5スレ>>889-1


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sweet hideout 1-1


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私が……いや、『私達』が求めたのは
虚と実の反転だった……
 
花の群生地。
その一つを手に取る。
 
いや、手に取るというのは、実体のない私にとって
とても無意味で滑稽な言葉だ。
 
事実、花は私の手を透かしてすべて視認でき、
それは手に翳した不可視の業で支えているにすぎない。
 
私にあるのは虚空であり、その他の者には実体がある。
 
言い換えれば、虚空は実体のない、空の存在……
 
風が凪ぎ、花弁とも花粉とも取れる無数の粒が
滔々と空へと舞い散る。
 
私は帽子もスカートも押さえない。
空の私に風は答えてくれず、
揺れることが無いから……
 
私は反転を求める。
かつて、『私達』を虚空へと追い遣った実の者達へ
精神の虚を捧げ、私に実体を還すために……
 
【???】
「色褪せた世界に束の間の別れを……」
 
【???】
「そして束の間の出会いに酔いしれて……
後に知る悲しみの傷を舐め合うことを私は望もう……」
 
幾重もの精神の虚空を眺めてきた私は、
新しい虚空を……悲しみの傷を紡ぐ為の者たちの選定を始めた……
 


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さらさらと流れる川のせせらぎを聞きながら
渡り橋のように並ぶ石を飛び越えていく。
 
【???】
「気持ちいい場所だな~。まさかバイトの行事で
キャンプに来られるなんて思いもしなかったな~」
 
高校生活の金銭的な潤いにと始めたアルバイト。
 
待遇もよく、こんな特典も付いてきて
嬉しいのを通り越して、少し怖いくらいだ。
 
それに……家にいるよりはずっと気が楽だと思えるからな……
俺は……あの家の住人だけど、そうでないから……
余計にこういう所で息抜きがしたくなる。
 
【バイト仲間】
「お~い! そんな所でさぼってんなよ!
晩飯作るときに火がいるんだから木の枝を集めてきてくれー!!」
 
不意に声をかけられてハッとする。
 
声の主は同じバイトの仲間で、
考え事をしていた俺を半ば呆れた顔で
分担された作業を始めることを伝えてくる。
 
【???】
「あ~悪い悪い!
んじゃちょっと向こうの森の方に探しに行ってくるわー!」
 
【バイト仲間】
「あんまり遅くなるなよ!
キャンプ場になってるからって迷うこともあるんだからなー!!」
 
【???】
「分かってるって!
お前こそちゃんと材料を切っておいてくれよ!!」
 
バイト仲間にそう告げると
木の枝がありそうな針葉樹の並ぶ森へと足を進めていく……
 
そう、この森に入ったのがすべての始まりだった………
 


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森に入り、草木を掻き分けて落ちている小枝を探す。
少し辺りは暗いけど日がまだ射しているから大丈夫だろう。
 
さて、どの方向を探そうか……
 
【???】
「……ん? なんだこりゃ?」
 
落ち葉を掻き分けて気になったものを拾い上げる。
 
【???】
「苺……か?
いやそれにしては実の色が水色だし……」
 
……ま、いっか。
今は遺伝子改良で白いナスも出来てるくらいだから
そんな珍しくもないな。

【???】
「……ん? また何か落ちてる?」
 
落ち葉を掻き分けて気になったものを拾い上げる。
 
【???】
「……見たこともない木の実だな……
なんだかコマがいくつもくっついたような形してるし……」
 
……ま、いっか。
今は遺伝子改良で本来の大きさから外れた苺も
出来てるくらいだからそんな珍しくもないな。

つーかさっきから俺同じような台詞喋ってるような……
気のせいか?

【???】
「うあ~しかし、屈みながらの姿勢って辛いなぁ……
腰が痛くなっちまうよ……」
 
少し爺くさく背中を叩きながら一本、また一本と木の枝を拾っていく。
このとき地面を注意していたからか
周りの景色には一切関心がいかなかった。
 
ある程度拾い終えたから、そろそろ切り上げようと顔を上げると
霧の濃くなった針葉樹が視界に飛び込んでくる。
 
【???】
「……なんだか薄気味悪いな、そろそろ戻るか……って!?
あ、あれ……!? どっちから来たんだっけ……?」
 
霧のせいで辺りの風景は変わってしまい、
自分がどちらへ進めばいいか全く分からなくなってしまう。
 
【バイト仲間】
「あんまり遅くなるなよ!
キャンプ場になってるからって迷うこともあるんだからなー!!」
 
【???】
「分かってるって!
お前こそちゃんと材料を切っておいてくれよ!!」
 
【???】
「だー!! 俺のバカ~! 全然分かってなかったじゃないか……」
 
仲間の忠告を軽く受け取り、
その真意を理解するに至らなかった自分に激しい憤りを感じ、
そして罵倒する。
 
遭難する以前に、
仲間への謝罪の意識と、この歳になって迷子になっているという
恥ずかしさで木の枝を持ったまま頭を抱えだす。
 
【???】
「……? また霧が濃くなってき……て……?
……え……? あ……れ………?」
 
辺りの景色が白く霞んで……いや、
自分の意識までもが靄が掛かって消えてしまいそうな感覚に囚われる。
 
【???】
「一体……どうな……て……駄目……だ、
ここで……寝たら……みんな……心配……………」
 
【???】
「……………………」
 
ブツッ!
 
