5スレ>>463


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 先達に学ぶという言葉があるように、多くの場合先駆者というものは後進に何かを残す。
 それは経験則や何がしかの法則などといった役に立つものから
 偏見、先入観、風評などといった後進の邪魔になりうるものまで種々雑多だ。
 
 そしてそれは「図鑑のデータ集め」という分野においても例外ではない。
 彼もまた、先駆者の残したものによる影響からは逃れられないのである。

―――

 相手のラフレシアがゆっくりと倒れる。
「ラフレシア、戦闘不能! よって勝者、トウマ!」
 同時に響く審判の声と湧き上がる歓声。
 対戦相手だった和服の美人がゆっくりと俺のほうに歩いてくる。
 タマムシジムの主にして草もえもんのエキスパート、エリカ。
 彼女の顔にはたおやかな笑みが浮かべられており、
 先ほどの気迫あふれる姿が幻だったのではないかとすら思った。
「わたくしの負けですわね。お手合わせしていただき、ありがとうございます」
 そういって差し出される手。
 そこには、七色に輝くバッジが載せられていた。

「今回も大変でしたね……」
「まさに僅差、といったところでしょうか」
「疲れたの~」
「みんな、お疲れ様。よくがんばってくれたな」
 ジムからの帰り道、皆が疲れを隠そうともせず先ほどの戦いを振り返る。
 今回のジム戦は手持ち3体までのシングルバトル。
 俺の手持ちはハクリューのミルト、バタフリーのファル、そしてポッポのレーティの3体。
 草タイプに有効な技を持つファル、レーティを擁してはいたが、それでも苦戦は免れなかった。
 一歩間違えば負けていたのは俺たちのほうだっただろう。
「それにしても……」
 ただ、今回の戦いの感想を一言で表すならやはりこの言葉に尽きる。
「俺たち、ジムに挑む必要ないはずなんだが……」
 そう、俺たちの旅の目的は「図鑑に使うためのデータ集め」であり、ジムに挑む必要はない。
 では、そんな俺たちが何故ジムに挑んでいるのか?
 その理由は俺たちではなく、俺たちより先に図鑑作りに旅立った2人にある。
 簡単に言えば彼らが立て続けにジムに挑み、勝利。
 自らを鍛えなおしたいがジムからは離れられないジムリーダー達は町を訪れるトレーナーに対して
 逆武者修行的に対戦を申し込んでいるというわけだ。
 もちろん俺たちもそんな状態のジムリーダーから逃れられるわけはなく、
 新しい町に着くたびにジム所属のトレーナーにジムまで引きずられていく羽目になっている。
「エリカさんも他のジムリーダーの方と同じように、ものすごい気迫でしたよね」
「以前の敗北がよほど悔しかったとみえます」
「いったいどんな戦いだったんだろー?」
 等と言っているうちにもえもんセンターに着いた。
 激戦の後だったためまずは全員ボールへ入れて治療室へと直行。
 よほど疲れていたのだろう。戻ってきた3人はボールの中ですやすやと眠っていた。
 借りていた宿泊室に3人を寝かせると、俺も早々に床につく。
 皆疲れているだろうし、明日は休養日にしよう。

 そんな俺の計画は、翌朝早々に崩れることになる。

―――

「それで、俺たちにどのような御用ですか?」
 翌日。朝一番でセンターを訪ねてきたタマムシジムのトレーナーに連れられて、
 俺たちは再びエリカさんと対面していた。
「わたくしたちに協力していただきたいのです」
 言葉と共に差し出される書類。その表紙に踊る文字に目を奪われる。
『ロケット団によるもえもん密輸に関する報告書』 そう書かれた書類には、
 タマムシを中心として起きているもえもん密輸に関する情報が書かれていた。
 どうやらクチバの港を基点に、ナナシマというところからカントーにはいないもえもんを
 タマムシ、ヤマブキといった大都市圏に密輸しているらしい。
 確たる証拠こそないが、多方面から集められた情報は信頼性がありそうだ。
 この報告書通りなら、タマムシのジムリーダーとしては看過できない事態だろう。
「この密輸をしている連中をどうにかしたいというわけですね?」
「ご理解が早くて助かります」
「でも、俺たちの力なんて必要なんですか?」
 昨日戦ったトレーナー達を思い出す。
 彼女達もかなりの使い手だった。わざわざ俺たちを頼る必要があるとも思えない。
「わたくしたちは荒事に慣れておりませんので、腕の立つ殿方を探しておりました。
 貴方の腕前は昨日見せていただきましたし、
 失礼ながら人となりについてもオーキド博士に確認させていただきました。
 困っている人を放っておけない、頼りになる人物と伺っています」
 その言葉にミルト、ファル、レーティの3人が嬉しそうに頷く。
「……思えば、お前らと出会ったきっかけって全部俺が厄介ごとに首突っ込んだからだったな」
「ええ。ですから今回もどうぞ首を突っ込んでください」
「止めても無駄っぽいしねー」
「それがトウマの流儀なら、私はそれに従うまでです」
 ミルトに続いてファル、レーティも俺の考えを支持してくれる。
 その気持ちを嬉しく思いながらエリカさんへと視線を向けると、意味ありげな微笑が返ってきた。
「わかりました。お手伝いさせていただきます」
「ありがとうございます。頼りにさせていただきますわ。
 ……そうそう、オーキド博士からの伝言ですが」
 笑みを濃くしながらエリカさんが言葉を続ける。
「『データ集めが少しくらい遅れてもかまわん』とのことです」
 部屋になんともいえない空気が満ちる。
 どうやら俺の行動パターンはしっかりと把握されているらしい。
 オーキド博士の笑い声が聞こえたような気がした。

