきり絞る。

「……? ドン子、どうした? そんな力こめるとタオルちぎれるぞ?」
「……っ! ドン子って呼ばないで! ほら、タオル頭に乗せてくださいっ!」

――ごすっ!

「ほげっ!?」
 筒状に固く絞られたタオルが、カズマの眉間を直撃する。見事きゅうしょを撃ち抜く攻撃で、カズマは危うく轟沈しかけた。

(たたた……何を怒ってるんだ、あいつ?)
 絞られたタオルをちょっと苦労しながら(ほとんど水分が残ってなかったのだが)広げ、頭に乗せる。

 つと、扉がノックされる。
「カズマ様? 起きてますか?」

 アブソルが、小さな土鍋をお盆に乗せて入ってきた。
「お粥を作ってみたのですが、どうですか?」
「おっ、ありがとう。丁度お腹空いてたんだよ。」

 アブソルは笑顔を浮かべながらお盆をベッド近くのテーブルの上に置くと、
「ふー、ふー…。はい、カズマ様、あ~ん♪」
 レンゲに適度に冷ましたお粥を入れて差し出す。

「あーん。」
 カズマもノリノリでそれをあーんする。

「わっ……。わたしだってお粥作れるのに……! ふーふー、あーんだってしてあげようと思ったのに……!」
 で、やっぱりドンカラスがタオルをものすごい力で締め上げる。かいりきは覚えないはずなのだが。

「……ん、美味いよ、この玉子粥。これなら風邪ぐらいすぐ直りそうだ。ありがとな、アブソル。」
 カズマが正直な感想を述べる。

「本当ですか? ありがとうございます、カズマ様。はい、あ~ん♪」
「あ~ん……♪」

「はい、タオル! 体温ですぐ温まるからこまめに取り換えてください!!」

――どごぉんっ!

「ほがああっ!?」
 二口目のお粥を口に運ぼうとしたカズマの口に、まるでキャッチャーミットに収まる硬球の様に硬く絞ったタオルがストライクした。

(あたたた……。ほんとにどうしたんだ、ドン子のやつ?)
 カズマが不思議そうな眼でドンカラスを見つめるが、彼女は背を向けたまま何やらぶつぶつと呟いている。

「……ああもう。私のばかっ!ええと、次は……『御主人様、汗をおかきになったでしょうから、お体をお拭きしますね?』……そう、これよっ!」
 何やら気合を入れると、精一杯の笑顔でカズマに向き直り、

「あ、あの、マスター。汗をお書きになったでしょ?し、仕方ないからわたしが拭いt」
「カズ、汗かいただろ? あたしが拭いてあげるから服を脱ぎなよ。ほら、バク、カズが服を脱ぐの手伝ってあげな?」
「うん。アニキ、手伝ってあげるね。」
「ん、わかった。」
「ちょ、ちょっとー!」
 ドンカラスの心からの訴えは、声が小さかったために無視された。

「ん~♪ 相変わらずい~い体してるねえ、特にこの胸板とか、この腹筋とか…ふふふ。」
「ふあっ……ちょ、フラ姉……! なんかエロいよ、その拭き方。」
 拭っているというか弄っているかのようなフライゴンの拭き方に、カズマは少し身もだえた。
「………っ!」

――ぶちんっ!

 その様子に、ドンカラスの絞っていたタオルが一部千切れた。
「はい、おしまい。」
「サンキュー、フラ姉、バクフーン。……ところで、ドン子、さっきなんかいってたk」

――どごっ!

「無言で!?」

――どすっ!

「二発目っ!?」
 頬と顎に綺麗に決まった二発のタオル砲弾に、カズマはちょっと涙目になった。

「ところでカズマ? お熱のほうはどう? そろそろ測っとく?」
 覗き込みながら、レジロック。

「あ、うん。頼むよ。体温計ならそこの引出しにあるから。」
「わっ、わかりました! 今度こそ、わたしが……!」
「ああ、必要あらへんよ。舌下温度測るから。」
 そう言って、頭をがっしりとホールドする。
「へ? 舌下温度って……っ!」
 カズマの口に、レジロックの唇が重ねられた。

「ん~。」
 その様子にアブソルはポカーンとし、バクフーンはそれこそ火でも出そうなほど顔を真っ赤にして、フライゴンはニヤニヤとその様子を見つめている。

「……………!!!!!!!!」

――ぶつんっ!!

 ついでにドンカラスのいかりも頂点に達し、哀れタオルは真っ二つに引きちぎられた。

「ん~、37℃ってとこやな。まだちょっとお熱あるな~。」
「さ、さいですか……。」
 一応キスには慣れてたカズマだが、不意打ち気味にされればさすがにビビる。
 で、問題のドンカラスは……。

「……マスター。」
「さっきからどうした、ドンカラ……スうううううううううううう!?」
 カズマがギョッとなった。それもそのはず、テーブルと椅子が計3つ、まるでビットのようにドンカラスの周囲を回転しながら浮遊している。
 ついでに本人は、サイケエネルギーの過剰漏洩の影響で全身に蒼い紫電を纏っている。おそらく、サイコキネシスで浮かべているのだろう。超出力の。

「ショック療法します。もう、マスターはこうしないと治らない。」
「ただの風邪なのにっ!? しかも何『もう』って!?」
 その言葉は、死の宣告に近かった。ついでにカズマの周りにいた4人はすでに退避している。さすがに理不尽な痛みに耐えることはしたくないらしい。

「このっ………! エロマスターーーーーーーーーーーー!!」
「俺今日なんかしたああああああああああああああああっ!?」
 その尤もな悲鳴は、哀れ家具の重量に押し潰された。
(り、理不尽……ガクッ)
                                ~続くの?~


 後書き
 いかがでしたでしょうか。前回よりはだいぶましな文になったと思いますが。。。『コレナンテエロゲ』的な展開ですか、そうですか。
 えー、いったんここで切っているのは理由がありまして、この後ドンカラス単体とカズマで何かさせようと思ってます。
 ほんとはクールキャラのはずなのに、作者の所為でツンデレにしてしまいましたドンカラスw
 あと、ござる口調という個性的キャラなのにほとんど出番なかったボス子ことボスゴドラでも何か書きたいです。とりあえず一人一文は目指したい。
 後、みんな言ってるので自分も言っておきます。
                      カズマ自重。

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最終更新:2008年10月07日 21:47
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