あくる日、早朝、アマネの出発にはアマネの姉さん・ナナミさんやオーキド博士も来ていた。
かくいうオレも、昨日はあまり眠れなかったからあくびを噛み殺しながらも見送りに来たのだった。
「んじゃまぁ、行ってくるわ」
「行ってきまーす!」
アマネとラピスは声を合わせて出発の声を上げる。
へぇ、割ともう息もあってるみたいだな。さすがはポケモン博士の孫ってとこか。
「気をつけてね、アマネ」
「ポケモン図鑑の完成を待っとるぞ」
「おう、任しとけ。きっと完成させるからよ」
ナナミさんとオーキド博士が口々に励ましの言葉を送るが、オレはなぜか何も言い出せずその場に突っ立っていた。
言いたいことがありすぎるからか? 頭の中がぐるぐるして言葉が口から出てこない。
頑張れ、気をつけろ、拾い食いすんなよ、知らない人について行くんじゃありません。
うらやましい。
・・・あ? うらやましいだ?
なんだそりゃ。結局オレはあいつがうらやましいのか?
何を今さらバカなことを。オレはもう・・・。
「よう」
いきなりの声にハッとすると、いつの間にか目の前にアマネが立っていた。
「親友の旅立ちに何シラケたつらしてんだよ。まさかオレがいなくて寂しいとかいうんじゃないだろうな?」
この野郎・・・ニヤケてんじゃねぇ。
「はっ、寝言は寝てから言えってんだよ」
「ははっ、まったくだな。
じゃあ・・・行ってくるぜ」
そう、だな。何をシラケてんだ。オレはオレ、こいつはこいつ。昨日自分でそう考えたばかりだろうに。
今はこいつの旅立ちを祝ってやりゃあいい。オレの唯一の親友のために。
「あぁ、行って来い」
オレたちにはそれだけで十分だった。
「よし、行くかラピス」
「はい!」
アマネとラピスは背を向けてマサラタウンを後にした。
これからの旅を心待ちにするかのように。
それをオレはどこか遠い目で・・・。
・・・心待ち?
待てよ、あいつ、なんで・・・。
「ナナミさん!」
オレはナナミさんに掴み掛らんばかりの勢いで問いかける。
「ど、どうしたの。サイカくん」
いきなりのことにナナミさんはビックリしたようだが、それを気にかけている暇はない。
「あいつ、なんで今まで旅に出なかったんですか?」
そう、なんで今の今まで考えもしなかった。
あいつは昔からポケモンが大好きだったはずだ。オレたちがはじめてポケモンを手に入れた時も一番喜んでたっけ。
なのにあいつはオレがトレーナーをやめた時、自分もトレーナーをやめちまった。
それ以来あいつがポケモンを持ったという話は聞いたことがなかった。
最初はあいつも「あいつ」の死にショックを受けたんだと思ってた。けど、あんだけポケモンが好きだったあいつが、今の今までポケモンを持たなかったのはなぜだ?
