「・・・それで、八つ当たりの如く追加課題ですか。残念ね。」
深夜。
調べ物の為に書斎へ向かうと、意外な人物と遭遇した。
「どうしたんですか主?こんな時間にこんなところに・・・はっ、さては夜這い・・・?」
思わぬ邂逅の第一声は、そんな感じの内容。
「マニュは子供のころから融通が利かないところがありましたからね。
頑固と言えばまったくその通りだけど、もう少しペルみたく機転が利くとちょうどいいのに。」
頬杖をつきながら、僕の対角に座る彼女は空いている右手で本の頁を捲った。
頼りないレトロな水銀ランプだが、それでも彼女の表情ははっきりとわかる。
本を読むとしたなら、少し暗いかもしれないが。
「何の本を読んでるの?」
こんな時間に調べることなのか、それとも毎日そうしてるのか定かではないが、
興味がわいたのでそんなことを聞いた。
「優生学の本よ。」
さして興味もなさそうな、抑揚の少ない声。
興味、というよりは感情を普段から声に乗せないだけなのはわかっている。
「優生学?」
「ええ。優秀な遺伝子を後世に伝えるための学問。」
ごくたまにだが、ニャットは雑学と称して、僕の知らない世界を見せてくれる。
その無限に湧き出る知識の泉はどこから水を得る。
・・・と、これまで疑問に思わなかったのが不思議で仕方がなかった。
「足の速い馬はどうすれば生まれるのか。
賢くて従順な犬は何故そうであるのか。
・・・優秀な人間を社会に輩出するにはどのような遺伝子が求められるのか。そして―――」
明滅を始める、ランプの明かり。
「強くて美しい萌えっ娘もんすたぁ。」
・・・何かが背中を駆け抜けたような、感覚。
・・・・・・・・・・・・・
「・・・を、手に入れるためには、何と何がまぐわえばよいのか。そんな学問よ。」
冷えた炎のような、瞳。
ゾクリとする。
確かに、僕はそこに見た。
木々が焼かれ、焦土と化す、瓦礫の街を。
「それって―――」
「そう。兵器の開発。」
水銀が、揺れる―――。
戦慄が走る僕の全身から、不快な水気が噴き出した。
「もんすたぁ達にとっても生殖行為とは本能的なもの。
それこそ野生の雄共は、しなやかな肢体を持つ顔立ちの整った好みの雌を見つければ、
節操もなしに劣情をぶつけては精をばら撒くというわ。
発見としては、一つの種族を愛したコレクターが始まり、だったかしら。
歳の近いと思われる、野原をかけっこして遊ぶ子供のもんすたぁ達を見て気づいてしまった。
『どうして同じ種族なのに、かけっこをして優劣がこうもはっきりと分かれるのだろうか。』
そこに理屈をあてはめるには強引過ぎた。でも、人間に当てはめてみればそれは当然の理。
問題なのは"もんすたぁ達にも当てはまるかどうか"であった。」
語り部の詩は続く。
聴覚ばかりが、研ぎ澄まされて。
「水面に投げ込まれた小石の一投は、大きな波紋を呼んだ。
人間などにはない、超越した能力。種族固有の、力。
―――それもまた、配合次第で、輝かせることができるとしたら?」
冷えた炎が、僕を捉える。
下から覗き込んでくる、上目遣い。
パルスが疾走する。
「・・・も、もんすたぁ達を使って、戦争を?」
「ご名答。」
額の汗が、頬を伝う。
生唾を飲む。
たかが今の一言で、情けない。
僕の喉は、砂漠のように乾ききっていた。
「・・・ま、そんな感じのストーリーね、この小説。」
今、判断に困る発言を拾った。
「・・・・・しょう、せつ?」
聞いてよかった?
聞かなければよかった?
