「ふぅ……気付かなかったけど、やっぱり元の世界は空気が違うね」
シオンジムでの座談会を終えたエドは元の世界に戻ってきた。
この世界のシオンでやるべきことと言ったら、まぁ萌えもんタワーに上るくらいだ。
以前やってきたときはそんな暇もなく次の町へ向かったので、これから上ることになる。
そこで、意外な人物と出会うことになる。
「あ……フミノリ、エドワードだよ」
「うん?」
フシギダネ……いや、フシギソウだろうか、少女が傍らの青年に話しかける。
その青年が振り返る先に居るのはエドワード。
彼の、ライバルである。
「ひさしぶりだな、フミノリ」
「そうだな、ハナダ以来だから……なんだ、案外時間はたってないな」
「ん、そうだな。いろいろあったからずいぶん長いこと会ってなかったような気がするよ」
お互い、時間を忘れるようなできごとが多かったらしい。
それだけ確認すると、エドワードは問いかける。
「で……何やってるんだ?」
「見てわからないか?」
「お化けにつかれて霊鎮め……じゃないか」
深刻そうなフミノリの顔に、おどけた発言を取り消した。
改めて問うより早く、解は出される。
「あながち遠くもない……カズマの供養さ、形ばかりのな」
フミノリの手持ちにいたラッタのカズマ。彼が、死んだという。
「……”Lord”の連中に、殺された。直接見たわけじゃないが、間違いない」
「……………………それで、お前はどうするんだ?」
尋ねるエドワードの声は震えていた。
その先が予想できたから。
「潰す。もともとあいつらはろくでもない奴らだ。これ以上野放しにはできない」
「違う、あいつらはっ」
「お前は何を知っている? 噂意外の何を? 教えてもらうぞ」
エドワードには答えられなかった。
それを答えれば、数少ない友人を失ってしまうだろうから。
だが、それは無駄な足掻きだった。
「俺の性格は知っているだろう? 力づくでも聞かせてもらうぞ」
「……わかった。萌えもんバトル、か」
「ああ。いくぞ」
こうなったらもうフミノリは止まらない。
いやというほど理解しているエドワードは、応じるほかなかった。
その結果はあまりにもあっけないものだった。
そもそも、エドワードの手持ちは種族的に優秀なものばかりであり、最終進化系のものも多い。
対してフミノリは、一進化状態の萌えもんも多く、進化すらしていないものまでいる。
まして技の性能差まで考えれば、その勝敗は火を見るより明らかであった。
「……お前……その程度で、1つの組織を潰すとか、本気で言ってるのか?」
その無謀な決意に、呆れるより怒りがこみ上げる。
「ふざけるなよ? 僕一人どうにかできないで、どうして圧倒的な数の暴力に勝てるんだ?
お前の無茶苦茶な行動力は知ってるけどな、だからって絶対的な力の差はどうにもならないんだよ。
本気でつぶすつもりなら、それ相応の実力をつけろ、フミノリ!」
フミノリも全くの正論に返す言葉もなく、ただ無言で立ち去った。
エドワードは、どうしようもない鬱憤の晴れることを期待して、さらにタワーを上る。
どれだけ上ったか、最上階もほど近いであろう場所で、更なる出会いがあった。
「うん? ひさしぶりの客人だな」
「……誰だ、お前?」
「いささか無礼だが……まぁ、退屈しのぎにはそれくらいでちょうどいい。歓迎するぞ……悪夢の中でな!」
恐らくドンカラスであろうその人物がそういった瞬間、当人とエドワード、2人以外の全員が倒れた。
「な!?」
「なぁに、大した悪夢じゃない……少なくとも、覚めようとは思わない程度のな」
男か女か、判断しにくい落ち着いた声でドンカラスは告げる。
すなわち、覚めることはないと。
「お前……っ」
「まぁ、あるいは私をどうにかすれば悪夢は消えるかもしれないな……どうする?」
萌えもんのドンカラスと、仮にも人間のエドワード。
その力関係を見ればただの挑発に過ぎない。
しかし、その挑発に乗って構わないだけの理由が、エドワードにはあった。
「それこそちょうどいい。やらせてもらうぞ……!」
「……!?」
腰の袋から小太刀ほどの長さの木刀を取り出す。
上着の袖──まぁ、袖と言える部分はないに等しいが──から腕を抜き、ロングコートの裾のようになびかせる。
丈の短いインナーが覆い切れていない腰部、その背面から羽根が生えていた。
「お前……!?」
「どうにも、最近調子狂ってたのはこいつのせいみたいでね。なにせ人間が萌えもん化するんだ。
どんな不具合が体に起きてもおかしくない」
眼(まなこ)に危険な光を宿し、戦闘態勢を整えたエドワード。
駆けるより早く木刀を振る、その先から空気の刃を放つ。
「エアスラッシュ……っ、技まで使えるのか!」
「まだ要領を得ないけどね。その分手加減できないから降参するなら早めにね!」
翼を顕現させ、空へと逃れるドンカラス。
