運営サイドに‘毎年の申請’をし、ハピナスに留守を任せ、俺たちはある場所に来た。
「……狐。」
この場所に来たからにはいつものふざけた事はしていられない。
「いつでもどうぞ。」
半身に構え肩まであげた片手を俺に向ける狐。
九尾の由来となる尾と髪が風になびき躍る。
「……参る。」
……風と一体となり駆け抜ける俺を狐が迎え撃つ。
―――
白銀山。
そこは道を極めんとする猛者達が修行の場とする霊山である。
紫煙の主と言われる現チャンピオンの数代前、
赤い帽子をトレードマークに数々のトレーナーを打ち倒し、
ロケット団を壊滅させたチャンピオンもここで修行した事で知られている。
カントーの隣であるジョウトと呼ばれる場所にある山。
九尾の妖狐と紫煙の主がチャンピオンになった時、
休暇と引き換えにこの場所での修行の許可を出させたのだ。
しかし、その場所は当時地震と噴火の傷跡を色濃く残す人の手の及ばぬ死地。
……その様な場所でのあの二人の修行である、当然苛烈を極めるものだった。
―――
「温いわ。」
マスターの打ち込みに軽く手を沿え撫でるように軌道を変えて受け流す。
同時に右であごを狙うが……これはそのまま抜けるように回避され、
「……腕が落ちたか?」
その刹那回避と共に打ち込んできたのであろう膝が私の腹部に突き刺さる。
「…………っ!」
気付いて自分から飛び威力を殺さなければ内臓を持っていかれている所だわ。
飛び退る私に追撃するマスターは常人ならざる気迫と獣のような瞳を宿していた。
―――
この冷えた溶岩と亀裂、そして焼けた朽木の並ぶ場所での修行。
……お互いに手を抜かず殺す気で戦う事。
私はこの場所で、始めてこの人の本気を垣間見る事となり、
初めての修行のその日から、この人についていく事を決めていた。
そこに甘い恋愛感情や、信頼関係があるわけではない。
あるのは強者が弱者を従える絶対なる掟のみ。
―――
……私が鬼火を纏い繰り出す蹴りを容易に流し、鬼火を素手で打ち消すマスター。
打ち払うその拳は同時に私への攻撃となる。
拳はフェイク、本命は最下段の足払い。
「ふっ……!」
短く息を吐き、払う足を捕らえ支点に飛び上がる。
1回転し遥か後方に着地した私の少し前には、左の手を黒く焦がし肩を押さえ座り込むマスター。
……飛び上がると同時に彼を襲う尾は最高の火力を備えた紅蓮の炎を宿していたのだ。
――と、左手を肩からもぎ取るように引きちぎるマスター。
私を射抜くその眼光はまさに手負いの獣。
片腕を失ったマスターに見えているのは自らが倒すべき相手のみ。
……投げ捨てられ落ちたその腕はもう動く事はない。
―――
「お帰りなさい」
喋る気力すらなく二人で玄関先に崩れ落ちる。
……あの後、攻勢は激しさを極めた。
私は左腕を肩から脱臼、右足を捻挫、その他打ち身切り傷擦り傷は無数にある。
一番酷いのは捻挫した左足首の上、太ももは恐らく折れている。
マスターの方はというと……。
「私も義手だなんて出発前まで知りませんでしたよ。」
運営サイドに情報を提示されているはずのハピナスすら知らない事実。
彼の左腕は丸ごと義手だ。
それは当然、知っていたのはその義手の技師を私、そして本人だけである。
ハピナスに差し出されたそれを手早くつける私。
「引きちぎった時にはどうしようかと思ったけどね……。」
プラグで脱着し固定している義手であり精密機器なのだ。
接続箇所を壊してしまえば2度とつける事は出来ない。
「…………。」
無数の火傷、切り傷、裂傷(私の爪跡)、擦り傷、肋骨骨折。
私よりも酷かったりするのはやはり生身の人間である証拠だろうか。
「救急車は呼んであります。」
抱えあげるハピナスに抵抗を見せる事無く運ばれる私たち。
……毎年修行の度に入院、しかし退院すると一回り強くなってるこの二人。
それでも毎年3日前後で復帰するなのだが。
……どうやら今年のリーグは例年よりも長く休業となりそうだった。
―――
後書き臭い何か。
バトルがしたかったんです。
えぇ、タバコの方です。
後書きで言うのもアレですが今回よりタイトルを変更し新シリーズ扱いにします。
ハピナスが増えたためですが。CAPRI
最終更新:2007年12月21日 00:51