最近この人の考えが、やっと判る様になってきた。
完全主義にも見える突き詰めた凝り性、他の追随を許さない超一級の料理。
それに加えて無類の煙草好き、というよりももはや体の一部。(たまに尻尾のように煙が動く)
今まで10年もの間それだけの普通の人だと思っていたせいで、
私は何を考えているか判らない、と評するしかできなかった。
―――
「俺は次の地方へ向けて旅をするからここのチャンピオンにはなれません。」
と、置手紙を残し宿舎から旅立った黄色いアレのトレーナー。
旅立ってしまっては仕方がないと、
運営サイドは私達に次期チャンピオン出現までの代理を依頼、私達も受諾した。
今回は運営からの依頼という事で前金代わりの報酬がある、
というのも興味の一旦で、マスターも珍しくそれを目当てに受けたらしい。
で、郵送でログハウスに届いたそれは……。
「……ボールだ。」
何の変哲もないボール、そう、モンスターボール。
「何か入ってるみたいよ。」
手に取り眺めていた私は中身がいる事に気がついた。
「……どれ。」
私からボールを受け取るとボタンを押し中身を解放してみせた。
「……あぁー……。」
……マスターが言葉に詰まるのはよく判るわ。
「初めまして新しいご主人様。」
礼儀正しく深々とお辞儀をし、こちらへ挨拶したのは1人のハピナス。
「とりあえず、どういういきさつな訳?」
久しぶりに見たマスターの三白眼(実は困った顔)を他所に話を促す。
「運営サイドのご意向で前金を用意、その前金代わりが私というわけです。」
普通のハピナスと違い、紺色と純白をベースにしたメイドのような服装をした彼女は、
それがさも当然で自身の職務であると、鉄壁の忠誠心を持った雰囲気。
「……何が出来る?」
何とか立ち直ったマスターはハピナスに聞いた。
「主に家事全般とキュウコンさんのバトル補助という形になっています。」
……私のバトル補助って回復かしら?
「……炊事も、か?」
すぅっと目が細められ挑発するように問いかけるマスター、実に珍しい事である。
「当然炊事も私の職務の範疇に当たります。」
……あ~あ、知らないわよぉ~。
「……その言葉、しかと受け取った。」
「はい?」
夕食前の静かな一時はマスターとハピナスの料理対決と相成った。
……ハピナス本人はまったく理解できてないようだけど。
―――
二人が調理を始めて早30分。
マスターは早々と飾りつけまでも仕上げ、後はハピナスを待つ段階にあった。
「……冷めても平気なものを用意した。」
要するに焦らないでいいという事。
ハピナスも味付けを済ませ調理の最終工程に入っているのだが……。
「私よりも早く……!」
どうやらマスターと同じくかなり料理には自信があったようで、
家事全般を担当する為に来たハピナスとしては、先に完成されて大分焦っている様子。
……さすがにあの言葉だけで理解出来るほど、ハピナスも悟っていない。
「冷めても平気ってのは焦らないでいいって事よ~。」
一応伝えてはおくけどあの様子じゃ聞いてないわね。
―――
マスターが完成させてからほどなくして。
「でき……ました!」
私の前に置かれた料理は奇しくも、マスターが作ったものと同じもの。
それは……。
『(……)冷やし中華です。(だ。)』
同時に言ったそれは確かに冷めても、というか名前の通り冷やした状態がベストである。
「で、何で私の前に並べるのかしら。」
『キュウコンさん(……狐)しか居ないからです。(だ。)』
声を揃えていう事もないでしょ、とは口に出さず。
「……いただきます。」
素直に食べる事にする。
「まずはハピナスからにするわ。」
……食べなれたマスターのからと言うのも芸がないと思うからよ。
「…………。」
一口、二口と味わいながら口に運ぶ。
「美味しいわ、スープの隠し味に豆板醤を使って味を引き締めたのもいい感じね。」
「はふぅ……。」
酷評を示されると思って緊張していたのだろう、弛緩したように息をつく。
次にマスター。
「……これは。」
15分というインターバルを経過してなお、舌に語りかける力強さ。
同じ隠し味、さらには盛り付けた具材もまた同じ、にも関わらず、
先に同様のものを口にしていたのすら忘れさせるほどの存在感を伴う。
「ハピナス、どうぞ。」
「……はい。」
言葉で示すより実際に口にした方が早いと私は判断したのだ。
「美味しい……私のより何倍も……」
元々美しい白さであった顔をさらに蒼白にし圧巻されたハピナス。
「……料理は俺がする、いいか?」
いつの間にやら紫煙を立ち昇らせ、静かに問う。
もはやその言葉に逆らえる者はここには居なかった。
―――
「そこで寝てると危ないですよ。」
掃除機をかけるハピナスにやんわりと退かされるマスター。
「……なんだか所帯じみたわねぇ……。」
私は自分で入れたお茶の不味さに辟易しながら呟く。
「……家事が楽でいい。」
お茶請けにとでも言うのか、油揚げを数枚差し出す。
「いいけどねぇ、私は元々バトル要因だし。」
鬼火を指先に灯し軽く炙る。
……今回判ったのは、何かって?
この人が無類の負けず嫌いだった事よ。
あの黄色いのに負けた後もどうやら写真とかで特訓してるみたいだしね。
……最近ハピナスにデレる事があって気に入らないわね。
密かに嫉妬の炎を燃やすキュウコン。
その炎が本当に出ていて壁を軽く焦がしたりするのはまた別の話。
―――
後書き
なんか段々所帯じみた話になりつつあるのは何故だろう……。CAPRI
最終更新:2007年12月21日 00:38