そんな困惑をよそに、本を閉じて、彼女は立ちあがった。
「まさか、ノンフィクションだと思った?」
その横顔は、いたずらっ子が企てをひらめいた時のような。
そんな笑みを浮かべていた。
「は・・・ははは、は。一本取られた。」
呆れるしかなかった。自分に。
すっかり彼女の術中にハマっていた僕は、彼女の掌の上でじっくりと愛でられていただろう。
「夏の風物詩、とはまた違ったスリルを味わえたでしょう?」
ああ、どんな怪談なんかよりも、ドキドキさせられたと思うよ。
「―――そういえば。」
しかし、今夜本当の意味で鼓動が乱れたのは、この直後であった。
「主様。許婚様より、恋文を預かっております。」
「―――えっ。」
事実は、小説より奇なり。
尋ねてみれば、昼頃に渡そうと思っていたらしい。
確かに、その頃は僕が手紙を受け取れるような状況ではなかった。
僕に課せられた使命は、三つある。
最後の三つ目とは、結婚すること、そのものである。
名前すら記憶におぼろげな、生涯を添い遂げる伴侶の存在。
見知らぬ女性と出会って、恋に落ちて、二人寄り添って護り通す何か。
いつかみんなで、勝手気ままに旅をするのもいいよねぇ。
それでそれでぇ、旅する先でステキな出会いが待っててさぁ。
それすらも、僕にはできない。
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萌えっ娘もんすたぁ創作SS
猫娘三名様
にゃんこさんめいさま
中編
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拝 復
庭のナナシの木は花を咲かせ、早くも秋の訪れを告げようとしています。
季節の変り目に、貴方様は如何お過ごしでしょうか。
こうして手紙をしたためることにも、ようやく慣れてまいりました。
貴方は『手紙を書くこと自体が苦手』だと、前に仰っていましたが、
私にはそれが、どうしても信じることができません。
貴方から送られてきた、何通もの手紙を、何度見返しても、
貴方の力強く、優しさのこもった文に、私の心はいつも満たされております。
貴方の言葉をひとつひとつ繰り返しては、この私の心をどのように伝えるかを
考えるだけで、胸の高鳴りを覚えます。
きっと、私の気分を害さないよう気遣った言葉をくれる、貴方の優しさなのでしょう。
・
・
・
( 中 略 )
・
・
・
今年で学園もいよいよ卒業です。
受験を控えた今、こうして手紙を送ることも難しくなってまいりました。
次の手紙を境に、一度文通のほうを止めさせていただきたく存じます。
誠に勝手な、私の一身上の都合によるご無礼を、どうかお許しください。
貴方のために綴りたい、貴方への想いを、私は一度だけ心の中に封じます。
最後に、貴方の日々の健康と、幸福をお祈りしつつ、御挨拶に代えさせて頂きます。
次は、ナナシの木が実を宿す頃に、また筆を持たせていただきます。
かしこ
追 伸
先日、執事に撮っていただいた写真を同封します。
ディガーはすくすくと育ってこんなに大きくなりました。かわいいです。
ニャットから手渡されたのは、一通の封書。
中に入っている二枚の便箋とお揃いの、薄いピンク色。
右下に描かれた小さい少女は、ポニータのデフォルメイラストだろう。
内容を掻い摘んで話せば、初めから終わりまで僕への想いだけで綴られた文。
ただ、それだけである。
勿論それは、男としてこれ以上喜ばしいことではない。
しかしそれは、いつものことなのだ。
そんなことはこの際、瑣末なことである。
重要なのは、この手紙に対して腑に落ちない点が、二つあることだ。
「・・・ふ、くくく。」
一点目。・・・・・・・・・・・・
それは、封筒に何も書かれていないということ。
薄いピンク色の真新しさの残る封筒に対して、ところどころ皺のあるポニータの便箋。
それこそ右下に描かれたイラストの上をなぞる位、
隙間なくかわいらしい字で埋められているのにも拘らず、だ。
「そうか。僕は手紙を書くのが苦手か。」
二点目。
手紙の始まりが『拝復』で始まっていること。
「まったく可笑しい。そんなこと誰が言ったんだ・・・?」
"僕が手紙を書くのが苦手"なんて情報を、彼女はどうやって仕入れた?
