目覚めたら、大変なことが幾つも起こっていた。
何故か夜の森の中にいた。
何故かいつものパートナーであるウツボットが自分を見下していた。
そして……
自分がただのキャタピーになっていた。そう、ただの。
(な、どういうことだ!? 何が起こったんだ!?)
言葉に出そうしても出てこない。
怖い、怖すぎる……!
そして何より、一番の恐怖心を抱いたのは……
ウツボットが俺をおいしそうな目で見ていることである。
そういえば、ウツボットってもとは食虫植物だったっけ?
悪寒が全身を奔る。
「ねぇ、君を……食べていい?」
そう言うとウツボットは自らの口(服の襟)を大きく広げて見せた。
ドキッ! と思うもすぐに我に帰る。 そう、これは俺の命に関わることなのだ……!
(食べるな食べるな!! 俺はお前のパートナーだぞ!? トレーナーだぞ!?)
必死に喋ろうとするも当然声が出ない。ただ首を横に振ることしかできない。
だがウツボットはそんな俺にお構いなしに頭のムチをフラフラさせている。
(やばい! 逃げないと……!)
俺は必死で駆け出した。……いや、這った。しかし当然早く逃げることも出来ず……
ガシッ!
あえなく捕まってしまった。
尾をムチに縛られぷらーんと宙吊り状態になる俺。
ウツボットの顔が逆さまになる。 まさに、絶体絶命。
「久しぶりの大きなエサ……♪ いただきまぁす~」
そうして俺は、大きな口の中へと吸い込まれていった。
(逃げなきゃ……! 逃げなきゃ……!)
ねっとりした唾液(?)の海の中、内壁に押しつぶされそうになりながら俺は必死でもがいた。
尾が大きなでっぱりにペチンと当たる。
「あんっ! もう、活きのいいエサなんだから……♪」
ウツボットが声を漏らす。
(……ちょっと待てよ……? さっきのって……)
次第に唾液により身動きがとれなくなりつつある中、俺は思った。
(ここってまさか……ウツボットの……)
答えを考えた途端、俺は動きを止めた。
(……短い人生だったけど……俺、ウツボットに食べられて幸せだわ……)
俺の体は段々下へ、下へと落ちていく。
奥へ、奥へと吸い込まれていく。
「あはは……♪ 大きなエサがぁ、私の体の中に入ってくるよぉ……し・あ・わ・せ♪」
ウツボットの声を遠く聞きながら、俺の意識は途絶えた。
(我が人生に悔い…………)
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――――――
――――
――
……sター? マスター?
「はっ……!」
誰かの呼ぶ声で目が覚めた。
「気付きましたか、マスター……すごく苦しそうにしてましたよ……?」
ウツボットが心配そうな顔をして俺を見ている。
……ここは俺の部屋だ……時計を見ると、夜更けの真っ最中だった。
そういえば、夕方に長期遠征から帰ってきてそのままベッドにダウンしてしまったんだっけ?
となると、さっきのは夢だったのか。夢でよかった……
「ごめん、心配かけてすまなかったな……」
「いえ、マスターの気遣いをするのはパートナーの仕事ですから。」
ウツボットはニッコリと笑った。
「……ん?」
ふといつものウツボットと違うのに気付く。下腹部が膨れているのだ。
「どうしたその腹……?」
「これですか?さっき夜の散歩してた時に大きなキャタピーがいましてね、おいしそうだったので食べちゃいました♪」
ニッコリ笑うウツボット。
え?これ何てデジャヴ?
「今消化してる真っ最中なので、お腹が膨らんじゃってるんです。」
……もしかして、正夢……? いや、それはありえない。
だとすると、俺は一時だけエサのキャタピーと心が入れ替わったってことになるのか……?
「……マスター、どうしました?」
「あ、いや、別に何でも……」
改めてウツボットの体を見る。そして、あの時のことを思い出す。
次の瞬間、俺の体はウツボットを押し倒していた。
「俺、ウツボットになら食べられて死んでもいいっ!!」
「え!? マスター、何を言って……あっ、大きすぎて口に入りませんよぉ~~~~~~!!!」
最終更新:2007年12月13日 23:45