3スレ>>503


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「う……」

 腹部からくる痛みで目が覚めた。

 目を開くと最初に真っ白な天井が見えた。待合室とは違う清潔な、それでいて無機質な純白。

 周りに視線を送ってみると天井と同じ真っ白なベッドがいくつも並んでいた。どうやらここは   

医務室のようだ。しばらく周りを眺めていたら1人の医師がやってきて説明してくれた。どうやら  

シエラの『突進』をモロに受けて気絶してしまったらしい。時間にすると三十分程ということで  

それほどの時間は経っていない。

 一通りの説明の後、診断の結果を聞かされた腹部にアザができているとのこと。しばらくは安静に

していなさいと釘を刺されてしまった。ちなみに、シエラの『突進』を一般トレーナーが受けたら

間違いなく死んでるよとは医師談。

 「しかし、参ったなぁ……」

 頭の後ろに手を回しながらボヤく。

 現在昼過ぎ、というよりもむしろもう少しでおやつという時間帯だ。あぁ、センターで一休みしたら

底を尽きかけている回復薬一式を購入するついでに軽く観光しようと思っていたのだが、この様子じゃ

最低でも明日までは動けないだろう。買い物は誰かに代わってもらうとはできるとしても観光となると

話は別だ。感想を聞かされても面白くない、やはり自分の目で見てナンボというものだ。

 それに何よりこのセキチクシティの目玉、萌えもん取り放題のサファリパークには何が何でも

行っておかなければならないだろう。本来ならば今すぐにでも行きたいのだが絶対安静と言われている

手前、無理は出来ない。

「そもそも、焦る必要もないか」

 ここで無理をおして出かけて悪化させてしまったら目も当てられない。最悪観光以上に大切なジム戦

までも落としてしまいかねない。そう考えるとこの絶対安静も「ゆっくり休んで鋭意を養いなさい」と

いうことなのかもしれない。

「ま、休めるうちに休むのもトレーナーの仕事っと」

 ともかく、できないことをウジウジ考えていても仕方ない。今日はもうこのまま寝てしまって日頃の

疲れを一気にとって明日に備えると

「マスター……」

 不意に声をかけられてその方向に顔を向けた。そこにはドアから顔だけを覗かせてこちらを見ている

シエラがいた。

「シエラ?」

「………!」

 声をかけるとシエラは顔を引っ込めてしまった。そして恐る恐るといった感じでまた顔を出してくる

何だか少し様子がおかしい。

 とにかく彼女を室内に入れようと思い、体を起こそうとして

「ぐっ!」

「あ!」

腹部に激痛が走った。そうだった、自分ケガしてることすっかり忘れてた。

「~~~~~~っ!」

あまりの痛みにのたうち回りそうになる。ったくこれじゃ明日どころか二、三日は確実に動けないぞ。

「マスター、大丈夫ですか!? マスター!?」

 激痛に歪む僕の顔を見たのだろう、シエラが泣きそうな顔をしながら駆け寄ってくる。

「何、とか……はぁはぁ……大丈、夫…ふぅふぅ……」

 切れ切れになりながらも言うことができた。徐々に痛みもひいていき、呼吸も整ってくる。

「ふぅ……何とか治まった。もう大丈夫だよ」

 そう言うと彼女は安堵の表情を浮かべた。が、すぐにその表情は曇ってしまう。

「シエラ?」

「…………」

 やっぱり変だ、いつも明るい笑顔をしているシエラがこんな沈んだ表情するなんて今まで一度も

見たことがない。どうにかしたいと思うのだがきっかけがなかなか掴めない。

 壁がけ時計の秒針の進む音だけが響き、時間だけが流れていく。

「…………」

 いつもは向こうから話しかけてくるのに一向にその気配がない。こうなったらこっちから話かける

しかない。驚かさないように、できるだけ優しく………

「ねぇ、シエラ」

「…………はい」

「ええっと、他のみんなはどうしたの?」

「みなさんは、マスターが寝ている間に買い物に行きました。足りない分の道具の補充とマスターの 

お見舞いの品を買ってくるって言ってました」

「あ、そうなんだ。あれ、じゃ何でシエラは残ったの?」

「……………」

 あ、あれ? 何だか黙ってしまいましたよ? マズい、どうする、いきなりコケた。何か、何か無い

か?この場を、この空気を切り抜ける方法は何か無いか? 何でもいい、天啓よ舞い降りてくれ!!!