そもそもそんなことを誰かに言った覚えもないし、実際は違う。
間違った情報なのだ。
・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
大体、僕が彼女宛に手紙を出した覚えは、一度もない。
ならばこの『拝復』とは、何を意味しているのだろうか。
「写真か。」
何の感慨もなく、ただ疑問だけを抱えたまま、二枚の便箋と共に封じ込められていた写真を見る。
女性が写っていた。
何度か見たことがあった。
過去に同じようにして、彼女は何度かこうして一枚の紙の上に自分の姿を写していたな。
肩まで伸びた、まっすぐな金色の髪。
深い藍色の瞳。
純白のワンピース。
その膝に、赤子のように丸くなったコマ犬の子供を眠らせて、椅子に座っていた。
その一枚は、名画と呼んで差し支えないだろう。
膝元に視線を落とした、まるで子を慈しむ表情と、小さな小さな頭に添えられた愛しむ右手。
「撮ってもらったって・・・これ隠し撮りじゃないのか?」
惜しいのは、右下に机の一部だと思われる黒いものが僅かに写っていることだろうか。
それにしても、目を奪われる。
本当にこんな素敵な女性が、僕の婚約者なのだろうか。
あまりにも夢見がちな現実に、嘲笑を隠しきれない。
「信じられないな。」
あまりにも、不釣り合い。
どう考えても、不似合い。
君はこんな僕の、どこを買っている?
何に惚れた?
・・・わかっている、そうじゃないよね。
君が見ている僕は存在しない。
―――では信じさせてあげよう。―――
「!?」
反射的に、ベッドから上半身を起こした。
360度、周囲を見渡したところで、異変は見当たらない。
そのまま、数秒、数十秒。
何事も起こらない僕の部屋は、時計たちだけが時間を刻む。
「―――??」
空耳か。
跳ね上がったパルスも、たっぷりある時間の中で落ち着きを取り戻す。
「こんな時間か・・・。」
時間が気になって、時計を見れば針は天を指す頃合。
そろそろ寝よう。
そう思ったのもすでに遅く。
まるで、そんな僕の眠気を増幅したかのように、僕の意識はそこで途切れた―――。
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「~~♪~♪♪」
昼下がり。
私は、ただ廊下の清掃をしていただけなのですが。
「ねっ、ね!これどうかな?似合ってる?」
「はいはい可愛いわよー。」
なんで、こんなことになったんだっけ。
もう何度目かもわからない「似合ってる?」の言葉に、返事することすら億劫。
「うーん・・・このワンピ丈短すぎかな・・・?胸もちょっと・・・。」
彼女のファッションショーは続く。
こういうのって気持はわかるんだけど、あんまり長く付き合わされても困るのよ。
「これワンサイズ小さいんじゃないの?ちょっとー。ちゃんとサイズ選んで買ったのにぃ。」
「はぁ・・・。」
思わずため息が出る。
この部屋の扉を開く前に、思慮を重ねるべきだったと。
「ちょっと、聞いてるのマニュ?」
「聞いてるわよ。」
度が過ぎると鬱陶しいんだけどね。
「サイズが違うんだったら、残念ね。他のにしたら?」
「はぁーい。あーあ・・・結構かわいいんだけどなぁ、これ。・・・じゃぁマニュ着てみて!」
「は?ペルの服が私に合うわけないじゃない。あまりすぎるわよ。」
袖から手は出ないだろうし、丈は膝上までほとんど隠れてしまうだろう。それに―――
「そっかぁ、たしかに胸余っちゃうよね。ざぁんねん。」
「ケンカ売ってるのかしら・・・。」
今思う節のあったコンプレックスをつつかれて、二重に腹が立つ。
「♪~♪♪~」
ああ、そうよ。この鼻唄が彼女の部屋の扉越しに、私の耳を訪れなければ。
この部屋の前で立ち止まることは、きっとなかっただろうに。
