…私が生まれて初めて見た風景。それはとても生活感漂う人家の個室でした。
周りには机や棚があり、私の下にはふかふかのベッドがありました。
そして目の前にいた一人の少年が嬉しそうにこちらを見ていたのを覚えています。
生まれてきたばかりで何も分からない私に、いきなり抱きついてきたことも。
…でも、何も分からなくても、なんだかすごく嬉しかった。
だから、私も彼に抱きつきました。思いきり。
すると彼は少し驚いたようだったけれど、私の頭をなでてそれに応えてくれました。
それが嬉しくて、私は度々彼に抱きついていました。
今ではパーティーも増え、あまりそういった事はできませんが、良い思い出です。
それから私は誓うのでした。
優しくしてくれる彼に何があっても一生ついて行き、必ず守り抜くと。
そう、何があっても……
course of life -with you-
第一話~始まりの朝は空腹と共に~
「…ん……んぁ?」
ワカバタウンの朝の日差しが気持ち悪いほどピンポイントで顔に当たる。
天候にも左右されるが、晴れの日は年から年中このような現象が起こる。
「ふあぁぁぁ……。まだ6時かぁ」
別にまだ寝てても問題ないのだが、どうせまた太陽光に起こされる。
それに早起きは三文の得って言うしな。
「よっこら……ん?」
体を起こそうとして、ようやく左腕の違和感に気付く。
何かに引っ張られてるような……
「…って、ポニータ!?」
なんと、俺の左腕を掴んでいたのは俺の手持ちのポニータだった。
いつもなら手持ちのみんなと寝てるのに、なんでここに居る!?
「う…ん……? リュウ兄? おはよう」
「いや、おはようじゃないだろ……」
寝ぼけ眼で起きてきたこのポニータ、年は14。
俺のパーティーの最古参で、自慢じゃないがタマゴの状態から今まで俺が育て上げた。
故にポニータは俺のことを兄のように思っていて、俺のことをリュウ兄と呼ぶ。
明るく活発で天真爛漫な性格なんだが、どこか抜けてるんだよなぁ、コイツ。
が、なぜか勘が相当鋭く、エスパーかお前はってほどに人の内心を読み当てる。
…ちなみに俺の名前はリュウマ。
パーティ内ではよくリュウマのマを抜かれて呼ばれるが、リュウマだ。
…そして寝覚めのポニータに、なぜここに居るのか問い詰めようとしたが、止めた。
目元に涙が浮かび上がっていたからだ。
「どうしたんだ? 寝覚め悪いみたいだが?」
「…え? あっ、ご、ごめん! 何でもないよっ? じゃあ私、先に起きてるね!」
そう言うなり、俺の部屋から猛スピードで出ていった。
朝から一体どうしたってんだ、アイツは。まぁあんまり深く突っ込まない方がいいか。
「…さて、俺もさっさと起きないとな」
…………。
俺がリビングに行くと、手持ちのみんなはもう起きていた。
相変わらずみんな、朝は早いよなぁ。
「あ、おはよーリュウ」
「おはよ、オニドリル」
「まだ眠そうじゃない。後で叩き起こすから寝てればいいのに」
「断る。何されるか分かったもんじゃないからな」
「ちぇーっ」
この悪戯っぽく笑ってる奴はオニドリル。年は15。
2番目に俺のパーティーに入った萌えもんだ。
以前トキワシティに住んでいた時、町に迷い込んできて助けたのが最初。
その後、俺やポニータと仲良くなり、ワカバタウンに引っ越す時に一緒について来た。
とにかく元気で好奇心旺盛な性格。曲がった事が大嫌いで、負けず嫌い。
そのくせ悪戯好きときたから困ったもの。悪戯が上手くいくまでやり続けるのだ。
「あ、リュウマさん。おはよーござるー」
「おはよ…って、なんか変じゃないか、ラプラス?」
「気のせいでござるよー」
そしてこちらの少しドジっ子っぽいのはラプラス。年は16。
3番目に俺のパーティーに入った萌えもんで、一応これでもパーティー内の年長者。
昔アサギシティへ行った時、浜辺で倒れていたのを見つけて救助したのが最初。
その後、俺が命の恩人だとか未来永劫ついて行くんだとか言って、結局ついて来た。
本人曰く、行き倒れする前の記憶は残っていないらしい。
一体何があったんだろうか……
性格は陽気で、とてものんびりとしている。
場を静める和ませ屋だが、見た目の通り、かなりのドジっ子。
だがそれとは裏腹に、素早く冷静に状況を把握できる頭脳を持つ。
「あれ? そういやポニータは?」
「朝の日差し浴びてくるって言ってましたよー?」
「りょーかい。そんじゃ、俺もちょっくら行ってくる」
「あ、リュウ、もうすぐ朝ご飯できるってポニに伝えといてー」
「はいよ」
適当にみんなと朝の挨拶を交わし、ポニータを探しに庭へ出る。
やっぱり、さっきの様子が気になるしな。
「はぁ……」
何やってるんだろう、私。あんな昔の夢を見たくらいで。だらしない。
