5スレ>>259


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突然だった。
ライコウの変化に気を取られている間に、晴天に雷が奔り――気がつけばお兄さんとかメックスの姿が消えた。
お兄さん達が消えたとき、辺りには緑の光が飛び散った。
そして、現れた妖精のような萌えもん。
「時渡り……」
ロケット団の女性が呆然として呟く。
時渡り――ジョウトで語り継がれる伝説の萌えもん、セレビィのことだ。
女性の声には反応を示さず、セレビィは不思議な音を奏でた。
透き通った鈴のような音色を聞いたライコウは元の姿に戻り、そして昏倒してしまった。
ライコウが倒れこんだのを確認すると、セレビィは緑の光に包まれて――姿を消した。
「力の反動か……。しかし――」
ライコウをボールに戻しながら、女性は呟く。
先ほどの音色は、おそらくいやしのすず。それがライコウを癒し、先ほどの状態から解き放ったのだろう。
そんな思考を回す俺を他所に、女はホウオウやルギアを視線で舐めまわした。
「これが伝説か……。素晴らしい。いや実に……」
陶酔したような視線で呟く女性。
その視線を、二人は鬱陶しげに払い、口を開いた。
「何故ライコウが主らに服属しておるのかは知らぬが……。
 その分じゃと、エンテイもスイクンも捕まっておるのだろう?
 主らには過ぎた力じゃ。即刻解き放て!」
ホウオウの一喝で、大気がビリビリと震えた。
続いたルギアには、ホウオウのような苛烈さは無かった。
「伝説の萌えもんは、個体数が少ないという単純な理由だけが伝説になるのではない。
 伝説とは世界の均衡を守り、人と萌えもんが共存できる環境を保つ役割がある。
 ジョウトの三犬もそれに当て嵌まる。
 伝説が自ら望み、トレーナーの手持ちとなったのならともかく、貴様らのように力で押さえつけていると――痛い目を見るぞ」
だが、その声音は驚くほど深淵で、熱い激情をその奥底に秘めていた。
背筋が凍る。改めて実感したのだ。
この二人が、世界でもトップクラスに君臨する――伝説だと。
だが、そんな伝説のプレッシャーを受けても、女性はケロリとしていた。
何事も意に介さないその豪胆さは、素直に凄いと思った。
「目的には代償が必要だ。我々、ロケット団の復活という偉業には、多少のリスクは致し方ない」
それに、と女は続ける。
「私達の目的は、更に先にある。ジョウト三犬はスター計画の足がかりに過ぎん。
 そして、その先にある翠玉を手に入れることこそ、我らが悲願」
抽象過ぎてよく分からない。
ペラペラと喋ったのも、俺には理解できないと踏んだのだろう。
俺の脳裏を、不思議と知識を持ったお兄さんとカメックスの影が過ぎった。お兄さんなら、何か分かったのだろうか。
だが、俺にも分かることがある。この女性にライコウを解放する気はさらさら無いという事だ。
今、女性の戦力は皆無の筈だ。なら、今こそが絶好の機会。
「フシギバナ!」
「はい!」
ボールを投げてフシギバナを外界へと解き放つ。
そして俺の呼び掛けに答えたフシギバナは、冠した花から眠り粉を噴出させた。
だが、時既に遅し。女性は部下を手際よく回収すると、テレポートを使って逃げ出した。
移動用の萌えもんまで連れていたのか。
女性の用心深さに舌を巻きながら、俺はこれからの行動を考えた。
目下の目標はライコウを始めとするジョウト三犬の解放だ。
天候を司るのがカントーの三鳥なら、大地を守護するのがジョウトの三犬だ。ホウエンには、物質を司る萌えもんが居ると小耳に挟んだこともある。
そんな伝説を無理矢理捕獲すれば世界の均衡が崩れるというのは陽の目を見るより明らかだ。
やるしかないか……。
ロケット団には数知れない因縁がある。
ここらで奴らを一網打尽にして、決着をつけるべきかも知れない。
だが、それには情報が足りなさ過ぎる。
ロケット団のアジトに乗り込もうにも、場所も分からなければ規模も分からない。
タマムシやヤマブキでの件を考えると心配は要らないだろうが、萌えもんの戦闘力を強化するあの機械の存在は見過ごせなかった。
厄介なものを造りやがって、と毒づきつつ、俺は更に思考を回した。
ロケット団にはあのタイツを着用するという妙なポリシーがある。
リーグ制覇後、俺はカントー一円をぐるぐると巡っていたが、そんな奇抜な格好は終ぞ見ていない。
となると、ジョウトに行くべきか……。
そこまで思考した俺は、目の前に現れた緑の光によって現実に引き戻された。
「セレビィ……」
現れたのは、時渡り。ジョウトで語り継がれるもう一つの幻。
「お主が居るという事は、世界の均衡が崩れ始めておるのじゃろうな」
ポツリと呟きを漏らしたホウオウに、セレビィは小さな頷きで返答した。
「三頭の犬の力が消えて、均衡が崩れた。それにホウエンの方もおかしい。
 だから、あの青年が飛ばされてきた。彼には悪い事をした」
青年とは、お兄さんの事だろうか。
思考する俺を他所に、セレビィは話を続ける。
「三頭の犬の消滅に加え、カイオーガとグラードンの象徴である玉からも妙な気配がする。
 実際に、送り火山から二つの玉は姿を消している。
 それによって次元に亀裂が生じた。シンオウの伝説が目覚めていれば対処できたが、あいにく彼女の目覚めのときはまだ先……。
 その次元の亀裂に落ち込んだのが彼。私の力で何とか彼のあるべき所に送還できた」
とどのつまり、お兄さんは無事という事か。よかったと俺は胸を撫で下ろした。
セレビィの話は尚も続いた。
負担のかかる空中旅行に加え、ライコウから放たれたプレッシャーを受けた俺はフラフラだったが、気力で堪え続けた。
「多分、組織の本部はジョウトにある。三頭の気配はジョウトの各町で集合した事がある」
そこが、狙い目か?
俺の視線から意を汲み取ったセレビィはコクンと頷いた。
「幸いにして、貴方の下には優秀な萌えもんが多い。さっきのライコウみたいな事になっても、対応できるはず」
こっちの戦力も踏まえて、勝算があると判断したらしい。
で、セレビィはどうするんだ?
「私は時限の亀裂を埋めに行く。これ以上、彼のような人を増やさない為にも」
その言葉を残し、セレビィは緑の光を残して消え去った。
ジョウトか……。
「坊?」
ホウオウの問いかけも耳に入らないほどに俺は思考の深みに沈んでいた。
脳裏には、獣のように変質したライコウの手足がこびり付いていた。


