「俺達、勝ったんだよな」
「…いまさらどうしたのだ、御主人」
ライチュウとキュウコンの体調も一応回復し、俺はついに最後のジム、トキワジムに挑んだ。
驚くべきことに、トキワジムのリーダーはあのサカキだった。俺達はひとりのジムリーダーとして立ちふさがった奴と戦い、
激戦の末に勝利を収めたのだ。
「いや、さ。実感とかわかなくって」
「もっと自信を持つべきだと思うね。…少なくともあの男は、もうロケット団を指導するつもりはないらしい。
…首領がいなくなった悪の組織なんて、脆いものだよ。…やつが信頼できるかどうかは別として」
「そうかもな。…よし、とりあえず、帰るか!博士にリーグへの参加書類もらわねーとな。
バッジが8つ揃ったから、最優先シード権もらえるはずだ」
俺はみんなをボールに戻して、すこし軽くなった気分でマサラへと戻っていった。
「…うむ、見事じゃクリム。もう目にも迷いが見えん。立派なものじゃの」
マサラタウン、オーキド博士の研究所で、俺達は博士と向き合っていた。
バッジの確認と推薦書類などの話をしてるついでに、手持ち全員の健康診断もお願いしておいた。
特に、ライチュウとキュウコンを。
「博士。…キュウコンとライチュウ、もちますか?」
「単刀直入に言おう。…やはり、彼女たちの体は限界に達しておる。もともと成長期の体に、バトルで負担をかけすぎた。
特に今は、ちょうど体が出来上がり始めるころ――連続でこんな戦いを繰り返せば、発育不良、最悪の場合に死にいたるじゃろうな」
その言葉に、俺の後ろにいた二人が体を強張らせる。シャワーズとフシギバナがそれぞれ落ち着けているようだ。
「…もちろん、お前さんの気持ちもよく分かる。…皆でリーグに行きたいんじゃったな」
「はい」
「ならば、ひとつ提案じゃ。
今からリーグまでの1ヶ月間、徹底的にこの子たちに休養と栄養を取らせるんじゃ。
リーグ予選にも二人は使うな。とにかく、本戦ギリギリまで力を温存させておく。…これが、ベストじゃろうな」
…振り返って、仲間たちを見た。
しっかりとうなずいたプテラ。
拳を掲げて目を輝かせるフシギバナ。
落ち着いた表情でほほ笑むシャワーズ。
いつも通りに、軽く肩をすくめたフーディン。
…決まりだな。
「…キュウコン、ライチュウ。俺たちが、必ずお前らをリーグに連れて行く。決勝はみんなで戦おう。
だから、しばらくの間は休んでくれ」
「…わかった。約束だよ!」
「ますたー、わたし、がんばり、ます…」
「博士、確かリーグメンバーは手持ち6人、控え3人でしたよね。手持ち二人と控え一人が決まったら、連絡します」
「分かった、早めに見つけるんじゃぞ」
* * *
「とはいっても、最低でも残り二人…どーすっかな」
1人で(みんなはボール)家までの道を歩きながら、考える。ボックスには結構な量の萌えもんがいるが、
戦力としてはどう考えても物足りない。数合わせが通じるようなリーグでもないだろう。
(せめて、じんすけだけでも呼びだせれば話は変わるんだろうが…)
と、考えた瞬間。
「ますたー、あれ、なんですか?」
「…ん?ああ、砂嵐だな。実物は初めて見る…マテ。砂嵐だと?」
俺の記憶の限りでは、マサラタウンに砂嵐なんて来た事は一度もない。
「マスター、あれこっちに来てるよね」
「ああ、来てるな」
「…どうしようか」
「そんな事言ってる間にもう来てる…な」
が、砂嵐は町の手前で突然勢いを弱め、砂交じりの辻風となってこちらへ――
「って、なんだあれは!?」
風とともに、何かが飛んでくる。…萌えもん、だよな、やっぱり。