でも、恐いものは恐い。最愛の人が死にそうになる夢なんて……
「溜息なんてらしくないな、ポニータ」
「…リュウ兄? なんでここに?」
「いや、なんかお前が悩んでそうな面してたからさ」
「別にそんな……」
「オイオイ、もう何年付き合ってると思ってんだよ。お前の顔見りゃわかる」
「そ、そう?」
「あぁ。…んで、どうしたんだ? 相談くらいなら乗ってやるぞ?」
「うん。それが……」
…そう、それは10年前。
私とリュウ兄がまだトキワシティに住んでいた頃の話。
「リュウにい、はやく! こっちこっち!」
「ちょっとまってよポニータ! はやいって!」
その日は休日で、町から出て少し行った所にあるトキワの森へ遊びに行っていました。
いつもお世話になっているリュウ兄へ、ある物をプレゼントするために。
「リュウにい、ここ、ここ!」
「はぁ…はぁ…。はやいよポニータ……」
「えへへ、ごめんごめん。それより、これみて!」
そう言って私が指差した先は、何の変哲もない少し大きめの石。
それでも、子供一人でやっと動かせるくらいの大きさはありました。
「…これ、ただのいし?」
「ううん。うごかしてみて」
「うん。わかった。よいしょっと……」
彼が石を動かすと、石の下の小さな窪みに、きれいな蒼い水晶が置いてありました。
そう。これが私から彼に送るプレゼント。
この間マサラタウンに出かけた時に見つけた物です。
普通に渡すのでは面白くないので、彼を驚かせようと、昨日用意してきました。
「うわぁ……。これは?」
「わたしからリュウにいにプレゼント!」
「これをぼくに? ありがとう、ポニータ!」
「ううん、こっちこそ! いつもありがとう、リュウにい!」
その後は彼といつも通り遊び、とても充実した一日になりました。
…しかしその帰り道、あんな悲惨な事が起こるなんて、誰も予想していませんでした。
「きょうはたのしかったね、リュウにい!」
「うん! またらいしゅうもあそびにこようね」
私とリュウ兄はすっかり遊び疲れ、今日はもう帰ることにしました。
辺りはだいぶ日が落ち、暗くなり始めています。
「くらくなるまえにかえらなきゃ」
「うん。わたし、はやくかえってごはんたべたいな」
「ぼくも。おなかすいちゃったよ」
そんな他愛もない会話をしているその時でした。
少し大きめの整った道を挟んだ向こう側で、私は何かが光るのを目撃しました。
「ねぇリュウにい、いまのみた?」
「え? なに?」
「ちょっとみにいこうよ!」
「あ、ちょっとポニータ! そっちは……」
私はリュウ兄の言葉を最後まで聞かず、一目散に光が発された場所へ駆け出しました。
その道が、物資運搬トラック用の道路だと知らずに。
「リュウにい、はやく!」
「はぁ…はぁ…ちょっとまっ……! ポニータ! はやく! はやくにげて!」
「…え?」
…何がなんだか分かりませんでした。
右を向くと黒い何かが猛スピードでこちらに向かってくるのが見え。
立ち往生している私にリュウ兄が思い切り体当たりしてきて。
私が突き飛ばされた瞬間に目の前を黒い何かが通り過ぎて。
それが通り過ぎた後に彼の姿はなくて。
しばらくして10メートルほど先で倒れていた彼を見つけ……
…そこから先は記憶に残っていません。
後から聞いた話では、近くにいたトレーナーさんに助けを呼んでもらったそうです。
助けを呼んでもらっていなければ、本当にどうなっていたんでしょうか……
「…なんだ。そんな夢の事で悩んでたのか」
「なんだって何!? 私は本当にあの時リュウ兄が死んじゃうかと思ったんだよ!?」
「あー、まぁいいんじゃないのか? 次の日ピンピンしてたんだし、現に俺生きてるし」
確かに事件の翌日、彼は昨日の出来事が嘘のように元気でした。
なぜだか分からないけど、奇跡としか言い様がありません。
外傷もかすり傷くらいで、骨折もなく、本当に転んだ程度の傷でした。
でも……それでも……
「良くないよ!」
「えっ?」
「リュウ兄が良くても私が良くない!」
「お…おい、ポニータ、声が……」
「本当は私がリュウ兄を守るはずなのに、私がリュウ兄に守られて……!」
情けない。本当に自分が情けない。
本来守るべき最愛の人に逆に守られて。
下手をすればもう二度と会えなかったかもしれないのに……
「なんで…私は……。何のために……」
「いや、守られてたよ」
「…え?」
「今言ったとおりだ。俺はお前にちゃんと守られてた」
「…どういう事?」
「ポニータ! はやく! はやくにげて!」
…あの時俺は、自分の家族であるポニータを助けようと必死だった。
こんな所で自分の相棒を失うなど、己の良心が許さなかったからだ。
だからなのだろう。自分の身も案じず、あんな無謀なことをしたのは。
