5スレ>>164


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「……起きなさい。起きなさい」

「ううん……むにゃ……」

 ツンツン!

「あひょっ!?」

 ホーホーに突かれてころん、と切り株から転げ落ちたのはまだ大人の毛に生え変わったばかりの若いガーディだった。

 背中から落っこちたガーディの胸からころん、と綺麗な赤い石が零れ落ちる。

「ふぇあ!? っとっとっと……!」

 あわてて石を取ろうとするガーディ。

 ところが小さなその石はするりするりとガーディの手から逃げてしまう。

 地面落下まであと0,数秒――その時ガーディの動体視力は限界以上の能力を発揮する。

 落ち行く石だけではない。空気の流れまでもが手に取るように見えた。

 が。

「……間一髪」

 その力は発揮されること無く相棒のホーホーによって大事な石は華麗にキャッチされた。

「か、間一髪じゃないだろぉー! あんたが突っついたのが原因!!」

 威勢良く吼えるも、当のホーホーはそ知らぬ顔。

 愛用している木の枝をひゅんひゅんと振ってガーディを華麗にスルー。

 それがさらにガーディをヒートアップさせた。

 まるで尻尾を踏んづけられたかのような勢いでホーホーに歩み寄ると。

「ちょっと! 無視する気!? 噛むゾ! 噛んじゃうゾ!!」

 うーっと歯を剥くもどこか迫力が無い。

 そんなガーディを横目で見ながら、ホーホーは一つため息をついた。

「……ホホゥ。貴女は日ごろの恩を忘れて私に牙を剥くと?」

 しゅぴっと木の枝をガーディの鼻面に向ける。

 横顔だけしか見えないため、詳しい表情はわからない。

 わからないはずなのだが、ガーディにはわかってしまった。あれは自分をいぢめる時の顔だと。

「う……た、たしかにいつもお世話にはなってるけどさ……」

「ホホゥ。自覚はあるみたいね。まぁ、あなた一人じゃなぁんにも出来ないのは事実だし」

 つん!

「うぇへっ!?」

 鼻面を木の枝でつつかれて、ガーディの口からなんとも情けない声が漏れる。

「ご飯のっ、調達もっ、寝床のっ、確保もっ、人間たちからっ、逃げるのもっ!!」

 つんっ、つんっ、つんっ、つんっ、つんっ、つんっ!!

「わひっ!? ふへっ! んふっ!? へひっ!? ふぎっ!? もふっ!!」

 ラスト二回は若干人中に命中してガーディは思わずなみだ目になる。

 だが、ガーディは見てしまった。サディスティックな笑みを浮かべて最後の一撃を放たんとするホーホーの姿を。

「貴女一人でできるんですかーーーーー!?」

 びしゅう!

 と繰り出された最後の一突きはさながらサイホーンのそれを髣髴とさせ――

「きゃうぅーーーーーーん!?」

 ガーディの額を衝撃が貫いていった。



「あいたたた……」

 目が覚めると、いつものねぐらだった。

 落ち葉とシンブンシで作った寝床に寝転がされていたガーディはむっくりと上半身を起こす。

 額がジンジンと痛い。

 なんで彼女は手加減とかそういう事を知らないんだろう?

「……うー、デコは舐められないのに……」

 ところで彼女はどこに行ったんだろう?