「私は………」

「うぇぃ!?」

 今まで黙っていたシエラがいきなり口を開いたことにビックリして素っ頓狂な声を上げてしまった。

「マスター……私は……」

「シエラ?」

 彼女の声が震えている。愛らしいつぶらな瞳が、石を落とした水面のように揺れている。

「私は、マスターに………謝りたいって、思ってたん……です…」

 そしてとうとう、彼女の瞳から涙が零れた。

「シ、シエラ!?」

「マ、マスターが、ぅぐ、マスターが誉めてくれ、たこと、すごく…すごくうれ、嬉しかった。マス、

マスターの役に、立てたんだって…グス、そう思うととっても、とっても心が暖かくなったんです。

で、でもそのことだけで頭がいっぱいになって、自分一人だけ頑張ったつもりになって、あんなに、

図々しいこと言って、マスターに迷惑かけました」

 ぼろぼろと涙を零しながら嗚咽混じりに話すシエラ。僕はそれを見守ることしかできなかった。

「マスターだって、言ってたのに……みんなが頑張ってくれたって。なのに、なのに私は自分一人で

思い上がって、マスターに、ッ、ケガまでさせて」

 零れ落ちる涙を袖で何度も何度も拭うシエラ。だが、それでも涙は止まらない。

「あの時決めたのにぃ……絶対にマスターの役に立つって、マスターに迷惑掛けないって。なのに、

なのに私はぁ……マスターに迷惑ばっかりかけて、困らせてばっかりで、全然マスターの役に立てて

なくって……う、うわああああああぁぁぁぁぁん!!!!」

 シエラはとうとう大声で泣き出してしまった。零れ落ちる涙と共に出てくる彼女の気持ち。彼女の

想いを聞いて、僕は自分自身への怒りを感じていた。

 さっきまで僕は何を考えていた? 道具の調達? 観光? 挙げ句ジム戦だと? 彼女はこんなにも

自分のことで胸を痛めてくれていたというのに、僕は自分自身のことしか考えていなかった。謝らない

といけないのは僕の方なんだ。だから、泣かないでくれ、シエラ。

「………え?」

 シエラを抱きしめた。痛くしないように優しく、決して離さないように強く。

「マス、ター?」

「まったく、君も相当な泣き虫だな」

 違う、こんなことが言いたいんじゃない。なんでいつも一言多いんだ僕は。

「マ、マスター! 起き上がっちゃダメです!! 横になってないとダメです!!」

「気にするな、痛みなんかどっかに行ったよ」

 実際には腹部がかなりの悲鳴を上げているが、そんなの構うもんか。彼女の心の痛みに比べれば

こんなものは擦り傷にだってなりはしない。それより言わなきゃいけない、彼女が胸の内を明かして

くれたように。僕も彼女に伝えなきゃいけない。

「それに謝らなきゃいけないのは僕の方だ。君がそう思ってくれてる間、僕は自分のことしか考えて

なかった。君が心を痛めてる間、どこにも行けないってグチってるだけだった。僕は、シエラに泣いて

謝ってもらえるほど立派なトレーナーなんかじゃなかったんだ」

 目元のに溜まった涙を指で拭ってやる。我ながらキザだとは思うがそうしなきゃいけない気がした

から。

「マスター……」 

濡れた瞳が僕の顔を写す。その瞳の中の自分の顔を覗き込みながら、言葉を紡いだ。

「ごめん、シエラ。君の思いを裏切ってしまって。許してくれなんて言わない、その代わりにもう

泣かないでくれ」

 頭を下げる代わりに一層強く抱きしめた。言葉にできたこと、できなかったこと全て伝わるように。

「………マスターは優しいですね」

 抱きしめて数分、ようやくシエラが口を開いた。

「優しくなんてないよ。自分が思ってたこと口にしただけだし」

「そんなことないです。迷惑ばっかり掛けてる私にそんなこと言ってくれるんですから」

「まだそんなこと言うのかその口は。僕は迷惑だって思うことはハッキリ迷惑だって言う方だぞ」

 そうでしたね、と笑いながら言うシエラ。やっぱりシエラには笑顔が似合う。そうだ、胸の内に

しまっておこうと思ってたこの言葉もついでに言ってしまおう。

「それにね、シエラは役立たずなんかじゃない。シエラの笑顔には僕はもちろん、みんなも何度も

救われてるよ」

 驚きに目を見開くシエラ。さて、とっておきのこれを言ったらどうなるかな? 少し照れるが言える

ときに言ってしまうのが一番だ。それにどんな反応するかみたいしね。

「だから言わせてもらうよ。僕は、シエラに会えて本当によかったと思ってる。ありがとう、シエラ」

 言ってやった。言ってみると恥ずかしいモンだな。

「あ、あう………」

 シエラは真っ赤になって俯いてしまった。ピーっと耳から蒸気が見えてきそうなほどだ。

「シエラ、顔真っ赤」

「か、からかわないで下さい」

 プイッと顔を背けながらグイグイ押しのけられてしまった。って……

「いだだだだだだっ!!!!」

 シエラさんそこお腹、お腹ですから!!!!

