5スレ>>408

(サアァーーー……)

 雨が降っている。
 薄暗い空から沢山の水滴が降り、寂しげに地面を打つ音が周囲に響く。
 窓からは、雨に晒される萌えもんタワーの姿が見えた。

「………」 

 こういう時は、昔を思い出す。
 マスターと出会う前……お母さんと一緒に、野生で暮らしていた頃のこと。
 そして……お母さんを失った、あの日のことを。



     『紫苑の町に、雨の音』



 確か、もう10年くらい前の話だ。
 あのころは私はまだメリープで…森の奥の洞穴でお母さんと二人で暮らしていた。

「おかーさん、おなかすいたよぅ」
「はい、今日はオレンのみをとってきたのよ」
「いやなのー、おかーさんのおちちがいいのー」
「もう…仕方の無い子ねぇ」

 あの日は太陽がまぶしくて、いい天気だった。
 私は洞穴でいつものようにお母さんに甘えて……お母さんはそれに応えてくれていた。
 お昼が近づいてくると、お母さんは森にきのみを探しに行く。

「まだ、あなた一人では危ないから、洞穴から出ちゃだめよ」
「はーい!」

 元気に返事をし、安心して森へ出て行くお母さん。
 でも私も、あのころは遊びたい盛りで好奇心旺盛な時期。
 洞穴での昼寝にも飽きてきた頃、私は外が気になって仕方が無かった。

「ちょっとだけなら…いいよね」

 そして私はお母さんとの約束を破り、光あふれる森の中へ出て行った。
 そのせいであんなことになるとは、そのときは思いもしなかった。



 森の中は、初めて見るものでいっぱいだった。
 木々にいる様々な虫萌えもんたち。
 空を飛ぶ鳥萌えもんたち。
 植物の萌えもんも沢山いた。
 幸いなことに彼らは皆優しくて、私も楽しく遊んでもらった。

 そして夢中になって遊んでいた私は、森を飛び出し……道を歩いていたニンゲンにぶつかってしまった。

「あたっ!」
「んあ? なんだコイツ…」
「ふぁ、ごめんなさいぃ」

 そのニンゲンは私にもわかるほど不機嫌そうで、私はとっさに謝ってそそくさと退散しようとした。
 だが、彼は私を見逃してはくれなかった。

「待てよ…」
「ひぅ!?」
「おめぇがぶつかってきたせいで、俺の服ドロドロなんだけどさぁ?」

 睨み付けられて立ちすくんだ私に、威圧的に話しかけてくる。
 それがとても恐ろしくてなにも言えずにいると、その態度に腹を立てたのか彼は手を上げた。

「なんか言えやゴラァ!」
「!!!」

 振るわれる拳に頭を抱えて身を固める。
 が、

 パシッ!

 その拳は、私に届く前に誰かが受け止めていた。

「あぁ? 何だテメェは。邪魔すんじゃねぇよ!」
「この子は私の娘です……子を守るのは、親の役目ですから」
「おかーさん…?」
「まったく、外へ出ちゃダメって言ったでしょう?」
「ひぐ、ごめんなさい…」

 お母さんだった。
 お母さんは私を背後にかばい、彼と向き合った。

「うちの娘がどうやらご迷惑をおかけしたようで…無礼を許しては頂けないでしょうか?」
「ハッ、そいつぁ無理だ。俺は今ヒッジョーに機嫌が悪いんでな…オトシマエくらいはつけてもらわねぇとなぁ!」
「…ッ!」
「オラ、出て来いサイドン!」

 彼が叫んでボールを投げると、大きな体をした萌えもんが現れる。

「サイドン、突進だぁ!」

 そしてそのサイドンは、私たちに…いや、私に向かって突進してくる。
 私は足がすくんで動けず……横から、お母さんに突き飛ばされた。
 そしてお母さんは、サイドンの突進を正面から…受け止めていた。

「なにぃ、止められた!? なんつーレベルのデンリュウだよ!」
「おかーさん!」
「あなたは逃げなさい!」
「やだよ、おかーさんもいっしょ!」
「わがままを言わないで! すぐに戻るから、住処で待ってなさい!」
「何だかしらねぇが、死にたいならてめぇから瞬殺だ! サイドン、角で突け!」
「ぐふっ…早く、逃げなさい…ッ!」
「う…うああああああああん!」