ホントならあいつはいつでもポケモンと旅に出ることができたはずだ。なのに、なぜ・・・。
「え、えぇと、それは・・・」
「・・・君のためじゃよ」
ナナミさんが言いよどんでいると、オーキド博士が口を開いた。
「おじいちゃん! それは言うなってアマネが・・・」
「オレの・・・ため?」
オーキド博士の言葉がまるで異国の言葉のように聞こえた。
オレのためって・・・どういうことだよ。
「本当はあの子から口止めされておったんじゃがな。どうやらこのままでは君が歩き出せそうにないからのう。
あの子は、いまだに約束を守っているんじゃよ」
「約束・・・」
オーキド博士の言葉を自分でもう一度繰り返す。
約束・・・。それは、そう、昔3人の幼馴染で交わしあった約束。
3人でいっしょにポケモンマスターを目指す。
いっしょに・・・。
「マドカ君が亡くなったことで君らの約束は宙ぶらりんになってしまった。
それでもあの子はかたくなに約束を守っていたんじゃ。いっしょにポケモンマスターを目指す、とな。
じゃから今までポケモンも持たずにおったんじゃよ」
それはオレにとって初めて聞くことだった。
あの陽気で底抜けに明るいあいつがそんなこと考えてたなんて。
あのバカ・・・それならそれで一言くらい・・・。
そう考えるよりも早く、体が動き出していた。
あいつが旅立ったあの道の向こうへ。
後ろでオーキド博士の声が聞こえるが構ってる暇はない。今ならまだ間に合うはずだ。
あの大バカ野郎にでかい借りができちまった。借りを作るのは大嫌いだってのによ。
とりあえず今はあいつに一言言ってやらなきゃ気が済まない。
サイカが駆けていったあと、オーキドとナナミの2人だけが残された。
「・・・おじいちゃん、これでよかったのかしら」
ナナミが自問するように、オーキドに問いかける。
「・・・こればっかりは分からんよ。
それでも不思議じゃのう。あの子たちならなんとかなりそうな気がするんじゃよ。
あの子たちならきっと辛い運命だって乗り越えられるとな」
走っていくサイカの背がもう見えないくらい遠くなっていた。
オーキドの目はその背中を見ているようであり、ここではないどこか、今ではないいつかを見ているかのようだった。
それはこれから起きる何かを知っているような。過去に起きた何かを懐かしんでいるかのような。
「さて、朝飯もまだじゃったな。ぼちぼち家に帰るとするかのう」
「あ、おじいちゃん、待ってよ!」
一度伸びをして、家路につこうとするオーキドの背中をナナミが追いかける。
その途中でオーキドはもう一度振り返り、孫たちが旅立っていった道の向こうをみる。
(願わくばあの子たちとポケモンたちに幸多からんことを・・・)
ふぅ、できることならあいつと一緒に旅立ちたかったんだがな。やっぱあいつはまだマドカのことから歩き出せない、か。
せめてオレの旅立つ姿を見てきっかけになればって思ったんだが、どうやらそれも失敗しちまったみたいだし・・・。
結局、オレはあいつのために何もできなかった、か。
「マスター、どうしましたか。元気なさそうですけど・・・」
どうやらいつの間にか暗い顔をしてたみたいだ。ラピスが心配そうな顔をして見上げてた。
旅の初日から手持ちに心配されるなんざ、トレーナー失格だなぁ。
「いや、なんでもないぜ。ただ朝飯どうしようかなぁって考えてたんだよ。ラピスはなんか食べたいものあるか?」
「私はマスターと一緒ならなんでもいいです!」
くっ、やっぱこの子かわいいわ・・・。
・・・サイカには悪いけど、今はオレ一人でトレーナー続けさせてもらうよ。
そしていつかお前がまたトレーナー始める時には・・・。
「アマネぇ!!」
突然の大声に振り返るとそこには息を切らせたサイカが立っていた。
見たところモンスターボールは持ってない。こいつこの道をポケモンも持たずにきたのかよ!
「おいおい、丸腰でここまで来るなんてさすがに危ねぇんじゃ・・・」
「お前!」
オレの言葉は途中で遮られた。
「お前、なんで今まで旅に出なかったんだよ・・・」
は? 何をいきなりこいつは・・・。そんなにオレにいなくなってほしかったのか?
「んー、オレだってあの事故のことで何も思わないわけじゃなかったんだぜ。やっぱりショックだったしよ」
それは間違いじゃない。あんだけ仲良かった幼馴染の一人が死んじまったんだ。そりゃショック受けるなって方が無理だ。
「・・・オーキドのじじぃから全部聞いてんだよ」
げっ! じいさん、しゃべっちまったのかよ・・・。
まぁ、サイカにポケモンを持たせるのを相談したのは確かにオレだがよ・・・。あぁ、やっぱ相談すんじゃなかった・・・。
やべぇ、こんなときなんて言い訳すりゃいいんだよ。
じいさん、帰ったら覚えとけよ。
「ん、あぁ、まぁ、ほら、なんつーかさ・・・」
「この・・・大バカ野郎!!」
・・・いや、まぁさ、黙ってたのは悪いけど大バカ野郎はなくねぇか? 泣くぞ。
「いや、別に「あいつ」のことだって嘘じゃねぇし・・・。そりゃあ悪かったけどさ」
「バカ野郎は・・・オレだ」
へ?
