2スレ>>649


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第三作 全編
だぁら、長いんだって、長いorz いい加減筆者は自重したほうがいいと思う。
↓気にせず本編ですどーぞ↓


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全体的にごつごつしているその建物内部は、まるで洞窟の様である。
天井からは人工の明かりが降り注いでいるが、建物に入った瞬間、
そこはオツキミ山の一角を髣髴とさせる。
ニビシティ、もえもんジム。
そこのバトルフィールドに立つのは、赤い帽子の少年。
そして、ウォーミングアップを済ませて軽く汗をかいている萌えもんが一人。
「あ~あ、ここの照明少しきついんじゃなぁい?余計に汗、かいちゃったわ。」
文句を垂れるのは前哨戦を終えて余裕の表情を浮かべる猫娘、ペルシアン。
「よくやった、ぺるこ。後で風呂に入れてやる。」
「次はジェットバスでゆったり広いお風呂がいいわぁ。
あ、今流行のアロマミストもいいかも。」
「贅沢言うな。これでもきついんだ。」
主従関係に影響しているわけではないが、ぺるこは風呂に対するこだわりを
毎日のごとくご主人に主張し続けている。
とことん綺麗好きなぺるこは、一日の汚れを洗い流す風呂に対して
一種の儀式的、宗教的な何かとイコールして独自の方程式を築き上げている。
彼女曰く、「お風呂の神様は、いる!」…との事。
どこまで本気かわからない彼女の態度ではあるが、風呂に入るということは
彼女にとって当然のルーチン、必然の事象、整然としたアイデンティティなのである。
「つ、強い……なんてやつだ!」
彼らに対峙した不運の男は、その圧倒的な強さに愕然とした。
ニビシティに訪れるトレーナーには強弱様々な人間がいるが、これほど強烈な
インプレッションを与える人間はそう多くない。
もしかしたらチャンピオンの器――そんな事でさえも容易にこなしそうな
実力を秘めているのかもしれない。
「さて、前座は終わった。いい加減その重そうな腰を上げてもらおうか。」
少年は言い放った。その対象は、今戦った男の奥。
戦場からひとたび離れた場所に陣を置く総大将に対してである。
「フッ…どうやらカスミの言っていたことは出鱈目ではなかったようだな。」
カスミからの連絡を一足先に受けていたタケシではあったが…
たった一人の萌えもんで挑まれ負けた――そんなこと、ジム戦でありえることなのだろうか?
半信半疑だったその報告は、たった今全幅の信頼に値する忠告であったと理解した。
「いいだろう、次はオレが相手をしてやる。」
しかしそれでも負けるつもりで立ち向かうわけはない。
胡座をかいて高台に陣取っていたタケシはついに立ち上がり、巨石が転がるような
ゆっくりとした足取りで戦場へ降りてきた。
「うちのジムの公式戦はシングルバトルだ。もえもんの数にも制限はない。
カスミの時は残念だったようだが、オレに勝ったらバッジをやろう。」
「バッジ?…そんなものに興味はない。」
「どうかな?おまえの実力であればもえもんリーグの上位に食い込める。
そんな栄光におまえほどの実力者が興味が無いと言い切れるわけがないだろう!!」
タケシは憤激した。まるで強さを持て余している彼を断罪するかのように。
「まぁいい。どちらにしろ俺はジムリーダーだ。バッジを懸けた公式戦以外で戦うつもりはない。
おまえが要らないといっても無理やりポケットに押し込んでやる。」
「まぁ……どっちでもいいか。早く始めようぜ。」
「いい度胸だ。行くぞ!ゴロミ、出番だ!来い!!」
ボールを手に取り大きく振りかぶるタケシ。
モーションの後、彼の放ったボールは勢いよく宙を舞った。


