3スレ>>861


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海に自ら両足を浸すと、冷たい水が足と頭を冷やしてくれた。
落ち着いてくるにつれて、自分への嫌悪感がどんどんと募ってくる。


――あの時。


烈しい劣情に駆られて、俺はフシギソウをその場へと押し倒した。先ほど彼女が蔓でそうしたように、その両手を俺の片手で押えこんで。
ベッドにおいてあったリュックが落ちて、中身をぶちまけるのも気にせず、そのまま覆いかぶさろうとして。

リュックの中から落ちた、小さなバッジが目に入ったのだ。
その瞬間、俺の中に記憶されていた恐怖と嫌悪がよみがえり、そして俺自身にそれは向かってきた。

「ご、御主人さま…」
「フシギソウ…ゴメン、俺っ!!」

そうして、センターを飛び出してがむしゃらに走っているうちに、この海岸までたどり着いたわけだ。

(今の俺は、アイツらと何が違うって言うんだ)

右の手に握ったままのバッジを眺める。アルファベットの「R」をモチーフにしたデザインの赤い金属。
これは俺にとっての過去であり、形見であり、呪縛であり、恐怖であり、現在を象徴するものだ。


            * * *

俺が旅を始めたのはマサラタウンの家からだが、生まれたときからそこにいたわけではない。
なぜかと言えば、マサラに住む俺の家族は、血のつながった家族では無いからだ。俺が5歳の時に起きた事件の後、俺はあの家に引き取られた。


俺の本当の両親は、それはもう酷い奴らだった。
夫婦揃ってロケット団幹部であり、悪事を働いて萌えもんを捕らえ、あるときは売りさばき、
あるときは調教して悪事に加担させ、従わないモノには暴行を加えたり、ひどいには手下を呼んで犯させるなど、本当に下劣極まりない両親だった。

いや、両親だけではないか。6歳年上の俺の兄も、そのうち両親と同じようになっていった。
たぶん、俺もあのまま育っていたら同じようになっていたのかもしれない。いや、確実にそうなっていた。

だが、実際には俺はそうならなかった。俺はずっと、両親や兄の行動に疑問を持ち続けていたのだ。
そうならなかった理由もあったのだろうけれど、今の俺は覚えてはいない。


そして、俺が5歳の誕生日を迎えて間もない時、ニビの郊外にあった俺の生家は、警察に襲撃された。
もちろん俺の家族は逃げだした。俺とたくさんの萌えもんを閉じ込めた屋敷に火をつけてから。

炎に巻かれる屋敷の中に、ギャラドスと共に飛び込んできた一人のトレーナーがいた。後に俺の義父となるその男は、
屋敷中を食い荒らす炎を恐れることもなく、まだ小さかった俺を助け出してくれたのだ。
その日、屋敷から救出された生き物は俺だけだったと警察から聞かされた。俺の家族は、罪もない多数の萌えもん達を焼き殺したのだ。


その後…俺の処遇に関してはいろいろ揉めたらしい。まぁ巨大犯罪組織の幹部の子供だもんな。
が、警察に多大な貸しを作っている養父が俺を引きとると言ってくれたおかげで、俺はいまこうして旅ができる訳だ。

右手に握ったバッジを見やる。このバッジは、養父に発見されていたときに俺が持っていたものらしい。
俺は何度か捨てようとしたのだけれど、養父いわく「勿体ないだろ、とっとけよ」とのことだ。

…まぁ、シルフカンパニー潜入の時には役に立ったんだけどな。

これを見るたびに、両親や兄の怒号や狂った笑い声、そして被害者の悲鳴が思い返されてくる。



            * * *

「…帰ろう…」

所詮、俺はあいつらの子であり、弟なのだ。そう考えると益々嫌な気分になるので、とにかく考えないことにする。
とにかくセンターに戻って、フシギソウに謝ろう。そうすれば、きっと今までどおりに戻るはずだ。
そう考えて海に背を向けると、そこには見慣れた姿が立っていた。

「ま、ますたぁ…」
「ロコン…何でここに?」

そう尋ねると、ロコンは今にも泣き出しそうな顔をしながらこっちに駆け寄ってきた。

「ますたーが、いなくなった、って、きいて、みんなで、さがしてたん、です」
「そっか。ごめんな、心配かけて」
「全くだ。何があったのかは知らないが、私の念話まで拒絶してくるとは思わなかったよ」
「フーディン…」
「その様子だと、解決とはいかなくても落ち着いたみたいだね。戻ろうか」
「ああ…悪かった」