「くそっ!」
気が付けば俺はポニータに全身全霊の力で体当たりし、彼女を突き飛ばしていた。
その後自分に降りかかる災厄などに躊躇うこともなく。
…頭の中でこれまでポニータと過ごした日々が走馬灯のように流れたのを覚えている。
一緒に色々な所に行って遊んだこと。
一緒に悪さをして母親に怒られたこと。
一緒にトキワの森へ行って迷ったこと。
そして、一緒にいて共に笑い合えたこと。
それと共に、最期まで疑問が尽きなかったのも覚えている。
これが俺の最期なのか。これで本当に良かったのだろうかと……
…そう思った次の瞬間、目の前が青い光に包まれ、気付けば俺は地面に倒れていた。
何が起こったのか全く分からなかった。
どこも痛みはないのだが、身動きが取れない。
そしてそのまま俺の意識は途切れ、その後の事は覚えていない。
「あの時、お前がくれた蒼水晶が俺のことを守ってくれたんだと思うんだ」
「そう…なの?」
「あぁ。きっとお前の守りたいって気持ちがこいつに伝わったから助かったんだろうな」
そう言って、俺は腰に下げている蒼水晶を朝日にかざした。
青く透き通るそれは、仄かな温もりと、何かを目覚めさせるような輝きを放っている。
そう。ポニータからもらったこいつがなければ、俺は今頃……
「確証は無いけど…体験者の俺が言うんだ! 間違いない!」
「そう…なんだ……」
事実、俺はあの後もそれに似た体験を何度かした。
そのおかげで、俺は今も怪我一つせず健康に日々を過ごしている。
ただ事故の後しばらく俺は「不死身のリュウマ」という名で呼ばれたりはしたが……
「だから、お前が思ってる以上に俺はお前に守られてる。そんなに気に病むなよ」
「うん」
「それに……」
「それに?」
「いや、何でもねぇよ」
お前は笑顔の方が似合ってる、なんてキザな台詞、流石に言えないよなぁ。
「…ぷ…うふふ……」
「な、何がおかしい…って、お前まさか……」
「笑顔の方が似合ってる?」
「だーっ! 勝手に人の内心読むなっ!」
「だってリュウ兄、分かり易い顔してるんだもん」
忘れてた。コイツ、人の内心読み取れるんだった。うっかりしてたぜ……
「あーもー! 前言撤回! 言ってないけど!」
「あははっ。…でも……だいぶ楽になったよ。本当にありがとう」
「そ、そっか。そいつぁ良かったな」
不意に真面目なことを言われたので、俺はぶっきらぼうにそっぽを向いた。
こんな照れた表情を見られたら、またからかわれると思ったからだ。
しかし……
「好きだよ、リュウ兄」
そう言われた次の瞬間、顔を近付けてきたポニータに何かをされた。
俺は横を向いていてよく見えなかったが、柔らかい感触が頬を伝わってきた。
…え? こ…これって、ちょっと……
「じゃあ、リビングに戻ってるね」
「へ? あ、あぁ、うん……」
…その後、俺は面食らった表情でその場に一時間程固まっていたらしい。
おかげで朝食をオニドリルに全部食われてしまった。
まったく、一体全体朝からなんだってんだよ……
一方こちらは2階のベランダ。
オニドリル、ラプラスの二人が固まったままのリュウマがいる庭を見下ろしている。
「まったく騒がしいと思ったら、朝から随分ラブラブとしてるのねぇ、あの二人!」
「ドリちゃんドリちゃん、落ち着いてー」
「わ、分かってるって」
「うん。平和が一番だよー」
「……。でも、リュウとポニにあんな過去があったなんてね……」
「これはこれは意外ですー」
「そういえば、結局リュウがいつも腰に下げてる蒼水晶って何だったんだろ?」
「さぁ? とりあえずスゴい物なんじゃなーい?」
「んー、気になるね」
「今度聞いてみたらー?」
「そうしよっか」
『ガラガラガシャーン!』
「あ! 今朝ご飯の支度、ポニしかしてない!?」
「うん。ママさんもまだ寝てるし、ポニちゃんしかやってないと思うよー?」
「それはマズい! 早く戻らないと大変な事になっちゃう!」
「あ、あれ? リュウマさんはどうするのー?」
「ほっときゃ来るでしょ」
「そっか、そだねー」
~あとがき~
初めまして。ポエルとか言う者です。
以後あるかどうか分かりませんが、どうぞお見知り置きを。
今回初ということで、主人公リュウマと相棒ポニータの過去から書かせてもらいました。
が、なんだかとってもグダグダな展開に。
しかもオニドリルとラプラスが最後以外ほぼ空気。ストーリー上仕方ないんですけど……
その上私の国語力不足で色々表現が残念な事に。お目汚し、本当にすみませんでした。
こんな私ですが、日々精進していきたいと思いますのでこれからも宜しくお願いします!
そしてここまで読んでくれた方、本当にありがとうございましたっ!!
それでは、また。
最終更新:2010年02月27日 01:30