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俺はニビシティで有力な情報を聞いた。
ニビシティのもえもんジム、リーダーのタケシが操る萌えもんは
ロングテールの美人らしい。
ロングテール……そう、あの忌まわしいギャラドスの容姿を俺は思い浮かべた。
肩から腰あたりまでに結ったツインのロングテール。
あの凶悪な悪女を俺は美人と決して認めないが、これは俺の主観というものであろう。
だが「ロングテール」というのはどうか。
これは万人共通した情報ではないだろうか?
間違いない…
少女の情報を聞けなかったのは残念だが、おそらくギャラドスを操っているタケシならば
絶対に情報を握っているはずだ!
「今回も空振りの予感がするわ~。これ女の勘なんだけどねぇ。」
ぺるこはそんなことを言っているが、動かないことには意味がないのだ。
だったら、真実を突き止めるまでは俺は立ち止まるわけにはいかないんだ――
気がついたら、俺はニビシティのジムの扉の前に立っていた。


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「それ!それそれそれ!どうしたそれで終わりか!?」
タケシの先鋒、ゴローンのゴロミは岩タイプの萌えもん。力も相当あるようで
自身のふたまわりは大きいであろう岩でさえも片手で投げる。
「くっ…戦場の使い方がうまいわね。岩場に隠れたかと思ったら岩を使った牽制攻撃。
ふふ、なかなかのテクニシャンね♪で・も」
ぺるこは劣勢に見て取れるが、本人の表情からはとてもそんな片鱗は伺えない。
――ゴロミの攻撃はワンパターン戦法になりがちのようだ。
彼女の攻撃を見切りつつあるぺるこは、相手の規則的なテンポにあわせ戦場で踊る。
無邪気にじゃれる猫のように自由に、着飾ったドレスを乱して踊る貴族のように優雅に、
ゴロミの投げる岩をかわし続ける。
「この…へな猪口な動きしやがって!」
そろそろ焦りをおぼえ始めたゴロミに対して、少年は熟した機会を見逃さなかった。
「ぺるこ、今だ仕掛けろ。」
「了解にゃん♪」
ぺるこは相手を討ち取る作戦を展開し始めた。
ぶん……っ!
ゴロミは集中力が欠落した刹那を狙われたか、ぺるこの体が何重にもぼやけるのを感じた。
「!?な…」
――幻覚だったのか?いや、違う!
次にゴロミが見た光景は何人ものぺるこだった。
それぞれがランダムに散開し、戦場の岩場に隠れた。
まさに一瞬の隙を突いた陽動。これはわからない。
「落ち着くんだゴロミ!集中力が欠けているぞ!」
「く…イエス、マスター!」
マスターの言葉で落ち着きを取り戻すゴロミ。先ほどとは違って静寂が戦場を包む。
――ふふ、狼狽したようね。こういう戦場はこっちも慣れてるのよ♪
”かげぶんしん”で視界を翻弄させた隙に物陰に隠れる!これが”かげぶんしん”の真の戦術!
……ぺるこの戦法の基礎概念として、彼女にはある心得がある。
戦場では相手のリズムに合わせて踊る必要はない。自分のワルツに引き込んだほうの勝利である。
「ダンスの大会では課題の曲があるけど、戦場には自分の風しか導くものがないもの。」
とぺるこは語る。
それぞれ様々な考え方はあるだろう、勝利の方程式。
それをいち早く解き終えた者こそが、勝者なのである――





