「メリークリスマス!」
マサラタウンの俺の実家で、盛大に開催されているのはクリスマス会だ。
いつもの面々に加え、母さん、博士という面子だ。
二日前に、クリスマス会をするから戻って来い、という連絡を受けて、
クリスマスなんてすっかり忘れていたためにナナシマからマサラまで快速で帰還した経緯もあって、
俺は非常にへとへとだ。
でも、
「凄いですね」
感心したように頷くフシギバナや、
「うわぁ! 凄いですの!」
目をキラキラさせてはしゃぐピカチュウ、
「人間ってこんな事やってるのか? すげぇな」
クリスマスツリーや家に施された装飾を見て驚きの声を上げるカイリューに、
「こんな面白いイベントを黙ってたなんて、意地悪ねぇ……ご主人様」
いたずらっぽくクスクス笑うキュウコン、
「これは、なんというかその……」
グレイシアなんかはこの手の雰囲気が苦手なので、顔を真っ赤にして完全に小さくなっているし、
「ふむふむ、主とともにこのような宴会が出来るとは……。感激の極みだな」
相変わらず大げさなピジョット。こいつはいつもと変わらんな。
物珍しそうにキョロキョロする皆に、母さんが微笑を送っている。
そういえば、皆とドンチャン騒ぎってしたことがなかったな。
今度からはもっと構ってあげようと反省していると、不意に母さんに声をかけられた。
「はい。今年のプレゼントよ」
渡されたのはリボンで包まれた包み紙。
包装を解いて中身を出すと、マフラーと手袋が入っていた。
「これから寒くなるだろうしね。お母さん、頑張ったんだから」
コロコロと笑う母さん。
だが俺は、皆からの冷たい視線で身が凍りそうだった。
今の俺なら分かる。何で言ってくれなかったんですか、という抗議に相違ないだろう。
いや、それだけじゃない。
俺自身もクリスマスという行事をスッカラカンに忘れていたのだ。
彼女達へのプレゼントなど用意できる暇などあるわけが無い。
背後からのプレッシャーが怖い。
そんな俺を見て笑っているのは、母さんと博士だ。
当事者じゃないから、すっかりこの状況を楽しんでいる。
「ご主人様、酷いです」
いやいや、フシギバナさん? 否定は出来ませんがその目はやめて下さい。
本当に打ちひしがれた様な目で俺を見つめてくるフシギバナ。
そこにピカチュウも加わり効果は抜群だ。
「ふふ、ちょっとお仕置きが必要よね」
「だな。協力するぜぇ」
ニヤニヤしながらも、その声には怒気が含まれているキュウコンとカイリュー。
いや、お前らこだわりすぎ。
「だ、大体だな、お前らだってプレゼント無いじゃないか」
だからおあいこなんだから時間をくれ。
「こんなものは当日に貰ってこそナンボだろ?
そこら辺の様式美にこだわって欲しかったな」
グレイシアの痛烈すぎる言葉。
いやまぁ、確かにそうなんだがなぁ……。
「彼女って訳でもないのに、何でそこまで責められなきゃいけないんだ?」
これが拙かった。大失態だった。
皆の視線が一気にブリザードと化した。
母さんなんかは、女心の分からない朴念仁でごめんねぇ、なんて謝ってるがこっちとしてはチンプンカンプンだ。
オーキド博士なんかはこのやり取りがツボだったらしく、笑いが止まらない状況になっている。
曰く、ここまで懐かれるトレーナーも珍しい、との事。笑いながら言っても説得力がありませんって。
完全に針の筵の俺に救いの手を差し伸べたのはピジョットだった。
多分に笑みを含んだ声音で彼女は話し出した。
「まあまあ、落ち着け。確かに主からの贈り物が無いのは寂しいがな」
そしてチクリと俺を刺すのも忘れない。流石ピジョット。
「とはいえ、我らは萌えもんだ。いくら主が愛しくて、主からの贈り物を賜りたくとも、流石に無理がある」
ならば、とキュピーンとカブトのように目を光らせるピジョット。
「行動で示してもらえばいい」
爆 弾 投 下 !
場がある意味では凍りつき、またある意味では非常に燃え上がった。
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「ここ、こ行動って事はあんなこともそんなことも」
「とりあえず自重しろフシギバナ。本音がただ漏れだ」
錯乱して何を言っているのか分かっていないフシギバナ。
グレイシアがそんなフシギバナを叱責する。
ピカチュウは顔を真っ赤にして気絶。現在、母さんの看護を受けている。
「クス、何をしてもらおうかしら」
怪しげな流し目を送ってくるキュウコン。目がマジだ。
「えとつまりはそれであのそれがああなって」
どれがどうなってああなるかは知らんが、カイリューはイヤンイヤンしている。
男勝りな彼女には珍しい仕種だ。
しかし、ミュウツーや伝説三鳥が居なくてよかった。ミュウもミュウでエスカレートしそうだしなぁ。
このメンバーだったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
この状況を見かねたピジョットが再び――今度は柔らかい笑みを湛えて、
「ならば主よ――約束してくだされ。
今年一年、来年のクリスマスまで我ら――ボックスで主を待っているものも含めて、見捨てないと」
ピジョットの言わんとしている事を悟った俺は、ピジョットに歩み寄りポンと頭に乗せた。
「だったら、皆からのプレゼントは来年の今日まで、元気に俺と一緒にいるってことでどうだ?」
そういうことだろ? とピジョットに視線を向けると、彼女は満足気に頷いた。
「だが、忘れる無かれ。私とて皆のような褒美も欲しいのだ」
だが、と彼女は続ける。
「聖夜に毎年契約を結ぶ――なかなかに趣があると思うのだがね」
いかがかな、とピジョットは皆を見渡した。
皆は軽く溜息をついて、一回大きく頷いた。
多分その溜息は軽い落胆なんだろうな、と思いつつ、最初の契約を俺たちは結んだ。
――メリークリスマス
――了――
-----おまけ-----
この事をボックスの皆に話したら、勝手にパソコンから皆が出てきて押しつぶされた。
皆が笑顔がただただ眩しかった。
ただミュウツーは少々不満そうに
「様式美もいいが、やはり実益が伴わねばなぁ。元より私は主から離れる気など無いしな」
などと言って俺にくっついてくる。
彼女からすれば、その会に参加できなかったのが悔しいようだ。
「か、勝手に契約結んでじゃないわよ。いや、もう結んだものだから今更破棄はしないわよ」
「素直ではないな、フリーザー。ならば来年の契約は取りやめてもらうのか?」
「い、いえ。こういうのって更新性でしょ。いやよ、今更破棄なんて」
「アンタ、もうちょっと素直になった方がいいんじゃないのかい?」
フリーザーは必死に否定するだろうが、サンダーの言う通りだと俺も思う。
うんうん頷いた俺をフリーザーが凍らせたのも追記しておく。
――終幕――
最終更新:2007年12月26日 20:21