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失策だった。アジトに戻った女はイライラしていた。
ライコウが入っているボールを回復用の装置の台座に乱暴に置いて、女は椅子に腰を掛けた。
誤算は三つ。
一つ目は、あのカメックスを使用していたトレーナーの強さ。ライコウを使って、あそこまで追い詰められるとは思わなかった。
二つ目は、少年の帰還。ロケット団解散の直接の原因であり、萌えもんリーグ制覇者の少年が思っていたよりも早く戻ってきた。
それによって、彼女の計画の瓦解は決定的なものとなった。
三つ目。計画が頓挫する切欠となった伝説の来訪。なにより、それはロケット団が必要とする力だったからだ。面食らった、と言ってもいい。
天より舞い降りる、その圧倒的な力の権化を思い出し、女は机を叩いた。
拳に滲む痛みが、彼女の冷静さを呼び覚ます。
余りにも示し合わせたかのように現れた、少年と伝説。
まさかの考えが頭を過ぎるも、女は首を振って否定した。あり得ぬ、と。
思考の海で悶々とする女の耳に、コール音が鳴り響いた。
そのコール音は団員用の音ではなく、彼女の協力者からの連絡が入った事を知らせるものであった。
相手をする気分にはならなかったが、水と油のような二つの組織を苦心して協力させたのだ。ここでその努力を不意にする事もあるまい。
女は、椅子に身を投げ出したまま呼び出しに答えた。
「もしもし」
「私だ」
女は眉を顰めた。
「マツブサか……。一体どんな用事だ?」
マツブサ――マグマ団の団長は女の反応に声色を変えた。
「そう不機嫌になるな、良い知らせがある」
良い知らせ、という言葉に女は露骨に反応した。
クールな女を気取っていても根は随分と素直なものだ。
マツブサはくっくと笑いを噛み殺した。
その笑いを聞いて黙り込んだ女は、電話口をトントンと叩いて催促をする。
「おっと、スマン。――先ほど、アオギリから連絡があった。伝説の封印を解除したそうだ」
その報告を聞き、女は佇まいを直した。
足を組み、次の言葉を待つ。
「各遺跡にはマグマ団員が向かった。鋼、氷、岩を手中に納めるのも時間の問題だ」
「そう……。なら計画通りに。良い報告を期待している」
「こっちもな」
その言葉を最後に、回線は途切れた。
女は、部屋の隅の装置に目をやった。
そこには藍色の玉と紅色の玉が安置されていて、特殊な装置によって内部に紋章が刻まれ続けている。
女はそれを満足気に眺めた。





---オマケ ~その後の彼ら~ ---
「ただいま」
大学での講義とバイトを終えた俺は自分の部屋へと帰った。
今までは、このただいまも虚しく響き渡るだけだった。だが、今は違う。
「お帰りなさいませ、マスター」
そう、あの夢のような出来事で共に戦ったカメックスが、どういう訳かついてきたのだ。
我ながら非現実的である。だが、現実として彼女はそこに存在しており、俺は彼女との奇妙な共同生活を開始したのだ。
最初は色々あった。何時ものノリでポケモンを始めて、そのせいでカメックスが自分の姿を見て卒倒したり(流石に亀はショックだったらしい)、
家事をやるとは言ったものの、彼女は萌えもんであり家事なんか行った事がない。最初は失敗の連続だった。
まぁ、今では大分上達しているので、俺も安心して任せることが出来るのだが。
「どうされました?」
カメックスの問いに、俺は何でもないと答えた。
ふと思い出したのは、再会してから交わした最初の言葉。
――続きを聞かせてくれ
――私とマスターは長い時間を過ごしています。共に居た時間が長ければ、そこにある信頼は確かなものでしょう
このやり取りを思い出し、ニヤニヤする俺をカメックスが急かした。
はいはい、と生返事をして俺は部屋の奥へと向かった。



――了――
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