5スレ>>821


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『憧れはなくならない、だけど』のアーボックの足


「第13回、この先どうしようかな会議ー」
 どんどんぱふぱふ。
 鳴り物を高らかに響かせ、センター利用中のお客様に多大なご迷惑をかける。
 しかも一番聞かせたい人に届かないのだから、泣きっ面にスピアーというものだ。
「…………」
 紫色の球は騒音の振動に揺れるだけで、人為的なそれは一切見せてくれない。
 買い損となったラッパやら太鼓やらをなげうち、マスターボールを目前にかかげる。
「なぁ、昨日もオレが悪かったよ。もう万が一にもお前をマサキに預けるとか考えないから。
 それどころか、新入り入ってきたらリザードンにも育成手伝ってもらいたいんだって。
 人間社会のルールとか、字の読み書きとか、オレじゃ行き届かないあたりをさ。な?」
 トレーナーがボールに話しかける光景そのものなら、そう珍しくない。
 しかしボールは流通してない代物で、トレーナーは今さっき騒音鳴らした犯人なら話は別だ。
 いつの間にやら出来た人だかりに振り返らず、マスターボールに話しかける。
「あーっと、じゃあその、なんだ。
 夕飯はあそこのレストランで食べるか? 落ち着ける店でさ、ほらサファリパークにあっただろ?
 リザードンの好きなのなんでも食べていいから。何の心配もしなくていいって。
 戦闘も何もさせないし、今日こそひどいこと言わないよう気をつけるから、とりあえず出てきてくれって」
 背後の人だかりから漏れる雑音を耳にした。
 それは『痴話喧嘩かしら?』とか『頑固な萌えもん持って大変だなぁ』とか。
 どうやら人目についてる理由は、拗ねた妹を宥めてる兄を思わせるオレの姿そのものらしかった。
「あ、もしかして人目があるから出るの恥ずかしいとか、うわっ?
 ちょっとボールん中で暴れるなって。悪かったよ、その、ごめんってば」
 球体を抑え込む両手の隙間から、俯いてぐずる彼女をうっすらと目視する。
 やれやれとため息。
 あと何日かければ、このリザードンを泣かさずにすむのかな、オレは。



『いつか二人きりで」のミニリュウの足


 お日様の向こうからピジョットが急接近してきた時は何事かと思った。
「ゆうびーん。ゆうびーん」
「え? オレ宛てに?」
 ピジョットは頷き、紙の束がぎっちりと詰まったリュックから一枚、茶封筒を抜き取りオレに渡してきた。
 B4用紙がすっぽり入りそうなそれを見ると、確かにオレの名前が書かれていた。
 受け取り印をサインで済まして、ピジョットの飛び去る羽音を耳に、茶封筒を睨む。
 危機でなかったのは良かったとして、こんな書類でも入ってそうな郵便物に心当たりはなかった。
 なかったが、密閉された入れ物を渡されればついついとその封を開けるのが人間である。
 糊付けされた封に指を滑らせる。紙の裂ける小気味いい音と共に、その中身が目に触れた。
 なに仮に間違いだとしても、一目見ればロケット団に命を狙われるようなブツでもあるまいて。
「ん、ダイレクトメールか?」
 味気ない入れ物と相対した、実にカラフルな配色が見える。チラシの類らしい。
 なにかの会員になったっけか、とチラシを抜き取る。
 真ん中に書かれた見出しを読み上げる声と、夕飯調達に出ていた筈の古株の声は、見事に被った。
「マスター、戻りました。ミニリュウったら凄いですよ、川の魚ほとんど」
「バカンスするならナナシマで! 温泉、木の実獲り、ホラースポット盛り沢山!
 なんと伝説の萌えもんにも会えちゃうかも!? 七泊八日で大満足プラ、ン……」
「…………」
「…………」
 被ったわりにはオレの台詞だけ長いって?
 そりゃまぁ、途中でリザードンが黙っちゃったからね。
 へそくりを見つけられた主婦が如きリザードンの足元に、新入り発見。
 この新入りことミニリュウがまた、素直で遠慮を知らないストレートな子なのである。
 つい、口に出てしまうのだ。
 リザードンが奇声と共に繰り出したかえんほうしゃでチラシを焼き払う、実に18秒前のことであった。
「あーっ。あのかみってリザードンがおとといこっそりたのんだのだよねっ?
 『おんせんいって、きのみとって、ファイヤーさんとあって。それでずっとますたーとふたりで、えへへ』
 っていってたやつ。
 いいなー、たのしそうだなー。ふたりでいったあとは、あたしとね、ごしゅじんさまっ」



