5スレ>>812-4


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Colors 【vol.4】


「驚いたな。今の一撃で倒せると思ってたんだが」

 気絶したプテラをボールに戻しながら、ワタルが呟く。
 これでニ対一になったわけだけど、エーフィは次の一撃でやられる。実質一対一だ。それに――。

「ごめんな、エーフィ。休んでてくれ」

 もう倒れそうなほど弱っているエーフィをボールに戻す。彼女がここまで傷ついてしまったのは、僕の判断ミスが原因だ。
 勝利のために、トレーナーである僕のために、彼女がこれ以上戦う必要はない。
 ボールに収まるために身体が粒子に変換される瞬間、エーフィが驚いた顔をしていた。
 これはあとでお説教をくらうかもしれないな。もう何度議論を交わしたか分からない、トレーナーとしての在り方について。

「ますます厳しい戦いになったけど頼めるかな、ブラッキー?」
「主がお望みとあらば。しかし先程の報酬では割に合わないので、ウィスキーも追加で」

 僕の我侭に、ニヒルに笑って答えるブラッキー。下戸なのに酒好きなのは相変わらずか。

「OK、マッカランを開けるよ。ただし僕も飲むからね」
「ではそれを勝利の美酒とするために、私も頑張らせてもらいます」

 今度は綺麗に笑ってから、ブラッキーはフィールドに佇むカイリューを見据える。
 ブラッキーはそのタフネスを活かし、“毒々”で相手をジワジワと追い詰める戦法を得意としている。
 カイリューの攻撃力をもってしても、ブラッキーは二発以上耐えられる筈だ。“毒々”がきまれば、こちらの勝率は格段に上がる。

「それが紳士ってやつかい? 俺には理解できないな」

 エーフィを戻し、ブラッキーを向かわせたことを言っているんだろう。ワタルは腕を組みながらそう呟いた。

「紳士とかは関係なくて、自分のケツくらい自分で拭くってことだよ」
「そうか。……君は俺が思っていた以上に面白いやつだな」
「……? 男として当たり前のことを言っただけだけど」

 僕が思っていることを素直に言うと、なぜかワタルは腕を組んだまま大笑いを始めた。
 僕の台詞がツボに入ったのか、あるいは強者の余裕か。もしくはその両方かもしれない。
 笑っている姿は僕やマサキと同じ二十五歳の青年そのもので、さっきまでの四天王大将としてのカリスマはどこにもなかった。
 ワタルはひとしきり笑ったあと、腕組みを解いて一流トレーナーの顔を取り戻す。

「さて。そろそろ時間稼ぎはいいだろう?」

 なんでもお見通しってことか。ワタルと喋っている間に時刻は昼を指している。これで“月の光”の回復量が朝よりマシになった。
 “毒々”以外に強力な攻撃手段を持たないブラッキーにとって、それは戦闘の大きな助けになる。

「知っててのったワタルは性格が悪いと思うけどね」
「よく言われるよ。……まぁ、フェアプレイの精神ってことにしといてくれ」

 そう言ってワタルは大仰に肩をすくめる。案外エーフィを僕が戦闘不能扱いにしたことを、借りとでも考えていたのかもしれない。

「じゃあ二回戦といこうか」
「望むところさ」

 僕とワタルのやり取りから、フィールドに緊張感がよみがえる。
 カイリューはその総身に力を漲らせ、どのような攻撃でも全力で行えるように。
 反対にブラッキーは力を抜いて瞳を閉じ、“毒々”を初手できめられるように集中を。

「カイリュー、十万ボルトだ」

 ワタルの指示が飛び、カイリューが両手を帯電させる。タイプ一致のドラゴンタイプの技でくるかと思っていたが、“十万ボルト”とは意外だ。
 ……いや、そうでもないか。古来より、雷は神性と結びつくことが多い。
 ギリシャ神話のゼウスや北欧神話のトール、バラモン教のインドラなんかが有名だろう。
 竜もまた神にもっとも近い生物として崇められることもしばしばで、そのせいか萌えもんのドラゴンタイプは電気属性の技を扱いやすい。
 そうしてカイリューの両手から、目を焼くような眩い稲妻が放たれる。
 ブラッキーは回避運動をとろうとするが、相手は光のそれ。タフネスを得るためにスピードを犠牲にしたブラッキーには、絶望的な差だった。

