5スレ>>377

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3話前篇~夢見た私の忌避本能~
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 夢見の悪い日はどうしても機嫌が悪くなるものです、そんな日に悪い事があれば尚更。

 悪夢の寝起きにこの世で一番嫌いな人が目の前に居たらどうでしょう、考えたくもありませんね。

 そんな事が萌えもん同士で起これば、さぁ、どうなるのでしょうね。

――唯一の救いは、鍵が揃っている事。もっとも、彼女らにすれば揃いたくなどなかったろうが。

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   もうひとつの伝承、閉じられた村ですら忘れられている事。

   水の伝承と対になるもの、けれど誰も覚えていない、それは当然だ。

   伝承の主が村を闊歩していれば伝承とする必要などないのだから。

   水と対になる、即ち焔の伝承。

   人々がかつて畏れ忌避したその主は今や村人にとってなくてはならない存在になっていた。



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――いない、あの子がいない、どこに行ったの?

気配だけで判る、思考が停止していた私の危機回避本能が突如絶叫の如き悲鳴を上げる。
村長だ、あの人が来た。恐らく様子を見に来て私が居ない事に怒りを燃え上がらせたのだろう。
彼女――ミロカロス――と今置かれた状況を理解する為に模索していた頭が一気に切り替わる。
村長の怒りを如何にして回避するか。その一点のみで思考がフル回転する、そう、寝ていても一気に活性化する。慣れさせられた。

「まずい、村長が来てるよ、早く逃げるか戻らないと……。」

混沌とした気配に獄炎の怒りを混ぜた存在は、今やすぐそこまで迫っている。
視界をめぐらせる、と。今まで気付かなかったが湖の反対側に扉がある。どうやらあの扉が地下牢から見えていた扉なのだろう。
しかし内側からは開かない、彼女はどうやって私を……違う、早く考えろ、村長の怒りでまた酷い目に合わされる前に。

「あらまぁ……あの人、村長などと言う肩書きなのですか? 私をここに入れておいてご自分は随分楽隠居を決め込んでいるのですね。」

――なんだ? この恐怖と、そして何故か逆らう事を本能が拒否する感覚は。これではまるで……。

彼女から感じた気配に私は、正反対の印象を持っていたはずの人を反芻させられてしまった。
そう、まさに村長と同じ感触をもつ気配、だめだ、穏かに微笑んでいたはずの彼女から随分と抗い難い気配がする。
まず彼女を何とかしなければ。例え向けられた意思が自分でなくとも、このタイプの撒き散らす被害は周囲の方が多大に受ける。

「ちょっとごめんね、暴れないで。」

お姫様抱っこと言ったか、彼女を一挙動で抱え上げそのまま走り出す。
反応に窮した様子で暴れる事を先んじて止められたせいか、困惑した表情で私に抱きかかえられている。
そんな事はどうでもいい、この際オマケだ。これで何とか片方はどうにかなった、後はもう少し前から感じている方だ。

「あ、あの……?」

「済まないね、ちょっと聞きたいことがある、早急に。主に人的災害回避の為に。」

上がった呼び掛けに対し私は疑問で返した、というより今返答をしてる暇などない。
扉の鎖をがちゃがちゃと揺らしながら声が聞こえるのだ、もう猶予は無い、早く逃げねば。

――どこなの? ここよね、今行くから待ってて、それにしてもこの扉……邪魔ぁ。

「この湖はどこかに通じている? 出来れば遠くに通じてると私は嬉しい。」

これが私の聞きたかった事だ。湖は底がどこか別の場所に通じている事がある、そう昔耳にした事があったのだ。
あわよくばその別の場所にまで逃げられれば、その場所で村長の憤怒が収まるまで身を潜めたい。
謝ればいいだって? 馬鹿言わないで。謝ってどうにかなるならとっくにそうしている、今まで謝罪による鎮圧は成就していない。
正直な所、謝ってからの方が圧倒的に被害がでかいのだから逃げるに限る。
幼い頃から培った経験は既にそういう結論を出すに容易な構造を精神に残していた。

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話題休閑~要するに単なる休憩地点A~推奨BGM「G線上のアリア」
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中書きとでも言いましょうか、短いので読みたい人の為の栞みたいなものです。
次はこの後から読めばいい、そういう感じでお使い下さい。
さて、この後村長降臨です。
前篇が大分ごちゃごちゃな導入でしたので一度ご休憩下さい。




休憩できたでしょうか? 10分程度のインターバルがお勧めです。
上の空白は何かって? 簡単です、その空白で休憩なさってください。
では中篇パート参ります、アニメだったらアイキャッチでも欲しい所ですね、本当。
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3話中篇~灰と炎と嫉妬と嘲笑~
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  シュン……


