主「暫く世話になります、オーキド博士」
オ「構わんよ。それくらいお安い御用じゃ」
風呂場が爆破(主に過度電流が原因)されたせいで暫くオーキド博士の家の風呂場を借りる羽目になった。
事情を話したら快く貸してくれる事になったが、その前に笑われた。
オ「お前さんも毎回大変だな」
主「いつもの事です……まぁ今回は規模がデカかったんですけどね」
「……うぅ」
ライが呻きながら小さくなった。
主「前はショートで済んでたんですけどね……そろそろ真剣に耐電性の高い物にしないと」
オ「お前さんサンダースの力に耐えられる物もそうそうあるまい。自作か」
主「でしょうね」
俺は一体どれだけの技術力をつけねばならないのだろうか。
そろそろ家具一式全て自作した事になりそうだ。
ラ「本当にすまん……」
主「もういいって。ライの力を舐めてた俺が悪い」
人型化して威力が高まってるのは重々承知していたが、そっから更に強まるのは予想外だった。
主(あぁまったく……これでまた考察からやり直しか?)
「終わった?」
主「ん?ああ、終わったよホム。てか何でここに居る?」
ドラム缶に入れた水を沸騰させてたはずだが。
しかも自発的というのだからこれまた健気だ。
ホ「マスターが何処かに行ったから。で、邪魔したらいけないと思ったから」
主「そうか」
何だか可哀そうな事してきた気になってきたぞ……
ホ「それと蝶々追いかけてた」
……前言撤回。やっぱり天然な子だ。
ラ「お前なーそれで前道に迷ったろ?あれどれだけ必死に探したと思ってるんだよー?」
ホ「迷ってない。遊んでたら奥に行き過ぎただけ」
そして意地っ張りだ。
主「どうでもいいがな、さっさと帰るぞ。寒いし色々まとめないとな」
ラ「休日位休めよ。研究なんていつでも出来るだろ?」
主「お前らのためでもあるの」
そう言うとライは何も言わなかった。
自分たちがどのように特殊なのかが分かっていたから。
五年前までこの世に萌えもんなんて居なかった。
見つかった当時は大騒ぎで――というのも状況が状況だったのもあるんだが――様々な噂がされた。
そしてポケモンの"進化系の進化系"であるという結論に至ったわけだが……
主「どういう意味なんだろうな」
ホ「どうしたの?」
ラ「今考えてる事はどうせ答えなんて出ないんだから考えるなよー」
主「そうだな」
それは、俺らに言葉を伝えたかった進化なのか。
それとも俺らに"対抗"するための進化なのか。
決して誰にも分かる事はないのだろう。
ただ分かるのは、彼女たちを悪用しようとする者が居る事。そしてその力が一層強まった事だ。
言葉が伝わるようになった分やはり危険度が高まったと考えざるを得ない。
なら――
ホ「マスター」
主「ホム?」
ホ「冷えてる」
そう言って左手を握ってくる。
ラ「あ、ずるいぞ! 私も!」
ライも同じように右手を握ってくる。
――違うじゃないか。
俺はふとそう思った。
危険なのは彼女たちじゃなくて、それを利用しようとする人間たちだ。
俺は彼女たちをどうこうすれば良いということではなくて、悪用する人間たちをどうにかしなければならないのだ。
主「あったかいなホム、ライ」
ホ「うん」
ラ「へへ」
だからきっと。
彼女たちが進化したのは……伝えたい事があったからだ。
大切にしてくれた人に。家族のように扱ってくれる人に。
ホ「ありがとうマスター」
ラ「私からも。ありがとう主」
主「どうした、いきなり」
ホ「何となく」
ラ「何となく、だよな」
そう言って顔を見合わせて彼女たちは笑う。
言わなくても良いけれど、伝えたいものがあるから
主「こっちこそ」
ラ「どうした主こそ」
主「俺も何となくだよ」
ホ「……そう」
進化したんだ――そう信じたい。
主「どうでもいいが」
ラ「うん?」
ホ「?」
主「何だか体が痺れてきたんだが……」
ラ「あ゛…電気漏れてる……」
主「ちょ、おま……」
俺が家に帰るのは少し遅くなりそうだった。
最終更新:2009年11月25日 21:56