ザシッ!!
ぺるこの鋭利な爪が、ゴロミの硬い体を切り裂いた。
影から影へ移り行くぺるこの戦術に、ゴロミは終に施す術がなかった。
「な…なんだと…!私の…体に、そん…な…」
ドンッ…ズサッ…
膝が先に地をつき、まもなくゴロミの体は戦場に放り出された。
「戻れゴロミ…よくがんばった…」
タケシは彼女を労う事を忘れず、ボールの中へ回収した。
彼女が格納されたボールを愛でる様に丁重に扱いながら腰に戻す。
「ふ…強いな。」
傲慢とも臆病とも言えないタケシの言葉は赤い帽子の少年に向けて発せられた。
「だが、オマエ達の戦法はすでにわかった。次はこいつで相手をしよう。」
そう言ってタケシが構えたのは再びボール。二匹目の萌えもんのようだ。
――ついに来るのか!?
少年の鼓動は速度を増した。ついにあのギャラドスとの対面かと思うと
胸が熱くなるのも仕方のない現象である。
「来い……!どんな相手でも俺は逃げはしない!」
そう、そのとき少年はこう言ったのだ。
ところが次の瞬間、この少年の発言はあまりにもあっさりと覆されることになる。
「行くぞ!お前の強さを見せ付けてやれ!!」
タケシがボールを宙に放った。
そのボールが描く放物線が、少年の目にはゆっくりとスローモーションのように描写される。
鼓動はさらに早まる。
ボールが降りてくる――
そして――その小さな球体の中から、現れたその姿――


「…………………。」
形容しがたい静寂があたりを包む。
威風堂々としているのは、タケシ。
「どうだ、これが俺の最終兵器……」
タケシの最終兵器…
すらりとした長身に、肩から腰まであるロングテール。たぶん美人。
少年が得た情報のとおり、彼が繰り出してきた萌えもんは…
「イワコだ。」
イワークだ。どっからどう見てもイワークだ。
「………。」
再び謎の静寂があたりを包む。
タケシは相変わらず仁王立ちのまま誇らしげに立ち尽くしている。
これほど激しい温度差があるのは、少年の周りの空気が冷え切っているせいだろう。
少年の重い口が、開かれる。その第一声は…
「………ギャラドスじゃない。」
あまりにも主人が不憫で目も当てられない、ぺるこ。
彼女の勘はどうやら的中したようだ。
あまりの鼓動の落差に眩暈を起こしそうなのは、少年である。
そんなわけで彼の取った行動はひとつだった。
「邪魔したな…。帰るぞ、ぺる」
「まてやーーーーーーーーーーーーーー!!」
一番納得がいかないのは当然、タケシである。
「試合の途中で相手に背を見せるとは、なんという臆病者か!」
別に少年の場合、臆病でもなんでもなかった。
ただひとつ、そこに目的がないというだけで、彼は先の発言も熱い戦いも忘れて
帰ろうとしているだけである。
「尻尾を巻いて逃げるとは男らしくないぞ!さぁ続きだ!戻れ!」
タケシは必死に暑苦しい漢の論理を少年に説く。
「悪いけど、俺の目的はすでに達した。俺の負けでいいから帰らせてくれ。」
食い下がることなく少年も自己のスタイルを主張する。
「ふ…悪いがどちらにしろおまえをこのまま帰らせるわけにはいかん。
ひとつ言い忘れていたんだがな…うちの公式戦のルールはな…」
タケシはそう言うと右手を振り上げた。それが合図か、イワークのイワコは構え、
直後、すばやい動きでぺるこに向かって駆け出した。
「デスマッチなんだよ!」
一気に間合いを詰めると、イワコはぺるこに向かってロングテールを振り回した――