刹那、何かが集束する様な、そんな“気がする”音が聞こえ……。

『貫け、フレアドライヴ。』

音も無く……いや、音はあったのだろう、しかし聞こえる前に耳が生理的に脳に伝えることを拒絶した結果、無音の光景となった。
爆炎が、衝撃が閉鎖された空間に炸裂した。
1歩遅かったのだ、聞くのも、行動するのも、抱え上げたのも。全て今となっては逆効果に――火に酸素と水素とガソリンを注ぎ込む結果に――しかならない……。

熱で一部の水が湯気を燻らせている。恐らく、両手に炎を纏わせ美しい髪を炎熱に揺らめかせる村長の放つ熱で。
姿こそ真実、人そのものにしか見えず焔を放たなければ人と言ったまま過ごせるであろうその姿。嫉妬と怒りに染まる表情ですら美しさを保持した様相。
言うまでもないがキュウコンである、うちの村の長は人にあらず。

「何でこんな場所に居るの? 早く牢に戻って……?」

何故私は早くミロカロスをおろしていなかったのだろうか、今となればそればかりが悔やまれる。
じっと村長の見つめる先に居たのはミロカロスを抱え上げた私と、抱きついて離れないミロカロス。
傍目から見てどう映るか、“ある先入観にさいなまれている人”から見た場合どう映るか。

「まず、話を……。」

「また他の女に手を出してそんなに私の事が嫌なの、そうなの? そんなに……ッ。」

熱波が私達二人を襲った、荒れ狂う炎に抗うすべを持たない私はその炎に焼かれて……ない?
水のヴェールを纏う彼女、ミロカロスはいつの間にか私の腕の中から抜け出ていた。それどころか二人の間に入り私への熱気を防いでいる。
……浮いてる。まずこれが私の脳内を占めた。ミロカロスは私の立つ水際より少し前、湖上に浮いていた。
水タイプだから水に浮くのは当たり前とか考えたそこの人はまず、何故浮いた。と脳が理解に苦しむか考えて欲しい。
湖上、即ち空中に浮いていたのだから。浮力も応力も無ければミロカロスがサイコキネシスを使うと聞いた事もない。

「大丈夫でしょうか? 火傷でもなされていなければ良いですが。」

炎熱を防ぎながらもそのスタンスは崩さないのか、落ち着き払った様子で私に声をかけてくる。
私は、恐らくこの程度の事では彼女の貞淑な様相は取り払えないのだろう、などと場違いな事を考えていた。まったく気楽なものだね。
まるで嵐か何かのような炎を纏った村長……キュウコンは再び焔を集束させようとしている、またフレアドライヴでミロカロスごと私を吹っ飛ばす気なのだろう。

「大丈夫だけど……君の方こそ平気? 冗談抜きに鉄でも溶けるはずだけど。」

「心配ありませんわ、この程度なら二百年も前、戯れに幾度も。」

戯れとか貴女は何者だよ、まぁきっと村長と同輩なのだろう……。しかしあの炎はやばい、一度山が消し飛んだ炎だ。
荒ぶる獄焔が集束していく……、赤から黄、青、白、そして刹那、透明の彩色を得たと思えば虹彩に煌き美しい薄絹を纏ったかのように炎は色を移ろわせる。
金色に染まる髪を靡かせ一歩一歩、湖へと歩みを進めるその姿は例えるならば天女の如き優雅さを備えた艶美なる者。

「まだ他の普通の女だったら許せたのに……、よりによってその女だなんて……許せない……また私の男を誑かして……。今度こそ塵にしてあげるわ……。」

揺らめくそれは数多なる尾の様に背後へと伸びている、まさに九尾。これほどの力を発揮するのは嫉妬によるものか、それとも憎悪によるのもか。
歩を進めるキュウコンの足元は熱によって地面が炙られ熔解している、輝くガラスのような美しさを地面に与えながら淵で足を止める。
触れてもいない水面はミロカロスとキュウコンの丁度中央を境に真逆の様相を呈していた。
片や超高音に煽られ液体の枷を解き放たれた水蒸気へと。片や涼やかな水面を維持したまま静かに佇む冷水。

「誑かしただなんて失礼ですね、私は鎖に繋がれた哀れな旦那さんを休ませていただけですわ。」

「またそんな戯言を……、いいわ、そんな口聞けなくしてあげるから……。」

二人は手を掲げる、まるでそれが合図である事を前もって打ち合わせていたかのようにぴたりと合った動作で。
水のヴェールが消えた。いや、消えたと言うのは正しくはない。指先を中心として湖の水をも凝縮し超高圧の水を槍の様に構えているのだ、ヴェールに回す分の水など無いだけで。
炎の薄絹もまた、一条の矢となりキュウコンの手の中に納まっている、金色に輝く美しき滅び撒く炎の矢。
その間私は何をしていたかと言えば、この攻防の末に発生するであろう、ある現象に備えて岩陰に身を隠し必死に掴まっているだけである、本当に情けない姿だが、“死ぬよりはマシだ”。

