「……ん、来たな」
「はい」
家の屋根の上。そこでサバトは、凛々しいドンカラスと相見える。
「よし、いくか」
「あの、いい加減わかっててやってません?」
「当然だろう?」
「もう……ジェイドが遅いっては認めますけど、だからっておいていくことは無いでしょう……
僕とちがって、れっきとした女の子なんだから……」
そう言っている間に、件のジェイドがやってきた。年はサバトの2つほど下、といったところだ。
「ごめん、お兄ちゃん! また待たせちゃって……!」
「構わないです。『仮にも男として待つくらいできるようになれ』。ジェイドのお父さんの言葉です」
ちょっと偉そうに胸を張って言うサバトは、何ともいえぬ微笑ましさがあった。
「じゃ、お願いします」
「はいよ」
こうしてドンカラスの”空を飛ぶ”で2人はハナダシティへと向かう。
次に踏んだ土はハナダジム裏口の前だった。
彼らはこのジムの関係者であり、また家族でもあるので遠慮なく足を運ぶ。
居住スペースの一角のドアの前に来ると、ノックを2回。
「失礼します」
サバトが声をかけて扉をあける。返事も待たずにドアを開けた先には、快活な挨拶が待っていた。
「サバト! おはよう!」
「おはようです、サナ」
サナと呼ばれるブースターの女の子。年のころはサバトと同じか、すこし下。
「おはよう、サバト。ジェイド」
「おっはよ、庵」
そしてここまでのメンツだと大人びて見える少女。種族はドータクンで、名前は庵(いおり)。
「今日もおはようサバト。ジェイドも」
「はい、お母さん」
最後に、サバトの母親……にしては少々若すぎるクロバット。
──全体的に、サバトの周囲は年齢が低い傾向にある。
「今日もあの人に稽古付けてもらうの?」
「はい。楽しいですからっ!」
彼の父親も例外でなく、未だ20でも通じる容姿を持つ。
そんな人から小太刀の術を伝授してもらうことに、サバトは目を輝かせている。
「……っととと、忘れるところでした。ラン、出てくるです」
ふと、腰のベルトからボールをはずして放る。そこからはヒノアラシの少女が現れる。
やはりというか、幼い。
「お呼びでしょうか、マスター」
「うん、紹介しておこうと思いまして。皆さん、こちらウツギ博士から頂いた萌えもんで、
ヒノアラシの嵐っていいます」
初めての手持ちを紹介する。サバトにとっては誇らしいことだったのだが、いい反応は返ってこない。
「(私がサバトの一番になりたかったのに……)」
「(……お兄ちゃんの馬鹿)」
「(この鈍感)」
「(あらあら、サナもジェイドも庵も素直にいえばいいのに。顔に書いてあってもサバトはわからないわよ?)」
かなりモテモテな主人公、それがサバト。このあたりただの男の娘ではない。
「えと……お、お父さんの所に行ってきます! いこうです、ラン!」
「あ、はい」
グイと手を引っ張り走りだす。
当然それすら皆さん気にくわない訳で。
「逃がさない!」
「神速っ」
「トリックルーム」
各自全力でそれを追いかける。
そのまま父の所へ行ったのでは迷惑千万なので、いったん別方向に行く。
わざわざ誘導のためにゆっくり走るほど、サバトには余裕があった。
「というわけなんですよ」
「ははは……いやぁ、子供ってのはおもしろいもんだ」
「はい?」
「いやね、僕もサバトぐらいの頃はそんな茶番が日常でね。客観的にみるとこんなに面白いんだなって」
それもそのはず、このトレーナーにしては異常な体力を誇る父親に毎日鍛えてもらっているのだ。
いくら彼女らもそれなりに訓練を積んでいるとはいえ、追いつけはしなかった。
「さて……んじゃ僕はサバトを鍛えてるから、トレーナーの相手は任せたよ」
「りょーかい。てきとーにあしらっとくから、あとでまとめて相手するように」
「おおう、我が相棒はきついねぇ。妻としてどうよ、この態度?」
「ん、いいんじゃないかな。君は何かコメントある?」
「若と旦那の交流を邪魔するつもりはない」
「そういうことじゃないでしょう……」
父親、途中の萌えもん──ハッサム──の言葉を借りれば旦那の手持ち達との会話。
カメールはめんどくさそうに、けれど軽く請け負い、サンダースは意見の要求を右から左へ。
最後にロズレイドが呆れて、よくあるパターンが終了。
心おきなく小太刀の稽古に、
「と、ランのことを忘れていました」
移ろうと思ったところで、もうひとつの目的を思い出す。
背後に隠れて全く言葉を発しなかったため、すっかり忘れてしまっていた。
「お父さん、こちらが記念すべき僕の手持ち第一号! ヒノアラシの嵐ですぅ!」
「おはようございます。息子さんから素敵な名前を頂き、あなたの教育に感謝の至り」
「ととと、そんなにかしこまらないでください、ラン!」
「ははは、面白い子だ」
とまぁ簡単に紹介する。サバトはそれとなくカメールを窺うが、特にどうとも思っていないよう。
「さて、それじゃ鍛練に戻ろう……か……?」
稽古を邪魔する者はなくなった。さぁ開始だ、といったところでまたしても。
今度は歩いてきた。
「サバ兄ぃ」
それは声。それは幼い少女、ブラッキーから発せられた。
「んあ、夜月」
サンダースの女性の声が響く。彼女だけが反応したのは、母娘だからか。
「夜月……おはよう」
「ん、おはよう」
その娘……夜月(やつき)がマイペースに挨拶する。
「そのこだれ?」
「あ、はいです、聞いてください! なんと僕の記念すべき手持ち第一号さんなので」
「ひどい」
「す?」
ついでに聞かれたことがことだったので自慢げに話すサバトだが、即座に返された言葉に戸惑う。
「サバ兄ぃのいちばんには、夜月がなりたかったのに」
「え、あ」
「サバ兄ぃのばか。どんかん。いじわる。……いじわるはちがうかな」
なぜこうまで言われるのか、皆目見当がつかなかったが、律儀なサバトは真摯に謝る。
「その、ごめん。僕が何をしたのかはわからないけど、君を傷つけたのは確かみたいだから。
……本当にごめん。あやまってだけで許してくれるとも思わないけど、」
「いいよ。ゆるしてあげる」
「……え?」
しかしやはり途中で遮られる。
「夜月は、サバ兄ぃのいちばんになりたかったけど、それ以上に笑っていてほしいから。
だから、笑って。それで、もういいから」
夜月と会話するときはいつもペースを乱されっぱなしだが、これは極めつけだ。
それでもサバトは不快感など微塵も覚えず、心からの笑顔で応えた。
「……うん。夜月は、サバトのその笑顔が、だいすき」
「僕も、夜月には笑っていてほしいです。夜月の笑顔が大好きです。だからこれでおあいこです」
小太刀の稽古はどうしたと突っ込む無粋なものは誰もいない。
ただ、後悔と嫉妬と羨望の表情でたたずむ3人の少女がいただけだった。
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~あとがき~
さっさと書いていたのにいつまでも懐に置いておくのはいかんだろう。
すみませんかなり放置してましたm(_ _)m
とりあえず、サバトは最終的に8人くらいのハーレムになりそうです。
ではまた、次の作品で。吸血の人でした。
最終更新:2009年10月16日 15:05