フーディンにも謝罪すると、彼女は若干驚いたように「何も謝らなくても」とつぶやいた。
ロコンと俺に触れて、フーディンがテレポートを発動する。目を開けば、そこはもうセキチクセンターだった。



            * * *


「あ…御主人さま」
「ただいま、フシギソウ…その、さっきはごめんな」
「う、うん、気にしないで!あれはボクも悪かったから…」

フシギソウは部屋にいた。浴衣は脱いで、いつもの服に戻っている。
ほどなくして、ピカチュウとシャワーズも帰ってきた。話もそこそこに、それぞれボールに戻って眠りについた。








 4日目 - シャワーズ -


今日はみんなと離れて、一人サファリゾーンへ向かった。
図鑑のデータ集めもあるが、もう一度自分自身とひとりで向き合ってみたかったのだ。
ゆっくりとジャングルのようなパークの中を歩きながら、考える。

(俺、これからどうしたらいいんだろう…)

分からない。風呂に飛び込んできたりするのは、みんなに頼んでやめてもらえばいい。
けれど、それで問題は解決するわけじゃない。

もし、またあんな衝動が突然襲い掛かってきたら?

俺はそれが何よりも怖い。みんなを傷つけてしまうのが、そのせいでみんなが俺から離れて行くのが怖い。
答えの出ないまま、時間切れのアナウンスが鳴った。

「…もう一回やるか」

図鑑のデータはほとんど集められなかった。お金に余裕もあるし、もう一回や二回くらい構わないだろう。


            * * *

「ニドリーノ・ミニリュウ・ニドリーナ・ガルーラ・タマタマ…それに『なみのり』と『かいりき』か。
 まぁ…元は十分に取れたな。なみのりはシャワーズにお願いするとして…かいりきは誰に頼むか」

あと一人連れて行けるわけだから、そいつに頼むべきか。もしくはフシギソウかピカチュウにでも渡すか。
とにかく、もう戻らなくては。答えは出なかったが、それはそれで仕方のないことかもしれない。


ほどなくしてセンターにつくと、入口の前で見慣れたシルエットが俺を待っていた。

「フーディン」
「やぁ、マスター。そろそろ帰ってくる頃かと思っていたよ」

ゆっくりと近づくと、フーディンも壁から離れた。

「少しいいかな。場所を変えて話がしたいんだ」
「…ああ、構わないけど」
「わかった。歩くのも面倒だから、飛ぶよ」

言うが早いかフーディンが俺の手をとってテレポートを発動した。


            * * *


テレポートした先は、昨日の海岸だった。波が届かないあたりの砂浜を選んでフーディンが座ったので、
俺もそれにならって隣に座る。海に反射している紅い夕日が眩しい。

「マスター、話はすべてフシギソウから聞かせてもらった」

…なんというか、やっぱりその話か。

「いや、責めている訳じゃないんだ。いくつか聞きたいことがあってね。
 もちろん無理に答えなくても構わないのだけれど」
「…言ってみてくれ」

「ではまず一つ。マスター、あなたの持っているロケット団のバッジについて聞かせてほしい」
「…あれはもともと俺の物だよ。ロケット団に入っていたわけじゃあないけどな。
 俺の両親はロケット団の幹部でな…俺も将来はロケット団に入れるつもりだったらしい」
「御両親は…今は?」
「…警察に踏み込まれた時、俺と捕まえていた萌えもん達を残して家に火をつけて逃げたよ」

そうか、とフーディンは軽くため息をついた。

「では質問を変えようか。
 マスター、君は萌えもんを『捕まえる』と言う事はどういう事だと思う?」
「…捕まえた奴の自由を奪って、服従させるって誰かが言ってたな。保護とか言ってる人もいたが」