その萌えもんは砂風とともに俺の目の前の道路に着地した。…なんだこいつ。
「いやー、やっと着いたで、マサラタウン!なんや静かでええとこやなー!」
…しかもジョウト弁喋ってる。…げ、こっちに気付いた。近づいてきやがる。
なんというか、俺も見たことのない萌えもんだ。
「ちょっと、あんさん」
「…俺だよな」
「せや。あのな、ウチこういう人からの使いできたフライゴン言うんやけど…」
言いながら、彼女は俺に何やら手紙らしきものを見せてきた。
…しかし、この萌えもん…背が高いな。2mくらいある。長くのばした緑髪、赤いサングラスに隠れた顔はなかなかの美人だ。
と、見せてもらった手紙の差出人を見ると。
「義父さんじゃないか!?」
「…ん?じゃあアンタがクリムかいな?」
「ああ。アンタにこの手紙を持たせた人は俺の養父だ」
「………思ってたよりカッコイイやん……(ボソ」
「?何か言ったか?」
「いや、なんでもないで?まぁ、それは置いといて。ウチな、アンタとアンタのお母さんに手紙渡すように頼まれとんねん。
よかったら家まで案内してくれへん?」
「…あぁ、分かった。行こう」
* * *
母さんに手紙を見せると、フライゴンに丁寧にお礼を言った後で自分の部屋に入ってしまった。
…あの人も、義父さんがかかわると完全に恋する女の子状態だよな。
で、俺は今フライゴンとともに部屋に入ってきた所だった。
「悪いな、適当なところに座ってくれ」
「ん、おおきに」
ペーパーナイフで封を切り、手紙を開く。読もうとして、何やら写真が入っている事に気づいた。
…若干髭の伸びた義父と、その手持ち萌えもん…にしたって、多過ぎだろ!軽く30はいるぞ!?
これだけを連れて歩いてるのか!?
『マスター、そろそろ私達も出ていいんじゃないかな』
「…悪い、忘れてた」
腰のボールをすべて取り外し、机の上に並べて6つ順番に解放する。
フーディン・ライチュウ・フシギバナ・キュウコン・プテラ・シャワーズ。
「フライゴン、こいつらが俺の手持ちだ」
「そっか、よろしゅう…って!」
フライゴンの目が輝いたかと思うと、彼女は椅子から飛翔してまっすぐ飛びだした。
…一瞬後、ライチュウとキュウコンはその腕の中におさまっていた。
「何この子ら、可愛い、かわいすぎるやろ!あぁもう髪の毛ふわふわー♪」
「え、あの…え、えと…」
「んにゃあああぁ、助けてよぉマスター!」
戸惑うキュウコンと俺に助けを求めるライチュウを無視して、ひたすら抱き締めてすりすりしてるフライゴン。
…とりあえず、助けるか。
「フライゴン、その辺にしといてくれるか」
「なんやおもろないなぁ。…んふふふ、じゃあ代わりに――」
キュウコンとライチュウを開放し、何やら俺に怪しげな笑みを向けてくるフライゴン。
「おいなんでこっち見てそんな笑みを――わぶっ!?」
「ふふふふふー、見た目の割に抱き心地ええなぁ」
…代わりに俺がフライゴンに抱き締められたんだが。しかも、身長差と真正面から抱かれていることもあって、
その…まぁ、胸が――というか、こいつ身長高い分胸かなりあるなー、とか…って、落ち着け自分!
「ふは、はなせって――ぶっ」
「やーんくすぐったいー♪」
…押しつけられているせいで声がちゃんと出せない。と、思ったら。
「ダメです、マスターは私のですー!」
「なんか楽しそう、ボクもまざるー!」
「よし、私も参加しよう」
「……………」
「へぇ、大人気やなぁこのコ」
シャワーズフシギバナフーディン、お前ら止めないで悪乗りしてんじゃねぇ。
てか、プテラ、お前もかーっ!無言で足にしがみつくな、動きにくいってレベルじゃねーぞ!
