4スレ>>193


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 こんにちは。……はじめまして。わたしはヒトカゲ。もえっこもんすたぁの一種です。
 ……あ、別にわたしに火が点いてるから『燃え』なんじゃないですよ? 『萌え』っていうらしいです。なんでかは、わたしもよく知りません。
 
 もえっこもんすたぁ――ちぢめて、もえもん。
 とかげもえもん、ヒトカゲ。
 
 それが、いきものとしてのわたしの名前らしいです。しゅぞく? って言うんでしょうか。
 本当はわたしにも同じ仲間がたくさんいるはずなんですけど……人の目からは、それがとても珍しく映るらしく、わたし以外を指して「ヒトカゲ」と呼んだ人を、わたしは見たことがありません。
 なので、あんまり可愛くなくて個人的には些か不本意ですが、みなさんもわたしのことは「ヒトカゲ」って呼ぶといいと思います。
 …………ひーちゃん、とか、可愛いと思うんですけど。
 
 自己紹介はこれくらいでいいですね。
 では、物語を始めましょう。……はぁ。
 
 さらまんだぁ’s えれじぃ
  第一話 「ヒトカゲの憂鬱」
 
 まさらは真っ白、始まりの色――マサラタウンに居を構える、その名ももえもん研究所。
 そこが、今も昔もわたしのおうちです。
『…………はぁ』
 あそこでパソコンの前に頬杖突いて溜息をついているのは、オーキドのおじいちゃん。他の人からはもえもん博士、なんて呼ばれてます。
 モニターに映し出されているのは……きっと、グリーンぼっちゃんからのメールでしょう。少し前から、おじいちゃんはいつもああしてパソコンの前で溜息をついています。
 少し前……というのは、どうやらぼっちゃんがレッドさんにもえもんリーグというところで負けてからなんだそうです。研究員の方々が話しているのを小耳に挟んでしまいました。
 わたしの目からも、おじいちゃんがぼっちゃんに期待していたのはわかりました。
 最初はきっと、かわいい子には旅をさせよのつもりで送り出したんでしょう。でも、ぼっちゃんがタケシさんという人に勝ってグレーバッジとかいうものを貰い、カスミさんにも勝ってブルーバッジを貰って――その頃にはもう、おじいちゃんは口を開けば、
『それグリーンが、やれグリーンが、どっこいグリーンが』
 ……そんな話ばかりになりました。
 レッドさんのことも、おじいちゃんはおじいちゃんなりに認めていたようでした。それはつまり、ぼっちゃんのライバルとして。
 互いに好敵手と認めて競い合い、切磋琢磨する。それでも最後にはグリーンが勝ってくれるだろう――そう、おじいちゃんは思っていたのでしょう。
 でも、勝ったのはレッドさん。一足先にチャンピオンになっていたぼっちゃんに勝って、レッドさんは新しいチャンピオンになりました。
 それも、ぼっちゃんがチャンピオンになったという報を受けたおじいちゃんが急いでもえもんリーグに向かい、到着する直前に。
 ……あのおじいちゃんがお酒に溺れる姿を見たのは、あの日の夜が初めてでした。
 その後姿を、ぼっちゃんが悔しそうな顔をしながら扉の隙間から覗いていたこと……わたしは知っています。
 次の日ぼっちゃんは、
『自分を見つめ直す』
 と言って再び旅立ちました。今はナナシマというところにいるそうです。
 それ以来、おじいちゃんのパソコンにはほとんど毎日、ぼっちゃんからメールが届くようになりました。ああ見えて、意外とぼっちゃんは律儀なんですよ? 素直じゃないだけで、いい子なんです。
 
 さて、そんなことを考えているわたしはと言うと、
「…………はぁ」
 棚に置かれたモンスターボールの中、今日も今日とておじいちゃんに負けじと溜息をついています。
 ああ、退屈だからじゃありませんよ? こう見えてボールの中というのも、意外と快適なんです。おじいちゃんが話しかけてくれたり、たまに研究所の方やぼっちゃんのお姉さんのナナミお嬢さんが散歩に連れて行ってくれたりもしますし。
 だからそんなことじゃなくて、わたしの憂鬱の理由、それは……、
「…………」
 お友達がいないこと、なんでしょう、たぶん。
 一年前は三つ並んでいた棚のボールは、今はわたしのそれ一つきり。
 ぼっちゃんと一緒に旅立って行ったフシギダネちゃん、レッドさんに着いて行ったゼニガメちゃん……元気かなぁ。
 聞く話によると、二人ともリーグで殿堂入りというのを果たしたそうです。直ぐに更新されちゃいましたから、フシギダネちゃんは『元』なんですけど。ゼニガメちゃんは今も現役です。
 殿堂入りというからには、きっとものすごく強くなっているんでしょう。わたしなんかじゃ絶対に敵わないくらい。
 それにしても……懐かしいなぁ。一年前のあの日、ぼっちゃんとフシギダネちゃんと、レッドさんとゼニガメちゃんの、初めてのバトル。あのときのみんなの姿は、今も目に焼き付いています。それこそ、まるで昨日のことのように。
 わたしにもいつか、あんなふうに一緒に旅をしてくれる誰かが来てくれたりしないかな……。
『「はぁ~あ……」』
 二人分の溜息が、おじいちゃんの研究室の中にこだまします。
 するとそのとき、
 
