「おい!見つけたか!」
「いや、こっちにはいないようだ……何としてでもつ構えないと大変なことになるぞ……」
「とにかく探すんだ!"あいつ"を逃がしたら俺達の情報が外にばれちまう!」
「ハァ……ハァ…………
そんなに知られたくなかったならもっと早く俺を処理するべきだったな。」
物陰から走っていく黒ずくめの連中に目をやる影。
くたびれた帽子を深く被り直し森の中へ逃げ込んで行く。
助けを請うあてもない。羽を休める場所もない。
あいつらのやり方が気に入らなかったから。
平気で兄弟を見捨て始末していくあいつらが許せなかったから。
兄弟達の仇をとるべく抜け出した。
だからこうして追われてるわけだが……
「ッチ……このままじゃ見つかるのも時間の問題か」
見つかったらやられる。そうなったら元も子もない。
何としてでも逃げ延びて仇をとってやるからな兄弟……
「おい!いたぞ!捕まえろ!」
「ほんと数だけは多いねぇ。空に逃げ……逆に見つかるか。
だが捕まるわけにはいかないんだ……あばよ」
「おい、あの野郎が逃げた先は……」
「チクショウ、リーグ本部じゃねぇか。あそこにさすがに俺達は……」
「とりあえずボスに報告だ、何人かは私服でリーグのほうに回り込め!」
―――――
―――
―
「……暇だ」
ログハウスの屋根に登ってあいつが残していった煙草をふかす。
カートンで買いだめするから持ってくのが面倒だったのかそういうのに無頓着なのか。山ほど置いていきやがった。
しかし空が奇麗だ。ほんと土地開発が進む今じゃ想像できない場所だねぇ。
お、あれは一番星……
「いいじゃない、馬鹿みたいな量の挑戦者と相手するよりは」
「あの件で一日の挑戦者数を制限してくれたからな……されなかったら俺の体力がもたねぇよ」
「それを考えれば挑戦者も楽に勝てる相手じゃないって判断したんでしょ?いいことじゃない」
「まぁ軽く破られてた四天王に問題があったと思うがな……今日はもう受付時間おわったよな?」
「終ったわね、ご飯にする?」
「頼むわ」
「戦闘でこき使われて料理までさせられて……これって軽い虐待よね」
「俺より上手いだろ?適材適所ってことで―――
ガサッ
「……とっくに見学用ゲートは閉めてあるはずだが」
「よかったじゃない、夕飯の前に楽しめそうよ?」
「楽しめるかどうかわかったもんじゃねぇよ、まぁ飯作ってきてくれ」
「はいはい」
屋根から飛び降りて物音がしたほうへ進む。
さほど殺気は感じないが……さてどこの迷子かね
「でてこいよ!そこにいるんだろ!?」
―――――
―――
―
開けた場所から声が聞こえる。
ッチ……フェンスがあったからここを超えればそう人はいないと思ったが……
もうここまで手が回ってたのか?まだ捕まるわけには……
(一気に距離を詰めて……そのまま落とす!)
―――――
―――
気配がするあたりから黒い霧が一面に伸びる。
(わざわざ視界を封じたってことは……逃げるか奇襲か?)
背後から僅かだが風を切る音。
「っく!」
身体を捻じり右腕で攻撃を止める。
「はぁぁ!」
捻じった反動で腰を回し左脚から蹴りを繰り出す。
ヒュッ
虚しく空を切る。
(っち……ヒットアンドアウェイか―)
ガキィィン
両側から鈍い衝撃が走る、反射的に防御したものの予想以上に重い一撃に大勢を崩され―
「堕ちろ!」
鳩尾に追撃が入り後方に吹き飛ばされる。
霧の外に放り出されそして俺をさらに追う黒い影。
紺色のくたびれた感じのするテンガロンハット。
白いマフラーをたなびかせながらコートの後ろにからは赤い尻尾が見える。
(こいつは確か……ドンカラ……ス……)
「これで終わ―
ドコッ
鈍い音とともにドンカラスの身体が横に吹き飛ぶ。
「マスター……怪我は」
「助かったよサンドパン……そこまで重症じゃない。
さてと、サンドパンそこで伸びてるやつログハウスまで運んでくれるか?」
「うん、……その前に」
頭をこちらに向けてくる。
「あぁ、ありがとな……」
「ん……」
軽く頭をなでてやるとサンドパンは嬉しそうに頷いた。
―――――
―――
―
「ん……ぐ……」
「気づいたかい侵入者」
「あんたは……」
「さっきお前にやられかけたやつだよ、まぁ横から助っ人が来てくれたからこういう結果になったがな」
「……っ痛」
「やめとけ?サンドパンの一撃もろに喰らったんだ。まぁ療養はしてやるから大人しくしてろ。
っつうかそもそもなんでこんなところに?フェンスで囲まれてて通れるもんじゃないと思ったんだが」
「……囲まれてたからだ。わざわざ隔てるということは隔離された場所だと思ったからだ」
「なんだそりゃ。まるでどっかから逃げてるような物言いだな」
「逃げてるんだよ……俺は逃亡者だからな」
「…………はぁ、変なのに関わったわけかい?まぁいい、当分ここにいな」
「な……?俺は追われてる身なんだぞ?」
「誰に追われてるかしらんがここに人探しに来る馬鹿はいねーよ」
「……そうか、ありがとよ兄弟」
「あぁ……そっちの道かい、つくづく変なの拾っちまったな。まぁよろしくな」
このドンカラスがマスターと共に兄弟の仇討ちにいくのはまた別のお話
最終更新:2007年12月22日 22:49