5スレ>>801


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「…………」

 ふらふらと。
 私は何処に行く当てもなく、歩く。
 ただただ、ご主人様の遠くへ。

 気がつけば、私は。
 波の打ちつける、そこそこ高い崖の上に立っていた。

「……ここから跳べば……私は……」

 一歩、足を進める。
 でも、私の生物としての本能がだろうか。
 あと一歩というところで、体を硬直させた。

「……やっぱり、死ぬのは怖い……な」

 あれだけのことをしておいて何を、と自嘲しつつ、振り向いて戻ろうとする。
 と、その時。

 ビュゥッ!

「えっ……?」

 全身に感じる浮遊感。
 突然の突風に煽られ、私は崖から落下し。

 ザパァン!

 着水と同時に、意識を手放した。




『消えぬ罪、終わらぬ贖罪』




 幼い日の私は、常にご主人様と……お兄ちゃんと共にあった。
 私をタマゴから孵し、初めての手持ちとして迎え、可愛がってくれたお兄ちゃん。
 いつしか私は、お兄ちゃんに盲信に近い感情を抱き。
 お母様や姉さんも、お兄ちゃんを第一とする私を苦笑いしながらも認めてくれて。
 私は、ますます増長していった。

 ……そんな、ある日のこと。
 親を亡くしたメリープ族の女の子を、家で引き取ることになった。
 そして、彼女の世話は……お兄ちゃんがすることになり。
 私がお兄ちゃんと二人で居る時間は、大幅に減ることとなった。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「うん、ちょっとメリィとお話しに」
「……そう、行ってらっしゃい」

「お兄ちゃん、あそぼっ」
「いいよ。ちょっとメリィも呼んでくる」
「……うん、わかった。待ってる」

「お兄ちゃん、一緒に寝よ?」
「ごめん、今日はメリィと先に約束したから……明日でいい?」
「……いいよ、おやすみ」

 ……お兄ちゃんは、あの子につきっきりで。
 私は、一人寂しくベッドの中にいることが増えた。
 ……なんで?
 なんで横から入ってきたくせに、お兄ちゃんと一緒に居るの?
 ……許さない。
 私からお兄ちゃんを奪うなんて……絶対にユルサナイ。
 じゃあ、どうすればいい?
 ……そんなの簡単。

 あの子を、消せばいいんだ。



 そっと、あの子の部屋に忍び込む。
 お兄ちゃんはお手洗いに行っているらしい……都合がいい。
 目を覚まさないようにゆっくりと枕元まで忍び寄ると、月明かりがこの子の顔を照らしていた。
 ……可愛らしい、安らかな寝顔。
 でも、その胸元に抱いてるモノは何?
 それは、お兄ちゃんの枕。
 それに鼻先を埋めて幸せそうに眠る姿に、私は……嫉妬心と殺意に囚われた。
 乱暴に枕を奪い取り、露になった細い首に私は手をかけて。

 ガチャッ

「……!」
「デル……何、してるの」

 お兄ちゃんに、見つかった。
 ……急がないと。
 そう思い、無視して手に力を入れようとして引き剥がされる。

「デル、やめるんだ!」
「邪魔、しないで」
「なんなのさ、一体どうしたって……!」
「お兄ちゃんどいて、そいつ殺せない!」 
「ダメだって!」
「どいてってばっ!」

 力の限り暴れて、お兄ちゃんを振り払う。
 そして、気付いた。
 私の体を通して出てくる、真っ黒な光に。

「……うふ、ふふふふ」
「デ、ル……」
「貴女は……いつもいつも脇から割り込んできて、お兄ちゃんを弄んで」
「違う、それは……!?」
「許せないの……私の命に代えても、身体に代えても、こいつだけは!」

 使い方はわかる。
 この光は……私が思ったとおりに、動く。

「ここから……居なくなれぇっ!」

 そして私は、可能な限りの嫉妬、憎悪、殺意……全てを込めた光をあの子に向けて解き放った。
 ……でも、それは。

「やめろおおおおおおおおっ!!!」
「お兄ちゃ……!?」

 間に割り込んできたお兄ちゃんに、殆どが直撃した。

 ババババババババババババッ……ドカァン!

 壁をも破壊し、お兄ちゃんは庭まで吹き飛ばされた。
 あの子は……壊れたベッドの残骸と瓦礫に埋もれ、よく見えない。
 そして私は。

「う、そ……」

 刹那に感じた、光の手ごたえに。
 ……大切な人を破壊し、切り裂いた感覚に。

「う、あ……ああああああああああああっ!?!?!?」

 その場にへたり込み、慟哭した。



 その後のことは、あまりよく覚えていない。
 轟音を聞きつけてきたお母様達にお兄ちゃんとあの子は助け出され、入院することになった。
 あの子は瓦礫に潰されて怪我が酷く、目も覚まさないらしい。
 本当は死ねばよかったけれど、いい気味だ。
 そう思いながら、私は目を覚ましたというお兄ちゃんのお見舞いに向かう。
 ……その場で、自分の犯した罪を自覚することになるとは思いもせずに。