テレビの電源が落ちるように、俺の意識もまた閉じてしまった………



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【???】
「……また、繰り返される……」
 
何かが頭の中で響く。
 
【???】
「……くり………返される……?」
 
微かに認識できた音、
それは少女と思えるほど幼さの残る声だった。
 
何処か含み笑いのようで、自嘲めいた声色が感じ取れる。
 
【少女の声】
「仮初めの姿で、仮初めの出会いを楽しんできてね……
後に訪れる悲しみと共に……」
 
【少女の声】
「ここは隠れ家……叱られた子供が身を隠すような……
貴女も……そして……あの娘達も………」
 
まるで玩具を弄ぶような口調で響き渡る謎の声が
暗闇の中で聞こえ、次第に意識が覚醒していく。
 
【???】
「一体……誰なんだ……? 何を求めて……」
 
分からない……何もかも……
 
自分がどうして意識を失ったのか、
何故暗闇の中に謎の声が響き渡るのか、
そして悲しみを伴う出会いとは……
 
うっすらと視界が開けてくる。
先程の霧のときとは違い、透き通るほど意識は鮮明だ。
 
……だけど……
 
【???】
「……何処なんだよ、ここは……」
 
森の中、それに間違いはないけど、
先程意識を失った場所とは大きく景色が変わっている。
 
座ったまま辺りを見渡してもまったく見覚えがなく、
途端に仲間への不安が募る。
 
【???】
「くそ、携帯を持ってくれば簡単に連絡が取れたのに……」
 
すぐに終わる作業だと思って手ぶらで行ったのが
まずかったな……
 
【???】
「仕方ない、とりあえず動いて人のいる所まで……」
 
もふっ
 
【???】
「……もふ?」
 
聞き慣れない音と共に下半身、
それも尻の部分に何か『ふかふかしたもの』の感触がある。
 
視線を恐る恐れ下に降ろす。
 
起き上がる時に近くにいた野犬を踏んでしまったのかと思い、
いつ襲われても逃げられるような体勢を取りながらだけど。
 
【???】
「……………へ?」
 
思わず素っ頓狂な言葉を発してしまう。
 
それは予想していたこととははるかに違い、
それでいて信じられないものを見てしまったからだ。
 
【???】
「こ、これって俺の髪の毛!?
え? あ、あれ? な、なんだこれ!?」
 
異変を感じる箇所に視線を向けると、
そこには男らしからぬまでに伸び、
下半身にまで達する自分の髪の毛があった。
 
自分で結んだわけでもないのに
つけられている赤褐色の丸い髪留め。
 
着ていたはずのYシャツとジーンズは
誰かに着せ替えさせられたのか、襟がボロボロになった
灰色のタンクトップとハーフパンツ……
 
そう……それはまるで……
まるで〝野生の犬〟を彷彿させるような姿だった……
 
【???】
「……………」
 
ぎゅうぅ~っ!!
 
【???】
「ひててててて……! い、嫌に痛くて醒めない夢だなぁ……」
 
あまりにもベタな方法だが、とりあえず頬をつねってみる。
 
夢の中でまでそんなしょうもないことをするのには抵抗があったが、
信じ難い事実からの逃避だった。
 
【???】
「夢……じゃない……? い、いや違う! これは夢だ!
そうでなきゃ……こんなことが……有り得るわけ……」
 
【???】
「……? 水の音……?」
 
ジンジンと傷む頬を擦り、辺りを見回す。
 
けど、水の音が聞こえそうな川は視界に入らない。
何故そんな音が耳に入ってきたのか……
 
【???】
「……水のある所には人が住んでいる事が結構あるっていうけど……
この場所から下手に動くのも危険だな……どうするか………?」
 
正直、人恋しさは増しているといったところが本音で、
自分の身に起きている事に不安が募り、
誰でもいいから話をしたいと思うようになっていた。
 
けど、ここは自分が知り得ない森の中、
短に自分の記憶違いで別な場所にいるとも思ったが、
救助を待った方がとも思い、なかなか決断が出せない。

がさっ!
 
【???】
「!?」
 
な、何の音だ……?
後ろの方の藪から聞こえて……
 
【女の子】
「…………」
 
お、女の子……?
 
肩に羽のような飾りを付けた不思議な出で立ちの少女が
俺の方をじっと見つめるように現れた。
 
【???】
「き、君は……」
 
【女の子】
「……やっと、やっと見つけた……」
 
【???】
「……へ?」
 
【女の子】
「燃えちゃえ!!」
 
【???】
「うおわっ!?」
 
突如、少女の周囲に出現した火の粉が
俺目掛けて飛んできた。
 
間一髪のところで避けることができて
怪我はなかったけど、火の粉は木にぶつかって
パチンと弾けて俺の足に降りかかってきた。
 
【???】
(か、かんしゃく玉かなんかか!?
……でも、何もないところから火の粉が出て……)
 
ってそんなこと考えてる場合じゃない!!
 
【???】
「いきなり何すんだよ!!」
 
問題にしたいのは、この娘が悪戯かは定かじゃないけど
躊躇なく人に向けて危険なものを飛ばしてきたことだ。
 
【女の子】
「問答無用! 目の前に現れた獲物を
逃すわけないでしょ!!」
 
すると、少女はまた自分の周囲に火の粉を出し、
今にもこちらに飛ばそうとしている。
 
どうする……?
さっきみたいにまぐれでかわせるとは思えないし……

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TO BE CONTINUED
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