それは、特に冷え込んだ夜の事だった。
部屋で灯っていたストーブの火を消し、部屋の換気をするために少しだけ窓を開けた。
外は一面の雪。真冬である。
「…少し仮眠して、窓を閉めよう…」
そう思って俺は寝床に入り、寒くならないよう羽毛布団に身を埋めて仮眠をとりはじめた。
…すると、何かが入ってくる気配を感じた。
(何だ…?部屋の電気つけてるから泥棒ではあるまいし…)
パサパサと聞こえる羽の音。
(鳥…?)
耳を澄まして羽の音聞いていると、俺のベッドの上に降りたようだ。
(なんだろうな……?)
ゴソゴソと羽毛布団が擦れる音。何かが入ってくる。
やがてそれは俺の体の上に乗ると動きをやめた。
冷たい感触、そしてプルプルと震えているのが感じ取れた。
(一体なんだ…?)
俺は目を開け、羽毛をめくりあげて中を覗いた。
そこには一匹の小さな野生の萌えもん―スバメ―がいた。
体を小さく丸め、震えるスバメ。俺の視線に気が付き顔を向けたスバメはとても寒そうだった。
「お願いです……温めさせてください……」
見上げる感じで見つめてくるスバメ。その目には弱弱しい光と涙が浮かんでいた。
「わ、わかった…。」
すぐさま俺は部屋の窓を閉め、スバメを抱き上げた。
体調30cm程のその体はまだ冷たく、プルプル震えていた。
(夜も遅いし…一番温めるのに効果があるとしたらやっぱり布団か…)
そうして俺は、野生のスバメと思わぬ形で一晩を過ごすこととなった。
スバメを体の上に乗せ手でそっと覆ってやる。
これなら布団の温かさと俺の体温で温かくなれるだろうと。
直にスバメの体は冷たさもなくなり、震えも収まっていった。
一般に、スバメは寒さに弱い個体である。普通なら今の時期南国に渡ってここにはいないはずなのだが、現に今ここに一匹のスバメがいるのだ。
何があったのかはしらない。でも、寒さで震えているような子を締め出すほど俺は鬼畜じゃない。
寧ろ窓を開けておいてよかったのかもしれない。
いつのまにかスバメはスースーと寝息を立てていた。
(…もし窓が開いてなかったら、この子は寒さに耐え切れなかったかもしれない…)
一つの小さな命を胸に抱き、俺は眠りについた。
あれから一年後。
今もこうしてストーブを切り、部屋の換気をしている。
あの時入ってきたスバメの子は、次の日に旅立っていった。
その時、俺は寒くなくてもいいようにピンク色のハンドタオルを持たせてあげた。
あの子の笑顔は今でも忘れない。
あれから一年経つが…今はどうしてるだろうかな…?
さて、寝るか。
コンコンコン
夜中に聞こえる音。窓を何かが叩く音。
むくりと起き上がり、窓のカーテンを開ける。
「……!!」
窓の外には、一年前より大きくなったスバメ…いや、オオスバメがいた。
首には一年前にあげたハンドタオルをマフラーのように巻いて。
しかし外は寒い。俺はすぐさま窓を開け、オオスバメを中へ入れてあげる。
「タオル、返しに来ました。」
その子がニッコリ笑う。その顔に、一年前のあの面影が残っていた。
「…あの、今日一緒に温まってもいいですか…?」
最終更新:2007年12月28日 16:45