「お兄ちゃんっ!」

 勢いよく病室の扉を開け、ベッドに座っているお兄ちゃんに抱きつく。
 でも、いつもなら抱き返して頭を撫でてくれるのに、今日はそれが無い。
 私はそれを体がまだ本調子でないせいだと勝手に結論付け、顔を上げる。
 そして。

「君は……誰?」
「!!!」

 赤の他人を見るようなお兄ちゃんの表情を見て、愕然とした。
 そして私は、訳がわからないまま病室から連れ出され、お医者様の話を聞いた。
 難しいことはわからなかったけれど……簡単に言えば、お兄ちゃんは「私のことだけ」を綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。
 それが、私の撃ったあの光のせいなのかはわからないけれど。
 何にせよ、私は。
 自分が嫉妬に狂ったせいで全てを失ったことを、漸く理解した。



 ……その後、私は「使用人」としての教育をお母様から受けることとなった。
 それまでの自分を捨て、お兄ちゃんの……「ご主人様」の手となり足となり、時には剣となり盾となる。
 もう二度と、狂気に駆られてご主人様を傷つけないために。
 なのに、私は……またしても、心の闇に囚われて。
 ご主人様の腕の中で眠るサイホさんに、あの日と同じ狂気を抱いて。
 私は……私は……どうすれば、いいのですか……?





 パチ、パチッ

 何かの燃える音がする。
 それが焚き火の音だとわかった瞬間、ゆっくりと意識が浮上していく。

「……んぅ」

 でも、体を包み込む温かさと顔に感じる柔らかさに負け、ついそのまままどろんでしまう。
 これはまるで……そう、お母様か姉さんに抱かれてるような気持ちよさ。
 (妬ましいけれど)豊かな胸に包まれて、髪を優しく撫でられて……

「ふゅ……」
「んふふー、ホンマかわええ娘やなあ」
「……うゅ?」

 抱かれてる相手の声を聞き、私の寝ぼけた頭がようやく回転を始める。
 ……知らない声、だ。
 顔を上げ、ぼやけた視界で相手の顔を確認しようとして。
 私は、やっと自分の置かれている状況に気がついた。

「……ふ、え?」
「ん?お嬢ちゃん、目ぇ覚ましたんか?」
「な、ななな……」
「どないしたん、そんなトマトみたいに赤くなって」
「なんで私達裸なんですかーっ!?!?!?」

 そう、私は何故か洞窟の中で、生まれたままの状態で彼女に抱きしめられていたのだった。

「まあまあ落ち着きいや。そないな格好で暴れとると体冷やすで?」
「誰のせいだと思ってるんですかっ!と言うか服は!?」
「ああ、そこにあるけどまだ乾いとらへんから着んほうがええよ」
「乾いて?……あ」

 意識を失う直前のことを思い出す。
 そっか……あの高さから落ちたというのに、私はまだ生きてたんだ。

「ほんまびっくりしたわー、危ないなー思っとったらいきなり落っこちおって」
「……」
「ま、そんで海飛び込んでお互いこの通りって訳や……どないしたん、そんな黙りこくって」
「……何故」
「ん?」
「何故、助けたんですか……?」
「何故ってそら、目の前で可愛い子が海に落っこちてったら助けにいかへんと」
「わ、私は……私は、助かるべきじゃなかったのに……」

 視界が潤む。
 泣いてもどうしようもないことはわかっているのに、涙が溢れてくる。
 そんな自分がみじめで、弱くて、かわいそうで……そんな時、正面から抱きしめられた。

「そか……何や、訳アリみたいやな?」
「ぅ……ひぐっ……」
「よーしよし、何ならうちに話してみ?……そや、お嬢ちゃん名前何て言うん?」
「っ……デルって、言います……」
「デルちゃんか、ええ名前やな」
「あの、お姉さんは……?」
「ん、うちか?うちはフライゴンいうんや。何ならそのままお姉さんと呼んでもええし……あ、姐御でもかまへんで」
「……お姉さんで」
「なんや、つれへんなー」



 そうして、私はぽつぽつと語りだした。
 私のこと。ご主人様のこと。メリィさん達仲間のこと。
 そして過去に犯してしまった罪と、再びそれと同じ過ちを繰り返してしまったこと。
 時折、素肌同士で触れ合う温かさや後頭部に感じる柔らかい感覚に母性を感じながら……それら全てを、お姉さんの膝の上で抱かれて話した。

「……と、いう訳なんです」
「はぁー……」
「だから私は、もうご主人様の側には……」
「デルちゃん、ちょっとええ?」
「え、あ、はい。なんでしょ……」

 と、私がお姉さんに振り向いた瞬間。

 べちっ!