「あっ!? ご、ごめんなさいマスター!! と、とにかく早く横になって下さい!!」

 すぐさま腹部から手を離して寝かしつけてくれるシエラ。ふうやれやれ。

「酷いぞ、シエラ」

 横になりながら文句を言う。

「知りません、マスターがからかうのがいけないんです」

 可愛らしくほっぺたを膨らませながら抗議してくる。仕方ないここまでか。っとその前に

「シエラ」

「何ですか?」

 彼女はプイッとそっぽを向きながらつっけんどんに答える。だがこれだけは聞いておかねばなるまい

「ご褒美は何がいい?」

「え?」

 またしても驚きに目を見開きながらこちらに顔を向けるシエラ。まぁ今までうやむやになってたから

なぁ。

「でも、私……」

「ご褒美がほしいって言ったのはシエラだろ? 実際頑張ってたし、僕にできることならできるかぎり

しよう。さっ、言ってごらん」

「でも、他のみなさんは………」
 
 自分だけがもらうことに気後れしているのだろう。申し訳ないような顔をしている。

「もちろん他のみんなにもちゃんとご褒美はあげるつもりだよ。だから遠慮なく言ってくれ」

「それじゃあ………」

 もじもじしながらこちらに来るシエラ。顔はもうさっき以上に赤い。何度も口を開いては閉じて、

やがて意を決したように呟いた。

「お隣、お邪魔してもいいですか……?」

「え、隣?」

「はい……」

「いいけど、そんなこと僕に言われてもなぁ。それに隣のベッド勝手に使って大丈夫かなぁ? まぁ誰
もいないから大丈夫だとは思うけどって痛い、痛いですよシエラさん!? なんでそんなに叩くんですか
ちょっと理不尽ですよ!?」

「そうじゃなくて、マスターのベッドの隣じゃなくてマスターの隣にお邪魔していいですかって言って

るんです!!」

「? …………あぁ、そういうこと」

 つまるところ、布団の中にお邪魔しますってことね。って同衾かい!?

「だめ、ですか?」

 不安げな表情で見つめてくるシエラ。そんな風に見つめられたら断れない。

「そ、そんなことない、けど」

 顔が赤くなっていくのが分かる。きっと顔から湯気が出ているに違いない。

「マスター、顔が真っ赤です」

「うるさい、来るなら早く来なさい」

 ここぞとばかりに仕返しをしてくるシエラから顔を背ける。くそう、何だこの妙な空気は。おかげで

さっきから鼓動が早くて落ち着かない。

「それじゃ……、失礼します……」

 毛布を持ち上げて入ってくるシエラ。冷たい風がべッドの中に入ってきたと思ったらすぐに彼女の

体温が右腕に伝わってきた。

「マスター、暖かいです」

「………そっか」

 あまりの恥ずかしさにシエラの方に顔を向けることができない。それに何でこう緊張してるのに

落ち着くような気持ちになるんだ。ホントにどうしたんだ僕は?

「あの、マスター」

「な、何?」

 いかんいかん、声が上擦ってしまった。落ち着け自分。

「あと一つだけご褒美ほしい、です」

「あ、ああ別にいいけど」

「はい、それじゃあの……腕枕して、ほしいです」

「腕……!?」

 驚きのあまり顔をシエラの方に向けると、彼女はトマトもかくやというほど真っ赤になっていた。

仰向けにして水を入れたヤカンを置いたらそのまま沸騰するのではないだろうか?

「マ、マスターが嫌だっていうんならいいですけど………でも、できればその………ぁぅ…」

 最後の方は殆ど聞こえないほど小さくなってしまった。俯いてしまって表情が見えない。

 でもそんなシエラを見て、さっきまで意識してた自分がバカらしく思えたのと同時に彼女を素直に

可愛いと思った。

「頭、上げて」

「え?」

 目を丸くしてこちらを見るシエラ。その目には驚きと期待の色が見えた。

「腕枕、してほしいんでしょ?」

「あ、はい!」

 満面の笑みを浮かべて彼女は頭を上げる。その隙間に自分の右腕を差し込んだ。

「私、今日すごい贅沢なことしてます」

「おいおい、こんなのが贅沢だなんて安上がりすぎるぞ」

「そんなことないです。マスターと一緒のベッドに入って、腕枕までしてもらって。私ずっとこうして

もらいたいって思ってたから」

 そう言いながらこっちに擦り寄ってくるシエラ。その顔は本当に幸せそうで、その顔をもっと見たい

と思った。

「こんなのでよければいつだってしてあげるよ。何なら毎日でもいいし」

「え、ええ!? それこそ贅沢ですよ、申し訳ないです!? でも、いいんですか?」

「ああ、構わないよ」

 ニカッと笑ってみせる。あぁ、こんなに喜んで貰えるならいくらだってしてやるさ。って、あれ?

何か大切なこと忘れてるような? う~ん、何だろ?

「マスター?」

「ん、あぁ何でもないよ」

 まぁ、いいか。思い出せないってことはどうでもいいことなんだろうし。それよりも、何だか眠く

なってきたな。

「ふぁ………」

「眠いんですか?」

「うん、何だか眠くなってきた。そろそろ寝ようか?」

「クスッ、はい」

 彼女の笑顔を見ながら目蓋を閉じていく。意識が落ちる寸前、

「お休みなさい、マスター」

 優しく響くシエラの声を聞きながら僕は眠りについた。

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 後書き

 無駄に長くなってしまいましたごめんなさい。それでもコレを読んでくださった方々。

 本当にありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!(号泣

 散々アドバイスしていただいたのに全く活かせていないこの愚作者。アドバイスしていただいた方々

 本当に申し訳ありませんでした!!!!!!!!!!!!(土下座 _○/|_
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