5スレ>>695-1


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ホウエン地方への引越し業者の車に揺られて寝ていた俺は石に乗り上げたのだろう軽い振動で目が覚めた。
ふと、習慣で隣を見るがそこにいつもいるはずの姿はない。
十歳の誕生日にジムリーダーの親父からの誕生日プレゼントとして貰ったもえもんの卵。
一生懸命世話をして、孵ったのはいーぶいだった。
今にして思えば親父はきっと俺がどんなトレーナーになろうとしても目指せるように一番最初の相棒としていーぶいを選んでくれたんだろう。
それからの数年は大変だった。
まだ小学生のガキが子育てをするんだ。
枕元で寝ションベンされたり、学校にまで付いて行くとわがままを言われたり。
つい数日前、本来の引越しの前夜まではそんな日が続いていた。
『パパごのみのおんなのこになってきます』
そんなお世辞にもうまくない字で書かれた紙切れ一枚を残して、俺の娘であり、妹であるいーぶいのあわゆきは姿を消してしまった。
オーキド博士におてんばな性格だと聞かされてはいたが…おてんば過ぎだろう?いくらなんでも。
ちなみに名前の由来はいーぶいだと知ったときに進化させようと考えていたもえもん、シャワーズから。
『あわはきもえもん』だから『あわゆき』。
単純とか言わないで欲しい、小学生だったんだから。
「俺好みってなんなんだよ。」
自分で口にして白々しいと思った。
俺の夢は水もえもんでもえもんリーグを制覇することだとずっとあわゆきに話していたんだから。
「水もえもんでなきゃ連れて行かないなんて言わなかったのにな。」
車が止まる。
どうやら到着したらしい。
窓すらなかった密室にようやく涼しい風が吹き込んできた。

~ 第一話 ~

「お疲れ様、ゆっくりできた?」
目の前の家から出てきたのは俺の母親。
若々しいというかなんというか実の息子を引越しの荷物と一緒に運ばせるくらいにはお茶目な人だ。
この人に育てられた所為で俺の性格はこんななんだと思うと悲しくなる。
「金の節約だからって息子を引越しの荷物と一緒に運ぶ?普通。」
「元はと言えばあなたが一緒に来なかった所為でしょ?まあ、気持ちは分かるから自由にさせてあげたんだけどね。」
その点には感謝している。
あわゆきが帰ってくるまではカントーに残ろうと考えていた俺に数日だけでも時間をくれたのだから。
「それは…まあ、感謝してるし、迷惑かけたと思ってる。」
「うん、よろしい。…大丈夫よ。あわゆきちゃんなら。だってあの逃げ足があるんだから。もうカントーにはロケット団もいないし。」
数年前まで各地で犯罪を犯していた組織であるロケット団はある少年によって壊滅させられている。
ロケット団の壊滅はロケット団の首領がトキワジムリーダーだったこともあって大きく報道されたが、それ以上に話題になったのが壊滅させた少年というのが若干十四歳でカントーのもえもんリーグのチャンピオンとなった少年その人だったからだ。
今はまた放浪の旅に出ているらしい。
ただ、ロケット団がいなくなっても悪い人間というのはいる。
心配で仕方ないけど出来ることもない。
あわゆきが家出してから一週間待ったが帰ってくることはなかった。
警察にももえもんリーグにも捜索願いも出してある。
「うん。…全く、帰ってきたら思いっきり怒ってやる。」
俺の空元気なんてお見通しなんだろう。
たぶんこの人には一生勝てそうにない。
「そうそう、お隣のオダマキさんはパパのお友達なの。同じ年頃の娘さんもいるから今からご挨拶に行ったらどう?」
「わかった。…手土産とかいらないかな?」
「もうママが行った時に渡したしいらないわ。」
「んじゃ、ちょっと行ってくるよ。」