「み゛ゃっ!?」

 眉間に衝撃が走った。
 そしてそれがお姉さんからのデコピンだと気づくのに、一瞬の時間を要した。

「な、何するんですかっ!」
「そんな事でご主人様に心配かけてるであろうお馬鹿さんに、ちょっとした罰や」
「お馬鹿っ……それより、そんなことって」
「あんな、もっと詳しい事情を知らへんうちが言うのもあれやろけど、それ絶対にデルちゃんの気にしすぎやわ」

 お姉さんは「大体な、」と前置きをして話を続ける。

「嫉妬心無くさへんと一緒におられへんって、んな無茶な話があるかいな」
「それはっ……他人に嫉妬する必要が無いから、そんなこと言えるんですよ……!」
「やー、うちかて嫉妬の一つや二つはするで?たとえば、今うちはデルちゃんにいくつか嫉妬しとる部分あるし」
「わ、私にですか?」
「せや、うちは下手な男より背丈あるから、可愛い服とか着られへんし似合わん。デルちゃんはそういう服が似合いそうで羨ましいわ」
「それは……お姉さんが、体が小さいことで生まれるコンプレックスを知らないから」
「それはうちも同じこと言えるで。デルちゃんはうちみたいに体や胸が大きいことでする苦労や制限は知らへんやろ?」
「そ、それは」
「まぁ得てして隣の芝生は青いもんやし、そう感じるのが正常や。無理に感じへんようにするっちゅうのがまず無理なんやで」
「ですが……それではまた私は、私のせいでご主人様を危険に晒してしまいます」
「せやからそれも考えすぎや。聞いた限りでもデルちゃんを誑かした相手は手だれの催眠術士、大方心の中をいじくってそう思うように仕向けられたんちゃうの?」
「そう……なのでしょうか」
「せや。それに……今デルちゃんが居らんことで、デルちゃんのご主人様は危険やないの?」
「……私が居なくても、ご主人様を守る人は居ますから。私が居ないほうが……」
「それは違うで。そんだけご主人様のことを想うとるデルちゃんが居るから安全なんや」

 そう言って、再びお姉さんは私を後ろから抱きしめる。

「想いは力や。そのご主人様への想いも、他人を羨む想いも、正しく使えば、全部デルちゃんのご主人様を護る力になる」
「お姉さん……」
「せやから、戻ったりな?きっと心配しとるで」
「……はい。でも、もう少しだけ」
「?」
「もう少しだけ、このまま居てもいいですか?」
「ふふー、それはうちも願ったり叶ったりや♪」



 時間は流れ、もうそろそろ日も沈むという頃。
 私はお姉さんと別れ、別荘のほうへと歩いていた。
 お姉さんはマサラタウンへと行きたかったそうで、迷ってこっちの方まで来てしまったのだとか。
 今度はちゃんと目的地に辿り着くと良いな……そう考えていると。

「……ああっ、あんた今までどこほっつき歩いてたのよ!」
「姉さん……?」
「やれやれ、思ったより見つけるのに時間がかかったね」
「お義兄さんも、どうして」
「いや、たまたまアキラの所に寄ったらね」
「あんたが家出したって話を聞いたのよ。アキラったら、今にも世界が終わりそうな顔してたわよ?」
「そう、ですか……」
「さ、とりあえず戻ろう。その様子だと、悩みも解決したみたいだしね」
「わ、解るんですか?」
「まぁね。瞳から、もう迷いが見えなかったから」
「ダーリンはそういうとこ、すぐに見抜いちゃうのよねぇ」
「……ふふっ、そうですね」

 二人の間に挟まれて、私は帰るべき場所へと歩く。
 ……私の、ご主人様を護りたいという想い。
 それがある限り、私は……ご主人様の傍に居られる。
 ううん、ご主人様だけじゃない。
 メリィさんも、ホウさんも、ゲンさんも、サイホさんも。
 私は、皆を護る。
 皆で、笑って生きていくために。

 この罪が、私の心から消えないのなら。
 償っていこう、永遠に。


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・後書き

 どもこんにちわ、曹長です。
 今回はデルの過去編&トラウマ解決編ということで、彼女の一人称視点で書いて見ましたが如何だったでしょうか。
 そしてゲストにはジョウト弁でしゃべるフライゴンのお姉さん。
 はい、ご存知の方も多いでしょう、ストーム7氏の作品からの出演でした。この場をお借りしてお礼&感謝です。

 ……さて、話は変わりまして。
 デル。この子は第一話(現在は外伝に置いてある『Nightmare』)の時点でヤンデレ&献身的キャラとして設定はしてましたが、本編で病み系エピソードを出すのは初めてな気がします。
 最近ではネタ方向で活躍が多いですが。主に体型コンプレックス的な意味で。



 それでは次回予告。

 療養と修行を兼ねたナナシマ生活を終え、リーグ登録のためにトキワシティへ向かうアキラ一行。
 その前に成長の度合いを確かめるため、トキワジムへ挑戦する。
 ……そこに、血に飢えた狂気が居座っているとも知らずに。

 次回、萌えっこもんすたぁ Long long slope
 『紅の狂気と純真なる破壊者(仮)』

 それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。
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