 まぁ、なんとなく、餌を採りに行ってくれているような気がする。

 ぐぅっとガーディのお腹が鳴った。

「お腹すいたなぁ……」

 もそもそと寝床の脇、通称ホーホーの食料保管庫の戸である石をぱかっと開ける。

 中に入っているのはモモンの実がいくつか。

 これは多分昨日ホーホーが採ってきたヤツだろう。

「……でも、ホーホー凄いよなぁ。私はクラボとかカゴしか見つけられないのに……」

 クラボの実は辛くて食べられたものではないし、カゴの実は苦くてガーディは大嫌いだった。

 ところが、モモンの実は柔らかくて甘い。

 そんなモモンの実は二人の大好物なのだが、ここいらでは大量に自生しているわけではないのだ。

 ある程度コンスタントにホーホーが持ってくるところから察するに、ホーホーはモモンの木の位置を知っているのだろう。

「今度ホーホーに場所教えてもらおうかなぁ……そうすればお腹一杯食べられるし」

 もむもむとモモンの実をほうばる。口の中でとろけるような甘さが広がり、ガーディは幸せな気分になった。

「もう一個食べよ……あれ? もう、一個しかないや……」

 ま、いいかと口を大きく開ける。

 かじろうと思った所で、ふとホーホーの顔が思い浮かんだ。

 小さい口いっぱいにモモンの実をほお張ると、少しだけ彼女は目を大きくする。

 なんとなく、ガーディはその顔が好きだった。

「……う、うーん。そ、そうだよね。明日食べる分、なくなっちゃうし、うん」

 また、食料保管庫にモモンの実を押し込んでパコッと蓋を閉じてしまう。

 とりあえず、しばらくモモンの実の事を考えないようにする事にした。

 それにしても……

「遅いなぁ……いつもならもうご飯の時間なのに……」

 ガーディの腹時計はかなり正確だ。

 以前少し飯の時間がずれ込んだだけでぶーぶーと文句を垂れたのは比較的最近のこと。

 そんなガーディが言うのだから間違いなくホーホーの帰りが遅いのだろう。

 少し気になってねぐらから這い出たガーディの目に――

「ガ、ディ……逃げ……」

 オーダイルに捕まったホーホーが映った。

「ン? 珍しいな、こんなトコでガーディなんて」

 オーダイルがガーディに気づく。

 体格的には遥かに大きな相手を前に、ガーディはその場にへたり込んでしまいそうだった。

 だが、彼女の中の本能がそれに打ち勝つ。

 大きさが何だ。

 たしかにお前は小さく、弱い。

 だが、いいのか? ここで逃げれば――彼女は、お前の友は――

 空気を引き裂くような咆哮が辺りに響く。

 ホーホーですら聞いた事の無いほど、猛々しい遠吠え。

 小さな体が弾丸となる。

「はっ……やる気かい嬢ちゃん!!」

 オーダイルの目が殺気立つ。彼女は飛び掛ってくる若いガーディを敵と認識したらしい。

 ホーホーを放り投げると手を広げ前かがみになった。攻撃力を100%生かすためのその構えは同時に相手に威圧感を与える。

 しかし、ガーディは恐れない。

 太古より脈々と受け継がれてきた勇敢な血が、彼女を鼓舞する。 

「がうっ!!」

 初撃のひのこはオーダイルに振り払われてしまった。

 そこで、ガーディはオーダイルに飛び掛り、その喉元に喰らいつこうする。

 が、突如横方向からの衝撃を受けてその小さな体は吹っ飛んだ。

 重い、一撃。

 地面を転がって、這いつくばっているのを理解するのに数秒を必要とするほどの一撃だった。

「お前さんみたいなヤツ、個人的には嫌いじゃないんだがね。ちょいと今日のアタシは虫の居所が悪いんだ」

 ゆっくり、オーダイルが近づいてくる。

 目がかすむ。

 痛い。痛くないところなんてもう無い。

 けれど、けれど。

「……ほ、ホー……逃げ、て……」

 大切な、友を守るために――歯を食いしばる。

 がくがく震えるひざをひっぱたき、眼前のオーダイルをにらみつけた。

「……あ、今凄いムカついた。もういいや。お前」

 なぜかはわからないが、ガーディは彼女の怒りが限界を突破した事を悟る。

 オーダイルの瞳がきゅうっと絞られた。

 肉食獣の目? 捕食者の目? 否。沼地の王者、オーダイルの眼光。

 生存を完全に否定する冷たい眼だ。

「グッチャグチャになってバクテリアの餌になりやがれぇッ!!」

 オーダイルの巨体が走る。

 人事のようにガーディは“あー、この人かけっこ速いんだなー”と思った。

 鋭い爪の生えた腕が振り上げられる。

 その瞬間を狙っていたかのように――

「うォっ……!? な、ん、だとっ!?」

 今までグッタリしていたホーホーの目がかっと開かれている。

 ぎゅぅっと唇をかみ締め、残る力を絞り出すホーホー。

「ねん、りきだァ……? ハッ! アタシの右腕を押さえるのがッ……関の山じゃねぇか!!」

「……貴女を、倒せるなんて、自惚れて、ません……!」

 だが、その隙はあまりにも大きかった。

 ガーディは一瞬の内にオーダイルに飛びつき、その顔をがっしと両手でロックする。

「このガキッ……! 何しやが」

 ちゅっ

「!!!!!!!!!???????????」

 ガーディが無理やりオーダイルの唇を奪う。

 あまりの出来事に思わずオーダイルの動きが止まった。

 そして次の瞬間、ガーディは溜め込まれたエネルギーを一気に放出する!!

 ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!

 マウストゥマウスで注ぎ込まれるひのこ。

「がはっ!? あちちちちちっ!!」

 ガーディを引っぺがし、そのまま地面に叩きつける。

 下が少しぬかるんでいたお陰で助かった。

 もし下が硬い地面だったとしたら今頃オーダイルの言っていたようにぐちゃぐちゃになっていた事だろう。

 しかしもう動けない。体のどこをとってもまともに動いてくれるところなんてなさそうだった。 

「ふーっ……ふーっ……」

 ゆっくり、オーダイルの腕が近づいてくる。

(……モモンの実。最後にホーホーと食べたかったな……)

 そう考えたら、なんだか少し悲しくなって。

 ぽろっと涙が頬を伝う。

 そして、そのままガーディは意識を手放した。
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