―――

「それでは、具体的な内容を説明しますわ」
 エリカさんからの依頼を受けることにした俺たちは応接間から会議室のような場所へと通された。
 応接間同様和室ではあったが部屋一面に付近の地図やらパソコンやらが広げられたそこは、
 とても同じジム内の部屋とは思えなかった。
「場所は7番道路。タマムシとヤマブキの中間地点で仕掛けます」
 そういって地図の一点を指すエリカさん。
 道路の両脇は林になっており、付近に人家はない。確かに襲撃には適していると言えた。
「標的は大型のトラックが1台。荷台には密輸されたもえもんが載せられていると考えられます」
「そのトラックを確保できれば俺たちの勝ち、というわけですね?」
「はい、その通りですわ。……トウマさん、申し訳ありませんが彼女とともに
 トラックを止める役を引き受けてていただけませんか?」
 エリカさんが指し示す先には、1人の少女がいた。

「サヤよ。よろしく」
「俺はトウマ。こちらこそよろしく」
 お互いに自己紹介し、握手を交わす。
 見たところ、サヤと名乗った少女は俺と同年代。
 身長は俺の肩より少し上くらいだが、スラリとした体型のために実際より高く見える。
 つり目気味の顔は活気に満ちており、そこから受ける印象は「勝気」。
 頭の横で一つにまとめた長い髪とミニスカートがその印象に拍車をかけていた。
「言っておくけど、私は戦ったことのない男は認めない主義なの。
 いくらエリカ様に勝ったといっても、そこを譲るつもりはないからね」
 手を離す直前、サヤが小声でそう言ってきた。
 ジム所属のトレーナーとはいっても、
 ジムリーダー戦前に必ず戦わなければならないというわけではない。
 ジムリーダーが逆武者修行状態となっている今、その状況はより顕著になっているともいえる。
 俺が昨日戦ったジム所属のトレーナーはわずかに2人。
 彼女のような意見の人が出てくるのも無理のないことだといえた。
「仲良くやってあげてくださいね。それで、何をやっていただくかなんですが……」
 俺がどう返したものかと思っているうちにエリカさんが話を進める。
「本気でなくて結構ですので、道路上でバトルをしてください」
 そして出てきた言葉は、俺の想像の斜め上を言っていた。

―――

「それじゃ、もう一度手順を確認しよう」
 翌日早朝。作戦決行を前にして、俺たちは7番道路で待機していた。
「ええ。まずは偵察班が目標を捕捉、目標通過後道路を封鎖して一般車両が来ないようにする」
「その連絡を受け次第俺たちは道路に出てバトルを開始」
「そのなかで私のルーメが林の木を切って道路を封鎖したら第一段階は終了ってわけよね」
 そういってサヤは傍らに控えるフシギソウを頼もしそうに見る。
 ルーメというのがそのフシギソウの名前で、主同様若いがかなりの実力を持っていそうだ。
「そうだな。問題はその後、エリカさんたちが来てくれるまでの時間をどう稼ぐかだが……
 これは『事故』をどう起こすかにかかっているといってもいい。ぬかるなよ」
「そのくらい楽勝よ。あんたこそ足ひっぱらないでよね。
 この作戦の成否は私たちが上手くできるかどうかにかかってるんだから」
「そのつもりだよ」
 今回の作戦の筋書きはこうだ。
 早朝トレーニングを行っていたトレーナー2人がヒートアップしすぎて事故を起こしてしまう。
 事故にあったのは大型トラックが1台。事故によって散乱した積荷のなかには、
 密輸されているもえもんの姿があった――
 つまり俺たちがいかに「事故」を起こし、トラックをそれに巻き込むかが成否を左右するわけだ。
 かなり乱暴な作戦ではあるが手っ取り早く且つ確実に証拠を押さえることはできるだろう。