「リップは何色がいいかなー?えっとこれとこれと・・・あ、グロス切れてる。
えっと、どこにあったーかーなー?ふんふふぅーん♪」
本人曰くサイズ違いのワンピースを乱れたままのベッドに放り投げたと思ったら、
あっという間に別の服に着替え終わった彼女が赤いドレッサーに腰かけていた。
今度はメイクがどうのこうのと煩い。
インテリアもセンスあふれるチョイスで申し分ないけど、イマイチ部屋が汚いのよね・・・。
「そういえばさぁ・・・。」
自分自身の姿と向き合い、アイラインを描きはじめた彼女が、不意に口を開いた。
「袋小路だよねぇ。」
「・・・?」
謎かけのような彼女の言葉を理解するには、いくらかの時間を要した。
「マスターも大変だぁ。」
「―――そう、ね。」
その、"袋小路"に"マスター"を迷い込ませたのは、他ならぬ私。
いえ、私たち。
―――メイド長は、館の外に出てはいけない―――
いまだかつて破られたことのない不文律。
それを聞かされたあの人の顔は、理解のできないような、寂しさに溢れたような。
そんな表情をしていた。
こころが、痛みに悲鳴を上げる。
「マニュも、私も。そんでもってニャットも、ご主人様も。」
一呼吸もふた呼吸も置かれた間の後のそんな言葉に、私は耳も目も引きこまれた。
「臆病だよねぇ。」
「―――。」
「・・・そして、誰よりも優しい。」
これよ。これがずるいのよ。
誰よりもバカそうに普段は立ち振舞っているくせに、すべてを見通す目。
「さってと。おめかし完了かしら。」
くるり、と一回転。
それは、メイドから、ただの女に変わった合図。
どこを偽ったのかまるでわからない、普段と違うのに普段と変わらない魔法のメイク。
「ちょっと早いけどもう出ちゃおう。
現地集合なの。雰囲気出るでしょ?マスターもわかってきたわよねぇ♪」
赤い革のハンドバッグを持ち、ブーツの靴底を鳴らしながら、魔女は館から消えていった。
去り際に「部屋の掃除よろしく。」と残して。
「無理。」
すごく手間がかかるし。あとすぐ汚れるもの。異常な速度で。
結局悩んだ末の、彼女の服装はというと、
袖にフリルのあしらわれた黒ネクタイのブラウス、クリーム色のストールマフラー、
黒のショートパンツ。
着飾る身体と偽る表情の中に隠された彼女の心もまた、痛みに泣いているのかしら。
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必要悪だから。
誰も悲しむ必要なんて、ない。
「一足先に着きすぎたかしら。」
待ち合わせ場所でもある、噴水。
そのそばに建つ時計台は、約束の時間より明らかに早い。
館を一刻でも早く発ちたかった、誰でもないアタシが願い、彼が叶えた因果。
そうね、結局アタシが一番臆病なのよ。
彼は優しすぎる。
それゆえに、残酷。
みんながみんな、それぞれの色の花を持ってるんだ。
その中から一つ摘めと言われても、そんな特別なことはできないよ。
違うよマスター。
選べないのが普通なんかじゃないの。
・・・・・・・・ ・・・・・
選ばないことこそ、特別なのよ。
だからマニュはね。
傷ついたの。
ニャットは不安なの。
アタシは絶望してるの。
長い長い、孤独な時間。
早く、早く。
早く来て。
アタシの心が虚空に包まれる前に。
アタシの泪を掬うために。
そして、***の希望となるために―――
「―――!」
「・・・・・・!!・・・!」
公園の喧騒は、無邪気で温かい。
子供たちが駆ける、座る、寝ころぶ、触れる、戯れる、喧嘩する、べそをかく。
情景のピース。どれを拾い上げてもほほえましく。
自然とアタシは、笑っていた。
互いにコドモだったあの頃は、心から笑えたと思わない―――?
「ごめん、待った?」
ねぇ、マスター?
