今日は楽しいハロウィンの夜。
とあるちびっこたちのハロウィンをお送りしましょう……
~外伝・こんなかわいい子がトリックオアトリート~
「うん、かわいいですよサバト。魔女の格好」
「なんで魔女なんですか、僕これでも男の子なのに……」
マッスグマの女性は褒めるが、彼は喜ばない。
当然だ。普通の少年ならば、女装姿など見られたくもない。
「もう、せっかくかわいいのに……もったいないでしょう、着飾らなきゃ」
「ならせめてミニスカートはやめてください!」
ましてや、思いっきりスカートなのである。超ミニの。下着が見えそうなほどの。
もちろんブルマをはかされているので見えないが。男ものか女ものか気になった人、教えないからね。
「え……今の時代オーソドックスな魔女なんてはやりませんよ……? ニーソをはいて絶対領域も確保しませんと……」
「やめてください! 僕は男の子なんですから……!」
悲鳴にも近い叫びだが、マッスグマは無視する。
「さ、どの色がいいでしょうかー……」
「聞いてるんですかーー!?」
どう考えても聞いていないが、それでも叫ばずにはいられなかった。
直後、少年にとっての最悪の事態になる。
「お兄ちゃん、着替え終わっ……た…………?」
「……あ……ジェイド…………」
ジグザグマの少女……彼の従妹が部屋に入ってきた。
先も言ったが、普通の少年は女装姿など見られたくもない。
「……見られた……見られてしまいました…………こんな姿を…………」
当然こうなる。
一方、兄と呼び親しんできた少年のこんな姿を見る羽目になった少女の方は。
「……サバト兄ちゃん……ボクより似合ってる……一応ボクも女の子なのに………」
逆に、こうなる。
彼女の母であるはずのマッスグマも、ニーソを選ぶのに夢中で気づいていない。
「やっぱり折角の細さですから、黒で強調するのが一番でしょうか……」
そんな小さな独り言すら鮮明に聞こえるほどの沈黙。
やがて、2人はどちらからともなく笑いだした。
「ふくく、くあははは……」
「あは、あはははは……」
はっきり言って不気味だ。
さすがのマッスグマも気づき、振り向く。
そこにあったのは、笑顔だった。
「ふはははは! いってきます!」
「きまーす!!」
「え、あ、いってらっしゃい……」
わずかな怯みと強い押しとで呆然と見送るマッスグマ。
けれど最後に、こう言うのは忘れなかった。
「まだニーソはいてないじゃないですか!!」
「トリックオアトリート!!」
バン! と大きな音とおもに扉を開け放つ。
その場にいた研究員達全員が振り返る。当然だ、変声期を迎えていない、よく通る声で宣言されたのだ。
なぜここでいうのかがわからない台詞を。
「おい、お前んとこのだろ。何とかしろよ」
ここは大木戸研究所。多くの研究員が日夜萌えもんの不思議を探求している場だ。
当然そこにハロウィンなどあるはずもない。なぜその合言葉が叫ばれるのかといえば。
「……アイツ、サバトになんて格好させてるんだ……」
マッスグマの夫にしてジグザグマ=ジェイドの父親であるバシャーモが、ここで働いているからである。
「むしろウィードゥーイングトリックナウ!?」
「まて、はやまるなはなせばわかる。……というかここでそれは冗談にならないからな。
ほら、これくらいしかやれないが、さっさと次の家に行け」
軽く親子漫才をかます2人。ついでにサバトもしっかりお菓子を受けとっている。
「さあ、次は大木戸邸だ!」
「合点兄貴! 姉貴?」
「もうどっちでもいい!」
「ならば姉貴!」
こちらでも気が抜ける会話をしながら、嵐のように去っていく子供たち。
バシャーモは手元に1つだけ残ったキャンディを見つめる。
「それ、奥さんが?」
「ああ……まったく用意周到な奴だ」
それを元通り、ズボンのポケットに戻す。
兄がサバトの格好を見たらどう思うかと心配しつつ、特にできることもないので作業に戻るバシャーモだった。
ちなみにその数分後。
「トリックオアトリート!」
「可愛いけど、もういい年なんだから大人しく家にこもってなさい。あとでたっぷり相手してあげるから」
「しょぼーん」
合法ロリ(人妻)が押しかけてきてたりする。
「……フミノリ、さすがに冷たいんじゃないのか」
「あとでたっぷり熱くなるからいいんだよ」
「ハナダジムまで! 超特急でだ!」
「おお、2人とも魔女っ子か。なるほど私の妙にもふもふした格好は空飛ぶ箒か」
「シャラップハリーアップ!」
駆け足でやってきた2人に対し、いつも通りの態度で迎え撃つドンカラスであったが、
異様な剣幕に思わず身構えてしまう。
それでもハナダまで2人を送り届けるのが彼女の役目であるため、翼を大きく広げる。
なぜか持っていた杖を前方に向けながら飛ぶのは、自らを箒に見立てた遊び心だろうか。
ともあれ、さして時間もかけずにハナダへ到着した一行。
「まずは母さんのところだ!」
「オーライ姉貴ぃ!」
すかさず飛び降りるサバト達。それも飛び込み前転から前回り受け身で走り出すという技を披露しながら。
綺麗なシンメトリーを描く2つの背中を見送るドンカラスは、
「しかし、暖かいなこの格好は。もしや外で待つ私を案じて、という意味もあったのだろうか?」
などと考察していた。
「トリック!」