 俺たちの確認作業が終わるのを待っていたかのようにサヤのポケギアが着信を知らせる。
 早朝の林に響くその音は、まるでゴングのようだった。
 
「ルーメ、『はっぱカッター』!」
「ミルト、攻撃はいい! 回避に専念しろっ!」
 連絡を受けた俺たちは、当初の予定通りバトルを開始した。
 といってもこれはあくまでも「バトルしているふり」であり、お互いに本気ではない。
 はずなのだが、
「……こいつ、これで手を抜いてるってのか?」
 次々と飛んでくるはっぱカッターの精度に冷や汗が流れる。
 避けきってはいるものの、反撃する余裕はあまりない。
「どうしたの? 避けてるだけじゃつまらないじゃない」
 俺の様子を見て、サヤが挑発的な言葉をかけてくる。
 ……こいつ、絶対楽しんでるな。
 ただ、本来の目的は忘れていないらしい。
 ミルトの背後にある木ははっぱカッターによってすでにぼろぼろになっていた。
「……来たか」
 視界の端にトラックの姿が映る。外見、数ともに情報通り。
 サヤに目配せをすると、わかっているとでも言いたげな視線が返ってきた。
 同時にクラクションの音。トラックのほうもこちらに気付いたようだが――もう遅い。
「ルーメ、これで決めるわよ!」
「承知いたしました!」
 言葉と共に放たれるはっぱカッター。
 ミルトに避けられたその攻撃は背後の木に直撃。
 ダメージが蓄積していた木にとっては致命的な一撃となった。
 木はゆっくりと傾き、道路の方へと倒れていく。
「ミルト、今だ!」
「はい!」
 そこへ回り込んだミルトの蹴りが追い討ちをかける。
 ルーメが「切断してしまった」木を利用した「反撃」。
 しかし木が倒れるコース上にはすでにサヤとルーメの姿はなく――

 早朝の林に、ブレーキ音が響き渡った。

―――

「なんてことをしてくれたんだ!」
 トラックから降りてきた男が怒鳴りながらこちらへ向かってくる。
 急ハンドルによって正面衝突こそ免れたものの、代償としてトラックの荷台部分は木に激突。
 衝撃で開いたドアからは荷物が辺りに散乱していた。
「すみません。勝負に熱中してしまって……今警察を呼びますね」
 ミルトをいったんボールに入れ、ポケギアを取り出す。
「あ、もしもし。今7番道路で事故を起こしてしまって……」
 できるだけあわてている風を装って、状況を説明する。
 もちろん電話相手は警察ではなく、エリカさんだ。
 本当の通報はこの後でエリカさんがやってくれることになっている。
『わかりましたわ。あなた方はそのまま時間を稼いでください。
 くれぐれも無理はなさらないでくださいね』
「はい。では、よろしくお願いします」
 通話を切ると、男の方も何処かと連絡を取り終わったところのようだった。
「本当にすみませんでした」
「……ああ、以後気をつけるんだぞ」
 申し訳なさそうに声をかける俺に、男の言葉も幾分柔らかいものになる。
 あとはこのまま時間を稼げれば―
「ねー、おじさん! これどこに置けばいいのー?」
 背後から響いた声に振り返ると、サヤがルーメと一緒に散乱した荷物を運んでいた。
「おい、お前! 何をやってるんだ!」
「なによ。散らばった荷物を集めてあげてるんじゃない」
 男の言葉に頬を膨らませたサヤは、乱暴な手つきで手に持ったダンボール箱を地面に置く。
「もっと丁寧にあつかわんか!」
「あら、ごめんなさい。中身ボールみたいだから平気だと思って。次から気をつけるわ」
 まったく悪びれた様子もなく言うサヤに呆れつつ、彼女の足元の箱を見る。
 ラベルにはモンスターボールの文字。
 ほかにも傷薬などのラベルが貼られた箱が見えるためにだまされそうになるが、
 あの中に密輸されたもえもん入りのボールがあることは想像に難くない。
「でも、あっちの箱は手遅れみたいよ?」
 そう言ってサヤが指差す先には一部が破れ、中身がこぼれているダンボール箱が一つ。
 サヤは自然な動作で箱に近づくと、落ちているボールを拾い始めた。
「こ、こら! 触るんじゃない!」
「いいじゃない、このくらい。……ん? このボール、中にもえもんがいるみたいよ?」
 男が慌てて止めに入るが、それよりもサヤが目的のものを見つけ出す方が早かったようだ。
 サヤは見たことのないもえもんが入ったボールを手に、男に詰問する。
「おじさん、何これ? 何で未使用のはずのボールの中にもえもんが入ってるの?」
「…………」
「どうしたの? 何で黙ってるのよ」
 下を向いて黙り込む男に対して追求の姿勢を緩めないサヤだが、これ以上はまずい。
 相手はロケット団だ、下手に追求すれば何をしてくるかわかったものじゃない。
「おい、サヤ―」
「……そうか、それを見ちまったか……」
 割って入ろうとした俺の言葉をさえぎるように男が声を出す。
 言葉と共にゆっくりと上げられた顔に浮かんでいるのは、殺意。
「……なら、ただで帰すわけにはいかねぇな!」

 そして、「ふり」ではない本物の戦闘が始まった。
ツールボックス

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