「まぁそうだな。結果は同じだよ。私達は捕獲された瞬間から、
 生殺与奪の権利をすべて捕獲したものにゆだねる事になる。好むと好まざるに関わらず、ね」

その通りだ。俺達はこいつらの自由や今までの生活を無理矢理奪って従えているにすぎない。
…本当に。あいつらと俺と、何が違うんだろうか。

「けど、何がいいたいんだよ」
「少なくとも私達は、自分の主が私達に何をしようとも文句を言えない、と言う事さ」
「…それは、違うだろ。たとえば、フーディン。俺がお前を殴ろうとすれば、その気になればお前は俺を殺してでも止める事ができるだろ?
 お前たちだって俺に言いたい放題やりたい放題やってるんだし、それくらい――」
「なら、仮に今この場で私が君を殺して自由になったとして、その後はどうなる?」

考えてみる。俺がいなくなったとして、フーディン達は…

「…!モンスターボールか!」
「ご名答。もし私が自由になったとして、どこか遠くへ行ったとしても、誰かがボールを操作すればたちどころに元に戻されてしまう。
 ボールのリセット機能は指紋認証が必要だから、私を完全に自由にするには君がいなくてはいけない。
 下手に壊したりするのも危ないからね」
「フーディン…お前、ひょっとして俺の所から離れたいのか?」

恐る恐る口にしてみると、彼女に思いきり睨まれた。一瞬だけではあったけど。

「全く、変な冗談はよしたまえ。あくまでたとえ話だし、ナツメに無理を言ってこっちに来たのは私の意思なんだよ」
「…そうか…そうだよな」
「質問もおしまい。日が沈むと海辺は冷える。帰ろうか」
「ああ」

結局フーディンは俺に何を伝えたかったのだろう。わからないまま、テレポートで俺達は再び飛んだ。



センターに戻って、風呂場へと入った。みんなはそれぞれ部屋の中でくつろいでいる。
…俺の頭の中に、いくつかの可能性がよぎっていく。それらをすべて振り払って、シャワーのお湯を浴びる。

「マスター」

声がする。…予想はしていたが、やはり来たか。
振り向いても姿はない。ドアの開く音もしない。けれど、きっとそこにいる。
そう思った瞬間、目の前の水たまりが一気に盛り上がって形を成していく。

数秒の後、そこにはシャワーズが立っていた。

「…シャワーズ、出て行ってくれないか」
「マスター…私には、あなたがずっと耐えているように見えます」
「頼むよ、分かってるならなおさらだ」

…もう、俺は我慢なんてできない。すべて壊してしまう前に、お願いだからここから離れてほしいんだ。

「マスター、私はあなたの為なら――」

がたん、と。イスが倒れた。

昨日と同じように、俺はシャワーズを風呂場の床に組み敷いていた。
息が荒い。頭が熱い。けれど、俺の頭の中では小さなころの両親の姿が写っている。

同じだ。 

お前も。

ヤツラと。

同じ――


「マスター?」

シャワーズの頬に落ちる滴り。…その雫は、俺の眼から流れていた。

「…これじゃあ、一緒じゃないか…
 俺は、俺を捨てたあいつらと同じことをしてるんじゃないか!大切な仲間に、こんな、こんなっ…!!」
「マスター…」

シャワーズの細い腕が俺の頬を拭う。

「マスターを捨てた人たちがどんな方たちか、私は知らないですけれど…」
「…ひどい奴らだよ、俺と同じで」
「違います。あなたは、そんなひどい人なんかじゃない」

床に組み敷かれたままのシャワーズが、強い口調でそう言い切る。

「私たちは、マスターを心から信頼しています。あなたはいつでも私達に優しかった。
 だけど、マスターは私達に負担をかけたくないと思っているから、いつも一人で抱え込んでしまう」

タマムシシティで出会った時から、シャワーズがここまで必死で話をするのは初めてだった。

「マスターが辛いとき、苦しいとき、今みたいに迷っているとき…その何分の一でもいいんです。
 どんな形でもいいから、私にぶつけてください。あなたの苦しみを、辛さを、迷いを少しでも減らせるなら、
 私はどんな事だってできます!マスターの何もかも、私が受け入れてみせます!だから…!」
 
「――ありがとう、シャワーズ」

気づけば、俺は彼女を抱き起こして、力の限り抱き締めていた。

「でも違うんだよ。俺、みんなを傷つけてしまうのが怖いんじゃないんだ。
 傷つけて、そのせいでみんなが俺から離れてしまうのが怖いんだ。
 お前のマスターは優しくなんかないんだ、ただの臆病ものなんだよ…
 ごめん、ごめんなシャワーズ、俺…トレーナー失格だよ…!」
 