 『はるがきた日』のハブネークの足


 使わなくていいから、それ返せ。
「ね、このかまきれいだねっ。かっこいいねっ」
「ん?
 あ、カマね。そりゃあ毎日川を斬って鍛えてるから」
 離せって、お前は空飛ばなくていいんだから。
「かわ? かわってきれるの?」
「斬れるわよ。この私ならね」
「へーっ。じゃあとってもつよいストライクなんだね。
 すごいなー。かっこいいなー」
 うー! うー!
 あヂッ。ええいだから覚えてもないしっぽをふるをするなって。
「ねぇ、えーと、ミニリュウでいいのかしら」
「うん。おなまえないからミニリュウでいいよ」
「あなたはお父さんやお母さんから、ストライクには近づくな、って言われてない?」
「? どうして? ストライクかっこいいんだから、そんなこといわれないよ」
「あらそう。ならいいわ」
「ねぇっ。かわきるところみせて? ずぱーってできるんでしょっ?」
「そのうちね。それと、あともう一ついいかしら」
「なに?」
「あれ、止めなくていいの?」
 飛ばせてくださいよぅっ。じゃないとわたし、わたしっ。
 だーかーらー! んなことせんでええ言ってるだろうがー!
「うん。ふたりともとってもなかよしだから、いつもああしてあそんでるの」
「あらそう。それはホント、変な人達ね」
 ばきん。
 あー! ひでんマシンー!



『三者三様』のイワークの足


「もしもし。ああ、どうしたリザードン。電話使うなんてよっぽど」
「なんだってっ? 通行人を燃やしたぁっ?」
「どうしてまた、は? 肩がぶつかってケンカになったからつい?」
「……誰だか知らないけど、一つ言っておく」
「オレのリザードンはケンカしない。そうなる前にまず泣き喚いて土下座する」
「外見で喧嘩っ早いって判断するなよ、いつか失敗するぞ。
 分かったか、分かったならはいと言えこれはアンタのためでもあるんだっ」
「だいたいなんでもかんでも見た目どおりなら誰も苦労しないんだよな。
 リザードンは確かにそう見えるよ。ああそうさオレだってそう思ったし憧れた。
 でもそれは偏見なんだよ。臆病な奴も泣き虫な奴もその両方だってたくさんいるんだ。
 いやむしろだからこその魅力ってのも十分たっぷりありうるんだよ分かったならはいと言えっ。
 なんだ切るなよな。お前やオレみたいな奴がいるからリザードンは、え?
 もう自分詐欺に向いてないかな? どうでもいいわそんなことっ」



 『誰でもできるオーバーヒートの覚え方』のアーボの足


「え? お前リザードンにオーバーヒート覚えさせてんの?」
「あぁ」
 覚えさせたかったわけじゃないけどな、とは言わない。説明が面倒だ。
 図鑑の画面に映る幼馴染の顔は、どうにも煮え切らない表情を見せた。
 自慢話の押し売りに花を咲かせていたさっきと比べると、どうにもこいつらしくない。
 だからほいほいと追求してしまった。
「どうした?」
「いやさ。リザードンの大技なら、ブラストバーンじゃねぇかなってよ」
「む」
 確かにそうだ。
 リザードンにしか出来ず、リザードンだからこそ出来る火炎の大技、ブラストバーン。
 周囲を巻き込む程の大爆発は、ほんの僅かではあるが、オーバーヒートをも上回る。
 かくいうオレも存在は知っているし、出来るなら一目拝んで崇拝したいわざだ。
「お前がリザードンフェチだって事考えれば、絶対それ選ぶと思ったんだぜ? 
 せっかくカメックスに対策させてたのによぉ」
「知らねぇってそんなの。オレだって覚えさせたいし」
「あん? じゃあなに。選んだんじゃなくて、選べないわけ?」
「ぐ」
 痛いところをずけずけと言ってのける口は、こいつにとって矯正対象じゃないようだ。
 更にずけずけと踏み込まれないよう、防波堤を張っちゃろう。
「言っとくけど、ブラストバーン覚えさせようと思えば出来るんだからな。
 ナナシマのどっかにいる婆さんに認めてもらえばいいんだろ? それぐらいな」
「あの婆さん結構選定厳しいぜ? お前に出来るかなー?」
「出来るよバカ。あと、理由はそれじゃない」
「へー。なに?」
「それは」
 一瞬ためらったが、こいつにはきっと理解出来ないだろう。
 そっと、気づかれないように、背後から「ダウト!」と騒がしいテントを見やった。
 聞こえないよな。うん。
「少しでも包帯の量は減らしたい」
「は?」
 ほら、分からない。