「ぐぁぁ、うぅ」

 文字通り“十万ボルト”が身を焼き、片膝をつくブラッキー。だけど、まだ体力は三分の一程しか削られていない。
 今のが最強の技というわけではないだろうけど、これで“毒々”が入れば充分に勝機は見える。

「頑張れ、ブラッキー。“毒々”だ」
「うぅぅ、あぁ」

 しかしブラッキーは体を痙攣させながら呻くばかり。
 ――まさか。

「……はぁ、はぁ。すみま、せん、主。どう、やら、麻痺をもら、ったよう、です」

 荒い息をつきながらの返答は、希望を潰えさせるに充分なものだった。
 ブラッキーの特性は“シンクロ”。自分が受けた毒・麻痺・火傷の状態異常を、相手にも受けさせるもの。
 相手のカイリューを見やれば、ブラッキーと同じく片膝をついている。時々体を痙攣させていることから、相手も麻痺状態だということは分かる。
 そして、それは最悪の状況だった。状態異常にかかった者に、別の状態異常をかけることは出来ない。
 つまり“毒々”は封じられ、カイリューに勝てる可能性が一番高い方法を失ってしまったことになる。

「肉を切らせて骨を断つ、か。やられたよ」
「麻痺が発動するかは運だった。……俺もまだ女神に見放されていないらしい」
 
 ここは幸運の女神に微笑まれ続けるワタルを賞賛すべきか、そっぽを向かれ続ける僕を卑下すればいいのか。
 運も実力の内とは月並みな表現だけど、実際そうなのかもしれない。
 ブラッキーはダメージを受け、ほぼ唯一の牙を折られた。対してカイリューは、麻痺は受けたもののノーダメージ。
 その差は歴然だった。

「だけど、まだだ」

 そう、まだブラッキーは戦える。その瞳には、戦意がまだ燃えている。
 エーフィを下げたことが僕の我侭なら、ここでブラッキーを戦わせることも僕の我侭だ。

「本当に自己中心的ですね、主は」

 痺れる体に鞭打って、立ち上がるブラッキー。

「ごめんな、迷惑ばかりかける」

 拳に悪タイプのエネルギーを纏わせて、ファイティングポーズ。
 “騙まし討ち”――気配を殺して相手に近づき、死角から攻撃をくらわせる必中の技。それがブラッキーに残された、唯一の牙だった。

「いいえ。これも貴方の臣下なればこそ。他の誰にも、この役目は渡せません」

 疾走するブラッキー。カイリューは麻痺で動けず、その身に殴打の嵐を受ける。

「やはり堅いですね。傷を負わせた気がしません」
「これでも神聖なドラゴンなんでね。そんな破壊力じゃこの身は打倒できないよ」

 不適に笑うカイリュー。事実、あと五回ほどブラッキーが仕掛けないと彼女は倒せない。
 正に薄氷を踏むような展開になった。麻痺での行動不能と、こちらの回復のタイミング。読みきれなければ、即敗北に繋がる。
 
「くぅぅ」
「ちぃっ」

 次のターン、両者共に麻痺で行動不能。このターンは流れて、攻撃は次の機会に。

「……もういいだろう。楽にしてやれ、カイリュー。“逆鱗”だ」

 そうして、薄氷はあっさりと踏み砕かれる。ワタルが指示を出した技は、ドラゴンタイプの中でも随一の破壊力を誇るものだった。
 逆鱗とは、竜の顎の下に一枚だけ逆さに生えているとされる鱗のことをいう。
 竜は本来人間に危害を加えることはないが、その逆鱗に触れられることを非常に嫌うため、これに触れた場合には激昂し、触れた者を即座に殺すとされた。
 ここから転じ、萌えもんの“逆鱗”は、その者が持つ怒りのエネルギーを破壊力として増幅し、暴れまわるという大技のことを指す。
 今まで麻痺だなんだと充分にその力を発揮できなかったカイリューにとって、正にそれはうってつけの技だった。