必死で抵抗していたら、何やらドアがノックされた。…母さんのウィンディか。
「クリム、お客様ですよ。お部屋に通しますけれど」
「ぶはっ!…わかった、お願いするよ―――ほら、お前らももう離れろ!」
全員を引き剥がして、部屋のドアを開けて入ってくる誰かを待つ。
…ほどなくして、開いたドアの向こうから現れたのは…
「お久しぶりです、マスター。私の事、覚えてますか?」
「お前、まさか…」
そんなバカな。けど、間違いない。俺の前に立っているこいつは――
「バタフリー―っ!!」
ライチュウが俺の真横を駆け抜けてそいつに突進、勢いよく飛びついていった。
「うわっと…ひょっとして、ピカチュウ?しばらく見ない間に、立派になって…嬉しいよ」
「うん…バタフリー、また会えてよかった…もう会えないかと思ったんだよ!?」
今にも泣きそうな形相でライチュウが抱きついているこいつは、バタフリーだ。
かつてトキワの森からシオンタウンまで、俺達の旅についてきてくれた仲間の一人。
「久しぶり、バタフリー。元気そうだね!」
「バタフリーお姉ちゃん…」
「フシギソウに…ロコン?2人も進化したんだ、大きくなったね」
「…マスター、彼…であってるのかな?」
「正解は彼女。バタフリーだ。シャワーズやフーディン…プテラも知らないよな。シオンタウンであいつとは別れたから…
けど、なんでここに?」
キュウコンやライチュウに飛びつかれていたバタフリーが、思い出したようにこちらを向いた。
「いえ、私も自分の気の向くまま各地を飛んでいたのですが、そのうちマスターが懐かしくなりまして…
やはり自分の力を生かせる場所はここではないかと、マサラに来てみた次第なのです」
「…いいタイミングだな、バタフリー。リーグの戦力が必要だったところだ。
ライチュウとキュウコンはとりあえず控えに入るから、手持ちはあと一人――」
「あー、それやけどな」
フライゴンが、俺の後ろで片手をあげていた。まるで、何かに立候補するように。
「手紙に書いてあるはずなんやけど、ウチ、今日を持ってあんさんの手持ちに入ることになるさかい。
よろしゅうな、マスター!」
「…そういや、手紙見てなかったな。みんな、適当に座ってくれ。読むから」
…要約するとこうなる。
・義父さんは今シロガネ山の調査に出ている事
・仲間もいっぱい増えてにぎやかになっている事
・もう少ししたらそちらへ帰るのでよろしくとの事
・フライゴンはお前が出るであろうリーグの戦力として使ってほしいとの事
他にも義父さんらしいあいさつや体の心配などもしてくれていたようだ。
「…なるほど。義父さんの推薦だ、実力は問題ないだろ。これで8人。あと一人か」
「マスター」
フーディンが、俺を呼んだ。
「あと一人、いるじゃないか。ともしび山に、素晴らしい強さをもったのが」
「…ファイヤーは使うつもりはない。あいつを人前に晒せば、どうなるか分かった物じゃないからな」
「けれど、名前を入れておくだけでも充分じゃないか。…カントーとジョウトのトレーナーが集合するんだ、
何が起きても不思議じゃない。場合によっては、本当にファイヤーの力が必要になるかもしれない」
…なるほど。相手が伝説級を持ってきていた場合には、こちらも持っていれば条件は互角と言える。
登録だけなら、それでもいいかもしれない。後でファイヤーに連絡を取って聞いておこう。
* * *
『なるほど…わかりました、もしもの事があれば私も参戦いたしますわ』
「いいのか?無理に入ることはないんだぞ?」
『もちろん。私はマスターの臣となったのですから。貴方が望むのであればどこへでも参りましょう』
「…ありがとな。出来れば、お前を人前にさらして危険な目にあわせたくはないんだけど…
場合によっちゃ、俺たちだけでどうにもならない事もあるかもしれないし」
『お心遣い感謝いたしますわ。けれど、もし何かありましたら遠慮なく私を呼んでくださいませ』
「…ありがとう、ファイヤー」
…結論。ファイヤーはあっさり参戦を承諾してくれた。こいつが後ろにいれば、これほど心強い事はない。