俺の家の道を挟んだ反対側、本当に真向かいの家がオダマキさんの家らしい。
チャイムを鳴らすとうちの母に負けないくらいの若々しい奥さんが出てきた。
「あ、どうも。」
「ああ、あなたが翠くんね。」
どうやら向こうは俺のことを知っているらしい。
「ちょうど良かった。今さっきハルカも帰ってきた所なのよ。ささ、上がって。」
出来ればさっさと挨拶だけして部屋の荷物の片付けをしたいところだが、こうなると断りにくい。
それにまあ、このお母さんの娘さんというハルカという娘も見て見たい。
この人の娘さんなら間違いなく可愛いだろうしな。
だが、うちのあわゆきには勝てんだろうがね。
と、心の中で親バカを発揮しつつオダマキさんの家に上がらせてもらう。
「ママーその人だれー?」
家に入ってすぐ、声を掛けられる。
見ると小学生の低学年くらいの女の子がそこにいた。
「お隣に引っ越してきた翠くんよ。」
「わーい、お隣さんだー。」
まさかこの娘がハルカちゃんではあるまい。
可愛いは可愛いけど、どう見たって同年代には見えないし。
「あの子はハルカの妹なの。仲良くしてあげてね。」
ハルカちゃんの妹さんに挨拶をしていると
「おかあさーん、誰か来てるのー?」
二階にいたんだろうハルカちゃんと思わしき女の子が下りてきた。
なるほど、確かにこのお母さんの娘だと納得できる可愛い娘だった。
「お隣に越してきた翠くんよ。ご挨拶なさい。」
「はーい。」
普段から運動をしているのだろう軽快な足取りでハルカちゃんが二階から降りてくる。
「はじめまして、私はハルカ。君と同い年だよ。お父さんから君の事聞いててお友達になりたいなって思ってたんだ。よろしくね。」
「ああ、こちらこそよろしく。」
「翠くんってもえもんを卵から育ててるんでしょ?すごいなー。私と同じ年でそこまで出来るんだもん。その娘見せて貰えないかな?」
ハルカちゃんのお母さんは事情を知っていたんだろう、少しバツの悪い顔をする。
「あー、ごめん。今絶賛家出中でさ、カントーで捜索願でてるんだ。」
「え!そ、そうなの…。ごめんなさい。」
ハルカちゃんは本当にすまなそうに頭を下げてくる。
「ああ、そんないいから。知らなかっただけだし。」
「うん、ありがとう。でもどうして家出しちゃったの?ケンカ?」
「いや、その、書置きがあってさ。」
「うんうん。」
「パパ好みの女の子になってくるって…。」
「パパ?」
「…俺のこと。ほら、育ての親だろ?」
「パパ好みか~。なんというか…可愛い理由だね。」
「理由が可愛くても家出されると困るんだけどな。」
「そっか、よかった。」
「ん?何が?」
「私ね、今家出したって聞いてもしかしたら翠くんって悪い人なのかもって思っちゃったけど、やっぱりいい人でよかった。うん、その子も絶対無事に帰ってくるよ!」
ハルカちゃんは確信したという顔で頷く。
「ありがとう。」
「あ!いっけない!私お父さんとフィールドワークに行く約束してたんだ!」
「そうなの?ごめん、引き止めて。」
「ううん、お話出来てうれしかったよ。じゃあ、私行くね。」
「うん、また。」
ハルカちゃんは玄関に出るなり自転車に乗って走り去っていった。
あの速度…マッハ自転車か!
いいのに乗ってるな。
俺はハルカちゃんのお母さんに挨拶だけすると町の散策に出ることにした。
う~ん、小さな町だ。
目立つ建物があのオダマキ研究所しかない。
というか今時もえもんセンターすらないとは…。
その分土地代が安いとか?
こんな場所に一軒家を持つとか実はジムリーダーの給料って実は低いんだろうか?
まあ、そこんとこは何も言わないでおこう。
「ねぇねぇお兄ちゃん。」
「ん?」
俺が自分の将来設計に一抹の不安を抱いているとくいくいと服を引っ張られた。
「えーっと、どうかしたかい?」
見れば女の子が不安そうな顔で俺を見上げている。
「あのね、お外からこわーいもえもんの声がしたの。わたしもえもん持ってないから、お兄ちゃん見てきてくれない?」
「そっか、わかったよ。じゃあ君はあぶないからおうちにいてくれるかな?」
「うん。」
女の子が家に向かうのを確認して俺は約束通り、町の外の様子を見ることにした。

