1スレ>>585


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[ピジョンの休日]

 
 萌えもんトレーナー。それは私たち萌えもんを仲間とし、私たちを育て、他のトレーナーと戦い、ジムマスターに挑み、萌えもんリーグを目指すそういった存在。
 私はそう思っているし、他のトレーナーを見るかぎり、(時々怪しいけど)その認識で間違っていないと思う。
 少なくとも、萌えもんをストーカーするような存在ではないと断言できる!
 ならば私(ピジョン)の前を歩く主は、萌えもんトレーナーではないのか……この謎は解く気が湧いてこない。だけどもこの状況に飽きてきたし、暇だから聞いてみよう。
「前行くストーカー、聞きたいことがある」
「だれがストーカーかっ!」
 片手に持つ萌えもん図鑑はフシギダネに向けたまま、勢いよく振り返る主。
「今この状況で、主の他に誰がいる?」
 今歩いている道には、私と主と少し先を歩くフシギダネしかいない。ならば答えは考えるまでもなく決まるだろ?
「自分の手持ち萌えもんのあとをつけるのは、ストーカーとは違うんじゃないかと俺は愚考するわけですが? そこんとこどうよピジョン?」
「見た目が怪しいからストーカーで十分だ」
 なんでこんなことになっているかというと、話は20分前にさかのぼる。

 今日は、休養日。日々のバトルで疲れた体を休めるために、各々が自由に過ごす。私もノンビリ過ごそうとしていたとき、少し離れたところから主とフシギダネの会話が聞こえてきた。
「フシギダネ! 君に任務を与えよう」
「あい!」
「店に行って、すごい傷薬を五つ買ってくるんだ」
「了解でしゅ」
「お釣りで、好きなおやつを一つ買っていい」
「ほんとでしゅか!?」
「うむ。では頼んだぞ」
 フシギダネが、いってきますと元気に出発している。おつかいくらいなら私たちでも行くのに、なんで一番小さいあの子に頼むかな。
 そんなこと考えていると主が、足元にあったリュックから萌えもん図鑑を取り出して、操作し始めた。そして図鑑を片手に、フシギダネと同じ方向に歩き出す。
 何をしているのか、さっぱりだ。聞いてみるか。
「何をしている?」
「いや、『フシギダネ初めてのおつかい』を記録しようと」
 見たところ手に持ってるのは図鑑だけで、カメラなどはどこにもないが? というか話すときは、ちゃんとこっちを向け。
「どうやって記録するんだ?」
「手持ちのお金大半をつぎこんで、オーキド博士に萌えもん図鑑に動画記録機能つけてもらった」
 いつの間にそんなことしてたんだ。
「趣味に関する行動力はすごいな」
「そんなに褒めちゃ照れるぜ……ってピジョン?」
 ようやくこっちを見たか。
「そんなことのためだけに、図鑑を改造して、フシギダネを行かせたのか」
「そんなことって言うなよ。頼んだものはたしかに足りてないし、そのついでにフシギダネの頑張りや不安を愛でようとしてるだけだ。
 一緒に来るか?」
 これがデートの誘いならどんなにって、何を考えているんだ私は。
「おーい、急に真っ赤になって黙ってどうしたよ?」
「なんでもない」
「いや、なんでもないって言われても……熱でもあるんじゃ?」
 主の手が頬に当てられる。火照った顔にひんやりとした手が気持ちいい。さっきまでの趣味全開な表情が、今は私を心配する表情にかわっている。
 その表情は卑怯だ。たまに見せる、思いやりに満ちた顔が私たちを惹きつける。もちろんほかにもいい所があって、その表情だけが全てではないが。
 こんなこと考えてたら、ますます赤くなるじゃないか。なんとか話をそらさないと。
「ほらっフシギダネが遠くに行ってる」
「あっ急ぐぞ」
 話をそらすのに成功したのはいいけど、そんなあっさり心配されなくなるのは寂しいかもって、ちょっ手を引くなーっ!