本当に、無様でかっこ悪い。俺はシャワーズを抱き締めたまま、何年ぶりかもわからないくらい大泣きしていた。
それでも、彼女は俺のことをぎゅっと抱きしめ返してきた。

「いいんです、マスター。私は…私達は、マスターのそういう所も全部受け入れます。
 臆病なところも、優しいところも、全部私達の大好きなマスターなんですから」
「…シャワーズ」
「マスター…」

分厚い湯気の幕の中。2人の姿は、ゆっくりと重なって――







 5日目 - エピローグ -


「マスター、もう朝ですよ、起きてください」
「う…あ」

もう朝か…シャワーズが俺を起こしてくれたらしい。
そう言えば昨日は、彼女と――

「…シャワーズ、体大丈夫?」
「実を言うと、ちょっと腰が痛いです…」

顔を赤くするシャワーズはやっぱり可愛らしい。
同時に、昨日の彼女の暴走っぷりを思い出す。ちょっと意地悪も思いついた。

「シャワーズ」
「は、はい…」
「また今度、頼んでもいいかな?」
「は、は、は、はいぃぃ…」

さらに顔を赤くして悶えているシャワーズ。ああ、可愛いなチクショー。

「じゃあ、行こうか。今日はジムに挑戦だ!」
「はい、もう朝ごはんもできてます。みんな待ってますよ」

シャワーズは部屋を出て行った。俺も急いで着替えて、部屋を出ようとしたとき、ふと目に入ったものがあった。
赤い「R」のバッジ。けれど、これはもう俺の過去でしかない。俺を束縛することはもうないだろう。

ベッド横の窓を開けて、海へと向けて力の限りに投げつけた。


―― 赤く輝くバッジは波間に消えて、瞬く間に見えなくなった。














 






 後日談 - おまけ -


「やぁマスター。昨日はお楽しみだったみたいだね。ちなみに私以外の3匹は眠らせておいたから、音の心配はいらないよ」
「黒幕がそれを言うのか、フーディン」

「おや、バレていたか。まぁいい。マスターの肩の重荷もとれたようだし、私としてはオールオッケーだ」
「おいおい…」
「それとマスター。別にシャワーズでなくとも、私達だって君のすべてを受け入れる覚悟はしている事を覚えておいてくれたまえ。
 …まぁ、さすがにピカチュウとロコンに手を出すのはまずいと思うけどね。まだ子供だし。
 もちろん萌えもんと人間の間に子供はできないんだし、別に私は毎日でも構わないよ?」
「あー…そうか…ありがとな」
「ふふ、礼には及ばんよ、マスター」

「ところでフーディン、最初の3日間は何か意味があったのか?単に俺の反応見て遊んでいただけじゃないのか?」
「まぁまぁ、3日目に意外な展開になったとはいえ、結果は良かったんだから――」

「フーディン、今日はジム戦で汗かいたろ?今から一緒に風呂でも入らないか?
 他のみんなと入ってお前とだけ入らないってのも不公平だしな、ついでに今回のお礼とお仕置きもたっぷりしてやろう」
「マスター、落ち着きたまえ…目が、目が怖いぞ。テレポートも封じられているし、
 いつの間に『くろいまなざし』が使えるようになったんだ君は」
「さあな。ああ、音の心配はしなくていいぞ。みんなサファリパークの見学に行っててな。
 こんな中途半端な時間帯にはセンターもあまり人はいないだろうし、堂々と声出しても構わないぞ」
「え、あのちょっと…」

「じゃ、行こうか。覚悟はできてるって言ったよな?」
「わ、ちょっと待って、や、にゃああああああああああああああああっ!?」






   おしまい。 





















     あとがき。

 えっと、なんかもうすいませんでしたっ!

最初は本当にお風呂場に乱入して最終的には――という話のはずだったんですが、

予想外に長くなった上に予想外にシリアスな展開に――しかも思いつきなので会話も支離滅裂だし…

次回はもうちょっとまともな文章に仕上げていきたいと思います。

今後もマスターとこのパーティを主役として、ssを書いていきたいと思っています。

それでは、また次の作品でお会いしましょう。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!
ツールボックス

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