3スレ>>684(2)


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 ケーキを買いに走っていったニーナが見えなくなると、ポケットから音楽が流れ始めた。
 トレーナーとして登録した際にもらったものなのだが、あまり使用しないので重りになっていたが……。
 画面に表示された番号からすると、どうやら母のようだ。

「……もしもし」
『あ、今日はちゃんと繋がったわね』
「……」
『いつもは全然繋がらなくて本当に困ってるのよね……』
「……何の用?」
『そうね、アンタは口下手だし用件だけ言うのがいいかもしれないわね』
「……」
『今日が何月の何日かは分かるわよね? さすがに』
「わかる」
『じゃあ、もうすぐ何のイベントがあるかは分かる?』
「? 正月」
『……アンタ、いっぺん死んでみたほうがいいんじゃない?』

 実の息子になんてことをいう母親だ。
 まるっきりの冗談じゃなくて、割かし本気な部分が混じってる。
 でも、いきなり死ね、といわれるようなことはした覚えないんだけど。

「……いいたいことは?」
『死ね、って言われてるのに分からないの? もう少し考えなさい』
「分からないから聞いてる」
『はぁ。そういう子だったもんね、アンタは』
「……」
『今、ニーナちゃんはいる?』
「いない、ケーキ買いに行った」
『ケーキを買いに行かせておきながら分からないのね……。頭痛くなってきた』
「……あ、クリスマス」

 すっかりその存在を忘れていた。
 思い出してみるとどうして忘れてたのか甚だ疑問なものだが、忘れていたものはしょうがない。
 サンタはずっと昔に夢の彼方に帰っていったし。
 クリスマスは誰かの誕生日と同じくらいにしか思ってなかったのかも。

『で、思い出したアンタはどうするの?』
「? 家に帰る」
『やっぱり死になさい。死んでニーナちゃんに詫びなさい』
「ニーナ?」
『最近……いえ、今日でいいわ。ニーナちゃんの様子はおかしくなかった?』
「んー……?」
『気にかけてなかったなんて言ったら勘当モノね』

 ……思い当たるフシは……ある。
 普段なら言わないようなことを頑張って喋ってた。
 思い起こせばどれもクリスマスのことを暗示していたのかもしれない。
 あとは妙にソワソワしてたり、笑ってることがが多かったり。
 やけに意地が悪かったり、かと思えば遠い目をしてたり。
 どれも些細な違いだったけど確かに様子がおかしいといえる。

『ふぅ、その様子ならちゃんと気付いてたみたいね』
「……」
『アンタが気付いてくれれば母さんはそれでいいわ。あとはアンタの問題だしね』
「……」
『それじゃあまたね。正月に帰ってこれなくても気にしないわよ。それじゃ』

 こちらの返事を待たずして、通話は切断。
 はぁ……。溜息を一つ。
 普段から喋っていないから疲れるのと、
 ……ニーナかぁ。
 母の言わんとすることはだいたい分かった。
 でも……それは……。

「マスター!」

 ニーナの声が聞こえた。
 さっき消えていった方を見遣ると、ニーナが箱を抱えて走っていた。
 人ごみを綺麗にくるりくるりとかわして、僕のところへやってきた。

「ふぅ……。マスターがどんなケーキが好きなのか分からないので私の気に入ったヤツを二切れずつ買ってきました」
『そう、有り難う』
「ん? どうしたんですか、マスター?」
『なんか、寒くなってきたよね』

 恥ずかしい。
 今更「どこか宿をとろうか」なんて言えるわけがない。
 で、こう切り出してみたのだが……。

「冬ですし、もうお昼も過ぎてあとは寒くなるばかりですから」
『だよね。うん。あとはさむくなるだけだよね?』
「? ですから、早くケーキを食べて出発しましょう」
『え? え? あれ?』
「……マスター?」
『あの、ね、ニーナ、クリスマス、一緒に、すごす?』

 あ、ニーナがあまりにも予想外な台詞を吐くからつい恥ずかしい言葉が。
 しまったなぁ……筆記慣れしすぎてるなぁ。
 やってしまった顔の僕。
 何を言われたのか呑み込めてない顔のニーナ。

「あの、その、お正月はいいんですか?」
『いい』
「あ……それでは……私、マスターと一緒に……!!」

 ばっ、とニーナが突然抱きついてきた。
 まだ人通りも多いし、すごく恥ずかしい。
 あ、いや、人通りがなければいいというわけでは……。
 あああでもでも抱きついてくるのが嫌なわけじゃなくて。
 ダレに向かって弁解してるんだろう、僕。

『ニーナ、とりあえず……はなれよう?』
「……ノートに何が書いてあるかなんて読めませんから!」

 そうして二人のクリスマスは姿を現した。
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