 とまあ、こんな事情があったりする。
「ストーカーで十分って、俺の繊細なガラスの心に傷が入ったよ」
 主の表情に影がさした。ストーカーは言いすぎたか、せめて……せめて……なんて言えばよかったんだろう、変態? それも落ち込みそうだな。いやいや、今はそんなことよりフォローを。
「といっても強化ガラス製で、拭えばすぐに消える傷だけどな!」
「……それは気にしていないってことじゃないのか?」
 少しでも心配した私が馬鹿みたいじゃないか。
「からかうと素直に反応してくれて、ピジョンは可愛いなぁ」
「なっ!?」
 可愛い!? また顔が赤くなってきたじゃないか。
「またからかっているんだろ」
「いやいや、いつもの凛としたピジョンも可愛いけど、今みたいにうろたえるピジョンもなかなか」
「あうあうあう」
 し、心臓がすごいどきどき言ってるー! 主はストレートにものを言い過ぎるっ。そのせいで皆、どんなだけ苦労してるのか主はわかってない!
 わたわたと照れたり、慌てたりで忙しい私を主は、微笑みながら見ている。う~、その無駄に爽やかな笑顔を殴りたいぃ。
「むっ」
 主が真剣な顔になって、どこかへ顔を向けた。今のうちに落ち着こう。ひっひっふーって違う。これはテレビで見た、人間の出産時の呼吸だ。
「ピジョン」
 深呼吸、深呼吸。
「ピジョン」
「え? なんだ主?」
 呼ばれてるのに気づかなかった。私を呼ぶ主の声は真剣で、表情もいままで数度しか見たことがないくらい真剣なものだった。
「ゴッドバードだ」
「……は?」
「だからゴッドバードを」
「使えません。というかなぜ、そんな高威力の技を」
「あれを見ろ」
 主の指差す先には、フシギダネと見知らぬ男。まさかゴッドバードをあの男にぶつけようとしたのか?
「あいつはロリコンだ」
「主の仲間か」
「違うっ俺は、可愛いもの綺麗なもの全てを受け入れる!」
「そうだったな、主はオールジャンルオッケーなハイスペックだったな」
「その通り!」
 そこは力強くうなづかないで、否定してほしかった。まあそのおかげで救われた娘がいるもの事実だから、否定するのも考えものだが。
「話を戻して、どうしてあの男にゴッドバードを使おうとした」
「フシギバナが誘拐されるから」
 主の言っている意味がわからない私は、主の仲間として失格なのだろうか?
「誘拐?」
「あれだけ可愛いフシギバナを自分のものとしたい、と考えるのは当たり前のことだろ? 俺なら即決でさらうね!」
「だから誘拐?」
 なんというか、主に「はがねのつばさ」を使いたくなってきた。一回殴れば落ち着くだろうか?
「主を基準として考えを進めるな。一人で歩くフシギダネを不思議に思って、話しかけただけかもしれないだろう。
 ほら、なにもせずに別れた」
 少しだけ話したフシギダネと男は、別々の方向へと歩き出した。
「一度別れて、油断するのを待ってるだけかもしれない。なんていったってフシギダネは、幼くて純真で疑うってことを知らないからな」
 初対面のフシギダネのことをそこまで知るわけないだろう。
「幼いといっても、私と同年代だ。本当なら、フシギバナへと進化していてもおかしくはない。それを止めているのは、主だ。
 精神は体に引きずられる、という話を聞いたことがある。しっかりしてほしいのなら、かわらずの石を持たせないで、成長させるのも一つの手なんじゃないか?」
 そう言った私の肩を主は、真剣な表情で掴む。
「ピジョン。俺は以前、フシギダネの進化系である、フシギソウ、フシギバナをテレビで見たことがある。そのとき俺はこう思った、フシギダネが一番可愛いと!
 それに比べたら、少々頼りなくても問題なしっ」
 真剣な表情でいうことではないと思う。もしかして、私にかわらずの石を持たせているのも同じ理由なのか?
「ちなみに、ピジョンも同じ理由だ!」
 当たった。可愛いと言われて嬉しがればいいのか、趣味最優先の主を諭せばいいのか、わかんない。
 
 そんなこんなで、どたばた追跡はフシギダネが無事に萌えもんセンターに戻るまで続いた。
 おつかいを成功させたフシギダネは、褒めて褒めてと期待を込めて主を見ている。あんな視線を受けて主が我慢できるわけもなく、頭をなで、抱きしめ、褒めちぎる。フシギダネは、とても嬉しそうに笑っている。
 私の中には、精神的な疲労が残っていた。まあ、可愛いと言われたり、主と二人で歩けたりで、それを凌駕する嬉しさもあるから、いい休日だったといえる。
 そろそろ二人を離すか、いい加減くっつきすぎだ。

 そのあと、フシギダネから離れない主に、本日三度目の「はがねのつばさ」が炸裂した。
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