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巡る季節は、命の躍動をその身に宿したかのように輝きを放ち始める。
全ての命を燃焼させる、と言わんばかりの暑さをも抱えている。
夏、人々は開放的に自らを日の下へさらけ出していく。
数多くの動植物の恋が春であるならば、人と萌えもんの恋の季節は夏であろう。
少なくとも、私はそう思っている。
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早くから眩き明かりを地に降り注がせる太陽は、朝を輝かしく爽やかな物へと彩っていく。
だが、この家の者は果たして気だるげに半身を起こし、シーツの魔の手より逃れた半裸の肢体を朝の空気にさらして行く。
寝息を立てる片割れを起こさぬよう、静かに紫煙を立ち上らせる。
「…………。」
その者は寡黙であり、言を多く弄する事を好まなかった。
冷めた泥水にも似たコーヒーを飲み下す。
一晩置かれたそれは、淹れたての風味のほとんどを失っていたが、寝起きのその男には相応しいのかも知れない。
自らがそう望むのであるから、相違はないのだろう。
寝返りの揺れを感じ、続く寝息を認めては再び寝顔を眺め、今ひと時の幸福を誰とも与り知らぬうちにかみ締める。
第三者がそこにいれば。妖艶な美しさを無防備な寝姿にすら備えた傍らの者が目覚めていれば。
或いはその男の数少ない笑みを伺い知る事も、叶ったかもしれない。
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金属音で目が覚めていた。
それはライターの音であり、煙草へ火を点す為の音である。
自ら贈った物、そして愛用されている物。
ささやかな喜びと幸せは、一日の始まりに必ず訪れ、その日の心の安寧を約束してくれる。
人前では表さぬ表情を盗み見るのが日課であった。
目が覚めてしまえば、その人はいつも通り、不器用な顔に戻ってしまう。
「…………。」
垣間見るに苦せぬ姿勢に寝返りを打つ。
もう少しだけ、この人の笑みを見ていたかったからだ。
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或いは、二人を微笑ましく眺められるのはその人だけだったのだろう。
侍女として、庭の掃除は日課であるからだ。
狐と人の化かし合い。
微笑ましくも羨ましいその光景を傍目に、清掃作業は進んでいく。
元より汚れやごみ等、目立つものはさほどない。
強いて言えば。
彼らの片割れとして、自らがそこにありたいと、少しだけ望んでしまうのは好意を寄せた二人への親愛でもあろうか。
近く、柔らかな小川のせせらぎを奏でる水面を川魚が跳ねた。
「朝ごはんは、魚をご用意しておきましょうかね……。」
作る事は叶わぬとも、せめて食材の調達だけは、と、自ら望みこなしている。
朝食の算段を立てていたそのせいか。
小さく小さく音を立てた空腹の訴えに一人、誰も見てはいないかと、見回して赤面したメイド。
澄み渡る遠き空は、今日も暑い日を迎えると語るかのように。
まだ涼しげに揺れる草花に、強く強く暑さの片鱗の陽光を傾けていた。
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あとがき
四季四部作の二作目となります。
あと二作いけるかなぁ。
Capri.
最終更新:2012年03月30日 14:10