5スレ>>672

「……………」

 ベッドの上で、オレは特に何をするでもなく寝返りをうっていた。
 アキラの奴は腹の怪我がある程度治るまで部屋に閉じ込められてる。
 デルとメリィはそれにつきっきり。
 新しく仲間になったチビ……サイホっつったっけか、あいつはオレのこと見ると逃げやがるからどうしてるかは知らん。
 全く失礼なガキだ……まー、前のマスターに虐待されてたせいらしいが。
 ホウの奴も相変わらず……じゃねーな。
 あいつにしちゃ珍しく、近頃は何も騒ぎが起こってねぇ。
 ……流石に空気読んでんのかね。
 とまぁ、そんなワケで。
 オレはベッドでゴロゴロしながら、あの時の事をじっくりと考えていた。

 正確には……オレが転生する前、死の直前の記憶のことを。





『Rein†carnation』





 あの時のビジョンを、もう一度よく思い出す。
 場所は……ダメだ、周りのモノが燃えてばっかでよくわからん。
 そんで……そうだ、逃げろって言ったんだ。
 で、オレは目の前の相手に突進して……折れてる左腕を掴まれて、砕かれて。
 投げ捨てられたけどまだ立ち向かって……今度はアイアンテールが眉間に直撃したんだっけか。
 一瞬意識飛んだ覚えがあるぜ……思い出したらデコが疼いてきやがった。
 んで、その衝撃で着けてたハチマキが飛んで……って、オレハチマキなんて巻いてたのか。
 最期は……炎しか見えねぇ。多分火炎放射で焼却されたんだろーな……。

「って、一番大事なとこがすっぽり抜けてやがる……」

 何度思い返しても、オレが逃がしたかった……何としても守りたかったやつの顔が思い出せない。
 ……アキラに捕まる前、タワーにいたジジイが『ゴースト族に転生したのは、余程の未練があったから』とか言ってたが。
 間違いねぇ。オレの未練はコイツだ。
 色々と気に食わなくて、生意気で、でもオレが真っ向から向かっても敵わなくて。
 ボーっとしてて、寝ぼすけで、無愛想で……でも、滅多に見せない笑顔は可愛くて。

「何で、思い出せねぇんだよ……!」

 オレは、きっと。
 あいつのことが、命張れるほど好きだったんだ……





「……ふぅ」

 ボクは一人、自分の部屋でため息をつく。
 メリィから、事の顛末は聞いた。
 ……角ドリルから、メリィをかばってあの怪我。

「なんて……馬鹿」

 メリィがあの時アキラ君を叩いたのは当たり前だと思う。
 男って……何故、遺される側のことは考えないのだろう。
 体を張って、かっこつけて、命を落として……それで、満足?

「馬鹿……ばっか」

 彼もそうだった。
 幼かったあの頃は、まだそんなに考えが回らなかったけど。
 今になって思う。
 遺される方の気持ちも、考えて欲しいと。

「……………」

 数少ない私物を漁り、ボクは焦げてボロボロになったハチマキを取り出した。
 嘗て、ボクが好きだったのに見捨てた相手……きっと彼は、助けも呼ばずに逃げたボクを怨んでいる。
 その彼が肌身離さず身に付けていた……彼の唯一の遺品。
 いつまでも引きずるのは良くない……そう、理性で呼びかけても手放すことができない。

「うぅ……」

 普段人前で出さない感情が、首をもたげてくる。
 匂いを嗅いで、舌で染み込んだ血と汗を味わって、彼を感じたいという、古い想い。

「うぅん、ダメ……」

 それに抗おうとする、今好きな相手……ゲンへの、新しい想い。
 ボクは二つの想いの間で板ばさみになり……堪えきれなくなって、ベッドに飛び込んだ。
 ハチマキを口に咥え、もう殆ど落ちてしまっている匂いを嗅ぎながら……最も言ってはいけない言葉を口にする。

「ふぅ、んくぅ……ゲ、ゲン……!」

 違う。
 これはゲンの匂いではない。
 そう、わかっているのに。

「ゲン……ゲン好き……っ!」

 ゲンと彼は違うのに。
 ゲンに彼の幻影を重ねてはいけないのに。
 ……どうして。
 どうして彼とゲンは、あんなにも似ていないのに。
 このハチマキを身に付けたゲンを幻視してしまうのだろう。

「好き……ゲンっ……~~!!!!!」

 ひとしきり味わい、ハチマキを部屋のテーブルの上に投げ捨てる。
 ……そして自己嫌悪。
 また、ゲンに彼を重ねて……いや、もうどっちがどうなってるのかわからない。

「ゲン……ごめん……」

 ここに居ない彼に謝罪しながら、ボクの意識はまどろみの中に沈んでいった。





「……ホウ?」

 結局よくわからんままで、もやもやした頭をなんとかしようとボーっとしていた時。
 ホウが切羽詰った声で、オレの名前を呼んでるような気がした。
 ってかこの感じ、念話か?