しかし、それは一時しのぎにすぎない。エドワードもまた、宙へと翔ける。
避けられない。そう判断したのか、羽にしては硬質な何かをナイフの様に用いて木刀を受け止める。
瞬間、互いの頬に裂傷が走る。
「っは……」
「……ふっ」
笑い、弾けるように地に降り立つ。
間髪置かず、前傾姿勢で突っ込む。
互いの得物をぶつけ合い、身をかわす。
流れるような動作は、まるで踊っているようで。
しかし、飽くまで人間に過ぎないエドワードに不利なのは揺るがない事実で、
互いに消耗していても、僅かにエドワードのそれが大きい。
「人間にしてはよくやる、が」
「慣れないことはするものじゃないな、ペースがなってない」
勝ち目はない。それぐらいはわかった。それでもなおエドワードが駆ける、その前に、
「なら慣れてるやつに任せるのが筋というものだ」
声が響いた。
悪夢。そうドンカラスが言ったものは、確かに悪夢だった。
見る人物の罪の意識、後悔、恐怖。そういった記憶に付け入る、質の悪い。
アルバートが見ていたのも、そんな過去の記憶の上映会だった。
『めかけのこ~!』
『なんでもえもんがにんげんのがっこうにかよってるんだよ~!』
『おまえのせきねぇから~!』
エドワードとともに通っていた学校。
そこには萌えもんはいない。
そのなかで自分一人が例外だった。
人間の父親と、萌えもんの母親。
望んでそう生まれたわけでもないのに、それだけで蔑まれる。疎まれる。
昔は抗うことが怖くて、何もしようとはしなかった。
なんともないように振る舞えば、かえって何かされるものだ。
そんな悪循環は、アルバートの破綻によって終結を迎えた。
「なるほど? 萌えもんの力を持ってして、いじめっ子を黙らせたわけですね?」
突如聞こえた記憶にない声にも、その内容の正しさについ頷く。
そう。ある日、とうとうアルバートは壊れた。
後も先も考えず、ただそいつを組み敷いて、首を絞めた。
「怖い怖い。でも、それは決して悪いことではないのですよ」
意味がわからず、声のした方を向く。
そこにいた萌えもんを、ヨノワールだろう、と自身の知識と照らし合わせて判断する。
「抗うことは罪ではない。それは今のあなたもそう考えているはずです。
……ですが、方法というものがあります。あなたがしたことは、最悪の部類にはいる。
暴力による解決は、結局弱者に苦しみしか与えません」
これはその通りだ。アルバートは頷く。
それにさして気に留めず、ヨノワールは続ける。
「あなたの本質はまさにそれなのですよ。結局は力でしか解決できない。
いくら知識があろうと、それはただのごまかし。それで解決するものなんてないにも等しいのです。
それだけで満足して、結局また暴力で解決することになる」
そしてそれも、間違っていなかった。
ただ、何もしないだけ。解決すべき問題がないから、そうならなかっただけ。
「ならばいっそお眠りなさい。そうすればどんな問題も気にする必要はなくなる。
暴力で苦しみの残る解決を齎すこともない。さあ、夢の中へいらっしゃい……」
だから、その言葉は酷く魅力的だった。
何も気にせず、自分の思うがままの世界で好き勝手できるのだ。
思い出したくもない記憶、その苦さに己を見失っていたアルバートは、
『君が苦しいのは、僕だって苦しい。だから僕に出来る形で、苦しみを取り除く。
……君の力は強い。間違ってやりすぎてしまうかもしれない。
だから僕が代わったんだ。君を、悪者にしたくなかったからね』
しかし、兄の言葉を思い出した。
首を絞めていた時に割って入って、わざわざ自分で首を締め直した兄の言葉を。
いずれ彼がトレーナーとなったとき、その手持ちになろうと決めた日の。
「……馬鹿だな。俺は」
そして、あの兄の弟だ。
そう認識した瞬間、意識が覚醒した。
地面にキスをするなんて表現があるが、ほぼその状態だった。
起き上がれば、ドンカラスと兄が戦っている。
なぜ戦ってるのかは横に置いておき、立ち上がる。
「人間にしてはよくやる、が」
「慣れないことはするものじゃないな、ペースがなってない」
勝ち目はない。それぐらいはわかった。それでもなおエドワードが駆ける、その前に、
「なら慣れてるやつに任せるのが筋というものだ」
声を響かせた。
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~あとがき~
吸血の人です。
・・・・・・・・・・・・。
ど う し て こ う な っ た 。 ( 挨 拶 )
シリアスなんてやろうとした結果がこれだよ!
調子に乗らないと書けないシリアス。
一回途中まで書いたあとオールデリート→一気にこれ全部
こんなむちゃしないと書けなかったよ!?
次の話もシリアス。俺……シリアス書き終わったらデート書くんだ……。
最終更新:2009年08月20日 02:55