「ちょっと遅かったわねっ!」
振り向いた先の、その声に、私は静かに問いかける。
今のうちに、点数いっぱい稼いじゃおう。
だからたくさん甘えさせてね、マスター。
時計はまだ、約束の時間に至らないまま。
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「なんなのこの部屋。異次元?」
まず床に散らばっていた雑誌類・マンガ類を本棚に詰め込んだ。
洋服は臭いのついたもの、汚れているものを洗濯機に放り投げてきて、
きれいなものはクローゼットに吊るしあげ、あるいは畳んでボックスに詰めた。
間食類は危険なものも含んでいたので全部廃棄。勝手に持ち出されて運び込まれたと
思われる酒類などは、使われなくなって久しいお館様の部屋へ。何故ご主人様の卒業アルバムが
この部屋にあるのか疑問であったが返却。忘れていたが、ずっと前に彼女に貸してあげた
マタタビの缶詰があった。もう香らなくなってたので廃棄。今度新しいものを・・・(以下略)
これでようやく半分。なぜならもうひとつ部屋が残っているから。
彼女の寝室。
直前まで彼女が腰かけていたドレッサーがある。
いないはずなのに、姿かたちがそこに視える。
ひとつ瞬きをすれば、刹那の如くかき消えた。
ネイルカラーを手に取る。
見えすぎたせいで、アンタの心は、もうぼろぼろじゃない。
いったい何が、ペルを繋いでいるのだろう。
答えは出ている。私にとっても、ペルにとっても、ニャットにとっても。
手を差し伸べているのは、ただ一人に対して。
でもね―――
「自分の部屋も満足に片付けられない人に、メイド長は務まらないわね。」
苦笑。
ありったけの皮肉を込めてあげる。ご愁傷様。
常にライバルであって、常に親友であって。
常に同じ人に身を捧げて。
その日々があったからこそ、私はこうしていられる。
たくさんのモノを、私にくれたからこそ―――。
・
だからその柱は、私でいい。
そして、そんな動機なんてなくても、私がなりたいの。
「誰!?」
・・・・・・
鏡の私の肩越しに、音もなく人影。
振り返らずに、私は背に言葉を向ける。
「・・・。」
「アンタ・・・どうしてここに。」
ありえない顔が映った。
私の頭は瞬時に、いくつかの可能性をたたき出す。しかしどれも現実味を帯びない。
「大切な話が、あるんだ。」
軽く眩暈を覚える私の体は、ぴくりとも動かなかった。
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水面は静かに揺れている。
木々のざわめき。風の色。
まだまだ刺激的な、真昼の太陽。
「・・・ふぅ。ここに来るのも久々ね。」
最後の記憶は、たしかニャットがまだマールだった頃。
この姿になってからは、一度も来た覚えはなかった。
ペルの姿になる前の彼女――スニアと、マニュの姿になる前の彼女――ラーニャ。
彼女たちにしても同じことだろう。今の姿は、大人になった証。
だってここは、子供の聖域だもの。
あの頃のマールは、泣き虫だったね。
ラーニャに叩かれて、叩かれた本人も泣いて。
なんだかんだいって、スニアは頼れるお姉さんだった。
ニャットは、誰よりも狡猾なんだろう。
三つ巴になった時から、こうなることはわかっていた。
みっつの勇士が相まみえたときは、二者同士の潰し合いを静観する。
互いに滅べばそれでよし。
どちらかが残ればこちらが動いて手負いを討ち取るだけの話。
合理的、かつこちらの被害は最小限。
ニャットは時が熟すのを待ち、今はできるだけ知らなくてはならない。
この世の理に本当の無限はない。円環には、必ず仕組みがある。
それを見つけ、真実を探し出すために。
そしてこの輪廻に終焉をもたらすために。
連なる血なんて、なければいいのにね、主。
「そろそろ出てくれば?」
湖に背を向け、森の暗がりに声をかける。
誰もいないはずの風景。
しかしニャットには感じることのできる、存在。
「人様の館を卑しい目で『視て』いたと思えば、こんなところに誘い出して何のつもり?」
得体が知れない。
最初は、気味が悪いと思った。
どれくらい前から、それに感づいたかは覚えていない。
しかしここ数日で、その存在感は徐々に濃くなっていった。
まるでニャットを、そして我々を試すかのように。
「ふふ・・・いい感性を持っている。それは野生の本能に近い。」
・・・・・
