「ご主人様ぁ~、まだ町には着かないですか?」
「んー……もう少しだけど……」
「おなかが空いてちからがでないです……」
「あ、こら、俺にくっつくな! 背中に乗るな!」
「えへへ、あったかいです……」
くそぅ、卑怯じゃないか。
俺がお前にキツく言えないの分かっててやってるのか?
いいえ、彼女はきっと気付いていません。
だから厄介なのでした。
「あーもうー、町に着いたら飯食べるから自分で歩け!」
「ほ、ほんとですかご主人様!」
「いや、ウソ」
「……ご主人様のいじわる」
「いやいやホントに食べるから食べるから! お前の好きなファストフードだっ!」
だからさっさとどいてくれー。
重いわけじゃないが、流石に俺も疲れてるんだ……。
うぅ……前の町で長期宿泊にしときゃあ良かったかも。
寒いし疲れるし……いくらクリスマスだからって賑やかなトコ行く必要なかったなぁ。
べとべたぁはクリスマス自体知らないし。
「ふぁ、ふぁーすとふーど!! それはがんばれざるをえないです!」
「そうそう、がんばって歩いてくれ」
「さ、ご主人様! はやく行きますよ!」
「え? ちょ、どこにそんな元気を隠し持ってたんだ!!」
トレーナーである俺は見事にべとべたぁに置いていかれた。
なんとかべとべたぁの背中を追いかけてついた先はタマムシシティだった。
「へぇ……」
結構イルミネーションが凝っている。
ウチの町なんて所詮田舎でござんすよ、といじけてみる。
ツリーの大きさも飾りつけも比べ物にならないくらい豪華だった。
隣に居るべとべたぁもファストフードのことを忘れて見入ってるくらいだ。
「ごしゅじんさまぁ……きれいです……」
「あぁ。こんなツリーを自分達で作れたら楽しいだろうなぁ……」
「つ、つくれりゅんでしゅか!?」
「落ち着きなさい。いや、木と装飾があれば出来るんだけどね」
「じゃ、じゃあさっそくつくりましょうつくりましょうご主人様!」
「ただな……うん、それだけのものを用意する金がないと」
「それはざんねんです……」
そんなにガッカリしないでおくれよべとべたぁ。
俺まで落ち込んじゃうじゃないか……。
……。
決意。
「よっし、来年はお金貯めてツリー作ろうな!」
「らいねん? ツリー?」
「そ、今年はお金がないけど、来年はちゃんとお金を貯めておいてツリーを作るの」
「らいねんは作るんですね! が、がんばるです!」
「そんなに意気込むなって」
「まずははらごしらえです。はらがへってはいねむりできず!」
「ねむってどうする」
そんなこんなで腹ごしらえは終了。
でもね、あんまりこうやって外食すると来年のためにお金が貯められないんだよ。
という言葉はべとべたぁの笑顔の前に封殺。
もうダダ甘だよね。
「ふぅ……まんぞくしましたぁ」
「そうか、そりゃ良かった」
「それでご主人様、これからどーするですか?」
「うーん……取り敢えず年始まで宿とっておきたいなぁ」
「とまる所をさがすんですね!」
ただ……クリスマス直前になってまともに空いてるところはあるのかなっと。
まぁ、取り敢えず町を歩きながら色々考えるのもいいかもしれない。
クリスマス色の町を歩くだけでも楽しいし。
べとべたぁも動きたくてうずうずしてるみたいだし。
「よーし、町をぶらつきながら探すか!」
「はい、ご主人様!」
俺たちはしっかりと手を繋いだのを確認して、人ごみの中へと飛び込んでいった。
「――で、ここが俺たちの泊まる宿か」
目の前にある建物は築百数年とか言ってそうな木造の古臭い旅館だった。
でも、安いし、空いてたし、敷地も広かったし、古くて古くて古いのに目を瞑ればいい条件だ。
べとべたぁも何だか気に入ってくれたみたいだしね。(最重要)
「しってますよ? ご主人様」
「いや、色々理由があって言わなきゃいかんかっただけ」
「……?」
「さぁて、泊まるトコもきまったし。今度はどーするかなー」
流れ行く人の群れを眺めながら考える。
あーあ、なんでこんなに若い男女二人組みが多いかねぇ……。
ふと隣を見る。
べとべたぁは俺と同じポーズで何かを必死に考えているようだ。
……まぁ、こいつも若い女の子ではあるよな。
「? どーしました?」
「いやぁ……なんでもない」
ふぅ。取り敢えずバイトかなんか探すのがいいかな。
ツリーのために金も貯める必要があるし。
幸いこの町では労働力は必要そうだしな。
「んじゃべとべたぁは大人しく旅館で待ってろ」
「はい。ご主人様はどうするですか?」
「んー? 取り敢えず仕事探してくる」
「分かりました。お仕事はだいじですからね」
「おう。何かあったらさっき会った女の人に言うんだぞ」
さぁて、器用貧乏な俺が活躍できるところは……。
最終更新:2007年12月26日 20:04