3スレ>>722


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はるか彼方にグレン島を望む21番水道、そこに釣竿を垂れながら、のんびりと空を眺めてみる。
いい天気だ、雲ひとつない、まさに快晴。
こういう日が続いてくれりゃ、言うことはないんだけどねぇ。
そんなことを考えていると、隣で昼寝をしていたストライクがのっそりと体を起こした。
あくびをかみ殺しながら伸びをしつつ、こちらを振り返って何事でもなさそうに尋ねる。

「主……釣れますか?」

「んー……」

視線だけを隣に置いたバケツに遣り、しばし視線を宙に舞わせ、

「さっぱりだな」

見栄を張っても意味がない、と開き直る。

「やはりですか」

ストライクも期待はしていなかったのか、それだけ言うとまたごろりと横になってしまった。
……なんだかなー、もう少し残念そうにしてくれたっていいんじゃねーかなー。
と、なんともいえない複雑かつ微妙な気分になりかけた、そのとき。

「……おお~い、おおぉ~~~い!」

「んあ?」

背後から奇声を上げてこちらへ駆け寄る、妙な老人が一人。




『Canon~へたれのための追走曲~』




「……んで? 一体何がどうなったって?」

ところかわってこちらオーキド萌えもん研究所。
日夜萌えもんについてあれやこれやと研究を繰り返しているというある意味健全ある意味不健全な施設である。
正直に言おう、ぶっちゃけあんま近づきたくない。
まぁ俺の場合、こういう場所が肌に合わないというのもあるが、それよりも――

「うむ、クチバからサントアンヌ号の船上パーティにうまいこと潜り込み、そのあと降り損ねたということじゃな」

――この、妙にガタイのいい爺さん、コイツが誰より苦手なのだ。
この訳知り顔でうんうんとうなずいている爺さん――実は何もわかっちゃいない――こそ、この研究所の主、オーキド博士である。
若き日は萌えもんトレーナーとして、老いた今は萌えもん研究の第一人者として名を轟かせているというが、どっちにしても変態臭の拭えない爺である。
最近ボケてきてるっぽいし。
まぁそれはさておき、だ。

「つまり、どういうことだよ」

「つまり、自力では帰って来れない遠い町まで船で運ばれてしまったということじゃよ」

「アホだアイツは……!」

オーキドの返答に、頭を抱えて思わずうめく。
え?状況がわからん?
すまん、簡潔に三行で説明しよう。



妹みたいなへたれた幼馴染が
萌えもんトレーナーとして旅を始めて
クチバで寝過ごし遠くへ漂流



以上だ、どぅーゆーあんだすたん?
……改めて口にするとなんというか、どっと疲れるなオイ。
ヘタレだとは思ってたがまさかアホでもあったとはな、驚きだよ畜生。
あぁぁぁぁ、とため息ダダ漏れな俺の肩を思い切りバンバン叩きながら、無駄に豪快にオーキドは笑う。

「なぁに安心せい! こうして連絡は取れとるし、サントアンヌの船長の厚意でちゃんとクチバまで送ってもらえると言っとる!
 そんなに心配せんでもあの子は無事に帰ってくるわい!」

「心配してんじゃなくて、呆れてんだよ……」

だから背中を叩くなクソ爺、加減しろ加減。
まぁ帰ってくるめどがついてるならいいか……って、ちょっと待て。

「おい爺さん、問題なく帰ってこれるならなんでわざわざ俺を呼んだんだよ」

『一大事だからとにかく来てくれ!』と引っ張っられて来たんだぞこちとら。
そりゃ確かにヘタレな上にアホなことが発覚したのは一大事だが、それは俺を呼んでどうにかなることでもあるまいよ。

「あぁ、そのことか。
 いやな? なんだかんだ言ってあの子もまだ子供、それも女の子じゃ。
 うちの馬鹿息子達と同じように送り出したのは、少々酷だったかと思ってのぉ」

「今更言ってどうする……」

後悔先に立たずってことわざ知らんのか爺さん。
ていうかなんかものすげぇ嫌な予感がするんだが気のせいかねストライク。

「奇遇ですな、私もですよ主」

やっぱりお前もか。
ところでさっきから何をごそごそやってくれてやがるんですかね爺さん。

「ん? いや、あの子に贈る餞別を確かここに……おお、あったあった」

そう言って、爺が取り出したるは……マジックパンチというのだろうか、あのみょいーんと伸びる先にグローブのついたおもちゃだった。

「なんだそのおもちゃ」

「ただのおもちゃではないぞ。 これは“ラッキーパンチ”と言ってな、萌えもんに持たせるだけで急所に攻撃が当たりやすくなるという縁起のいいアイテムじゃ」

……急所に当たると縁起がいいのか?
まぁラッキーなのは確かだろうが。
しかし締まらない見た目だなぁ。
で、なんでその へ た れ へ の 餞別を俺に持たせようとしてるんだ爺さん?