「ブラッキー、すまない……」

 トレーナーとして、敗北の瞬間から目をそらすことは出来ない。
 僕が瞳を閉じる前に見た光景は、ブラッキーがカイリューの豪腕を受け、ゴム鞠のように吹き飛ばされるものだった。




「――と、このようなことがありまして」

 ここはセキエイ高原付属病院の、とある一室。
 ここにいる人物が、病人なのか迎賓なのかよく判らなくなるほど豪華な部屋だ。そこのベット脇の椅子に、僕は腰掛けている。

「早々にワタルの坊やとやり合うとは、ご苦労だったじゃないか、ジャン」

 骨折した足を吊るし、しかしその覇気は小揺るぎもしない病室の主。
 普通の病人服ではなく、上等なシルクで作られたローブを身に纏っているのは、何を隠そう僕の祖母、四天王のキクコ婆様だ。

「まぁ結果は引き分けということで、試練には合格したようです。これからよろしく頼むと言われました」

 バトルが終わると、ワタルは会話もそこそこに颯爽と部屋を出て行ってしまった。
 いま冷静になって考えると、ただ暇だったからバトルがしたかっただけなのかもしれない。最後の“逆鱗”にも、そんな鬱憤が込められていたようにも思えるし。
 僕はリーグ休業状態による、思わぬ被害を受けてしまったのかも。

「ワタルらしいね。……あぁ、お前の萌えもんたちは?」
「先に宿舎に行かせました。エーフィとブラッキーはセンターで回復しましたが、念のために他の三人も付けてあります」
「そうかい。久しぶりに会いたかったけど、またの機会にするよ」

 僕の答えに、少し寂しそうな顔をしたキクコ婆様。なんだかんだ言って、キクコ婆様は僕の手持ちの皆によくしてくれている。
 初めて顔見せしたときには、なぜゴーストタイプがいないのかと憤慨してたけど。

「はい。また皆を連れてお見舞いに来ます。……それで、お体のほうはいかがですか?」

 なし崩し的にワタルとのバトルについて話していたけど、本来はこれが目的だ。

「そうだねぇ……。全治三ヶ月と医者は言ってたよ。だからその間、私の代わりに四天王を頼む」

 全くもって間抜けなことに、僕は代理四天王をする期間について知らずにここまで来てしまっていたのだ。
 余裕をもって、大学を半年休学してきてよかった。
 
「分かりました。不肖の身ですが、その大任を務めさせていただきます」

 姿勢を正してそう言った僕に、キクコ婆様は満足そうに頷く。
 そして、サイドテーブルに置いてあった何かを僕に差し出した。

「これは……!」

 菱形の銀の台座に、それに合わせてカットされた四角錐の水晶がはめ込まれたバッジ。
 この地の由来である石英の、純粋な結晶体がはめ込まれたそれは、間違いなく四天王の――。

「そう。四天王のバッジさ。これで誰も文句の付けようがない、四天王の誕生さね」

 震える手でバッジを受け取る。本来軽いはずのそれは、込められた想いゆえか重い。
 どうしようもなく震える手をどうにか制してバッジを胸につけて、キクコ婆様に向き直る。

「いいかい、その四角錐の底辺にある四つの角は、私ら四天王を表している。頂点は言うまでもなくチャンピオンだ。
 私らはチャンピオンを支える四天王。それを忘れずに、頑張りな」
「――はい!」

 このバッジに相応しい覚悟が僕にあるのか、まだ分からない。
 でもようやくここに、代理四天王としての僕が生まれ落ちた。
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