 私は泣きながら森の中へ走り出した。
 後ろは振り返らなかった。
 ただただ夢中で走って、住処の洞穴に駆け込み……息を潜めて泣いた。
 そして暫く泣いた後……私は泣き疲れて眠ってしまった。



 再び目を覚ましたときには辺りは薄暗くなり、軽く雨が降り出していた。
 お母さんは、まだ帰ってきていなかった。

「おかーさん…」

 寂しくなった私は、走ってきた道を戻り……森の外の道へとたどり着いた。
 そこに、お母さんはいた。
 地面にうつ伏せに倒れ、瞼は閉じられ、眠っているように見えた。

「おかーさん…!」

 お母さんが居ることに嬉しくなり、私は駆け寄る。
 お母さんは、起きない。
 寝ているお母さんを起こそうと、私は体をゆする。

「ねぇ、おかーさん…おきてよ、あめふってるよ、ぬれちゃうよぅ…」

 お母さんは、起きない。

「いじわるしないでよぅ…わたし、こんどからいいこにしてるから…ひとりでもりにでないから…」

 お母さんは、起きない。

「すききらいもしないよ…ちゃんときのみもたべるもん…ひとりだちできるようにがんばるよ…」

 お母さんは、起きない。

「ひぐっ、おかーさん…おかーさん…うえぇん…」

 ついに私は泣き出してしまった。
 それでもお母さんは、起きない。
 私をあったかくだっこしてくれた手はとても冷たくて。
 やわらかく抱きしめてくれた体は硬くなっていた。
 私はお母さんの体にすがりつき、雨も気にせずに泣いた。
 その時だった。

「どうしたの?」

 さっきのニンゲンと比べると小さいニンゲンが、私をみていた。

「えぐ、うぅ」
「泣いて、るの?」
「おかーさんが、おきてくれないの…」
「そのひとが、きみのお母さん?」
「……うん」

 彼は私のそばに来て、お母さんを見る。
 そして、私にもっていた傘を預けてきた。

「ちょっと待ってて」

 彼はそのまま、どこかへと走っていった。



 …その後は、大人のニンゲンが来て、お母さんは『萌えもんタワー』というところに送られた。
 私はというと、別の大人のニンゲンに引き取られた。
 そこには、さっき会った子供のニンゲンも居た。
 それが、私とアキラさん…マスターとの出会いだった。









「どうしたんだ、メリィ…こんな窓際に一人でさ」
「あ、アキラさ…じゃなくて、マスター」

 気がつくとマスターが部屋に来ていた。
 マスターは苦笑いすると、私の隣に腰掛ける。

「はは、別にプライベートの時くらい『マスター』じゃなくってもいいんじゃないか?」
「ううん、これは私なりのけじめだから」

 私は、マスターと旅に出るときに呼び方を変えた。
 萌えもんバトルだって、安全なものばっかりじゃない。
 「家族」として過ごしてきた私が傷つき倒れたら、マスターに辛い思いをさせてしまう。
 だからせめて、立場を家族ではなくするためにと思ってのことだった。 

「まったく、メリィは真面目だよな」
「そうかなぁ…」

 もっとも、マスターは相変わらず私を家族として見ているようだけど。
 と、そこでマスターは思い出したように話を振ってきた。

「ところでさ、メリィ。もうそろそろ、あの日だろ」
「あの日?」
「お前のお母さんの…命日さ」
「あ……」
「なんだかんだで萌えもんタワー来るのは初めてだし…丁度いいから、行ってこようぜ」
「マスター…」
「色々と報告したいこと、あるだろ?」
「……うんっ!」



 お母さん、私は元気です。
 新しい家族は、みんな優しい人ばっかりです。
 好き嫌いもしてません。色々なこともできるようになりました。
 お友達もいっぱいいます。
 それと…好きな人も、できました。
 今はまだキリが良くないからしないけど、いつか…この旅が一区切りついたら、告白しようと思います。
 だから…お母さん。
 いつまでも私のこと、見守っていてくださいね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・あとがき

 スレ的には二度目まして、曹長です。
 今回は俺の嫁ことデンリュウにスポット当てて書いて見ました。
 いやー、それにしても悲しい過去持ってんだな俺の嫁は…書いたのは俺だけど。

 では、短い後書きですがこれで閉めたいと思います。
 またいつかお会いしましょう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年05月24日 21:51
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。