「た、たすけてくれ~!!」
誰かの悲鳴が聞こえて俺は走り出した。
そこには凶暴な野生のもえもんに襲われる中年…ではなく、愛らしい顔をしたもえもん(ジグザグマだったっけ?)になにやら小さな包みを獲られまいともがくおっさんが一人。
まあ、間違いなく命の危険はないだろう。
「…帰るか。」
「ま、待ってくれ~!見捨てないでくれよ~!」
きびすを返す俺におっさんが助けを求める。
「何やってるんですか?」
「弁当を食べようとしたら急に襲い掛かってきたんだよ~!」
「弁当を放せばいいじゃないですか。」
「娘のハルカが作ってくれた弁当を誰かにくれてやるもんか!」
あ~、この人がハルカちゃんのお父さん、オダマキ博士か。
なんというか、親ばか一直線なのはわかった。
「そこの鞄にもえもんが入ってるんだ!それでこの子を追っ払ってくれ~!!」
仕方ない、あのハルカちゃんの親父さんだ。
鞄を開くといくつかの書類や傷薬なんかのアイテムと一緒にもえもんボールが三つ。
きちんと区分けされてない所にこの人の性格が出ている気がする。
もえもんボールを取り出す。
そこにはきもり、あちゃも、みずごろうが入っていた。
自分のもえもんではないんだし、どれを使ってもいいんだけど…。
そんな思考とは別に俺の手は自然とみずごろうのボールを選んでいる。
やっぱり初めて水もえもんを手にするという誘惑には勝てなかった。
初めてのもえもんバトルはアイツとだって思ってたんだけどな。
俺は家出娘を思い出してため息をつく。
「お、お~い、は、早く助けてくれ~!」
そろそろ体力の限界に近づいてきたのかオダマキ博士の声も息切れしてきている。
ふと茶目っ気が出てきた。
あのチャンピオンがもえもんを出すときにいつも言っていたセリフ。
「みずごろう!君に決めた!」

台詞と同時にボールからみずごろうが飛び出す。
みずごろうが出現した途端にジグザグマの興味はお弁当からみずごろうに変わったらしい。
オダマキ博士が草むらから逃げ出していく。
「…マスター、指示を。」
みずごろうが振り返ってクールな口調で指示を求める。
ますたー?
誰のことだ?オダマキ博士か?
「ほら、君。みずごろうに指示を出してやらないと。」
「え?俺?」
ジグザグマの脅威から逃れたらしいオダマキ博士は泥にまみれた顔で俺を見て頷く。
みずごろうは無表情ながら目だけは期待に輝かせていた。
「あー、えっと、体当たり。」
「わかりました。」
俺の声に淡々と従ってみずごろうがジグザグマに体当たりをかます。
「あの、あの子って博士のもえもんじゃないんですか?」
「いや、あの子はうちの娘のもえもんにするつもりで取り寄せたもえもんでね。トレーナー登録はしていなかったんだ。だから成り行きだけど今この瞬間からあのみずごろうは君のものだ。」
…俺、やっちゃった?
よりにもよって友達になったばかりのハルカのもえもん(予定)を奪ってしまったのか!?
不可抗力とはいえ問題ありすぎだろう!!
あまりのタイミングの悪さに俺は頭を抱える。
「おや、終わったみたいだね。」
見るとジグザグマが慌てて草むらの中に戻っていくところだった。
「勝ちました。」
クールに、でもどこか誇らしげに俺の元にやってくるみずごろう。
どうも本当に俺をトレーナーと認識しているらしい。
「あー、うん。よくやった。」
よくあわゆきにやっていたように頭を撫でると顔に出ないように我慢しているみたいだけどどうやら喜んでいるようだ。
どうもこの子は少し感情表現が素直じゃないらしい。
「ほう、会ってほんの少しでもう懐いているとは。珍しいこともあるもんだな。」
「そうなんですか?」
いつもあわゆきにしているようにみずごろうを抱き上げる。
少し慌てているみたいだけど、嫌がっているようには見えないからまあ、いいだろう。
「ん?もしかして君は翠くんか。」
「はい、これからお世話になります。」
「こちらこそよろしく。うん、やっぱりセンリさんの子だね。君にはトレーナーとしての才能があるらしい。」
「慣れてるだけですよ。」
「翠くん、うちの研究所に一緒に来てくれるかな。お礼がしたいんだ。」
オダマキ博士は散らばっていた荷物を集めながら俺を呼ぶ。
多分断っても無駄だろうな。
強引なとことかはあのオーキド博士に通じる部分がある。
「しょうがない、行こうか。」
「はい。」
腕の中のみずごろうの返事を聞きながら俺はオダマキ博士の後に付いて歩き出した。
初めてのバトル。
これが、これから始まるもえもんリーグへの長い道のりの第一歩だった。

To Be Continued
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