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ホワイト・ドラゴン・クリスマス
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ふと窓を見れば、雪が降っていた。
12月25日、午後8時過ぎの空は、当たり前のように真っ暗で、なんだか切ない。
「もうクリスマスも終わりかぁ」
今年のクリスマスは、特に何をするでも無く、ただ家で過ごしていた。
ご主人様が、風邪気味だったからだ。
まあ、いつも一緒なのだから、クリスマスというきっかけがあったところで一度くらい休んでもいいだろう。
一緒に出かけるチャンスなんていくらでもあるし、何よりご主人様の具合を悪化させるわけにもいかないし。
そんなわけで、今年は家で小さな苺のショートケーキを食べてささやかなパーティを開くだけだったのだが、
だが、
やっぱり女の子にとってはずっと待ち望んでいた日であって、
ずっと楽しみにしていた日であって、
ああ、なんでこんな時に風邪なんてひくんだろう、ご主人様のばか。
そんな本心ではない悪口を心で呟きながら、溜息一つついて――
「悪かったな、馬鹿で」
「うひゃう!?」
――心臓が、止まるかと思った。
突然掛けられたご主人様の声に。
そういえば姿が見えないなと思っていたらこれである。
しかも、どうやら心で呟いたはずのそれは無意識に声に出てたらしい。
「あー……えと、あの……ちが……」
口調こそ憎まれっ子のそれであったが、その顔はいかにも申し訳なさそうな表情である。
まずい、非常に気まずい。
「や、冗談ですよ!? 本気で思ってるわけじゃなくて……!」
「わかってるよ。そんな可愛い服でおしゃれまでして、気付かないわけがないさ」
あ、さり気なく褒められた。
……じゃなくて!
「それは、その、そりゃ女の子としては……ぁう」
ついつい気合を入れてしまったことを悟られた照れで顔を真っ赤にしながら、
自分でももはや何を言っているのかわからない言い訳をごにょごにょと続けていた。
そのか細い声を遮るように、
「じゃあ、いくぞ」
と、ご主人様の声。
「へ?」
急に割り込んできたことと、脈絡のないことに驚いて見れば、
ご主人様は暖房の効いた部屋の中であるのにも関わらず、まるでこれから出かけようとでもいわんばかりに着込んでいる。
あれ? どうしてジャンパーなんて羽織ってるんだろう、そんなに風邪が酷いのだろうか? だったらちゃんと布団に寝かせてあげないと――
「ほら、はやくはやく」
そう言いながら私に手渡してくれたのは、私のコート。
受け取りながら、見当違いなことを考えながら、つまりどういうことなんだろうと、理解したのは数秒後。
「――……っ!」
その時の私の顔は、ひどく子供じみていただろう。
自分でもわかるくらい私は顔をぱぁっと輝かせていた。
そんな間抜けな顔を見て、ご主人様は安心したようにちょっぴり微笑みを浮かべてくれる。
「クリスマスツリーでも、見に行こうか」
「はいっ!」
思わずご主人様に駆け寄って手を取った。
ご主人様は驚いたようだったが、そういえば私から手を繋ぐことってあんまりなかったかも。
二人、ちょっと気まずそうに目を合わせたが、それはすぐさま笑いになって、
手を繋ぎながら、すこし顔を染めながら、寒空の下へと出かけていった。
* * *
クリスマスツリー。
この時期、つまりクリスマスのことだが、
この小さな街にも、やたらと大きいオブジェが置かれるのだ。
色とりどりの飾りで賑わい、イルミネーションが美しい、大きなクリスマスツリー。
「ほわー……」
間抜けな声を漏らしながらそれを夢中で眺めていた私は、
そんな私の横顔を見ながら浮かべていたご主人様の苦笑に気付けなかった。
「……ゴメンな、ホントに。こんなとこに連れてくることしかできなくて」
「え!? いや何言ってるんですか!?」
ご主人様は繋いでいた手を少し強く握って、本当に申し訳なさそうに言う。
「ホントに楽しみにしてたのに、我慢させちゃってなぁ……」
その気持ちだけで十分なほどに嬉しかった。
「いいんですよ、ご主人様さえいれば、どこだっていいんです」
「……ありがとな」
お互い、さらにしっかりと、手を握り合う。
嬉しくて、楽しい。ご主人様さえいればあとは何もいらないと、改めて実感する。
冗談でも「出掛けたかったのに……」なんて思った過去の自分をぶっ飛ばしてやりたい。
ああ、もうっ!
「ご主人様」
「ん?」
「……大好きですっ」
ぎゅっと、
顔をかっかと火照らせながら抱きついて、
キスなんて、しちゃったりして、
風邪を、貰っちゃってりして?
なんて……、
12月25日、午後9時過ぎの空は、当たり前のように真っ暗だったけど、
暖かくて、綺麗で、幸せな一日だった。
降り頻る雪も、今はこんなに心地いい。
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ホワイトドラゴンの、
ホワイトクリスマス。
その伏線あまり拾ってないネ。
零です。クリスマスSS二弾目、
しっかりきっちり嫁とイチャラブしましたうふふ。
ところでPDWでミニリュウ♀ゲットしたんですよ。任天堂さんからのクリスマスプレゼントだー!
ってなわけで、こんな拙作を読んでくださった方々に感謝をしつつ、このあたりでー。
最終更新:2010年12月27日 18:51