『彼女の散々な一日』のハガネールの足


「本当にすいませんでしたっ」
 謝罪のお辞儀は45度。気持ちも入れて52度と言ったところか。
 想像以上によく出来ていて、胸を撫で下ろした。
「うん、それでいい。オレも一緒にお辞儀するし、緊張しなくていいぞ」
「でも悪いのはわたし」
「オレはお前のマスターだから悪いのはオレだ。一蓮托生一心同体だよ」
「い、一心同体っ?」
「そうだ。難しい話はオレがするから、お前は謝るって気持ちを忘れるなよ」
 緊張と罪悪感からか、顔を赤くするリザードンを座らせる。
 サファリパークの入り口からわずかに離れたこの建物は、事務所のような所らしい。
 そして訪れて、いの一番に通されたこの部屋は、まるで社長室と言っても差し支えなかった。
 煌びやかな装飾と羽毛に包まれた気分にしくてれるソファ。
 少なくとも、昨日大暴れした犯人とその主を通すような部屋ではないのは明らかである。
 今思うと、案内した職員の応対は、接待されにきたお偉いさんに対するそれだった。
 まるであべこべである。賠償覚悟で持ってきた全財産に出番はあるだろうか。
 それにしても、だ。
「なんであの人はあんなにパンクなアフロヘアーだったんだ?」
 あんな髪型の人、前来た時いたっけか?
 腕時計を見やると、もう20分が経っていた。
 もう一度リザードンに練習してもらおうと思った矢先、こんこん。
 紛れもないノックの音だった。
「あ、来たぞリザードン」
「一心、あ、はいっ」
「いいか? 悪いことしちゃったのはしょうがないから、きっちり謝るぞ」
 同時に席を立つ。事件の大きさを思い出すと、心臓が高鳴った。
 ドアの方向を向く。ノブが回る。
 開ききった瞬間に同時に頭を下げた。
「本当にすいま」
「申し訳」
「ごめんなさああああああああああああああああああああい!」
 二人合わせて104度となる筈だったお辞儀は、180度の土下座の前に静止した。
「えっ?」
「へっ?」
 一瞬リザードンかと思ったが、同時に挙がった疑問符がそれを否定した。
 目前には、床に額をごりごりと押し付ける、え、なにこれ?
「私が最初に襲い掛かったばっかりにぃ!」
「ばかを言いなさんな! あの時私が襲わなければ、くっ」
「とにかく食べないで! これからは胞子バラまきませんっ」
「ソーラービーム怖いソーラービーム怖い」
「まさかわるあがきであんなことになるなんて……!」
「もうリザードンは襲いません! ですから平に! 平にご容赦を!」
 みな一様に謝罪と後悔を述べ、床一面に広がり膝を付き額をたたき付ける。
 その光景は、そう。まるで閻魔の裁判に怯える罪人の群れだった。
 サイホーンにニドリーナにパラセクト、カイロスにモルフォン。
 ドアの向こうに影が見えた。多分、目の前の彼らと同じ萌えもんがいるのだろう。
「あ、えーっと」
 なにか言おう。さもないと、目の前の彼らは、延々と土下座を続けている気がする。
 しかし、オレの声は彼らにではなく、真横で言葉を失っている彼女に、疑問としてかけられた。
「お前、何したんだ?」
 リザードンは黙ったままだった。
 