「オア・トリートォ!」
ハイテンションに叫びながら開けたドアの先には、1人のクロバット。
「あらサバト、いらっしゃい……ってどうしたのその格好。またあの子に着せ替え人形させられたのかしら?」
「はいです。サバトはいやだって言ったのに、お姉ちゃんは得意の腕力でサバトをひんむくとあれよあれよという間に……
まったく何しやがるです、お姉ちゃんは……どうにかしてくださいですお母さん」
「若干無理があるけど翠な口調になっちゃうくらい、怒ってるのね……わかったわ、あの人に何とかしてもらいましょ。
とりあえず、私の分のお菓子もあの人から貰って頂戴。ジェイドもね」
ジェイドが入る隙を全く見せずに母子のやりとりは終わり、ぽいっと部屋から放り出された。
テンションフォルティッシモな2人は言われたとおり、真っ直ぐにサバトが父の居場所へ向かう。
そして今まで通り勢いよくドアを開いた。
「トリックオアトリートォ!!」
「アイプレゼンチュートリィック!!」
そしてそれ以上のハイテンションな反撃を受けた。
「「「うわあああああああああ!!?」」」
見事な三重唱はサバト、その父、ジェイドの3人のものである。
子供2人が絶叫したのは、サバト父の格好にである。
ジャック・O・ランタンというカボチャの飾り、あれのでっかいのを頭にかぶっていたのである。
なるほど確かに悪戯かお菓子かと言っているのだから悪戯をくれてやるのもおかしくはない。
問題はサバト父の方、彼もやはりサバトの格好に悲鳴を上げた。
「なんで魔女の格好しているんだい!? 可愛すぎて絶対誰かがさらっていくと思ったから男の子の格好させてたのに!」
「お父さん、僕は非常に悲しいです! あなたまで僕をそんな風に見てたんですね!?」
「違う! これは純粋な親心だ!!」
「僕に女装させない理由が“本人が嫌がっているから”じゃない時点で絶対違います!!」
カボチャを投げ捨てて(ぶつかって砕け散る前にハッサムがどこからともなく表れて受け止めていた)叫ぶサバト父。
そこには普段のジムトレーナーとしての威厳とかその辺は全くなかった。
あんまり驚いて尻もちをついていたジェイドがようやくミニスカートの裾を抑えるころには、
「よーしわかった、あの子にはお仕置きが必要なようだということがよくわかった。うむ。
さて、それでは改めてハロウィンと行こうじゃないか。……あれ、カボチャどこ行った」
「旦那、ここに」
「おお、すまないね。これ二重底の下底くりぬいてるから、かぶり物でありながら上に収納スペースがあってね……
あったあった。はい、2人とも。ハッピーハロウィーン!」
などと、何事もなかったかのようにお菓子を渡してきた。
すっかり毒気を抜かれた2人は、それを受け取るととぼとぼと帰って行った。
「……ところでハナダのイレギュラーさん?」
「なんだい現世のイレギュラーさん」
その背中が見えなくなったあたりで、天井から逆さまにヨノワールが降りてきた。
「先ほどのサバト君、しっかりビデオに撮っておきましたよ。フィルム式の写真もしっかり」
「……くれぐれも本人に見つからないように鑑賞用と保管用で2つ、コピーを取っておくように」
「布教用はいらないんですか?」
「何を聞いていたんだい? あんな格好のサバトを見せたら血迷った誰かが手を出すにきまってる」
「なるほど、絶妙な親心ですね」
この会話を聞いたハッサムは、カメールにぽんと肩を叩かれた。
その後2人で酒を飲み明かしたそうな。
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~あとがき~
ハロウィンなので書いてみました。
お祭り騒ぎだわっしょいしょい!(意味不明
空気な人がいるけど気にしない。
ところで。
ジャック「・O・」ランタン
これ顔に見えるよね↑。
以上吸血の人でした。
後日談というかなんというか。
『知らなかったよ、君がそんなに娘がほしかっただなんて……』
「…………ハイ?」
ハロウィンの夜、子供たちも寝静まった頃に鳴った電話。
マスターからのそれは、予想の斜め45度上を言っており、理解が及ばない。
「あの。娘はもうジェイドがいるんですけど……」
『ああ、もうしわけない。すでにあいつには報告してある。これはその報告だ。
さ、今夜はゆっくりお楽しみ』
「え……ちょ、ご主人様? ご主人様ぁ!?」
そのまま一方的に切られてしまい、なにがなんだからわからなかった。
そこへ響く、ドアの開く音。
振り返れば、そこには彼女の夫がたっていた。なぜか白衣のままで。
「兄さんから聞いたよ……そんなにほしかったなら言ってくれればよかったのに……」
「あの……あなた? もう娘はいるでしょう?」
いやな予感を覚えながら、それでも一応反論するマッスグマ。
「なに、ただのつまらない行為にするつもりはない。理論的に科学的に効率的に。
……そしてアブノーマルにしようじゃないか」
「……まさか、その白衣ってそういう意味……?」
沈黙。それは一瞬だったが、それは彼女が自身の疑問が正しいと知るに十分であり──
──そして彼が、彼女を捕まえるにも十分だった。
「──いただきます」
「うう……ゆっくり、めしあがれ……」
最終更新:2009年11月05日 18:47