 ――コンコン
 
 扉からノックの音が響き渡りました。
『おじいちゃん、いる?』
 ナナミお嬢さんの声です。
『ナナミか、なんじゃ』
 疲れた声でおじいちゃんが促すと、お嬢さんは静かに室内に入ってきました。
『昨日の子、目覚ましたよ』
『おお、医務室か?』
『うん。様子見に来るでしょ?』
 昨日の子……? はて、何かあっただろうかとわたしは昨日の出来事を振り返り……ああ、思い出しました。
 確か、昨日のお昼過ぎ頃です。マサラからグレン島に続く海岸に、一人の女の子が流れ着いていたのです。傍には女の子を引っ張ってきたらしい珍しいもえもん――おじいちゃんは「カブト」って呼んでました――の姿もありました。迅速な処置のお陰で女の子は一命を取り留め、昨日から医務室に寝かされていたはずです。
『そうじゃな、あのカブトのことも聞いておかんと。……お?』
 お嬢さんの後に続いて部屋から出ようとしていたおじいちゃんが、ふとわたしの入ったボールに気が付きました。
『お前も来るか?』
「――っ、――っ!」
 ボールの中、わたしがこくこくと頷くと、おじいちゃんはわたしをボールから出してくれました。
 
     *
 
 10歳そこそこに見えるその女の子は、溺れて気を失ってついさっき目を覚ましたばかりだというのに、とても元気でした。
『すすすっ、すいません! なんだかものすごく迷惑おかけしちゃったみたいであのその……!』
 ……ちょっぴり、元気の方向が間違ってる気がしないでもないですが。
『いいわよ、これくらい。日常茶飯事だしね』
 お嬢さんがそう言って女の子を落ち着かせますが……いつからマサラタウンはそんなアグレッシブでバイオレンスな町になったのでしょう?
『あ、そうなんですか。よかった~』
 女の子はあんまり気にしてないようです。なんだか、ちょっぴりお嬢様に似てます。
『それで、あなたのお名前は? グレンから来たのよね』
『あ、はいそうです。ブルーって言います』
『ブルー……?』
 その名前に、おじいちゃんは聞き覚えがあるようでした。
『おじいちゃん、知り合い?』
『知り合いというか……確かタイトの娘がそんな名前だったような気がしての』
 タイト……わたしも知らない名前です。お嬢さんも同じらしく、首を傾げています。
『タイトはあたしのお父さんです。あの、グレンの研究所で職員やってます』
『ああ……』
 合点が入ったという様子で、お嬢さんが頷きます。
 マサラ以外にも研究所があるということは、わたしも聞いたことがありました。現存するもえもんの、主に生態を研究するおじいちゃんの研究所と違い、生物学的な見地からもえもんと研究している……とかなんとか。
『なるほどの。君のカブトは、それでか』
『はい、お父さんに譲って貰いました』
 言って、おじいちゃんとブルーさんはテーブルに置いてあったモンスターボールに視線を移します。
 わたしも倣ってボールを見つめると、二つ並んだボールの片方には、わたしと同じ炎タイプのきつねもえもんロコン、もう片方には見たこともないもえもんが入っていました。
「――あなたが、カブトさんですか?」
「…………」
 わたしが訪ねると、ボールの中のその子は黙ったままこっくり頷きました。
『ブルーちゃん、この子出してあげてもいい?』
『あ、はいどうぞ。大人しい子ですから、多分大丈夫です』
 お嬢さんがカブトさんをボールから出してあげます。すると、
「――ッ!」
 カブトさんは脱兎の如く駆け出し、ベッドの下に潜り込むと蹲りまってしまいました。大人しいというか……恥ずかしがり屋さんなんでしょうか。
『カブト、だっけ。やっぱり珍しいもえもんなの? この子』
『レッドが連れていたオムナイトや、グリーンのプテラを覚えておるじゃろ? あれと同じじゃ』
『あ……それじゃあ、化石から?』
『うむ。本来なら絶滅しているはずのもえもんじゃな。化石復活技術は、もうほとんど完成していると見える』
『へぇ……』
 お嬢さんの質問に答えるおじいちゃん。それを聞いてブルーさんも頻りに頷いています。ああして普段は落ち込んでいるように見えても、やっぱりもえもん博士なおじいちゃんはおじいちゃんで、わたしはちょっと安心しました。
 さて。
 わたしはしっぽの火でベッドを焦がさないように気を付けながら、隠れているカブトさんに歩み寄ります。
「(わ……)」
 明るいところだと気付かなかったのですが、ベッドの下の暗闇の中では、カブトちゃんの目が電球のように光っていました。なんかちょっと、怖いです。
 それでもわたしはめげずに近付き、ぺこりと頭を下げました。
「はじめまして。わたし、ヒトカゲです」
「……」
 こっくり頷くカブトさん。
「あの……カブトちゃんって、呼んでいいです?」
「……」
 こくこく頷くカブトちゃん。
 ……無口な子です。
 と、
「……ん」
 ふいにカブトちゃんが手を差し出してきました。
「?」
 その意図を図りかねて、わたしは首を傾げます。
「……あくしゅ」
 カブトちゃんがそう言うと、目の光がぽぅ……と少し穏やかになりました。どうやらわたしのしっぽの火と同じで、感情を表しているようです。
「は……あ、はい。よろしくです」
 わたしはその手を取り、ぶんぶんと振りました。
「……ん」
 目をちかちかさせながら頷くカブトちゃん。思ったより、いい子みたいです。

後編へ続く
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