「……ってちょっと待て!」

 切羽詰った声、しかも念話だと!?
 それもデルとかメリィとかアキラじゃなくて、オレを呼ぶだって!?

「まさか……あいつら、何かやってんじゃねーだろな」

 流石にアキラは重傷だろーから呼ばなかったとしても……普段の腹いせにあの二人が虐めてるってことはあるかも知れねーか。
 ……ま、様子だけでも見に行くか。

「……べ、別にアイツのことが心配とかそういうことじゃねーぞ!?」

 って、誰に言ってんだオレは。



 とまぁそんな訳でホウの部屋に侵入したんだが。

「すぅ…………」
「……寝てんじゃねーか」

 ったく、心配して損したぜ……いや、心配なんて欠片もしてねーぞ!?ホントに!!
 しっかし、なんだかなー。アレだ。
 寝顔は案外可愛いとか、黙ってりゃ美人とかそういうことは置いとくとして。

「……なに寝ながら泣いてんだ、コイツは」

 顔に涙の跡があるじゃねーか……ってか目尻にも涙が溜まってやがる。
 それに……うなされてんのか?
 時々「ゴメン……」とか言ってるんだが。
 ……まぁ、オレがどうこうできるような話じゃねーだろうが。
 ということで、オレは退散するとしますか。
 また何時だかみたいに『女の子の寝顔を云々~』とか言われてもたまったもんじゃねーし。
 ……ん?

「なんだこりゃ」

 ベッドに背を向けて、視界の端っこに引っかかった物体。
 テーブルの上に無造作に投げられた、細長くて赤い、所々焼け焦げた布切れ。
 オレはそれを拾い上げ、まじまじと眺めた。

「コイツは、ハチマキか……っ!?」

 ハチマキ、という単語を認識した瞬間。
 オレの脳裏に、あのビジョンがはっきりと写し出された。
 それは、オレがアイアンテールを喰らった直後……ハチマキが外れて飛んでった所。

「コレ……オレの、ハチマキ……なのか?」

 記憶に促されるように、オレはそのハチマキを装着する。
 覚えが無いのに妙なくらい慣れ親しんだ感覚が、頭を包み込む。
 そして、締め終わったその時。

「う……あ、がああああああっ!?!?!?」

 脳味噌をかき回されたような痛みがオレを襲った。
 ホウの神通力での脳味噌シェイクとか、そういうレベルじゃねぇ……ッ!
 でも、意識が飛ぶことは無く。
 乱雑にモノを突っ込んだ押入れを開けた様な勢いで、記憶が雪崩込んできた。

「てか……っ、なだ、れ、てれべ、るじゃ、ねぞ……!!!」

 次々に浮かんでは流れていく記憶。
 その中に一つだけ。
 オレが最も求めている記憶があった。
 オレの最も護りたかった、アイツの笑顔。
 それは。

「………え」

 頭痛が止まる。
 思い出した「アイツ」の顔は。

「ホ………ウ……なのか……?」

 昔の記憶だし、ホーホー族の時の顔だから、そりゃ色々と違うが。
 記憶のアイツはホウなんだって、はっきり解る程度にホウと似ていた。
 それに、このハチマキ。
 わざわざこんなもん、後生大事に持ってる可能性のあるやつなんて……アイツくらいしか思いつかねぇ。
 ……と、そこで。
 後ろでホウが起き上がる気配がした。

「…………ゲン?」
「あ……ホウ、オレ」

 振り返り、記憶を取り戻したことを伝えようとして。

「何……やってる…の」
「え?」

 いつも無表情……ってか、クールな表情を崩さないホウが。
 信じられないとでも言いたげな表情で、目を丸くしてオレを見ていた。
 そしてその表情のまま、ぽろぽろと涙を流している。

「いや、話せば長くなるんだがオレは」
「こっち……来ないで!」
「なぁっ!?」

 ワケを話そうとして一歩寄ったら拒絶された。
 ってか流石のオレも、いやオレじゃなくても今のはカチンと来るだろjk。

「意味わかんねーぞ! 話くらい……」
「どうして……どうして……!」
「おい、聞いてんのか!?」
「…………来るなあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「んなぁ!?」

 ……半泣きで悲鳴上げて窓から飛び出してくとか何事だよ。
 って、落ち着いて文句言ってる場合じゃねぇ!