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「イワコ!さっきの戦いは何だ!相手が格下だからと手加減をしたな!」
タケシの叱責を受けるイワコ。その理由は、相手に対して手加減をした、ということだった。
「そういう油断が戦いの場で致命的なミスに繋がると俺は何度も言っているだろう?」
「はい…申し訳ありません…マスター。」
イワコはわかっていた。戦いの場で相手に手加減すること、それはタケシが一番嫌う愚行であることを。
「一度や二度ではないからな。
もうおまえも十分理解していると思うからこれ以上責めるつもりはないが…」
言いながら不意にタケシは右手を振り上げる。
イワコは本能的に察した。もう私はこのマスターにふさわしくないのだと。
マスターは決して悪くない。すべての罪は、この私にある――
だから、殴られて捨てられても、仕方がないのだと、その瞬間覚悟を決めた。
――しかし、タケシの行動は全く違った。
頭に右手が触れた。叩かれたのではない。撫でられていた。
「…オレも相手の萌えもんが苦しそうにしていたのはわかってたさ。」
意表を突かれるマスターの行動に、イワコは狼狽した。
「……マスター?」
「世の中にはいろんなもえもんトレーナーがいる。…その中にはうまく萌えもんたちと心を通じ合わせる
ことができず、苦しい思いをしている萌えもんがいるのはオレも承知しているさ。」
イワコはわざと負けようとしたのだ。何故なら、相手のトレーナーは萌えもんに厳しく当たり、
相手に倒されれば一方的に負けを責められ虐げられていたからだ。悲しいことである。
お人よしな性格のイワコには、例え戦いの場であろうともその優しさが刃を鈍らせることがある。
タケシはそんな彼女の性格をよく理解していた。そうだとしても彼は彼女をパートナーとして選んだのだ。
「だがそんな同情は一時の凌ぎにしか過ぎない。その時はよかったとしても、後になって
さらに酷い苦痛が待っているだけだ。」
「マスター……。」
イワコは驚いた。同時に彼のことをすべて理解できていなかった自分を恥じた。
彼は別に他人の萌えもんのことをどうでもいいと思っているわけではなかったのだ。
「では…私は…どうすればいいのでしょうか。わからないですよ…」
――私と同じだった。同じ事で悩んでいたんだ。
イワコの考えはマスターにも通じていた。彼女はそれが何よりも嬉しかった。
「…いいかイワコ。これは萌えもんたちだけの問題じゃないんだ。問題なのは萌えもんたちを操る人だ。」
そしてタケシはイワコの悩みに真摯に応えた。
「人が歪んでしまうのは、オレ達人間に責任がある。同時に歪んだ人自身にも、な。」
イワコから離れ天を仰ぎ、語りだすタケシ。
「オレ達は互いに学ばなければならない。萌えもんとの付き合い方を。
それに倣うのも善し、それに刺激されて改善するのもまた善し、だ。」
もとより細い目をさらに細めるタケシ。夜空の星をひとつひとつ数えるように。
「そうやっていいところをお互い吸収しあって、人は強くなっていくんだ。
そのためにはイワコ、おまえ達が相手に気づかせてやらないといけない。」
「……私達、が?」
「そうだ。戦いのスタイルがひとつに収束しないのならば考え方など人それぞれ。だからこそ…」
星を数えるのをやめたタケシは、再びイワコに向き直った。
「オレはどんな相手でも全力で立ち向かう。それがトレーナーとしてのオレの礼儀、信念、愛情なんだ――」
……イワコは後日このときのマスターを、こう語る。
「私のマスターはあのお方以外に居ない。すべての生き物に対する愛に心を奪われた」と。


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ガキィィィィン!!
イワコのアイアンテールがぺるこに直撃――
「ぐぐ…ぐ、なんていう…バカ力かしら。」
――してなかった。両の腕で懐をかばいなんとか致命傷は避けたものの…
「私は負けない!あなたのようなゆるい戦法では私の"全力"には及ばないわよ!!」
イワコの気合は他を圧倒するほどの覇気が含まれていた。
――このままじゃ…さすがにまずいわね。困ったかしらん?
ぺるこは横目でご主人の様子を伺う。ゴロミに通じたあの戦法は通じない。
相手のほうが速いからだ。
――どうするの?
少年は冷静さを保ちながら、ぺるこに言った。
「もどれ、ぺるこ」
――!!
ぺるこは驚いた。
いつもはこの程度で引き下がるような戦い方はしない。まさかとは思うが…
ぺるこの頭には、あるひとつの考えが浮かんだ。おそらくご主人様も同じ事を考えている。
そう思ったぺるこは、おとなしく主の命令に従った。
「なんだ、下げるのか?言っておくが、まだそいつが戦えるようならこの戦いは」
「何勘違いしてるんだ…」
少年は命令を撤回しない。だからといって逃げるわけでもない。
ならば何故、ぺるこを下げたのか。
答えは簡単である。
……少年には、まだ策があったのだ。
「ぺるこはまだ戦えるが、一時的に"さげた"だけだ。」
少年はそういうと、腰のもえもんボールを手に取った。
「!! 何…!」
そう、少年の萌えもんはぺるこ一人ではなかった。
「頼むぜ…新入り!」
言い切るが早いか、言葉と同時に放ったボールはその姿を宙に披露した。


