1スレ>>588


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 風が吹く丘に、二人。
 センターで回復した後、少し気分転換にも遠出しようという事で出てきたのがその丘だった。
 一人の男の横に立っているのは、その男より少し小柄な、もえもんであるパルシェン。
 全身を覆うローブのようなものは彼女の一部で、同時に絶対の自信を持つ防御壁でもあった。
 ナパーム弾でも傷がつくとかつかないとか。


「主」
「何だ?」
「言いたい事があるなら、言った方がいいと思うが」
「別に、特に言う事はないな」
 傍目になんの変哲もない、無表情のままの彼女の主。
 それでもパルシェンは違和感を拭えずに、その顔を睨みつけるように見上げていた。

「本当にないか?」
「……対物理なのに、一撃で粉砕されかけていた事について……とかか?」
「そうだ、あるじゃないか」
 表情を変えないままにそんな事を言う彼に、パルシェンは目を細める。
 
 時を遡ること、昼前に行われたもえもんバトルにおいて、鉄壁を誇る彼女と相対したのはカイリキーだった。
 まずはと撒きびしを撒いた彼女に、飛び込んだカイリキーの交差した腕が叩き込まれると、たちまち足元がおぼつかなくなった。


「大体、あれは私のせいではない。あんな怪力女の馬鹿力までは想定外だ」
 吐き捨てるようにパルシェンが呟く。
 彼女の考えるより遥かに深かった一撃は、その衝撃が氷の層で繋がれた自慢の装甲を貫通した。
 想定外だとは言うものの、彼女が自分の持ち味を崩された事についての衝撃は大きかった。
 だからこそ、何も言わなかった主に対して半ば苛立ちをおぼえて、その答えを引き出したのだから。
「受け側が相手を選ぶって?」
「うるさい黙れ。そもそも主だって、その後に躊躇いもなく私をだいばくはつさせたじゃないか」


 飛び込んでくる敵のもえもん。
 攻撃態勢に入って殴りかかってくるカイリキーに対して、彼の指示が即座に飛んでいた……だいばくはつ。
 そしてその言葉に反応するが早いか、至近距離からパルシェンは閃光を撒き散らして大爆発で巻き込んだ。
 結果的にカイリキーとパルシェンは共倒れとなる。
 ……そのフィールドに、撒きびしを残して。

 身動きが取りづらい相手のもえもんを尻目に、後続であるモルフォンが毒の燐粉を撒き散らしながら嫌らしく飛び回って翻弄。
 結局モルフォンは相手のもえもん3体を一気に続々と片付けて、そのバトルは終わった。

(……ああ、あれはいい顔だった)
 相手のトレーナーの表情を思い出すと、パルシェンは身震いするような感覚にとらわれる。
 彼女が相手トレーナーのもえもんを道連れに倒れた時に見せた、信じられないといった表情。
 それは誰に対してのものだろう。
 カイリキーが殴りかかってきた時、実質体を捨てろという宣言に等しいだいばくはつを迷わず指示した主か?
 それとも、その指示にタイムラグもなく従って道連れに散った私に対してか。
 あるいは、両方か?
 何にせよその表情を思い出すと、なんとなく誇らしい気がして、少しは気分が慰められるのだった。



 むすっとしたパルシェンの表情を見て取ると、彼女の主はふう、と短く息を吐く。
「そう言うけどな。それじゃ、あそこでお前は交代されるか?」
 相手は既に攻撃態勢に入っていた。
 そこで交代すれば、出てきたばかりのもえもんが敵の攻撃に晒されるのは必至であった。
「冗談ではない。そんな事で他の奴等に借りを作ってたまるか」
「じゃあ、そのままか?」
「あんな怪力女に一方的に叩き割られるのはごめんだ」
「薬を使って、相手の攻撃が切れるのを待つか?」
「ミックスオレで誤魔化す、主の金欠ぶりで出来るものならやってもらいたいものだ」
「それなら、あれしかなかったんだ。そうだろう?」
 むう、とパルシェンが唸る。
 非難するわけでもなく、じっと見つめてくる彼の視線に耐えかねて、舌打ちしながら視線を外した。


「それは、そうだ」
 反論の拠り所がなくなったパルシェンは、悪戯を咎められた子供のように小さくなる。
 僅かに目を伏せながら、ぶつぶつと。
「それは、そうだが……あ」
 どこか納得できない、という風な彼女の頭に、そっと手が乗った。
 ダイヤを凌ぐ硬度と、凄まじい強度を誇る彼女の殻の中に入った掌が、ゆっくりと頭を撫でていく。
「気にするな。俺も気にしない」
「……」
「いつも通りにはいかない時もある。敵と当たる数が多いお前なら尚更な。だから、お前には色々と覚えさせてるんだよ」


 パルシェンはその言葉の間、貝のように口を噤んで、そっぽを向いて。
 それでも、沈んでいた瞳の光は、水の底から持ち上がってきていたようだった。
「主はおかしい」
「……せめて変だって言ってくれないか?」
「戦闘中は容赦なくだいばくはつしろだの、倒れる前に撒きびしバラまけだの命令するくせに、これだ」
 突っ込みをまるで無視して、一気にまくしたてる。
 基本的に相手の攻め手が欠いた後に、引き際に合わせてこちらも萌えもんを代えるのがいつもの事だ。
 しかし想定外の事態になった時は、彼女が帳尻あわせの為に犠牲になる事も少なくはなかった。
 そしてその度に、パルシェンはそれを忠実に実行する。


「そうかもしれないけど。でも、最初に言ったよな。
俺はお前達の生殺与奪権なんて主張するわけじゃないけど、ペットや友達にもするつもりはないって」
 それが気に入らないもえもんは先に申し出てくれ、とも。
 結果として解放されたもえもんもいるし、彼の下に残ったもえもんもいた。
 ここにいるパルシェンはその一人。
「そうだな。しかし、そろそろその先を聞かせてくれ」
「先?」
 怪訝そうに彼が尋ねる。
「先だ。引っかかっているのはそこだ。私は主に従うと答えを決めた。主も答えを出す義務があると思わないか」
「……」
「ペットでも、友達でもないなら……私達は、私は何なんだ? 主に信任されて、忠実に受け役を勤め上げる私は?
体を張って道連れをしたり、こうして主に慰められる私は」

 先程まで伏せていた瞳はどこへいったのか、見上げられた瞳は真剣そのものだった。
 射抜くような瞳に、彼女の主は一瞬だけ圧されて……踏みとどまる。
 撫でていた手をゆっくりと引いて、今度はそれをそっと下に伸ばした。
 欲されている一言。
 自分でも今まで振り絞ることができなかった一言で、二人の間を繋ぐため。


「これからもよろしく、相棒」

 すっと背を伸ばしたまま、彼は下に向かって腕を伸ばしている。
 その様子を見て、はん、とパルシェンは――実に満足げに薄笑いを浮かべて、
「いいだろう、よろしくされてやる。茨の道だろうがナパーム弾が降ってこようが、私は主に従おう」

 その手を、取った。
 彼の前でも後ろでもなく、隣を歩いていくために。








「ところで、やはりだいばくはつはどうかと思う」
「出来るだけ善処する」
「説得力がないぞ」
「けど、そうするとお前の後を確実に継げるもえもんが必要なんだよな。耐久のある」

「……却下だ。私の役割が奪われるくらいならいくらでも爆発してやる、ああしてやろうとも」



 ~おわり~
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