「くそ、なんでこうなんだよ!」

 後に続いて窓から飛び出す。
 と。

 ズバッ!

「ぐぇは!」

 オレはエアスラッシュの直撃を貰い、派手に地面に落ちた。
 ……ホントに、何事だっての!

「くそっ!」

 ホウの逃げてった方向を見ると、エアスラの弾幕が見える。
 ……オレを撃ち落とすために乱射してるのが裏目に出てんじゃねーか。
 だが、今のアイツはそんだけテンパってるってことで。

「……兎に角、追いつかねーとな!」

 オレは地を蹴り、ホウの後を追うのだった。





「はぁ、はぁ……っはぁ、ふぅ」

 勢いで部屋の窓から逃げ出して、どの程度の時間が経っただろう。
 エアスラッシュの撃ちすぎで疲れて途中から陸に降り、ただただ逃げ続け……
 気がついた時には、切り立った崖のある岩場にたどり着いていた。
 その岩の中でも、一番海に向かって出っ張っている物の先の方にボクは腰掛ける。
 もう日は沈み、キャモメ達のおしゃべりする声も聞こえない……聞こえるのは、崖に打ち付ける波の音だけ。

「どうして……」

 確かに、ボクの中で彼とゲンの存在を重ねてることはよくあった。
 それが……いけないことだとは解ってはいたけれど。
 いつか……いつの日か、ゲンをゲンとして見れるように努力しよう。
 ……そう、思ってたのに。

「どうして……ゲンがあれを着けてるの……」

 ハチマキをつけたゲンを見て……ゲンと彼の幻影は、ボクの中でぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまった。
 例えるなら、コーヒーにミルクを混ぜたようなものだ。
 ……きっともう、ボクはゲンをゲンとして見ることはできない。
 それどころか、彼の幻影すらも……

「ボクは……どうすればいいの……?」





「……見つけた!」

 途中で森の中に降りやがったお陰で一瞬見失ったが、直感で崖の方に行ったらビンゴだったぜ。
 ……さて、今度こそ逃がさねぇように気をつけねーと。
 声かける前に黒い眼差しを準備して……よし。

「ホウ!」
「…っ!?」
「っと、逃げんな!」

 ギン!

「!!!」

 いい塩梅に効いたっぽいな。
 ……にしても、コイツのこんな怯えたような表情は初めて見るぜ。
 一体どうしたんだか……いや、んなことよりも。

「ホウ……オレ、お前に言わなきゃいけねーことがあんだ」
「……だめ……ボクは」
「ダメもカメもあるか! いいから黙って聞きやがれ!」
「ぅ……っ!」

 顔を背けようとするホウの頭を掴み、ムリヤリオレと目が合うようにする。
 それでも頑なに……だが力なく抵抗するホウに、オレは返事を待たずにまくし立てた。

「離して……キミは……!」
「思い出したんだ!」
「……何……を?」
「このハチマキを見つけて…気になったんだ。妙にしっくり来たんだ…それで着けてみたら……思い出した」
「……まさ、か……っ、嘘だ! キミが彼だなんて……そんなこと……っ!」

 絶句するホウ。
 だが、やっぱそうそう信じてはもらえないようで。
 なら、信じてもらえるまで押すのみ……!

「嘘じゃねぇっ! 10年前、オマエと一緒に夜空を飛んだこと! 俺の力が弱かったせいで、オマエを危険な目に遭わせたこと!
 ……それから、アイツに焼かれて死んだこと……全部、思い出した!」
「そんな……ボクは……ボクは……」

 ホウは何故か相変わらず怯えた目でオレのことを見ている。
 オレはホウを安心させたくて、できるだけ優しく頭を撫でてやる。

「すまん……戻るの、随分遅れちまった」
「え……?」

 そう言ってやると、ポカーンとした顔になってあからさまに緊張がとかれたような声を出しやがった。

「あ? 何ポッポがタネマシンガン喰らったみたいな顔してんだ?」
「……キミはボクのこと……怨んでない、の……?」
「ハァ? 何を怨む必要があるってんだよ」
「ボクは……キミのことを見殺しにしたのに」

 ……バカだ。
 コイツ、オレが何を思ってオトリになったのかまるでわかってねーのか?