「いや、お前に渡さんで誰に持っていってもらうんじゃ?」

「知るか!」

やっぱりそういう腹積もりかこの老いぼれ!
油断も隙もあったもんじゃねぇなおい!
差し出されたラッキーパンチを全力で突き返し、行くぞ、とストライクを促して研究所の出口へと向かう。
冗談じゃない、なんで俺がわざわざあのへたれの尻拭いをせなきゃならんのか。
憤然と立ち去りかけた俺の背中に向けて、さも独り言であるかのように、それでいてかつ大声でオーキドが言う。

「むぅ~、仕方ないのぉ~。 小さい頃にいじめられとったあの子をかばってくれとった“お兄ちゃん”に断られてしもうては、誰に頼めばよいやら……」

「ぐっ……!」

あ、の、く、そ、爺ぃぃぃぃぃぃ……!
よりにもよって、今!
今その話を蒸し返すか……せっかく忘れてたってのに。

「主、そうなのですか?」

ほら見ろ、ストライクまでなにやら胡散臭い目で俺を見てるじゃねぇか……俺に妹属性はねぇってんだ。

「……昔の話だ、気にすんな。 いいから帰るぞ」

「しかし……」

「しかしもかかしもねぇよ、少なくとも今は、俺とアイツは何の関係もねぇんだ」

あえて素っ気無く言い放ち、扉へと手をかける。
が、開かない、開けられない。
何かが――いや、誰かが俺の背中を掴んでいる気がする。
誰かが、呼んでいる気がする。
錯覚、あるいは単なる気の迷い。
割り切ってしまえばそれだけだ。
だが、しかし――

「……ったく、畜生!」

――悲しいかな、割り切れるほど、俺も大人じゃなかったわけだ。
荒々しく床を踏み鳴らしながら来た道を逆戻りし、爺の手からラッキーパンチをひったくる。
ニヤついている爺の顔を見ないようにしながらそれをしまい、大音声で確認を取る。

「クチバで待ってりゃいいんだな!? こいつを渡すだけだぞ、畜生!」

「おお、それでかまわんぞ。 おおそうじゃ、こいつを連れて行け」

「あぁ!?」

勢い余って二、三人人を殺しそうな勢いで(もちろん比喩的な意味だ)爺のほうを振り返る。
そこには。

「……なんだコレ」

「いや、モンスターボールじゃが?」

「見りゃわかるわソレは! これがどうしたっつってんだよ!」

「どうしたと言われてものう……ほれ、出て来い」

爺さんの声に応じ、モンスターボールから赤い光が放たれる。
それはやがて大きなひとつの塊となり、やがて人の形を成し、そして――

「……おおう」

「――はじめまして、こんにちは!」

見たこともない萌えもんが俺の前に現れた。
誰だコイツは、カントーは結構あちこちまわったがこんな萌えもん見たことねぇぞ。

「コイツは最近見つかったヤンヤンマという萌えもんでな……なにぶんカントーでは見かけんポケモンじゃったからわからんことのほうが多い!
 そこで、クチバまでとはいえお前さんに連れて行ってもらって少しでもこいつのことを知ろうと、こういうわけじゃ!」

「人をこき使うのもほどほどにしろよこのクソ爺……」

人をパシらせた上についでに面倒ごとまで押し付けようとはどういう了見だ。
まったくもって腹立たしい、そうだろストライク?

「…………」

「……ストライク? おーい?」

「――はっ!? な、なんでしょう主!?」

……もういい、よくわかった。
お前はそういう娘が好みなんだな。

「い、いやその主違うのです、某は何も見惚れていたりしたわけでは――」

「わかった、わかったから。 ……爺さん、この萌えもん――ヤンヤンマだっけ? ありがたくもらってくわ」

疲れた声でそういうと、爺はそうか!と一人満足げにうなずき、俺にヤンヤンマの入っていたボールを手渡した。

「うむうむ、♀を用意しておいたのはやっぱり正解じゃったのぉ」

「確信犯かよ……」

タチ悪いなこの爺さん。
ストライクも無理に弁解しようと考え込むな、意味ないから。
やれやれ、と頭を振り、覚悟半分、諦め半分で踵を返し、再び出口へと向かう。

「む、待て、少し待つんじゃ!」

「――ん? なんだよ」

再度呼び止められ、振り返る。
そこには、先ほどまでの笑顔は微塵もない、引き締められた表情を浮かべる爺がいた。

「知っておると思うが」

爺は言う。

「……あの子は、可哀想な子じゃ。 周りの人間を、誰も信じることができんかった。
 わしにできたのは、萌えもんをあの子に預け、旅に出られるようにしてやることだけじゃった。
 それが間違いだったとは思っとらん。 じゃが――」

いったん言葉を切り、呼吸を整える。
心なしか爺の目は、妙に光っているように見えた。

「――今、あの子が笑顔でいてくれておるのか、それだけが心配じゃ。
 お前さんがあの子に会ったとき、もし笑顔でいてくれるのならそれでよし。
 そうでなければ――お前さんが、笑顔にしてやってくれ、頼む」

そう言うが早いか、深々と頭を下げる。
……まったく。
腹が立つくらいにお調子者だが、同じくらいにお人よしなのだ、この爺は。
ふぅ、と軽く息を吐き、答えは告げず、扉を開ける。
見上げた空はどこまでも青く、じっとその空を見上げながら、背中へ向かって呟いた。

「……できる自信はねぇけどな。 やれるだけはやってやるさ、一応」

そう言って後ろ手に扉を閉め。
隣に控える“馴染みの相棒”ストライクと、“新入り”ヤンヤンマを交互に見比べ。

「――行くか」

「御意に」

「はいっ!」

俺は、どうしようもなく健気なへたれを追いかける旅の第一歩を踏み出した。




追記。
もちろんこの後家に立ち寄り、旅に必要な道具一式をそろえたことは言うまでもない。
旅をなめたらいかんのですよ。







あとがき的な名状しがたきもの。
560氏のへたれが可愛かったので絡ませてもらいたかった。
正直反省はしている。
ちなみに図鑑は持ってません、持たされても集めないので。
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