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夜空には満月が浮かんでいる。
山の頂まであと少しというところで、ぺるこが何かに気づいた。
「…ねぇ、ねぇご主人様!」
「…どうした?」
ぺるこに話しかけられて足を止める俺だが、ぺるこが何に高揚しているのかはわからない。
「もぉ~わからないの?この匂い、ひょっとしたらこの近くに……♪♪♪」
「あ、おい、どこ行くんだぺるこ!」





オツキミ山、頂上付近。

♪月よ、月よ~ 星降る夜に誘いたもれぇ~
満ちた、時のぉぉ~ 世界を抱いてぇ~~

歌声で満たされる星空。歌い主は気分よさそうに温泉に浸かりながら歌を口ずさんでいる。
「はぁぁ~…きもちいぃですぅ~。夜はこの温泉がベストスポットなのですぅ。」
そういうと歌い主は天を仰ぎ、両手の親指と人差し指で作った額縁に満月を添えた。
綺麗な満月だ。こんなにも月に近い場所で体を温められる場所はそうそうない。
余韻に浸っていると、遠くから誰かの声が聞こえた気がした。
「おやおや?誰かがこっちにやってくるのです!どうしましょう!?」
あわてて温泉から出ようとする歌い主。
しかし声の主の姿を捉えた瞬間、安堵の表情を浮かべた。
「にゃはっ♪温泉よぉ!やっぱり、女の鼻と勘は鋭いものねぇ♪」
「はぁぁ、萌えもんさんでしたか。驚かさないでくださいまし。」
「あらぁ?先客が居たのね。これは失礼したわ。」
先程あれほどはしゃいでいたぺるこであったが、先客を確認すると
瞬時に平静を装い何食わぬ顔で温泉に近づいた。
「ねぇ…私も入っていいかしら?」
歌い主に話しかけるぺるこ。
「もちろんなのですぅ。ここはぴくるだけのものではないのですぅ。
みんなで月を見ながら浸れればきっと楽しいのですぅ♪」
ぴくる…と自称する相手に了承をもらい、満足な表情を浮かべるぺるこ。
そして温泉に浸かろうとぺるこが服に手をかけ始めたそのとき――
「おいぺるこ!どこまでいくつもりだ――」
彼の言葉は最後まで言い放たれる前に、ぴくるの悲鳴でかき消された。