「……んだよ、そんなことか」
「そんなことって…!」
「オレにとっては…オマエが生きててくれた、それだけで命を投げ出した甲斐があったってもんだ」
「……っ」
「大体だな、お前を生かすために残ったのに怨んでどうすんだアホ」
「……ぅ、うぅ……」

 えーい、畜生泣くんじゃねぇ。
 とりあえずオレはホウのことを軽く抱きしめて、背中を撫でてやる。
 ……っと、折角生きて……ってか一度死んだけど、帰ってこれたんだ。

「ホウ」
「……?」
「かなり遅くなっちまったが……ただいま」
「お……おか、えり……」
「それと……オレ、オマエの事好きだ。あの日に言えなくて、すまねぇ」
「……っ、ゲンーッ!!!」
「んぷっ!?」

 次の瞬間、オレはホウに押し倒された挙句キスされていた。
 ってかホウさん、随分と積極的ですねっつーかキャラ変わってねーか!?

「ゲン……んちゅ、ゲン……!」
「ちょ、おちつむぐっ!?」

 ……その後、ホウの暴走は明け方頃に漸く落ち着き……ってかホウが疲れて寝やがったんだが。
 結局オレは、眠ってるホウを起こさないように抱きかかえながら別荘に戻った……ま、悪い気はしなかったけどよ。





 ……んで、その後オレたちの関係がどうなったかというと。





 ……朝だ。
 まぁ朝って言っても普通の連中にとっちゃ大分遅い時間だろうが。
 ここ最近……具体的にはアキラに捕まってから……生活が昼型になった。
 それはいい。
 問題なのは、オレの隣で寝てるコイツだ。

「すー………」
「……相変わらず夜型なんだな、コイツは」

 まぁ、夕べも遅くまで……ゲフンゲフン、いやなんでもない。
 とりあえず、相変わらずなところもあるが……色々と変わったところもあった。
 細かいところは色々と割愛するが……やっぱ最大の変化は「笑顔を見せるようになった」事だとオレは思う。
 それと、オレに対して随分と素直になったし、悪戯仕掛けてくることも減った。
 てか、近頃は暇になるとくつろいでるオレの膝の上に腰掛けてきたり、膝枕にして昼寝したり……べ、別にノロケじゃねぇからな!?

「んぅ……」

 っと、どうやらお姫様が目を覚ましたらしい。
 小動物っぽい仕草で瞼を擦ると、眠たげな表情で半身を起こしている俺を見上げた。

「……おはよ?」
「もう昼前だけどな」
「……んー」
「……んだよ」
「おはようの、きす……」
「…………」

 前なら、寝ぼけてんのか? で切り捨ててたが。
 ホウの体を抱き起こして、唇を重ねてやる。

「…………っぁ……♪」
「……満足したか?」
「……まだ、欲しい」

 そう言いつつ、瞼を閉じて再び唇を寄せてくる。
 ……畜生。
 こいつぁ……期待に応えない訳にゃいかねぇじゃねぇか。



 蛇足ながら、この後ベッドから二人で出るまでに約30分の時間がかかったことを、ここに追記しておく。






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・あとがき

 どうもこんばんわ。今回は久々に筆が進みまくった曹長です。
 いやぁ、一週間経たない内に作品書き終えたのって何時ぶりだろうかw

 今回は一部で話題沸騰中(?)のゲンとホウ、二人の結ばれるお話でした。
 それにしてもこの二人、書けば書くほど愛着が涌いてくるから本当に困るww
 っていうかホウのキャラが絶賛大崩壊。なんか動かしづらくなる悪寒がするけど、頑張ろう。
 あー、アキラ達三人でもこういう最後の甘い雰囲気を出していかなければ……

 さて、次回は多分冒頭で名前だけ出てきたあの子の話になる予定です。
 アキラ君、無茶をするなと言われはしたものの……?

 では、また次回の後書きでお会いしましょう。 

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最終更新:2009年02月05日 22:35
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