 
 
『子供は風の子ちょっとアホの子』のハクリューの足


 進化って恐ろしい、とつくづく思う。
 決して適わないはずの相手と対等に渡り合うきっかけとなりうる。
 先のふたごじまでフリーザーにやられなかったのは、ひとえに進化のおかげといえる。
「…………」
「だいじょうぶー? ごしゅじんさまー?」
「あのなミニ、いやハクリュー」
「?」
「暴走しなきゃな、って言ったよな」
「うん。よくわかんないけど、はやくなみのりしちゃいけないんでしょ?
 あたし、ゆっくりやったよ?」
「なんだそうか。ゆっくり、か」
 進化って恐ろしい、とつくづく思う。
 その能力の激しい向上に、なにより萌えもん自体がついていけない。
 進化って恐ろしい、とつくづく思う。
 成長している筈なのに、せいかくはこれっぽちも変わらない。
 以上、なみのり開始3秒で振り落とされ挙句海に叩きつけられた男の独白であった。
 ふたごじまじゃなくて本当に良かったぜ。ぐふ。
「あれ、ごしゅじんさまー? あたしまだあそびたりないよー?」



『ほのお萌えもん家庭教師リザードン』のノコッチの足


 とてもいい夢を見たらしい。
 今朝の寝覚めは普段よりずっと清々しく、生まれ変わった気分だった。
 朝食も身支度も済み、ジムの開始時間も過ぎていた。
「マスター、もういいですか?」
 いたく気に入ったらしいメガネを光らせ、リザードンが問いかける。
 頷き、もうくたくたになってしまった参考書を閉じリュックにしまった。
 わずか一日使っただけのこれに、オレはまるで戦友のような感情を抱いていた。
 残念ながらこれからの決戦に連れていけない戦友達は、パソコンの中で吉報を待ってくれているだろう。
 しかし、彼らの誰よりも吉報を望んでいるのは、やはり言うまでもない。
「行こうリザードン。クイズなんてさっさと片付けて、カツラを倒そう」
 彼女のカントー最高の座は、もう目の前にある。
 センターを出て北へ歩く。グレンじまは本土の都市よりも狭いぐらいで、ジムにはすぐ着いた。
 昨日初めてここに立った時より、何故か熱を感じなかった。
 気負いも緊張もあるのに、この足を踏み出す事に何の躊躇も感じない。
 その、地に足をつけながら浮いている感覚が不思議で、ついリザードンに声をかけた。
「クイズは全部答える。お前はウインディとの一騎討ちだけを考えていてくれ」
「はい」
 メガネの奥の瞳が、控えめながら、ジムの中にいるだろう敵を睨みつけていた。
 そしてオレは今、負ける気がしていないのだと理解した。
 掴んだドアノブまで冷たい。ジムから噴き出ている筈の熱を、オレはなんとも思っていない。
 この確信を勢いに、ドアを引き剥がさん力を込めて、ドアノブを押した。
 がちゃり。
「え、がちゃり?」
 もう一回、渾身の力を込めて。
 がちゃり。
「え? え?」
 小刻みに押してみる。
 がちゃがちゃがちゃがちゃ。
 ドアはわずかに行き来するだけで、本来の役割を果たさず、閉ざされたまま。
 同じく動揺するリザードンにも手伝ってもらおうと声をかけようとすると、背中を会話が通った。
 おそらく地元人と思われる、喉仏の潰れたような掠れた声と喉が切れそうな甲高い声。
「あれ、なんか涼しいと思ったら、ジム閉まってますね」
「おお。今日からカツラの奴、研究月間だからな。ジムも全面閉鎖だ」
「じゃあひみつのかぎ持ってかないとどんな用事があっても取り合ってくれませんね」
「だな。しかし、ジムの鍵あんなとこに隠すなんて、ホント変なおっさんだよな」
 会話の単語も意味もよく分からなかったが、欲しい情報は十分汲み取れた。
 つまるところ、その、あの。
 隣でガラスの割れる音。
「挑戦、出来ない……」
 どっちが言ったかは分からなかった。
ツールボックス

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