4スレ>>301


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 なんのためにうまれて、なにをしていきるのか

 目を閉じ、眠りにつこうという間際の今でも頭の中に繰り返される詩。
 一定のリズムで刻まれる音はテンポを知らず。
 ただ、何らかのメロディがあった、それは記憶していた。
 どのようなものだったか、色々と試してみるが繋がらない。
 我は思い出すのを諦め、今一度深く目を閉じた。



 夢を見た。
 我が、――私であった頃の記憶だ。
 所々に靄がかかり、細部までは映像を再現できない。
 だが十分だ。
 覚えていて欲しい箇所に劣化は見られない。
 ……まだ来ないのだろうか。
 煩わしい研究に実験。それらから開放されるのは週に一度。
 いつもこの時間になると私の心は躍り始める。
 この無機質な部屋の外へ。
 研究所の外へ出られるのはその間だけだった。
 そしてもう一つ。

「やぁミュウツー、今日も元気でいるかい?」

 他の研究員とは違い、若干服装のラフな男が入ってくる。
 ちっす、と手を挙げて室内を見渡すと残っていた研究員が慌てて散った。
 私はそれらを一瞥し、視線を戻す。

「貴様はいつも通りだな、偶には奇を衒った登場をしてみたらどうだ?」
「壁を突き破って出てきて欲しいかい?」
「世間では火の中水の中というが、壁の向こうは対象内なのか?」

 男は一旦私と視線を切ると、背後に気を向けた。
 きぃ、と再び戸を開く音が響き、見慣れた姿が現れる。
 この男の子供だ。
 やや屈折した男とは違って、素直で可愛い男の子だった。
 ……とはいえ、年齢は同じ程度なのだが。
 何故か私のことをミュウツーとではなく、愛称で呼ぶ。

「こんにちわ。みーは元気? あ、これおみやげだよっ」
「あぁ、有り難う。……ほらそこのダメ人間、自分の息子を見習ってみたらどうだ?」
「ははは、現金なんだねキミは。では私のほうからもコイツをやろう」

 そう言って、男はカラフルな紙片を胸から取り出した。
 印刷された文字を目を凝らして眺め、うんうんと頷く。
 目の前にそれを差し出し、

「これ……欲しいかい?」
「それが何なのか分からないのだが……どちらかと言えば欲しいな」

 そう言って紙片に手を伸ばすと、ひょい、と男は手を引っ込めた。

「どういうつもりだ……?」
「だって欲しくなさそうだしー。あげなくてもいいかなーってねー」
「では……いる。欲しい」
「んー? 聞こえないなぁー。もう一度いってくれるかい?」
「今から壁をぶち破ってみるか?」
「厳しいなぁ……」

 乾いた笑いを漏らし、男は頭をかいた。
 再び引っ込められないようすばやく紙片を取り上げて、書かれた文字に目を通す。

「氷芸……?」
「そそ、なんか最近ここらで有名になってるみたいでね。――っと、用事ができちゃったみたいだ」
「……またか」
「まぁ私もちょっとは有名な人間だからねっ」
「嘘をつけ嘘を」
「お父さんは本当にゆーめーなんだよっ。ちょっと前にテレビにも出てたんだからっ」
「ほぅ……このダメ人間が……何と痛ましい……」
「私の勇姿を見たいのならいつでも言ってくれたまえ。んじゃ、コイツと一緒に遊んでてやってくれ」
「貴様なぁ……。私を遊ばせる為にいるんじゃないのか?」

 今度来る時はビデオもって来るよ、と出ざまに言い捨てていったので返答できなかった。
 部屋に残されたのは私と少年。
 どちらかと言えば大人しい性格の子。

「さて、……氷芸と言うものを見に行こうか。チケットは持っているか?」
「うんっ」
「そうか……やはりアイツ……最初からこうするつもりだったな……」
「?」
「場所は案内を頼むぞ?」
「みーのためなら頑張るよ」

 意気込みをあらわすかのようにガッツポーズをとる少年。
 その幼い仕草が私を余計に心配にさせるのだとは気付いていないのだろう。



 少年に先導されやってきたのは公民館のホールだった。
 ミュウツーのままで外に出るのはマズいと初期ごろに言われたので、立派に着こなしなんかもしていたりする。
 だが、何となく落ち着かない。
 公演までまだ数分の余裕があった。
 私はパンフレットを開き、字面を追った。

「……珍しい種の萌えもんによる氷の芸……か」
「何か古くにぜつめつした萌えもんみたいだよ?」
「絶滅……意味、分かっているか?」
「いなくなっちゃうことだよね」
「……そんな感じだ」

 ぶー、とブザーが館内に鳴り響き、照明が落ちた。
 客のざわめきがピタリと止む。
 舞台の照明が点り、脇からその萌えもんが登場した。
 青……よりは透き通った、雨の後の青空のような色。
 その姿が礼を行うと、見事な様に映った。
 手始めに、というように大気中に氷の結晶を次々と作り出す。
 どれも可愛らしい人間と萌えもんの姿をしていた。
 さらに生み出されるのは十数種類の楽器。
 それらは人間や萌えもんに叩かれることで様々の音を成した。
 単独だった音は一定のリズムで律され、重奏になり、オーケストラのような音楽へと変わる。
 続いて精度の高いオブジェクト。
 私は次第にその芸に夢中になっていた。



「お目覚めくださいませ――」

 聞きなれた声で目を覚ます。
 どうやら思っていた以上に長く眠っていたようだ。
 皆も流石に心配になって起こしてくれたのだろう。
 我は欠伸一つ残さずに立ち上がる。
 洞窟内は暗い。
 だが、もう朝を少し回っている頃だろう。

「……起こしてくれて有り難う。下がってくれ」

 今日は研究者たちがここ、ハナダの洞窟を探索に来る日だ。
 思い出すと心の底から、吐き気のする黒い感情が沸き起こった。

 なんのためにうまれて、なんのためにいきるのか

 リフレイン。
 我がどうしてここに生を受け存在するのか。
 他者からその理由を貰った事はない。
 ならば、と我は理解した。
 我自身がその理由を見つけ出さねばならないのだと。
 その問いの末、我は発見したのだ。

「忌々しき人間共から、萌えもん達を解放するのだ――」

 かれこれ十年近く言い聞かせてきた言葉。
 始めこそいくらかの躊躇いがあったが最早跡形もなし。
 容赦はしない。
 特に研究者などと言う生き物は。
 我は万全の準備を整え、奴等の到着を待つことにした。
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