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「いやぁ~~~~~~~~っ!とぅっ!呼ばれて飛び出て!ぴくるの登場なのですぅ!!」
少年のボールから飛び出したのは、妖精――ピクシーのぴくるだった。
威勢良くライダーキックで登場した彼女は、どう見ても妖精っぽくはないが……
「何…今度はピクシーだと!?」
これはカスミの情報にない。タケシは驚いた。
てっきりかの少年は一人のもえもんだけにこだわる人物だと思い込んでいたからだ。
「さぁさぁ!ぴくるにぶっ飛ばされたいのはどこのどいつですぅ!?」
気合は十分――ぴくるは腕を回したり屈伸をしたり準備運動に忙しい。
「ふ…次の相手は誰かと思えばピクシーですか。マスター!心配には及びません。」
対するイワコは相手が誰であろうと強気である。タケシの全幅の信頼を預かる彼女だ。
このカード…どちらに転んでもおかしくはなかった。
「任せたぞイワコ!先制して相手のペースを乱せ!」
「イエス、マスター!!」
ぴくるとの間合いを一気に詰めるイワコ。そして一撃必殺のテールがフレイルのように動く!
ガシィィィィィィ!!
殺人テールは見事、ぴくるを捉えて会心の一撃を見舞った――はずだった。
しかし気付いたとき、よく見るとぴくるの体に当たる寸でのところで
テールの軌道は空間の"何か"に阻まれているようだ。そう、
「!? リフレクターだと!?」
ぴくるのリフレクターは特殊である。時間帯によって持続時間が変動し、
月の満ち欠けによって強度が変わる。つまり満月の夜においてぴくるのリフレクターは
最大効力を発揮し、満月が前夜であったぴくるのそれは、今の時間においても持続時間こそ
劣るものの、強度においては最高のパフォーマンスを発揮していた。
すなわちイワコの放つアイアンテールのような瞬間的に与える物理打撃は、
"今の"ぴくるには、効かない――
「くっ…莫迦な!?私のテールを受けきるバリアがあるなんて…!!」
ちなみに、月の力を使う彼女らの戦術形態においては、未だ解明されていない謎が多い。
そこに着目できる少年の千里眼こそ、現時点でもっとも驚愕な事実ではあるが――
「さぁ次はこっちが仕掛ける番だ。ぴくる!コスモパワーを展開しろ。」
「はいですぅ!…はぁぁぁぁぁ~~~~、コスモパワー!展!開ぃぃぃぃぃぃ!!」
まぁ少年にはよくわからないまま彼女の力を持て余しているのだろう。
ともあれ、一気に戦場の風は、強さと方向を変えて吹き荒れた。
戦場はぴくるの夜空に、支配された――


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少年がようやくぴくるの機嫌を直したころには、彼の服はびしょ濡れになっていた。
仕方がないので少年も冷えた体を温めるために温泉に浸かる。
ここにもえもんトレーナー一人、その飼い猫娘一人、野生の妖精一人、
計三人が温泉に包まれるという間抜けで歪な構図が出来上がった。
「びっくりしたのですぅ。…まさかぺるこさんのご主人様だったなんて。」
「…俺に10回ほどお湯を引っ掛けてようやくわかってくれたか。」
「よかったわねご主人様、すぐそばに冷えた体を温める温泉があって。」
「だからその温泉の湯をかけられたんだろうが!」





「…そういえば、ここにはぴくるしか萌えもんはいないのかしらん?」
「それが…おかしいのですよ。いつもは満月の夜に、
一緒に温泉に入ってる仲間がいるんですけどぉ…」
…不自然な点はいくつかあった。野生のもえもん達がほとんど居ないのだ。
洞窟ならいたるところに居るといわれるズバットまで、ここに来てから見ていない。
少年はおかしく感じながらも、結局この山の頂上付近まで来てしまったのだ。
「気になるの?ご主人様?」
「気になるというか……何か前にもこんなことがあったような気が…する…。」
三年間も旅を続けていると、さすがにいろいろな場面に遭遇するだろう。
少年は思い起こしてみる。今までの旅の軌跡から似たようなケースがあったかどうか…
「あった…!」
「? 何がです?」
何の話だか全く把握できないのは、ぴくる。
「ぺるこ、昔どっかの森を通り過ぎるときに、黒い集団と出くわしたの、覚えているか?」
「う~ん…黒い集団ならしばしば見かけるから細かいことは覚えてないわよ?」
「…まぁいい。それで、その黒い集団は各地に赴いて何をやっていたか覚えているか?」
「何を……?――あっ!」
二人は顔を見合わせて互いの記憶を同期させた。
そう、このようなケースの場合、真っ先に起こすアクションはただ一つ。

野生の萌えもん消えるとき、あたりに黒い集団が居ないか探せ――





「見つけたのです悪党ども!!」
案の定、山を降りたふもとには、黒ずくめの集団がごっそりいた。
「あぁ?なんだおまえ。…なんだただの捕獲し損ねか。おい!」
黒ずくめの集団は最後の一匹を捕獲するための"作業"に入る。
一斉にぴくるに襲い掛かろうとしたそのとき、