そこにあらわれた、ひとつの影。
風景からにじみ出てきたかのような演出の後、その存在は姿を現した。
・・・・・・・・・・
「血が濃ければ濃いほど、高貴であるほど、その本能はより研ぎ澄まされる。
実に結構。やはり君は、君だけは成功作品だよ。おめでとう。」
解せない。
非常に不快な声。
「・・・ご機嫌麗しい様子のところ僭越ながら、申し上げたく存じます。」
慇懃な態度で、まずは挨拶。
「反吐が出ます。姿を騙り口から出るのは最低の賛辞。
・・・・
ニャットは非常に不快でございます、ニセ主様。」
そして、啖呵を切った。
主の姿に似せたその者は、ニャットの言葉を聞き届けると、満足そうに口角を吊り上げた。
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「ねぇ、ペル。」
アタシの隣に腰をおろした、彼が。
「キスしようか。」
時を止めた―――
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――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
「えっ・・・・・・・・・?」
手にもったソフトクリームだけが、熱に爛れていた。
中編・終
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【あとがき】
本作品のご愛読、誠にありがとうございます。
本編はこれにて終了で、次回へと続きます。
これより先は、作品本編のネタばれ・メタ発言を含むあとがきとなります。
その点をご理解頂いて、お読みいただけると幸いです。
皆様のご理解に感謝して、御挨拶に代えさせて頂きます。
此度は「猫娘三名様」をお読みいただいて、ありがとうございました。
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P「やだ・・・何この展開。キャーちょっと!?ちょ、どうしようどうしよう!?」
M「落ち着け。」
B「どうでもいいけどこれ中編なのよね。終わるのかしら。」
M「終わらないから後編作った後エンディングを別途で提出らしいわよ。」
B「どうしてこうなったのよ・・・。今回は前後編で〆るとか言ってたくせに。」
P「(省略)彼のたくましい指は、ついに私の左の頬を撫で、あたたかい手のひらが包みこむ。
『ああ、ペル、どうして君はペルなんだい?』切ない面持ちは禁断の果実を手にしてこう言うの。
『何故マスターはあたしのマスターなの?』潤んだ瞳で野獣を見上げる私は(省略)」
B「とりあえずこの残念な娘を連れ戻してからじゃないと話が始まらないわね。」
M「・・・はぁ。」
―――メイド長が館から出ちゃいけない理由って?
―――なんでいきなり麻雀だったの?
B「ここらへんは話せば長くなるから割愛ね。両方とも次回の内容で少し明らかになるわ。」
P「前者はともかく、後者は大した理由なかった気がするんだけどなぁ。」
M「大したことにならなかったのは理由じゃなくて結果よ。」
P「ほぅほぅ、ではその原因は重要な意味を含んでいると考えていいわけですにゃ?」
M「・・・・・・。」
B「とりあえずペルは後編でも読んできなさい。」
―――三人の子供時代の話を聞かせてください。
P「マールが泣き虫でラーニャがガキ大将でした。ハイ次―――」
MB「待ちなさいよ!」
P「なぁんでよー的確でしょう?」
B「そのラーニャを泣かせてたのはスニアじゃない。」
P「にゃはは・・・そうだったっけ?」
M「まぁ、アンタは喧嘩の仲裁に入ってたつもりでしょうけど・・・。」
B「そのときラーニャに言った"迷言"がこれよ。
『マールが流した涙の分だけアンタにも泣いてもらうよ!』」
P「うわぁ・・・。」
B「自分で引かないでください。」
P「ていうかそもそも、その喧嘩の理由はなんだったの?」
M「え、それは」
B「ああ、それはラーニャがいつも
『ごしゅじんさま!すきすきぃ~、ちゅーして、ちゅー!』ってベタベタベタベタと(半ギレ」
M「いやーーーーーーーーーーーーっ!それ以上言うなぁっ!!」
B「何顔を真っ赤にして今更・・・。子供の頃の話でしょう。」
P「ああそっか、それでマールが
『あんた、何あるじに"いろめ"つかってんのよ、この"どろぼうねこ"!』
って突っかかってたんだっけ。」
