5スレ>>265


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「やっぱり、ボクらにはまだ早かったのかな……」
もう日は沈んでしまった。暗灰色に染まった空には月が冷たく輝いている。
月明りに照らされた薄暗いダンジョンの片隅に、小さな2人の萌えもんが倒れ伏していた。

1人は深紅の毛皮を纏い、金色の尻尾を風に靡かせ。
1人は若葉色の服を召し、常磐の大葉を頭に頂き。
顔を向かい合わせ、2人はあたかも仲良く添い寝をしているかのよう。
──しかし、事態はそんなに穏やかではなかった。



すでに、手持ちの食料は底を付いていた。
2人が空腹で倒れてずいぶん経ったが、未だに救助隊がくる気配は感じられない。


「もう……私達、ここでおしまいなのかも……」
緑の子がポツリと呟く。
その虚ろな瞳は、もう閉じかけていた。
「そ、そんなことないよ!きっともうすぐ救助隊が……」
気を保たせようと声を張って反論するも、力なく振れるその尻尾は現状を物語っている。

「このダンジョンは、滅多に救助隊が……来ないらしいの」
………………辺り一帯に沈黙が響き渡る。



(チコ……どこからそういう絶望的な情報を仕入れてくるかな)

月明りに煌くその尻尾は──何かを悟ったかのように、パタリと動きを止めた。





全ての動きが止まり、不吉な静寂が訪れる。
もう──眠ってしまったのだろうか。

「ガーくん……私、いいこと思いついたよ」
静寂を壊したのは、今にも消え入りそうなチコリータの声。
聞こえなかったのか、返事を返せなかったのか。目を瞑ったままのガーディはピクリとも動かない。
それでも彼女は、最後の力を振り絞って、頭の葉をゆっくり動かし始める。
その鋭利な刃と化した葉を、自らの手に当て──







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口元に触れる、暖かい液体。
恐る恐る舌を伸ばし、それを味わうガーディ。
(ペロ……これは……鉄の味?)
目を閉じ横たわったまま……空腹感に身を委ね、夢中で液体を味わい続ける。


(少し、元気が出た……でも)
目を開けた時の光景がどうなっているか……ガーディには薄々分かっていた。
ゆっくり瞼を開き、現状を視認する。
そこには、差し出されたチコリータの右手。滴る赤い雫。血溜り。
幸いにも、切傷は手首ではなく手の平だったが。

そっと、傷口を舐めるガーディ。しかし、それは傷口を癒すための行為ではない。
湧き出る雫を求めて。何度も、何度も、舌を擦り付ける。
──そうしているうちに、傷口からの血は止まった。
(あ……もう止まっちゃった)
そう、普通の怪我であれば、それは望まれるべき事である。
しかし……極度の空腹と血の香味に刺激され、ガーディには野性の本能が沸々と湧き上がっていた。




そこに居るのは、自分の親友。

そこにあるのは、柔らかな肉体。

ガーディは、自らの牙の使い方を。自らの爪の使い方を、知っていた──




ガーディの小さな口は、彼女の小さな手を咥え。

牙が、突き立てられ。

白い柔肌を、その鋭い牙が引き裂こうとした、──その時。



「……ーい!……救…に…た…!!」
遠くからダンジョンに響く、力強い声。
──救助隊が着た。
声に気つけされ、咥えられていた手がぽとりと地に落ちる。
「こっち、こっちだよ!」
ここぞとばかりに力を振り絞り、声を張り上げるガーディ。

「大丈夫!?」
ダンジョンの小部屋に飛び込んできたのは漆黒の萌えもん。
すらっとした体つきに、翼を兼ねた大きな腕。
「ほら、食い物!」
その差し出された手には、無数の木の実。
ガーディは奪い取るように木の実を受け取ると、無我夢中で貪り散らかす。
──最後の一口をゴクリと飲み下し、満足げにふうっと一呼吸。
(ボクらは、助かったんだ……)
満腹感と安心感に浸され、ガーディは糸が切れたように眠りについた。