一つの影が、満月の夜にゆらめいた。

「ぐぁっ!」
「ぎゃぁっ!」
「くそ!なんなんだ!?おい、寝てんじゃねぇ起きろ!」
黒ずくめの集団に向かって見えない刃が襲い掛かる。
ひとしきり集団を奇襲したその刃は、辺りに阿鼻叫喚を残して物陰に隠れた。
「よし、よくやったぺるこ。」
「こんなの朝飯前よ♪」
物陰に隠れた刃はご主人の懐におさまり事の顛末を見送った。
「…あとはぴくるに任せよう。」
一方のぴくるは、敵の送り出した最後の刺客を倒しきったところであった。
「ぐっ……」
「どうですか悪党ども!ぴくるの正義の前では、悪など無力なのですぅ!
さぁ、ぴくるの仲間達を返してもらうのですぅ!!」
あれだけたくさんいた黒ずくめの集団も、統率を乱して混乱状態である。
「くそっ!撤退だ!撤退しろ!荷物は置いていけ!!」
ついに集団は一丸となって撤退の準備を始めた。
早いものは我先にと走り出し散開し始めている。
「逃がさないのですぅ!仲間を苦しめておいてただで済むと思わないことですぅ!」
仲間思いのぴくるは同胞を苦しめたものを決して許さない。
正義感の強いぴくるは自分の判断する「悪」を決して許さない。
月の妖精、ぴくるは満月の夜を台無しにする役者を決して許さない。
彼女の信じる道は、正義。座右の銘は、勧善懲悪。

「食らうのですぅ!ぴくるの超・必殺技!!」


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「コメット☆ぱ~~んち!!!」
ぴくるの溜めたコスモパワーが、彼女の右手に集まり、放たれる。
すっこぉぉぉぉぉ~~~~んっ!!
音こそ間抜けであるが、その拳の威力は凄まじいものであった。
鉄壁を誇るかのイワークの防御でさえいともたやすく貫き、
イワコをついに地に臥せたほどなのだから。
体中を駆け巡る衝撃の中、イワコの意識はゆっくりと体から引き剥がされ、そして開放された――





「素晴らしい戦いだったな。」
そう感想を漏らすのはたった今、打ち破られたジムの守護者、タケシ。
悔しさこそあるものの、その顔に後悔という言葉は全く似合わなかった。
少年に近づき、右手をかざす。
「………?」
「またいつか勝負してくれよ。」
その掌の上には、光り輝く、真新しいバッジが二つ。
鼠色のバッジと、青色のバッジ。
「バッジが…二つ?」
「グレーバッジとブルーバッジだ。ここと、あとハナダのジムの試練を乗り越えた証だ。」
「ハナダって…あのおてんば女の?」
その人称は聞き捨てならないと本人が食って掛かりそうな台詞であるが、幸いここに
"おてんば女"はいない…しかし、彼女との決着はついていないはずだ。
そう思ったことが顔に出たのか、タケシは補足した。
「『次に会うときは容赦はしない』そうだ。用心しな、カスミはどんどん強くなるぞ。」
タケシは左の手で少年の右手を掴むと、その掌に二つのバッジを握らせた。
その上から両手で包み、感謝と再戦をその握手に誓う。
「…ああ、そうだ。おまえ、どうやらギャラドスなる萌えもんを探しているんだろ?」
「!!」
まずい、聞かれていたか?そう思った少年だったが、特に問題はないか、と懸念を払拭した。
どうやら彼はあの件に関して関係がなさそうだからだ。
「あれは凶悪な竜の遺伝子を持った萌えもんだ。竜使いといえば、ワタルというトレーナーが
竜タイプの萌えもんを従えている。探すとしたら彼に聞いたほうがいいだろう。」
「……!」
思わぬ収穫だった。これで真実にニ歩も三歩も近づけるだろう。少年はそう確信した。
「そいつはどこにいるんだ!?」
「もえもんリーグ最高峰、セキエイ高原のリーグ覇者を待ち構える四天王の一人だ。」
四天王――その言葉は初耳であったが、聞いた感じでは思ったように簡単には会えないようだ。
少年は、その道のりは長くとも旅の終わりに鼓動を早まらせた。
「バッジを八つ集めろ。そうすれば自ずと道は開かれる。
俺はお前の事情はよく知らないが、お前なら実現できるだろう。」
タケシはそう言った。そこにはタケシなりの思惑も混じっているのだろう。
「…………。」
それでも少年は、数少ない情報の提供に感謝しつつ、タケシに背を向けた。
「待ってくれ。」
タケシは少年を呼び止める。
「お前の名前を教えてくれ。戦ってきた英雄達の名前は記憶しておきたいんだ。」
そう、名前。これだけ強いトレーナーに出会えて名前も知らないじゃ勿体無い。
しかしタケシの質問に対し、少年は微笑を浮かべて振り向き答えた。
「名乗るほどの者でもない。"少年"でいいよ。」