「何も知らずに、何も気づかずに、自分の殻に引きこもってたのはオレだけじゃねぇか・・・。
これをバカ野郎と言わずになんていうんだよ」
こいつまさか・・・。
「オレは、「あいつ」のことを、マドカのことを理由に塞ぎこんでただけだ。お前のことだって何も考えずに・・・。
大切な約束をダメにしてたのはオレの方だったのに・・・」
「あぁ、まったくバカ野郎だな」
「っ!」
まったく、こいつは本当にバカ野郎だな・・・。
「けど、気づけたんだろ? 自分が結局はどうしたいかに」
「・・・・・・・・・・・・」
サイカは無言。でもその目はそれ以上に何かを語りかけているようで。
「待っててくれ」
ようやく紡いだ言葉がそれかよ。まるで恋人同士の別れだな、おい。
「きっと追いつく、今度は必ず約束を果たす。だから・・・待っててくれ」
まぁ、陳腐すぎてオレが恋人だったら「はい」なんて言えたもんじゃないが・・・。
「おぅ、待っててやるよ。今度こそ約束忘れるんじゃないぞ」
「・・・あぁ」
陳腐だからいいんだ。オレたちは親友だから。下手に飾り付けた言葉なんていらない。わずかな言葉でもわかりあえるくらいの時間は共有してきたはずだぜ?
「それじゃ、オレは先に行ってるから、お前も追いついてこいよ」
「あぁ、すぐに追い抜いてやるから覚悟しとけよ」
「ははっ、ぬかせ」
そういってオレたちは逆の道へ進む。
オレはこれからの道へ。あいつは進むための手掛かりを手に入れに・・・。
7年か・・・長かったな。ようやく、オレたちの約束が叶えられそうだぜ、マドカ。
「マスター、なんか嬉しそうです」
おぉ、ラピスわりぃ。サイカとの話に集中しすぎて忘れてたぜ。
「おぅ、やっと約束が叶うんだからな」
「?」
ははっ、そりゃわかんねぇか。けどあいつの性格ならまたあのポケモンを選ぶはずだ。
きっとお前のいいライバルになるぜ。
・・・楽しみだな。これからが。
「オーキド博士!」
研究所に駆けこんだオレを待ち構えていたかのようにオーキド博士が立っていた。
「おぉ、やっぱり来おったか」
ぐっ、このニヤケ顔は孫そっくりだな・・・。全部お見通しってわけか、じじぃ。
「まだ、ポケモン残ってますか!?」
その言葉と同時にひとつのモンスターボールが差し出される。
「君用に取っておいたものが無駄にならなくてよかったわい。気に入ってくれるといいがのう」
何から何までこのじいさんは・・・。
オレは手渡されたモンスターボールをその場で放る。
光の中から現れたのはオレンジ色の体に、しっぽの火。
8年前と変わらない、オレが一番好きだったポケモン。
「はじめまして、マスター、よろしくお願いします」
止まっていた時間が、今、動き出した。
「あぁ、よろしくな。ヒトカゲ」
駄文
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは論文を書いていたと思ったらいつのまにかSSを書いていた』
な… 何を言ってるのか(ry
というわけで初投稿です。
みなさんのSSを読むうちに私もSS書いてみたいなぁと思ってたんですが、なかなか書き出せず・・・。
冒頭のとおり論文書いてたらいつの間にかSS書いてました。逃避パワーすごい!
というか萌えもんSSなのにポケモン表記のままだったり、あまつさえポケモンも全然でてこないという体たらく。プロローグなので許してください・・・。
一応次回から主人公サイカとヒトカゲの旅立ちが始まります。
いろいろとトンデモ設定や原作レイプな部分もありますが少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
っていうか文章力なさすぎですいません・・・ orz
最終更新:2010年07月30日 11:15