『ブラストバーン……ッ/ハイドロカノン。』

怒気を込めた裂帛の咆哮を伴ったキュウコン、それに対し涼やかに落ち着いた囁きのようなミロカロス。
対照的な二人により、同時に放たれた二条の軌跡、主の意思に従うかのようにそれぞれの力の奔流へと突き進んでいく。
本来彼女らが覚えるはずの無い技、扱えるはずの無いキャパシティ、そんなものを軽く凌駕する“それ”は美麗なる光跡を残し衝突した。

――彼女らは想定などしていなかったのだろう、水と炎である事、ソレによる現象を。閉鎖空間である事、を。

閃光と共に炸裂した力は無炎の爆風となり、湖に吹き荒れた。暴風と高熱による嵐は留まる所を知らずに暴れまわった。
手足に火傷くらいは出来たかもしれない、岩に掴まっているのもそろそろ限界だ、だってこんなに激しいとは……。
私が必死になって堪えているその刹那、遂に、二人分の極大エネルギーは地下の内壁の限度を上回ってしまった。

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話題休閑その2~休憩地点B~推奨BGM「悲愴~第三楽章~」
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休憩地点に御座います。
次回予告でやった分が収まらず一気に長くなった次第だったりします。



さて恒例になりそうな休憩はよろしいでしょうか。
CMの内容は精々初代ポケモン等のCMでしょうねぇ、さてアイキャッチ募集したいな(謎
それでは後篇パート、始まります。
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3話後篇~貴方に逢いたくて眠れない夜があるかもしれない~
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 気がつけば全身が痛かった、凄まじい光と一緒に爆発的に何かが膨れ上がって……そこからの記憶が無い。
痛む体を強引に起こし見えた光景は先ほどの感動の驚きとは別の驚愕を与えてくれた。
どれくらいだろうか、目測でも二百m近いクレーターに似た穴がぶち空けられている。大凡の風景を元に村長の家を中心にした辺りだと言うのは理解できた。
考えを巡らす前に痛む全身で思考を諦めざるを得なかった、よく見れば痣だらけ、よく死ななかったものだと思う、しかし切り傷も多く早い所治療しておきたい所だね。
それにしても凄いな、周囲の家屋さえも吹き飛ばしてしまっている、土台となる部分以外も石造りなのにも関らず瓦礫の山と化している。村の皆は無事だろうか。

「お目覚めかしら? 浮気者。」

冷徹な声をかけられ背筋が凍った、殺意を上回る何かが背後にある、いや、居る。
浮気じゃない、などと言ってもどうせ取り合ってもらえないのは判っている、もう五年も一緒に居ればわかる。
どうする私、今この場を切り抜ける素敵な言葉を……。

「そんなに荒い言葉を使っていては旦那様に逃げられてしまいますわ。」

歌う様に楽しげに、軽やかに流れ出す流麗な言葉はあろう事かキュウコンの怒りに油を注ぐミロカロスの呟き、と言っても明らかに聞こえるように言っている。
痛みで動けない私を抱き起こし、さも親しげな様子を持って煤や埃を払い落としてくれる、当然キュウコンの怒りのボルテージはうなぎのぼりだ。
……キュウコンが「いかり」を覚えたなんて事は知らない、既に覚えようがないものを連打しているのだし。

「落ち着いてくれない……? 私は浮気なんか……。」

むに。

何か握ったか?
……何だろう、形容し難い柔らかさと質感を備えた……。
起き上がろうとしただけのはずだ、何か手をついて起き上がろうと、うん、……もうだめかな。
自分でも理解(わ)っている。何を掴んだか、ミロカロスの顔が地味に赤くなった理由も、2度3度と握り締めてしまった事も。条件反射って怖いね……。

「言い訳だけなら許してあげようかなとか、私が甘かったのよね……、不貞の輩には、死をもって……」

目の焦点が合っていない。怒気に己を見失ったか。
……ごめんなさい、もうね、止める手段がないっていうか、自業自得? ですよねー。

さて、どうしようかなっと……。

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あとがき

あの、ごめんなさい。
次回予告分が入りきらなかった。
入れようとしてこの長さになったのに入らなかったとか吊ろうかな……。ByCapri

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最終更新:2008年05月24日 21:33
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