とにもかくにも、これで9人全員が決まったわけだ。
手持ち (最大6名まで)
・フシギバナ Lv.67
・フーディン Lv.64
・シャワーズ Lv.63
・プテラ Lv.59
・フライゴン Lv.61
・バタフリー Lv.57
控え (最大3名まで)
・ライチュウ Lv.60
・キュウコン Lv.60
・ファイヤー Lv.89
「マスター、レベルってあったんですか?」
「推定だけどな。…やっぱりファイヤーは段違いというか、なんというか」
「けど、そんな伝説を捕まえるなんて。さすがウチのマスターになる男やな」
「あの時は6人がかりでやっと勝ったんだよ…」
博士にメールで出場メンバーの報告を済ませ、俺の部屋に8人が適当に座っている。
「とにかく、リーグまであと1か月、あまり長い修行にも出られない。下手をして骨折でもすれば、
もうそれで出場不能もあり得るからな。…つまり、このあたりでひたすら基礎訓練を重ねるのが妥当だと俺は思う」
「なるほど」
「その通りですね」
「この家は空き部屋がいっぱいあるし、手入れも行き届いてる。部屋は後で割り振るからな。
基礎トレーニング以外は、ゆっくりと羽を伸ばしておいても構わない。一度くらいはファイヤーも呼んで練習に参加はさせよう。
…あいつが必要になる時は、チームバトルしてる場合じゃないだろうけど」
もう一度、俺は全員を見回した。そして、立ち上がって拳を握って檄を飛ばす。
「1年に一度のリーグだ、どんな事になっても、悔いを残さない闘いをしよう!
一か月後、俺達のすべてをあの高原で発揮するんだ!みんな、頼むぞ!」
「任せてください、マスター!」
「今更退くなどと言うはずないじゃないか」
「ボクも頑張るよ、御主人さま!」
「我も、貴方と共に」
「あたしも早く体治すね!」
「わたしも…がんばり、ます…」
「んふふ、ウチも強いで?期待しとってや?」
「旅の間に身につけた力、お見せしますよ」
…なんというか、十人十色ならぬ8人8色だよな。けど、これはこれでいいのだろう。
「ところで、マスター」
「ん?」
「そろそろ夕飯の時間じゃないかな」
「あ、そうだな。…母さん、大丈夫だろうか」
「とりあえず、皆で降りましょう?」
「お母さまの料理かー…楽しみやなー♪」
「わーい、ごはんごはんー!」
「お前らなぁ…まぁいいや、行こう」
―― この時、俺達は。
―― 今回のセキエイリーグが、前代未聞の大波乱となる事を
―― 全く、予感さえしていなかった。
つづく。
夜。
(…ん、なんか妙に体が暖かいような…って!?)
「あ、目ぇ覚めてしもたー?ええよゆっくり寝てて」
「フライゴン、お前何してんだよ!?今…2時だぞ、夜中の!」
「んふふ、草木も眠る丑三つ時って奴やな。…夜這いには、いい時間やと思わへん?」
「ちょっと待て、せっかくシリアス落ちで終わったのにぶち壊しじゃねーか!」
「ふふふふふ、世の中そんな甘ないでー♪ほな、いただきまーす♪」
「って、わぁぁぁっ!?」
おしまい。
…すみません、毎度毎度自重ナシですみません。
今回は、リーグ編のプロローグssとなっています。
このリーグ編は、ここまでのキャラクター達を集め、さらにこのゴーグル主人公シリーズのある意味最終章的な位置取りになっています。
…いえ、このストーリーでssが終わりというわけではなく。一種の、表エンディングといった感じになるように書いています。
それでは、また次回作にて。読んで下さり、ありがとうございました。
ついでに、キャラ紹介を簡単に。
フライゴン ♀
紅いサングラスのジョウト(関西)弁をお姉さんな萌えもん。背が高い。巨乳。強い。
主人公の養父から、手紙と一緒に送られてきた。今回、キュウコン・ライチュウの代わりに参戦。
バタフリー ♀
男か女か見た目では分からない虫萌えもん。フーディンと似たようなポジションだが、こちらは突っ込み担当。
かつてシオンタウンで主人公と分かれるが、このたびパーティに復帰。キュウコン・ライチュウの代わりに参戦。
最終更新:2008年01月30日 20:43