「なぁ、ぺるこ。」
「なぁに?ご主人様♪」
主人の膝枕で頭の毛繕いをしてもらっているぺるこは、すこぶる上機嫌である。
「俺の名前って、何だったっけな?」
「ご主人様の名前ねぇ…。………? ずっと"ご主人様"だから覚えてないわぁ。」
「だよな。」
苦笑する少年。丘の上には優しい風が吹いている。
「あらら?なんですかぁ?ぺるこさんはあまえんぼうさんですぅ。」
「うふふ、スキンシップよこれは♪それよりもぴくるはどうするのこれから。」
「もちろん、正義の名の下に"ご主人様"の悪党退治に協力するのですぅ!」
「ちょっと、なんで貴方までご主人様のことご主人様って言うの!?」
「今日からぴくるのマスターだからですぅ♪」
「だったらマスターでいいじゃないの!ご主人様のことをご主人様って言うのは、
私だけの特権なの、と・っ・け・ん!」
「…頼むから二人とも静かにしてくれ。」

この一本杉の下で休憩した後、少年は再び旅に出るだろう。
そんな彼の胸元では、二つのバッジが太陽の光を映し放っていた。


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【設定集】
◇登場人物
少年 過酷な運命を辿る少年。たった三年ほどで自分の名前を忘れる"ドわすれ"の達人。
ぺるこ 少年の飼い猫娘。一騎当千の実力者だが、その強さの源は少年と同じく、不明。
ぴくる 今回は大活躍した月の妖精ピクシー。名前の由来はもちろん……?
タケシ 生物を愛でる自然愛護の心に満ち溢れた男。彼の信念は岩のように固い。
ゴロミ タケシのゴローン。彼ならこんな名前を平気でつけてしまうでしょうきっと。
イワコ タケシのイワーク。長身で見た目怖そうだが、実は超がつくほどのお人よし。
カスミ 前々回少年と戦って、前回再特訓を決意する。今回未登場。
ワタル 名前だけ登場。もえもんリーグ挑戦者を待ち構える最後の四天王。

◇時系列
一応原作の2~3年後をイメージしています。が、ロケット団の関わりは殆ど未解決という設定。
カスミは少し大人になって、エリカはさらにおねぇさまになって、ナツメはおb(はかいこうせん

◇謎の黒ずくめの集団
今のところ謎の集団。こいつらの関わりが重要になってきそうです。そろそろ丁寧に扱わないと;

◇よくわからなかった人にもわかる話の流れ産業
オツキミやまで黒い集団をフルボッコ

タケシの使う萌えもんにギャラドスがいる!?

いなかった。ワタルが竜についてくわしい ←いまここ


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