5スレ>>635-1


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 来る十月三十一日。
 日本に住む人間には馴染みの薄い、ハロウィーンな日である。
 そんなことを言う俺も、ついさっき宿で知らされなければ気付かなかったに違いない。

「トリックオアトリート!」

 時折聞こえる子供の元気な声。
 家から出てきた子供はそれぞれ狼男や魔女の衣装に身を包み、わいわいと騒ぎながら別の家へと走って行った。
 もちろん、俺の腕にぶらさがってる食欲の権化べとべたぁが、子供たちの手に握られていた袋に気がつかないはずがない。

「あ、あれはなんですかごしゅじんさまっ! おかし! おかしもらってます!」
「あーうん。そうだな。貰ってるな」
「わたしもほしいですっ! もらってくるです!」

 こういう時になると信じられない速度が出るのがこのべとべたぁ。
 しゅたっと腕から離れて、瞬く間に先ほど子供たちの出てきた家へと駆け出した。

「ちょーっと待ったぁー!!」
「ごしゅじんさまもほしいですかっ! ならわたしがふたりぶんもらってくるですっ!」
「そういうことじゃなーいっ!」

 いくら速いと言えど体格差ありの年齢差ありの。捕まえるのは容易です。
 両脇をロックして持ち上げると、ねっ簡単でしょ。

「はなしてごしゅじんさま! おかしもらえない!」
「まぁ待て。お菓子に目がいってたお前には分からなかったかもしれんが、お菓子を貰うにはやらなきゃいけないことがある」
「そうなんですか……」
「なに、難しいことじゃない」

 落ち着いた(ややしょんぼりした)ので下ろしてやる。
 ポケットから携帯を取り出して、宿で留守番をしているふりいざぁの携帯にコール。
 少々資金が心許なくなったものの、携帯のおかげで別行動がとりやすくなったのは十分なメリットだった。

『はははははいぃっ。ふっふりっふりぃざぁですっ』
『……俺以外からかかってくるこたぁないんだからもう少し落ち着け』

 ……後はこいつが慣れてくれればいいんだが。

『それで……なんでしょうぅ』
『食料にかぼちゃあったよな? 持ってきてくれ』
『は、はろうぃんですねっ!』
『おおう……よ、よく分かったな』

 おどおどな態度が消えて、前面に出てきたのでちょっと驚いた。

『任せてください! 準備なら! してあります!』
『そ、そうか、広場だ、頼む』
『マッハ100でいきますよぅ』

 ぷつっ。
 ……切られた。
 相手が切るまで律儀に待ち続けるあのふりぃざぁが……。

「……よし、べとべたぁ。広場で準備だ。行くぞ」
「じゅんび、ですか?」
「着いたら分かるさ」

 あのふりぃざぁの調子では。
 広場に着くまで分からない、という意味をこめて。





「……こいつか」

 ふりぃざぁの持ってきたものは……かぼちゃ。
 名前は忘れたが、顔を彫ったちょうちんのあれな。

「よく作ったな……こんな面倒くさそうなものを」
「当然ですっ 自分はっ 一月前からこの日を楽しみに待っていたんですよぅ!」
「あーわかったわかった。わかったから興奮して顔近づけるな暑苦しい」

 迫り来るふりぃざぁを押し返し、改めてかぼちゃを見遣る。
 デコボコの裂けた口に、不揃いながら纏まった形の目、鼻。
 よくもまぁ丁寧に作ったものである。

「ごしゅじんさまごしゅじんさま。これはなんですか?」
「かぼちゃ」
「あのあまいやつですかっ!」
「そう。甘いやつ」
「なかみはどこですかっ!? どこにやったですかっ!?」
「ふりぃざぁに聞いてくれ」

 ……はぁ。
 なんでこんなに力強いんだこいつらは。

「ふりぃざぁさん! なかみはどこにやったですかっ! ひとりでたべちゃったですかっ!」
「そ、そんなっスプーン一杯でお腹いっぱいですよぅ」
「うそですっ! さぁはくですっ! いなかのおっかさんがかなしむですよ!」
「無茶苦茶ですよぅ……」

 どうでもいいが二人とも。ここ広場な。目立たないでくれな。
 願いはむなしく、星に届かず消えてしまった。
 他人の振りをして一時やり過ごし、

「ところでふりぃざぁ……衣装は?」
「……」
「かぼちゃは明かりで、別途仮装だよな……?」
「……」
「……」

 隣でかぼちゃのくりぬかれた穴に指を通し、手を通し、中を覗き込んだりして楽しんでいるべとべたぁとは対照的に。
 正面で無言のままただ立ち尽くすふりぃざぁの姿は悲愴感漂う。

「すっかり忘れてましたよぅ……」
「まぁ人里離れて十数年だもんな……」

 張り切ってハロウィンの準備して、気合に溢れてるふりぃざぁだったけど。
 やっぱり地味なところでふりぃざぁなんだなぁ……。
 さて、仮装をどうするかだが……、

「シーツがあれば……」

 べとべたぁは背もちっこいし、あれをばさりと頭からかぶるだけで何とかなるだろう。
 想像力の補填にちらりと本人を見ると、かぼちゃ頭のちっこい萌えもんと目が合った。
 くり抜かれた目からはいつもよく見る輝きの詰まった瞳が覗く。
 ……。

「ぴったりですよごしゅじんさま!」
「……」
「どうしたですか? おさいふがぴんちですか?」
「こ れ だ !」
「??」
「ふりぃざぁ。こいつを見てくれ、どう思う……?」
「すごく……らぶりーです……」

 とりあえず、ハロウィンの準備は完了した。
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