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「「いたたた……」」
翌朝、目が覚めた2人は、同じベッドに寝かされたまま。仲良く頭にタンコブをもらった。
「まったく、まだ探検には早いとあれほど言ったのに……」
二人の保護者であるウインディは拳をグーにしたまま、不機嫌そうに尻尾をふる。


「よっ、もうすっかり元気になったみたいだね?」
「あ、ドンカラスさん昨日は夜遅くにありがとうございました」
昨日の黒い萌えもんが顔を覗かせる。わざわざお見舞いにまで来てくれたらしい。
2人はベッドから半身を起こし、恩人にぺこりと頭を下げる。
「いあいあお構いなくwアタシは人手が少ない夜の救助が専門だからw」
ドンカラスは2人に歩み寄ると、その大きな手で2人の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「こっちの赤いボウズは自力で木の実を食えるほど元気だったけどな、
 葉っぱのお嬢ちゃんは弱りきってて大変だったぞ?木の実を噛み砕いてやって、それを口移しで──」
「はにゃッ!?///」(ガーくんともまだなのにッ;)
人差し指を唇に当て、ククッと気さくに笑うドンカラス。
顔が真赤に染まったチコリータは、思わずサッと頭の葉っぱで顔を隠す。

「何、初キスだった?お姉ちゃんがもらっちゃったよー悪いねボウズw」
両手でガーディの首周りのもふもふを鷲掴みにし、揉みくちゃにする。
身を捩じらせ、しっぽを暴れさせながら抗議の声をあげるガーディ。
「ぼっ、ボウズじゃないよ!ボクだって女の子だもん!」
「そりゃー悪かったなぁボウズちゃんwそれじゃ、アタシはこれでッ」
不満に頬を膨らませるガーディを横目に、おでこをツンッとつついてドンカラスは外へと飛び立っていった。

「それじゃ、私もちょっと出かけてくるから2人ともおとなしくしててね?」
そういい残し、ウインディはパタパタと部屋を出て行った。



部屋に取り残された2人。起こしていた体を再びベッドに倒し、天井を見つめる。

──不意にチコリータが口を開く。
「……あのとき私のこと食べちゃおうとか考えた?ガーくん食いしん坊だし」
突然の事に、ガーディは慌てふためきベッドから飛び退く。
「ふぁ!?ううん全然全然まったくそんなことないよ!」
動揺を隠し切れなないガーディはベッドの下に滑り込む。
手の甲についた噛み跡を見つめ、くすっ、とイタズラっぽく笑うチコリータ。
「ううん、ゴメンね?」

(……この場合謝らないといけないのはボクじゃないかなぁ)



ガーディはもぞもぞとベッドに這い上がり、チコリータに背を向けて寝転がる。

今度はガーディが口を開く。
「……ねぇ、チコ」
「うん?」
「『滅多に救助隊が来ない』って言ってたのはウソ?」

くすくす、と再びイタズラっぽく笑うチコリータ。
「あそこは初級中の初級のダンジョンなの。だから倒れる人は滅多に居ないし、
 救助も滅多にこないんだって。ウソはついてないでしょ?」
「えぇー;」
納得いかない様子のガーディは口を尖らせる。

(そもそも、「下調べもバッチリ、攻略は任せて!」ってダンジョンに誘ったのはチコなのに。
 ダンジョンでリードしてくれたのもチコ。もしかして迷子になったのも……
 それにわざわざ希望を無くさせるような『救助隊が来ない』なんてこと言うのもなんかへン……
 あれ、そういえば救助要請は何時出したんだろう?)


疑問に思考を巡らせるガーディの背中を、チコリータがぽふぽふと叩く。
「んに?」
「……また、一緒にダンジョン行ってくれる?」
「もちろんだよ!……でもこっそりとじゃなくて、正式な探検隊として、ね?」
ガーディはぐるりと身を回し、チコリータと顔を向かい合わせる。
なんだか可笑しくなって、2人はクスッと笑いあった。


顔を向かい合わせ、2人はあたかも仲良く添い寝をしているかのよう。
しかし、事態は穏やかだった。

-fin-
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