B「まぁ、粗方その通りね。」
P「なんでわざわざ昼ドラ展開だったのかがよくわからないわね・・・。」
B「それで情けないことに返り討ちにあってたわけ。」
M「そうなると収拾をつけてたのは結局スニアってことになるわね。」
P「いいえあたしじゃないわ。」
M「え?」
P「結果的にあたしがマスターに叱られて泣いてたもの。
結局原因も結果もマスターにあったってことね。」
M「あー・・・。」
B「今明かされた衝撃の真実だわ。・・・ご苦労さま。」
―――ペルの私服がツボなんですが。
P「うふふ、ありがとう♪」
M「一人だけ私服を晒すとか卑怯すぎるでしょう?」
B「ニャットだってかわいい服の一着や二着持ってます。」
P「私の場合100着や200着よ。」
B「スケールの話ではなく・・・。」
M「そういえば前編でもメイド服着ていなかったわね。結局あの時は何を着てたの?」
P「下着。」
M「ぶっ!ちょっ・・・。」
B「主の前で・・・はしたない・・・。」
P「見えなきゃおっけー☆」
M「おっけー☆じゃないわよ!」
P「冗談よ。部屋着よ、部屋着。」
B「ああ、クリーム色のセーターワンピ。」
M「寝る時も着てなかった、アレ?」
P「うん。三着持ってる。」
M「あれほとんど毎日来てると思ったら三着あったの・・・?」
B「クリーム色好きね。作中でもストールマフラーがクリーム色だった気がする。」
P「なんとなくクリーム色選んじゃうのよ。」
B「ちゃんとした寝間着で寝なさいよ。もってるでしょ?」
P「そーなんだけどさぁ。気づいたらそのまま寝ちゃってるのよね。
なんか、寝るためだけに着替えるのだるー。とか思っちゃって。」
B「そのくらいちゃんとしなさいよ。・・・マニュとニャットはちゃんと寝間着で」
M「・・・。」
P「え?寝間着で寝てるのはニャットだけじゃない?」
M「うっ・・・!」
B「えっ?」
P「ね、マニュ?」
M「・・・ううう・・・!」
B「?」
P「ニャット、耳貸して。」
B「はい。」
P「ごにょごにょ・・・(着ぐるみよ、ピカチュウの着・ぐ・る・み。」
B「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
M「ううううう笑うなああああああああっ!!」
―――一体どうしたんですか、この展開は。
P「さぁさ!突然の告白とは、一体全体マスターはどうしてしまったのか!?」
M「・・・私のもとに現れた、人物とは?」
B「そして"ニセ主"の正体とは?」
M「メイド長に隠された、その意味は?」
P「そしてこの物語の、結末は―――。」
B「次回『猫娘三名様 後編』にて、決着。」
P「あ、でもまだエンディングも残ってるし、これでようやく半分ってところ?」
M「そうみたいね。」
B「どれだけ計画性のなさを露呈すれば、気が済むのかしら・・・。」
P「まぁまぁ・・・。ともあれ、次こそ山場よ。気合入れていきましょう!」
PMB「にゃん!」
「「「それでは失礼します。ごきげんよう、お館様」」」
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【次回予告】
メイド長には、破ってはならない鉄の掟がある。
「君に、メイド長になってほしいんだ。」
その言葉を、聞き入れてはならない。
献身を滅せよ。忠誠を忘れよ。奉仕を絶えよ。
「・・・それは本当ですか?」
「そう、あなた勘違いしてるのね。」
けらけらとおどけて見せる。
余裕たっぷりに、アンタを嘲笑ってあげる。
血が濃ければ濃いほど、高貴であるほど、その本能はより研ぎ澄まされる。
魔導書の解は、あなたが握っているのよ、主。
「そう。ならば―――斬る。」
構うものか、そんなこと。
何はともあれ、目の前の敵を赦す気にはなれない。
これが、現実。
受け入れることができない事実。
僕のこころは、それほど弱い。
「ただ一つ、ご主人様には、伝えなくてはならないことがあります。」
そう。その詩は、終わること無きリフレイン。
―――メイド長は、館の外に出てはいけない―――
はたしておまえにそれができるか?
「メイドなめんな!」
「メイドなめんなよ。」
「メイドなめんじゃないわよ!」
―猫娘三名様・後編―
これから始まる旅の先で、ステキな出会いを果たしましょう、アタシたち―――。
最終更新:2009年10月16日 14:56